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第8話.「引っ越し当日③」

 鈴香と別れて後、俺は残り50分近くを四つ葉のクローバー探しに使った。幼い頃と比べて伸びてしまった身体のせいで探すのが大変だったが、苦労が身を結んだのか最後の最後に四つ葉のクローバーを2つも見つけられた。


(ただなー。昔見つけられた時は結構盛り上がったんだけど、今見つけても「あっ、あった」くらいの感情しか沸かなかったなー)


 帰路の途中にある信号で足止めをくらったのでクローバーを見つめる。よく2つも見つけられたと思うと同時にこの2つをどうしようかと悩む。摘み取った手前があるので容易に捨てられず、かと言って昔みたいに鈴香にあげるのは流石に幼稚過ぎだよなと思う。


『検索:クローバー 見つけた どうする』


 解決案を見つけ出せなかった俺は天下の検索エンジン様に悩みを解決してもらうことに。すると、検索エンジン様はサジェスト昨日や最近の追加されたAIによる概要とやらで除草剤に関連した情報を表示してくる。庭に使う除草剤を調べていた影響か、はたまたこんな検索の仕方をしたからだろう。俺は単語を変えてもう一度検索にかける。


『検索:四つ葉のクローバー どうする』


 こういう時にいかに自分の頭が足りないかを実感する。それでも相談相手の検索エンジン様は天下をとったまである。俺が思い付きもしなかった押し花という案をサジェストの段階で提案してくる。


(ああー、押し花か。そう言えば昔はよく春香さんに作ってもらったな。あの時は時間をかけて作ったけど、確か早く作れる方法もあったよな)


 そのままの流れで押し花の作り方が載っているページへと移る。必要な物は低音のドライ機能があるアイロンとクッキングシート、そしてラミネートフィルム。意外と少ないし、都合良く家に全てある。他にも穴あけパンチやリボンも必要らしいが俺はそこまで求めてないし今回は必要ない。つまり、これで無事に夜の暇つぶしが決まったのだ。


 スマホから目を離して顔を上げるとちょうど歩行者用信号が青に変わったので安全確認をしてから渡る。


 さて、今日の山場はここからだと言って良い。午後の買い物を経て更に仲を深めたであろう3人との時間を乗り越えるか。今後訪れるどの時間よりもおそらく1番気を使わないといけない。あとは白糸と2人きりにならないことだ。それさえ避ければ精神的ストレスもいつもの発作も起こることはない。


(大丈夫、きっと大丈夫。そもそも向こうは俺になんて興味がないのだから大丈夫)


 家まで残り数百メートルある。いや、むしろ数百メートルしかない。これからの事を意識をしたせいで足取りが途端に重くなったのが分かる。大丈夫って思った矢先にこれだ。


 あぁ、こんな自分が本当に嫌になる。


◯◯◯


 家に着くと既に良い匂いが外までしてきた。


(父さんが料理をしているのか?)


 と思ったが、違う。今、この家には俺より料理が美味い人が少なくとも1人はいる。冬美さんだ。ある時期から毎日俺が料理を作っていたから忘れていたけど、世間一般的には母親が作ることが多いんだ。鈴香の家だってそうだし、他の家庭でもそうだろう。中には父親がってところもあるだろうが、それは今どうでも良い。


 鍵を開けて玄関のドアを開けると匂いはより強くなる。いつもは玄関を開けたところで何にも匂いなんてしないのに……。


(あっ駄目だ)


 一瞬で7年以上前は当たり前にあった感覚と母親《あの人》の姿、そしてその後に俺に起こったことを思い出させる。その所為で余裕があると思っていた心が限界を超える。


 この家の幸なところは階段を上がるのにリビングを通らなくて良いことだ。おかげで父さん達と顔を合わせなくて済む。


 静かにリビングの横を通った俺は急ぎながらも極力静かに階段を上がり自室に入る。そして、限界の迎えた心を少しでも落ち着かせるために電気もつけずに布団の中へと身体を隠す。


 正直、こんなところで限界を迎えるとは思わなかった。絶対に父さん達に変に思われている。だから、急いで落ち着かせてリビングに行きたいのにそれを意識すると余計に震えが止まらない。頭ではどれだけ違う人間だと思っていても、身体と心がそれを許さない。なんとか口を手で覆い、溢れそうになる声だけは抑える。が、それだけではやはり漏れてしまう。だから次の手段にと自分の腕を思いっきり噛む。


「ゔぅっっ……」


 でも、よく考えたら俺のトラウマが1番刻まれているのは腕だ。だから、本当に余計なことをした。症状が余計に悪化する。


「ぐぅ……ぅぅぃ……あ“あ”あ“」


 あの時のアイツらの顔が何年経っても頭の中に居続けるし、あの時されたことも覚えている。嫌なことほど本当によく覚えててくれる。だからこそのトラウマだ。


(……俺はいつまで悩ませられなきゃいけないんだ)


 そもそも引きずって今日この時まで連れてきてしまったのは俺自身だ。発端はアイツらでも、それ以降は俺の責任だ。


(ならいっそ、このまま消えちまえよ)


 迷わず首へと伸びる両手、呼吸を絶たせんと強まる力、涙が目に滲む。痛いも苦しいも今は救いだ。もっと早くこうすれば良かった。こうすれば楽になれたんだ。もう楽になってしまえ。


 数十秒後、俺は意識を手放した。

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