第十二話 兄弟の絆
賊は全部で6人だった。他の王宮隊に捕らえられ縛られた賊が、キャンプの近くに並べられた。
王宮隊の面々は慣れた様子で、賊の襲撃など驚くことでもないようだ。既に皆が持ち場に戻りながらも警戒は怠らない。彼らが理想的なチームであることは一目瞭然だ。
こんな賊に遅れを取るはずがない。だがそれは賊側もわかっていたことではないか。たまたま襲ったのが王宮隊だったという間抜けな話ではあるまい。
グラッセンがいくつかの質問をしていた。大柄の兵士がグレートソードを持ち、縛られた賊に対して端的な質問を投げる様は、内容がどうであれ尋問と等しい効果を発揮しているように見える。
近くで見ていた俺が呼ばれた。聞きたいことはわかっている。
「ホープ、この男はかつての仲間だそうだな。間違いはないか」
「間違いないよ」
「お前は"遺物漁り"だったと言ったな。人を襲う賊紛いの事もしていたのか」
「いいや、おやっさんがそんなこと許すわけない」
「この中におやっさんはいないのか?」
「おやっさんは廃村で死んだよ」
「他に生き残った仲間は?」
「全員死んだと思ってた。俺が聞きたいくらいだね」
そう言い縛られたウェッジを見た。
恨みがあるわけではない。むしろかつての生き残りがいて嬉しかった。だが見ず知らずの賊とつるみ、あわや自分を殺そうとした事が信じられず感情が追いついていなかった。
グラッセンは「もういいぞ」と言って俺を解放した。俺は少し離れたところに腰掛け、行く末を見守った。
グラッセンの尋問は続く。
「リーダーは誰だ」
賊は互いに顔を見合わせた。ハッキリしない様子で押し付けあっているようにも見える。
「わかった。ではお前。ウェッジと言ったな。何の目的で俺たちを襲った」
ウェッジは驚き怯えていた。助けを求めるように俺に目を向けるのが横目に見えたが、剣を研ぐ手元に視線を落とし、見ないふりをした。
決して見捨てたかった訳ではない。俺自身が質問の答えを聞きたかった。そして、うまく説明出来ないがウェッジと対等でありたかった。
ウェッジから見れば王宮隊に同行している俺は、賊とつるんでいる事と何ら変わらなく見えているはずだ。少し状況が違えば立場が逆だったかもしれない。
「あんたらに賞金がかかってるんだ」
ウェッジは小さな声で話し始めた。
「この先の町だ。王都の兵隊が来るからって。酒場の地下の賭博場で拾った話だが、貴族からの依頼のはずだ」
「何故貴族からの依頼だと思う」
「金額だ。あの金額を出せるのは貴族しかいないだろう」
グラッセンは周囲を見渡す。そして同行している学者のスパイラルを呼び付けた。
「この先の町の貴族は?」
スパイラルは地図を広げながら場所を確認する。
「ここには有力な家は無いですね。首長が反王都派で、軍部の評判も良くない。賊と繋がってるという噂も」
「なるほどな」
グラッセンは何かを悟った様だった。
「お前たちは失敗して命拾いしたな。成功したとしても報酬が払われる事はなく、ただの強盗として処刑されていただろう」
賊たちの顔から血の気が引いていく。
「そういう連中だ。まあこれに懲りて足を洗え。やるなら南の地域で魔物退治でもすればいい。あの農村ならまともな報酬も出してくれるだろう」
グラッセンは立ち上がり俺の方へ歩いてくる。
「もう大丈夫だろう。解放してやれ。話す時間も十分に取れるはずだ」
そう言い、賊たちを置き去りにしこの場を離れた。
どうしたらいいか迷ったが、まずはウェッジの元にゆっくり近づく。
「ホープ。済まない。俺が馬鹿だった。こんなことおやっさんが許すはずねぇのに」
「こいつらは?」
「その先の町で知り合った。こいつに飯を奢ってもらってな。それでいくつか仕事を手伝ってたんだ」
消沈している"こいつ"と呼ばれた男を見ながら会話を続けた。
「仕事って強盗のことか?」
ウェッジは焦って否定する。どうやら元々、解体を生業としていたらしくその仕事を手伝っていたそうだ。だが、町からの依頼だった公的な仕事の報酬が支払われず、賭博場で腐っていた所でこの仕事を持ちかけられたらしい。
信じられる理由は少しもなかった。だがその話を受け入れたのは本当であって欲しいと思っていたからかもしれない。皆に、もうしない事を念押しながら縄を解いた。
男たちは去りウェッジだけが残った。王宮隊の野営から少し離れた場所に火を焚き、そこで夜が更けるまで今までの事を語り合った。
あの日、廃村で盗賊に襲撃されたタイミングで、ウェッジは周辺に罠を張るために廃村を離れていたらしい。戻った頃には味方が全滅しており、盗賊から逃れる様にあの場を離れたそうだ。日を置いて戻った時に、盗賊も全滅していて驚いたとの事だった。
それを俺がやった事、腕輪の力と使命の話を全部伝えた。驚いていたが素直に受け入れてくれた。
「これ、おやっさんの形見だ。ホープ、お前が持っていけよ」
差し出されたのは、おやっさんが着けていた木彫りの首飾りだった。見慣れたその首飾りは、削り方も粗く価値のある物には見えなかったが、手に取ると温かく感じられた。
受け取るか迷った。でもおやっさんの形見は自分1人とではなく、皆と共にあって欲しいと思った。
「王都の聖堂裏の墓地に大きな木がある。木の根元に俺のダガーが刺さってるはずだ。一緒にある方がいいと思うんだ。ウェッジが届けてくれないか」
首飾りを差し出す。ウェッジは提案を引き受けてくれた。
そして手を取り合い互いに別れを告げる。今生の別れというわけではない。だが自然と涙が溢れ落ちた。それは廃村を出てから初めての涙だった。
世界のどこかに兄弟と思える人が生きていてくれること。そんな人間的な感覚を少し取り戻せたことが嬉しかった。




