第十八話 再来
神殿までの距離も半分ほどに迫っていたが至って静かな舟旅だった。交代でオールを漕ぎ、着々と舟を進める。
振り返ると遠く小さくなった野営が見える。何となく彼らが後ろにいるというだけで心強かった。オールを持つ手に力が入る。
近付いた事でわかったが湖面に浮かんでいるように見えた神殿の周りには陸地があり小さな島のようだった。真っ黒な硬い岩がゴツゴツとせり出している。ぶつからない様に少し迂回する。
あと少しで岩場に触れるという所で、舟が急に止まる。何かに引っかかった様な動きだった。皆が目を合わせる。
島に障壁の様なものでもあるのか。そんな疑問を持った事で一瞬対処が遅れた。舟が急に横へと下へと引っ張られ、転覆した。
水の中で目を凝らす。皆がバタバタと水面を探している中に、水色の馬の様な生き物が数匹、泳いでいる。馬に脚は無く代わりに巨大な魚のように大きなヒレになっていた。
3匹いた馬の姿をした魔物は、俺以外の3人に近づく。ラークは既に剣を出し水中でその1匹と戦闘していた。
アイシャに近づいた馬の魔物は、バタバタと抵抗していた彼女の足に噛みつき湖の底に引きずり込もうとする。近くにいた隊長がアイシャを咥えた魔物にしがみつくが、そのまま隊長もろとも湖底に引き込まれていく。
ラークは問題ないはず。隊長たちを救出するのが先だと思い、泳いで近付く。だがそれよりも先にもう一頭いた魔物が、隊長へ噛み付いた。沈むのが早い。懸命に追う。何とか隊長に噛み付いた魔物のたてがみに俺はしがみつくことが出来た。
魔物は隊長に噛み付くのをやめ、大きな角笛の様な音を響かせた。一瞬その音で意識が飛びそうになる。歯を食いしばりながら、馬の喉を剣で切り裂く。
水中に煙のように血が広がった。
それに気がついたのかアイシャを咥えていた魔物は、怒るようにこちらに振り返り、大きく口を開いて威嚇をしてきた。そして大きな歯を食いしばり、あの角笛のような音を響かせる。
2人は耳を押さえつつも、息が持たない様子で、もがいている。何とか剣を抜こうとした隊長に魔物がヒレを振って攻撃をする。大きな剣は水中では取り扱いが難しく、反応が遅れた隊長は、ヒレの攻撃をもろに頭に受けて意識を失っていた。
俺は隊長をダウンさせた魔物に近づき剣を振るう。魔物は水中で素早く避けた。俺との戦いが始まったのを見たアイシャは、水面へ逃れるように泳いで逃げていく。
その姿に気が付いた魔物は、俺から目を離しアイシャの方を向いた。
魔物が逃げるアイシャを追おうとするその姿に怒りを覚えた。怒りに任せて水中で叫ぶ。自分の声かと思えないほど大きく響いたその声で、魔物の様子が変わった。目の前の魔物は怖気づき、俺から遠ざかる様に湖の底深くにあっという間に逃げていった。
隊長を掴み、水面を目指す。重たいが引き上げられない事はない。水面近くに残った1匹の魔物が見える。手負いの様だが暴れており危険に思えた。アイシャは離れた位置を泳いでいるが、ラークの姿はない。
突如、水面から真っ直ぐ魔物に向かい刃が降りてきた。そして魔物の頭を貫く。それは剣と一体化したように飛び込んできたラークだった。魔物はその一撃で絶命している。ラークは剣を引き抜いて、こちらに泳いでくる。そして共に隊長を水面へ押し上げた。
ようやく黒く硬い岩場に上陸した。重たい隊長を2人で引き上げる。
「アイシャは?」
「大丈夫だ。見ろ。神殿の入り口にいる」
岩の先を見ると、建物の手前に座り込む彼女の姿が見えた。
「隊長の手当は任せろ。舟を頼めるか」
見ると少し離れた位置に流された舟が見えた。ラークの指示に従い、再び湖に飛び込む。
舟を持ち上げ、岩の上に引き上げる。少し休んで落ち着いた様子のアイシャが手を貸してくれ、2人で神殿の近くに運び、舟を固定した。
「隊長は?」
「まだ起きないわ」
その時、聞き覚えのあるギャァァァという耳をつんざく咆哮が響く。
「そんな。早く神殿に逃げろ」
2人で神殿の入り口へ駆ける。だが岩場で足場が悪く、思うように早く進めない。あと少しのところで目の前に回り込まれた。
俺たちの前には翼を広げたガーゴイルが立ちはだかった。ガーゴイルの片方の翼には小さな穴が開いていた。




