第43話.「元凶①」
「い、いつから……!?」
少し間を空けてから俺は白糸に大きい声で聞く。
「ちょっちょっちょっ、しーっ」
白糸は人差し指を立てて口にあてる。
「まだ朝の5時だよ。静かにしないと」
「あっごめんなさい」
指摘されたことで声のボリュームを落とす。
俺が夕日だと思ったのは朝日だったらしい。確かに段々と明るくなっている。
(えっ……つまり俺はあれからずっと寝てたのか……?)
白糸はカーテンから顔を出すと周りを見渡す。
「良かった。同室の人は起きてないみたい。……うーん、どうしよう。ちょっと待ってて」
そう言うとどこに行ってしまう。
『雪菜ちゃん良かったね』
『はい。本当に……、それで彼と少しをしたいので外に出たいのですが……』
そんな声が部屋の外から聞こえてきたかと思えば、白糸は看護師さんと戻ってくる
当直の看護師さんだろうか。
俺の様子を確認すると白糸の方を向いて伝える。
「何処かぶつけたわけじゃないし、先生からも動いてもいいって言われてるから良いよ。屋上の鍵はまだ開いてないと思うから行けないけど、中庭なら行けるよ。雰囲気は足りないけど、ベンチがあるからゆっくり話してきて」
「ありがとうございます……!! けど、私と彼はそういうのじゃ……」
「大丈夫、大丈夫。分かってるから。"姉弟"だもんね」
そう言うとそっとカーテンを開けて出て行く。
俺に対して言われたわけではないが、妙な恥ずかしさを感じた。
○○○
白糸と一緒に中庭に来た俺は道中にあったパンの自動販売機で軽く空腹を満たしてからさっきの話の続きをする。
「えっと、どこからだったっけ。……あぁー私が怖いのを知ってたってやつだね。うん、知ってた。でも、私が言ったのとちょっと違うね。正確には鈴香さん以外の女の子が怖いって話だっけ。まぁでも、噛み砕けば私が怖いになるよね」
噛み砕けばって……、だいぶ噛み砕き過ぎだろってのは心の中だけで収める。
「やっぱり、あの日ですか?」
「うん。あの日だね。鈴香さんに偽装彼女を頼んだ日」
考えてみれば偽装彼女の件を知ってて、こっちを知らないはずがなかった。だって、それほど変わらないタイミングでどっちの話をしたのだから。
「言ってたのは鈴香さんだけど、だからって責めちゃ駄目だよ」
「そんなこと、しません。それに俺にはその資格はない」
白糸が紙パックの牛乳に備え付けのストローを刺すと渡してくれる。俺はそれを受け取りつつ返事をする。
「……聞いても良いですか?」
「良いよ。なんでも聞いて」
俺は「じゃあ……」とまず最初に1番重要なことを聞く。
「白糸さ--あっ、雪奈さんって俺の事を元々知ってましたか? 高校よりも前、たとえば小学校の時とか」
「うーん……。それ、聞いちゃう?」
「はい。重要なことなのね」
白糸は自分の分の牛乳にストローを刺すと一口吸ってから俺の顔を見てくる。
「……ってか、それを聞くってことは確信してるんだ」
「でも、いつなのかとかは分からないので」
「なるほどね」
そう言って白糸はまた吸う。
「質問を質問で返すっても悪いんだけど、私も聞いておきたいな」
「なんでしょうか」
「裕翔君は昨日会った3人を……あーごめん。今の無し」
白糸は俺の事を気遣って途中でやめてくれる。まぁ、目の前で倒れたのだから当然ではある。
幸い、たっぷりと寝たおかげかいつもの発作は大丈夫そうだ。
俺は白糸に続けても大丈夫なことを伝える。
「……分かった。じゃあ、もう一回聞くね。裕翔君はあの3人の事をどう思ってる? やっぱり恨んでる?」
「そうですね。昨日見てもらった通り、恐怖でぶっ倒れるくらいには恨んでますね」
「そうだよね」
「でも、なんでそんなことを?」
「んー、そこにはもう1人足りない人がいるから」
「足りない人?」
白糸はいきなり立ち上がると俺の前に来る。
そして----
「うん。全ての元凶で、君が最も恨むべき人。それが私。今の白糸ってのはお母さんの苗字で、その頃は御名代って苗字だったんだ。どう? 覚えてる?」
御名代--御名代雪奈。
俺はその名前に……。
「すみません。全く記憶にないです」
「嘘っ!?」
俺はその名前に心当たりが無かった。




