第7話.「引っ越し当日②」
『彼女との約束を優先する』
なんて言ってもその彼女がいないんだから優先するもクソも無い。それでも白糸に言った手前があるので家にいるのはおかしな話で、俺は家から少し離れた人気の無い公園に避難して来ている。
今ではもう時計の針は17時を指している。この公園に着いたのが13時半頃だったので、かれこれもう3時間半はいることになる。
外でできる暇つぶしなんてたかがしれていて、休日分の宿題は終わってしまったし、持ってきた小説も読み終えてしまった。
正直な話、めちゃくちゃ暇だ。本当はスマホゲームで時間を潰したいが何かあった時に使えなくなる危険があるのを考えると下手に触ることもできない。
「空って青いんだなー」
こんなことを呟くのも、もう何回目だろう。いい加減、飽きてきた。
「帰るって言ってもなぁ。彼女と会って家に帰るのは何時がベストなんだ」
漫画や小説で知った程度しか知らないのに勢いで嘘をついてしまったもんだからこういう時に現実味を持たせるのに困る。
夕日が傾き始めたら帰ろうかと思ったけど、その時間が来るにはまだまだ掛かる。
(こうなるなら大人しく着いて行けば良かったかな……。いやいや全員が揃ってる時に発作が出てみろ。俺が父さん達についた嘘が全部無駄になるぞ。せっかく今日から始まった父さんの生活が壊れてしまう)
そう考えるとやっぱり今の選択肢しか俺には残っていない。だから、しょうがないと諦めるしかない。足りない頭を回して出した結論は18時。いつも夕飯を作り始める時間だし、このくらいなら自然だろう。
つまり、帰りの分の時間を考えて50分くらいはここになければいけない。自分から選んだことだし、仕方のないことと言えど50分は辛い。
読み終わった漫小説を読み返すのもなんかなぁと思い、子供時代はこの公園で鈴香と四つ葉のクローバーを探していたなと思い出し、そうして時間を潰そうとをずっと座り続けていたベンチを立つ。
「ん"ん"ーーーー」
縮こまった身体を思いきって伸ばしすのは気持ちが良い。おかげで目を瞑っちゃったし、大きな声が出てしまった。普段こんなことをすると俺の見た目もあって変な目を向けられがちだが今は1人だけだ。
(大丈夫だよな)
そう思って目を開けるといつの間に来ていたのか私服姿の鈴香がいた。
「ん"ーー……んげぇっ!?」
「そんなに驚かなくても良くない? ちゃんと声も掛けたのに無視するんだもん。悲しくて泣いちゃうよ」
「俺は何も聞こえてないぞ?!」
「何かぶつぶつ言ってたし、自分の世界に入り込んでいたんでしょ? 裕翔らしいね。しかし、どうしてまたこんなところに」
「いやーそれがー」
今更、鈴香に嘘をつく必要がないので理由を素直に教える。理由を聞いた鈴香に馬鹿にした笑いをされたので制裁の為に先週されたデコピンをし返す。別にあの時のことを根に持っていた訳じゃないけど、今の今、笑われた件と合わせてちょっとスッキリだ。
「暴力反対〜」
なんて言ってくるが、今は無視だ。
「そう言えば、鈴香はどうしてここに?」
「お母さんにおつかいを頼まれてね。ほらっ、公園の入り口に自転車が置いてあるだろ?」
鈴香が指をさした方を見ると確かに自転車が止まっており、カゴの中にはエコバッグが入っている。1番近くのスーパーマーケットに行くのにここを通るからしょうがない部分があるが、よりにもよって今で鈴香かぁ。見られたのが知らない人だったら良かったのにとさえ思える。
(しばらくは擦られるんだろうなぁ)
とりあえず、見られた腹いせにもう一回デコピンをしてから鈴香を帰らせる為に一緒に入り口の方に向かう。
そう言えば、春香さんの言っていたケーキ作りの件はどうなっているんだろう。あれから返事を聞いてない。忙しくしてる人だからそもそも都合のいい日を作るのが大変なんだろう。俺は春香さんからの返事を気長に返事を待つしかできない。
額をさすりながら自転車に向かって一緒に歩く鈴香にケーキの件を伝えてる。
「分かったよ。まったく、人を伝言板か何かだと思ってさ。はーあ」
「もしかして怒ってる? そんなにデコピンが痛かったか? 軽くやったつもりだけど、もしそうなら謝る」
親しき仲にも礼儀ありというくらいだしな。だが、鈴香は「そっちじゃない」と言ってくる。
そっちじゃない?
そっちじゃないってどういうことだろうか?
分からない……。
分からないものをいくら考えてもしょうがない。これは俺の悩みとは別ジャンルだ。もっというと乙女心とかそういうやつ。つまり、この人生において俺には縁なんてない話。だと思ってたんだけど、まさか縁が巡ってくるとは。
「分からない?」
「さっぱり」
「つい最近のことじゃないか」
「なんかあったか?」
鈴香が何を言いたいか本当に分からない。なので、大人しく鈴香に尋ねる。
「降参だ。分からないから教えてくれ」
「本当の本当に? ……聞くけど、どうして僕を頼らなかったの? こういう時の為の僕でしょ」
「……えっ? ……あぁ、いやでも、だってさ」
「でもも、だってもじゃない。無理な時は無理って言うんだから聞いてくれても良いよね。僕は偽装とは言え彼女だし、暇で退屈で仕方なかったんだから」
鈴香は頬をぷくーと膨らましながら教えてくれる。話の内容的に先週に偽装彼女関係なことは分かる。だけど、今日のは俺自分でした選択だし、鈴香がそこまで気にする必要はないはずだ。
「次からはちゃんと頼って。分かった?」
「……分かった」
俺はそう言って鈴香の問いに頷く。それを見て鈴香は笑顔になるが、俺はただ分からないことが増えただけだった。




