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第5話.「幼馴染と偽装彼女」

「裕翔、君はいったい僕の事をなんだと思ってる」


 2人だけの玄関に鈴香の冷たい声が響く。


「と言うか、そもそも何がどうなってそんな嘘を吐いたのさ」

「話の流れと言えば良いのか……。向こうとの顔合わせの場から適当に抜け出そうとしたら白糸が『もしかして彼女?』なんて聞いてくるもんだから」

「まんまと利用してやろうって? やっぱり君は馬鹿だ」


 そんなに馬鹿馬鹿言わないで欲しいが、実際に言っていることは馬鹿そのものなのでしょうがない。


 俺は立ち上がると未だ土間に座り込んだままの鈴香に手を貸す。鈴香はその手を取って立ち上がると、尻についた砂を叩き落としながら尋ねてくる。


「偽装彼女なんて最初は上手くいくかもしれないけど、いつか絶対にボロが出るよ。そうなった時、裕翔はどうするつもり? おじさんに僕以外の女の子と関わるのが怖い事も含めて過去の事を正直に話す?」

「いや、それは無理だ。今更言える筈がない」

「じゃあどうするの?」

「その時はまた適当な嘘をつくしかない」


 俺がそう言うと額にデコピンが飛んでくる。


「痛っ」

「そこまで来て正直に話す勇気が持てない裕翔への罰だからね。それで、最初の質問の答えをまだもらえてないんだけど」


 鈴香が怒っているのは明白だし、それに気付けないほど鈍くもない。まぁ、いきなりこんな事を言われたら怒るのは当たり前か。


『いったい僕の事をなんだと思ってる』


 鈴香は唯一俺の事を理解してくれている幼馴染だ。


 ……なんて言うのは自分勝手だよな。でも、こんな言葉しか浮かばない。だから、そのまま伝える。


「鈴香は幼馴染で、俺の事を分かってくれてる唯一の人だ。もちろん都合良く利用してやろうって考えた訳じゃない。でも、見返りを求められても俺にできることなんてたかがしれてる。その中で返して行くから許してくれ。今の状況になったのは、未だにトラウマを抱えた俺が原因で、悪いのは俺だけだって分かってる。だけど、これから始まる父さんの新しい生活を守るためにはこうするしかなくて、鈴香の力が必要なんだ。だから頼む」

 

 俺には精一杯頭を下げるしか出来ない。出来ないからこそ、下げる頭の位置はどんどん下がって行く。


「この通りだ」


 気付けば、俺の頭は土間に着いていた。それどころか両手両膝も着いている。偽装彼女なんて頼み事をするんだ。土下座じゃ足りないくらいだが、広さ的にこれ以上出来ない。


 ……こうしてからどれほどの時が経っただろう。どれほどと言ってもせいぜいが数分ってところだけど、その間、鈴香は一切何も言葉を発して無い。流石に怖くなり、ゆっくり顔を上げる。すると、またデコピンが飛んでくる。


「痛っ、何するんだ」

「いやぁ、なんとなく? でも、気持ちは十分伝わった。流石に土下座をされるとは思って無かったけど、そこまでされたら断れないね。まぁ、とんでもない話以外は元々断るつもりも無かったんだけどね。で、具体的に何をどうすれば良いの? 夜遅くまで僕の部屋にいたり、朝から腕組んで歩く?」

「いや、今のところそこまでしてもらわなくて良い……って、良いのか!? 普通は断るだろ」

「さっき言ったよ、元々断るつもりが無かったって。流石に偽装彼女なんて話をされるとは思わなかったけど、僕もおじさんには幸せになって欲しいから」


 偽装彼女をしてなんて話は普通にとんでもない話だと思うが、俺からそんな事は言えない。だから、その分感謝を伝える。


「ありがとう……本当に、ありがとう……」


 俺はさっきまでとは違う理由で涙を流した。安心と謝罪。鈴香にこんな事を背負わせて本当に申し訳なく思う。だから、なるべく迷惑をかけない方法を考えないといけない。それが俺の義務だ。


「それで、何をどうすれば良い? 僕に聞かせてよ」


 言いかけた通り、鈴香は今のところ何もしなくて良い。父さん達は上手いこと嘘をついて躱す。だけど、いつか限界が来る。その時の保険……具体的に名前を貸して欲しい事を伝える。


「本当にそんなんで良いの?」

「思い付く限りだとこんな感じ。念の為にもう一度聞くけど、本当に良いのか?」

「良いよって言ったんだから何回も聞かないでくれ」

「わ、悪かった。……本当にありがとう……」

「僕らの仲だからね。それと、君のことだからもしもの時の僕への迷惑とか考えているんだろうけど、そんな事はしなくて良いよ。自分の意志で決めたことだから、"もしも"の時は一緒だよ」


 そして、鈴香は手を差し出してくる。この手は鈴香にそれだけの覚悟があるって証だ。本当に最後まで付き合ってくれる覚悟があるんだ。


 『なんでそこまで』とも思ったが、ここまで来てそんなことは聞くのは野暮だ。だから、俺が伝えるべき言葉は自然と決まる。


「……ありがとう。これからよろしく」


 俺は鈴香の手を力強く握り返した。

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