第二十二話 鱗の騎士
朝の光が射し込む。グラッセンに見守られながら一晩を明かした俺たちは、朝日と共に立ち上がった。ラークの話のおかげで俺の中の迷いは断ち切れていた。
目覚めたアイシャもショックを受けていた。俺たちが出航の支度をしているうちに、グラッセンに別れの挨拶を告げていたようだ。
重い空気の中、皆が気丈に振る舞う。グラッセンを島に置いたまま舟は神殿を離れた。
帰りの舟は穏やかなものだった。苦もなく浜辺に着き、皆と再会した。グラッセンの死を追悼し、浜辺の墓に大きな剣を加えた。
帰路でも多少の戦闘はあったが、今までの強力な魔物と比べれば大したことはなかった。それよりも食糧の少なさの方が辛く、草や水だけを飲み食いして進軍した日も少なくない。
アイシャは時折、異常な鋭さを見せていた。魔物の接近を予知したり、生き物など食糧の在り処を特定した。恐らく儀式により身についた力のひとつなのかもしれない。彼女の進言した進路のお陰で何とかなった部分は大いにある。
そして王都を出発して1年半が過ぎた頃、俺たちはようやく王都に帰還した。
俺たちの凱旋は近郊の都市まで広まる噂になっていたらしい。"静寂の孤座"と呼ばれる水の神殿に辿り着くだけでも、とんでもない偉業だそうだ。道中の過酷さを考えれば、それはそうだと思った。
ラーク隊長は多くの勲章やら何やらを貰ったらしい。アイシャも高い地位の役職扱いになると聞いた。
そして俺は"鱗の騎士"と呼ばれた。それは過去に存在した伝説の騎士の通称らしい。実際、顔や首に鱗模様が現れているのを見て、人々が勝手に盛り上がっていただけではある。
そんな皆が浮足立っている中、俺は司教マグナスの部屋に呼ばれた。
新たに貰った鎧を身に纏い、剣を携え部屋を訪れる。相変わらず、本や遺物が所狭しと並べられ、司教の部屋とは思えない場所だった。
「よく来てくださいました。ホープさん。こうしてゆっくりと話すのは久しぶりですね」
部屋の椅子には既にアイシャが座っていた。
「司教に呼ばれてるのに、遅いんじゃないの。"鱗の騎士"さん」
「指南役にも呼ばれていたんだよ。そっちはなんて言ったっけ? 女王陛下さんかな?」
「"始祖の王"でよろしくってよ」
「全然違うだろ」
マグナスがぱちんと手を叩く。
「さあ、仲が良いに越したことはありませんが、本題に入ってもよろしいですか」
アイシャはマグナスにバレない様にこっそりおどけた顔をした。
笑うのを堪えて椅子に腰掛ける。
「まずは無事に儀式を終えたこと。本当にご苦労さまでした。皆さんを誇りに思います」
マグナスはひとりで拍手をした。
「ホープさん、以前英雄は3人いたと伝えましたよね。今回の旅、そして神殿で行った儀式で、ホープさんの体内に1人の英雄の力を取り込みました」
「そしてお察しの通り、魔界の門を閉じるためには、あと2人の英雄の力を取り込む必要があります」
こんな旅をあと2回もするのかと思うと心が折れそうだった。
はぁ、と大きくため息をつく。
「で、次はどこに行けば良いって?」
マグナスは準備していた地図を指差す。地図上の"静寂の孤座"こと水の神殿の場所にはばつ印がつけられていた。
王都から"静寂の孤座"までの距離よりも遥かに離れた地を指差す。そこは何も描かれていない場所だった。
「この辺りだそうです」
「なんでそんなざっくりなんだよ。もしかして遠くだからあまり知らないの?」
「それも少しはありますが、この場所にあるのは風の神殿、通称"彷徨える回廊"です。その名の通り、場所が特定出来ないのです」
「じゃあどうやって行けば良いんだよ」
「アイシャさん、神殿の位置をどのくらいの距離から認識できましたか」
アイシャを見る。神殿を認識していたなんて初耳だった。
「2人の墓標がある山の近くくらいかな」
「山の近く!? 歩いてひと月以上ある距離じゃないか」
思わず驚いて立ち上がった。マグナスが手で座るよう促す。
「ホープさん、この様に"予言の子"は神殿に対して特殊な感覚が働くようです。伝承では聞いておりましたが、アイシャさんのお陰でそれも本当だと言うことが、わかりました」
マグナスの言わんとしていることを理解した。新たな"予言の子"を連れて神殿を特定しろということだろう。
「そういうことね。で、その"予言の子"は今度はどこにいるの?」
マグナスに聞いたつもりだったが、アイシャが気まずそうな顔をする。
マグナスが口を開いた。
「ホープさん。まずはあなたの使命を、最後までお話ししなければなりません」




