第6話.「引っ越し当日①」
白糸親子と顔合わせをしてから8日、そして白糸が俺の家を訪ねてきてから7日経った。
今日はいよいよ白糸親子が引っ越して来る日だ。そんな訳もあってか父さんは朝からウキウキしている。
「よっしゃあ。荷物をガンガン運ぶぞー」
それだけ楽しみだったってことなんだろうけど、歳を考えて怪我だけはしないで欲しいと願う。
そんな俺は人の心配をしている場合ではない……なんてことは無く、比較的落ち着けている。
と言うのも、白糸と先週以来話していないのが大きい。向こうは話したそうに様子を伺っていたが、ちょうど良いところで白糸が友人に話しかけられたり、ちょうど良いところで白糸が教師に話しかけられたり、ちょうど良いところで逃げれたおかげで無事に一度も会話をすることなく今日まで来れた。
(少し悪い気もするけど、俺的にはこれで良い)
時計の針が10時ちょうどを指す頃、インターホンのチャイムが鳴る。その音に反応して真っ先に玄関へと向かう父さん。俺は少し遅れて着いて行く。出迎えをしなくても良いならしないが、今日はしないといけない日だ。……そういう判断をちゃんとできてる自分が少し嫌になる。
「2人共いらっしゃい。…ん? ようこそ? おかえり?」
「ふふっ、次からは『おかえり』って言って。私達は『ただいま』って言うから」
「見てて恥ずいからそう言うのは家の中でやめて」
父さんの背中で見えないが、白糸親子がそこにいる。気持ちの準備はして来てたし、鈴香に協力してもらって保険も作った。あとは波風立てずに上手いこと立ち回れば良いはずだ。
今日はその第一歩。
(……やってやる)
父さんの案内で2人が家の中に入って来る。
「これからよろしくお願いします」と冬美さん。
「裕翔君、よろしくね」と白糸。
「よろしくお願いします」と俺。
最初の感触としては良いのではないだろうか。
「じゃあ、先に言ってある通り雪奈ちゃんの部屋は2階の裕翔の部屋の向かいだから。裕翔、案内してあげて」
「分かった。それじゃあ行きましょうか」
「うん、お願い」
俺は後で楽になるようにと大きめの段ボール箱を1箱持つと先導して白糸を2階へと案内する。本来なら先週やっていたであろうことを今やっているのは少し申し訳ないと思う。ただ、元を辿れば父さんが伝え忘れたことが原因だけど……。どっちにしろ、案内が出来たんだから良しとしよう。
「ここが白糸さんの部屋です。……って、先日にタンスと机を運んだので知ってますね。俺は残りの段ボールを持って来るのでレイアウトを考えててください。タンスも机も適当に置いたので場所を変えたいでしょうし、父さんに手伝うように言われているので」
「そんなの駄目だよ。全部私の荷物だし、裕翔君にやらせるのは私が嫌だ。私も手伝うから」
白糸は俺より先に下に向かい外に出ると冬美さんの車から段ボールを取ると運んでいく。どうから重かったのは最初のやつだけらしく、他の段ボール箱は比較的小さくて軽い。とは言っても女子が運ぶのは苦労しそうな大きさと重さだからちゃんと手伝う。
「手伝ってくれてありがとう! おかげで早く終わったよ」
どうやら白糸の持ってきた物を全て部屋に運び終わりこれでお役御免かと思い、自分の部屋に戻ろうとすると白糸に呼び止められる。なんでも崩したベッドを組み立て直すのを手伝って欲しいとのこと。荷物にそんな物は無かったと思うが本人が言うならそうなんだろう。
「駄目……かな?」
首を傾げながら尋ねてくる。
そんな言い方をされたら断るもんも断れない。それにこれからのことを考えるなら尚更だ。
「分かりました。そしたらその組み立てるベッドのパーツを揃えておいて下さい。自分は少しだけ電話をして来ます」
俺は断りを入れてから一度自室に戻る。
かなり余裕を持って今日に臨んだはずなのだ。つまり、閉鎖的な空間で一対一でいるのは精神的な負荷がかなりかかるってことだ。鈴香を除いて女子と一緒になるなんて今までに無かったから勉強になる。
(ふぅー)
窓を開けて、外の空気を感じる。田舎の良いところは空気が美味い点だ。そのおかげで少しリフレッシュできた俺は再び白糸が部屋に戻ったのが分かり俺も戻ろうと自室のドアを開けるとちょうど白糸がいた。ベッドの部品を持って戻って来たのかと思ったがそうじゃ無い様子。
「なんか、ベッドは年季が入ってるから新しいのを買ってくれんるんだって。そんな話を前にしたなーってお母さんと話してて思い出したんだ」
なるほど。だから、ベッドのパーツは無かったのかと腑に落ちる。
「買いに行くのは午後かららしいんだけど、裕翔君は行く?」
「えっ……? あー、そうですね」
正直なところ行きたくない。出来ることなら3人で行って来て欲しい。だけど、それを伝えるかは悩む。行きたくない自分の他に今日くらいは付き合った方が良いと思う自分がいるからだ。
「もし彼女さんとの予定があるならそっちを優先してもらった方が良いかなって思って教えに来たの」
先週の件もあるからか白糸は気を遣ってくれてるようだ。分かってはいたがこういう気を回せるところを見ると人は見かけによらないんだなと思う。だからと言って怖いことには変わりは無いのだけど……。
どうしようか、どうするべきかを悩んだ俺は結論を出す。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて優先させてもらいます。皆さんで楽しんで来てください」
「うん、分かった。じゃあ、私はお昼ご飯まで荷解きしてるから。荷物運んでくれてありがとね」
白糸は手を振りながら自室に戻って行く。そして俺もドアを閉めて再び1人の空間に戻る。
今した選択が良いか悪いかは分からない。だけど、精神的な負荷を考えると1人になるのは間違えではない。ならば、そうしよう。
(それはそうとちょっと疲れた)
体力に自信があるわけではないので仕方ない。それだけ動いたってことだし。
時計を見るとまだ10時30分にもなっていない。昼飯の準備を始めるには早過ぎる。でも、都合の良いことに眠気も来てくれた。なので昼飯を作る時間まで少し寝ることにした。




