第46話.「告白①」
鈴香は俺の横に来てベンチに座る。
「酷いよね。『トイレに行く』って言ったきり戻って来ないから何処に行ったかと思えば抜け駆けして裕翔に会いに行っちゃうんだもん」
「抜け駆けなんて……してない」
「してるよ。この状況がそれを物語ってるよ。まったく……でも気持ちは分かる。顔、見たいよね。でも、よく入れてもらえたね」
「昨日、当直の看護師さんと仲良くなって特別にって」
「なるほどね。そう言えば、親しそうに話していたね」
えっと……、つまり……どういうことだ?
俺だけ話に置いていかれてる。
「おじさんが起きて心配いてたよ。起きてた僕が理由を話したけど、『それにしては遅い。もしかしたら自責の念で……』って。『そんな馬鹿なことをする人じゃない』とは言ってきたけど、あながち間違ったことは言ってないか」
「……」
「もし、裕翔が本気で君を恨んでたらどうなっていたことか。でも、そうしないって分かってたから自分のことを打ち明けたんでしょ?」
「……卑怯だよね」
「卑怯じゃないよ。むしろこの状況を、雪奈さんを利用して裕翔に声をかけた僕の方が卑怯だ」
話題の中心にいるのは変わらず俺ないのに一気に置いてかれてしまう。
誰かー、解説してー。色々と解説してーー。
心の中でそう叫んでいるといきなり鈴香に話しかけられる。
「裕翔ごめんね。いきなり会話に入っちゃって」
「い、いや……全然大丈夫だけど……」
「良かった。僕とも普通に話してくれるんだ」
「あっ、いや……」
「それで、さっきの続きなんだけどね。雪奈さん、だいぶ無理矢理過ぎるよね」
「そ、そうそう--。どうして俺が雪奈さんを恨む前提なのか分からないです」
あぁ、やっと話が戻ってきた。やっと会話に混ざれる。
こんなことを思うのは初めてだ。前までだったら思わなかった。
「だって、それくらいのことをしたから」
「俺は雪奈さんに何もされてないですよ。むしろ、助けてもらったくらいですし」
「助けてなんてない。それなら最初から言っておけばよかったもん」
それはまぁ、確かに。
でも、そうじゃなかったから今がある。そう思える。
「少なくとも私は何もしてない。……助けてなんてない」
「会場で助けてくれたじゃないですか。雪奈さんが来てくれなかったらどうなっていたか分からないです」
それに--
『裕翔君……!!裕翔君……!!』『駄目!! 私はまだ……!!!!』
夢で聞こえた声が頭の中で思い出される。
「でも、そもそも私がいなかったらこうなってなかった」
「雪奈さんが声をかけてくれたから俺は目を覚せたんです。あれが無かったら今頃どうなっていたか分からないです」
「……でも……」
「雪奈さん、もう諦めなよ。貴女がどんなに否定しても裕翔にその気は無いって」
鈴香が立ち上がりながら雪奈さんに言う。
「それに僕は嫌だよ。貴女に遠慮してるつもりはないだろうけど、そんな気持ちで空けられた椅子に座るつまりはない。資格云々の話をするなら自分とは話せるからと女性恐怖症を放置し続けた僕の方こそ資格はないよ」
離れたところから見ても分かるくらい雪奈さんは手を握りしめながら言う。
「鈴香さん……駄目だよ」
「何が駄目なの?」
「鈴香さんは裕翔君をずっと想ってきたのに、私なんかが邪魔をしていいはずがない」
「僕は邪魔だとは思わない。それに裕翔の心を溶かしたのは雪奈さんだ。なら資格は十分どころか雪奈さんの方があるくらいだ。でも、僕は伝えるよ」
そう言って鈴香は俺の方を見てくる。
「裕翔、今は聞いてさえくれればそれで良い。だから、今は一方的だけど改めて気持ちを伝えさせて。……僕は君が好きだ。ずっと、ずーっと好きだ。おじさんの為に頑張る君が好きだ。おじさんの幸せを願う君が好きだ。好きだからこの先も裕翔と一緒にいたい。幼馴染なんて関係で終わらせたくない。この先もずっと裕翔の隣に居たい。僕にできることなんて無いけど、裕翔の事を幸せを願う気持ちは負けない。だから、僕を恋人にしてください。僕と一緒に幸せになってください」
鈴香は言い終わると雪奈さんの背を押して一歩前に出させる。
「はい、次は雪奈さんの番だよ」
「……でも」
「この期に及んで遠慮は無しだよ。それにさっき言っちゃったんだから今更だよ。なら、ちゃんと伝えよう」
「それもあるけど、私は鈴香さんみたいに理由が強くない」
そして、また背中を押して更に一歩前に。
「裕翔君」
「……はい」
「聞いてくれる? 返事はいつか聞かせてくれればいいから」
「それでいいのなら、もちろん聞きます」
雪奈さんは1度深呼吸をすると伝えてくる。
「えっとね、まずは小学生の時は助けてくれてありがとう。ずっとお礼を言えてなくて、今になっちゃってごめんなさい。あの時にしてもらった事、かけてもらった言葉のおかげでここまで私は頑張ってこれました。それともう一つ。先に謝っておきたい事があってね、前に言った『人として好き』って言うの。あれ、半分は嘘なんだ。ここまで来たら分かると思うけど……、私は人としても好きだし男の子としても裕翔君が好き。さっき言った『好きだから』はこっちの意味ね。あの時だけの一瞬の関わりだったけど、一緒に生活するようになってもっと好きになった。だって、お弁当とかご飯とか、その他の事とか他人の私やお母さんに最初から気を使ってくれてたんでしょ? そんな嬉しくて幸せなことはないし、もっと好きになるに決まってる。義理とは言え、姉弟に、家族になっちゃったから抑えなきゃいけないのは分かってるんだけど、ちょっと抑えられなくなりそうかも。だから、裕翔君に恨まれて嫌われればと思ったのにこんなことになっちゃった。全部裕翔君のせいだから責任をとって私を彼女にして。次は裕翔君を幸せにさせてください」
全てを言い終えた雪奈さんは鈴香の方を見る。
「機会をくれてありがとう。それとごめんね。言ったからには負けたくない。直前まで諦めて女が言うのもあれだけど……」
「ライバルができるってことでしょ? むしろ燃えるね。でしょ?」
鈴香は俺の顔を見てくる。--かと思ったけど視線が少しズレている。
その方向を辿ると出入り口になっているドアの所まで行く。
「……?」
どうして鈴香はそっちを見たのか疑問に思ってると少し空いたままになっているドアからその人が顔を覗かせてくる。
「どうしてバレてるんだ……」
「裕翔からは見えないけど、こっちからはバレバレだったよ。ずっと黙ってた雪奈さんに感謝しなきゃだね、おじさん」
「そうだよ、たっつん。それにお母さんも。後で感謝してよ。盗み聞きをずっと見逃していたんだから」
父さんだけじゃくて冬美さんも出てくる。
……どうしよう。何も言葉が出てこない。いつからいたのかとか、どこから聞いてたとか聞きたいけど、言葉が出てこない。
だって、それが気にならないくらいに大の大人の2人が顔を赤くしていたからだ。




