第十一話 邂逅
王宮の入り口に12人の遠征隊が整列する。俺とアイシャの他に1人の学者と9人の王宮隊が並んでいる。隊長や副隊長も一緒だった。
荷を積んだ馬車に繋がれた2頭の馬に、厩舎の男が別れを告げている。
国に残る王宮隊の横に並ぶ鼓笛隊が、皆を鼓舞するような演奏を響かせると、周囲の木々に留まっていた鳥たちが一斉に飛び立った。
自分一人ではないものの慣れない見送りにむず痒い気持ちになる。そんな気持ちを抑えて選抜された王宮隊に続いて行進する。
つい数ヶ月前に市場から眺めていた隊列に自分が加わる事になるとは思いもしなかった。
そんな夢心地の中、あっという間に王都は米粒の様に小さくなった。未知の大地に心躍らせるような、自分の腕を試したいような、そんな浮かれた気持ちも、街道のぬかるみに飲まれたのか、あるいは朽ちた生き物の死骸に吸い取られたのか、いつの間にか、早く行軍して早く休みたいという気持ちの繰り返しになった。
アイシャと案内人の地質学者であるスパイラルだけは馬車に乗っていた。てっきりマグナスも来るものだと思っていたが王都へ残るらしい。代わりについてきた弟子の地質学者はお喋りが嫌いなのか声を聞いたのは数えるほどしかない。代わりに道中はアイシャの話し声がほとんどだった。
出発から数週間が経った頃、古い遺跡に野営を敷いた。ところどころに、屋根のついた建物も残っており、久しぶりに雨風の凌げる場所だった。
食糧を無駄にしないために、近くの山菜や野生動物を狩る。だが動物は住み着いて無いのか、この日は何も捕れなかった。
森から野営に戻る途中、ラークを見かけた。何もない森の中で立ち止まっている。
後ろから近づき声を掛けようとした時、手で制止される。ただならぬ様子に辺りを警戒する。ようやくその時、何かに見られている様な気配を感じた。
ラークはそっと剣を抜き静かに、だが自然に歩を進める。俺も後ろ手にダガーを構えながら数歩後ろを歩いた。
突如、左手の草むらからガサガサと音が聞こえる。スッとそちらを向き直る。草むらは細かく揺れているが音の主は見えない。横目でラークを見ると草むらに見向きもせず、ただ正面を向いて止まっていた。
ラークがこちらに振り向き、剣を向けて飛び掛かってくる。驚き思わず後ろに飛び退きながら、枝に足を取られ尻もちをついた。
何が起きたのかわからずに起き上がりながらラークに向かい剣を構える。しゃがみ込むラークの下には地面に押さえつけられた賊の姿があった。黒い布を纏い、手にはダガーを持っている。驚くことにそれは俺が立っていた位置だった。
「警戒しろ。他にもいるぞ」
ラークの言葉でようやく事態を理解した。遺跡近くのこの森で、何者かに待ち伏せされていたのだ。どうやら賊は木の上から襲いかかって来たようだ。
「戻って皆に伝える。帰路に必ず1人以上待ち伏せがあるはずだ」
「殺さない方が良いのか」
「1人捕まえた。どちらでも良い」
ラークは賊を立たせながら俺に前を行くよう指示を出した。腕を折ったのか、賊が声を上げながら武器を落とす。
ショートソードを抜刀し、警戒して進む。野営が見える位置に来た所で、気配を感じた。先程は付近の木を揺らすダミーを使ってきた。また同じ手を使うかもしれない。
「いるな」
後ろからラークの声がする。
気配を感じるがどこかわからない、木の上にも周囲にも隠れられる場所は多い。
一歩進んだ所で小さな音が聞こえる。音の方を振り向く前にラークの声が聞こえた。
「避けろ!」
咄嗟にしゃがむと自分の真横の木にクナイの様な刃物が突き刺さった。飛んできた方向の草むらから逃げようとする賊が見える。
10メートル程だが木を蹴り跳躍し、2歩で賊の背後に回り込む。そのまま背中に飛び乗り賊を抑え込んだ。横向きに倒れる賊のフードを剥ぎ取り剣を首元に当てる。
野営のキャンプの火に顔が照らされた賊と目があった。
「…ホープ?」
「お前、ウェッジか!?」




