第42話.「新高1交流会⑤」
白糸は俺の手を引いて会場の外に向かおうとする。だけど、小山は納得していない表情を浮かべると白糸に食ってかかる。
「はっ? 何を言ってるのかさっぱり分からないです。私はただ、そこの人が震えてて体調が悪そうだったのが心配で外に連れて行こうとしただけで……」
「ひと言目に本性が出てるのに後から取り繕っても意味無いよ。それに駄目だって言った」
白糸がどういう顔をして小山と話していたか俺は知らない。だが、小山の顔を見ていれば分かることもある。
「ふん、あんたが一丁前に姉ズラするの? 血も繋がってないくせに」
小山は間違いなく苛立っている。
そして、白糸は----
「もう、私達に構わないでくれるかな。そろそろ鬱陶しくて耐えられない。……ごめんね、裕翔君。ちょっと無駄話をし過ぎた。行こっ。これ以上はあの人の声を聞かせたくない」
白糸は怒っている。
……いや、怒ってくれてる。でも、なんでだ。俺とコイツに因縁がある事を知っている鈴香が怒るならともかく、知らないはずの白糸が怒るのはなんでだ。
……ああ、クソッ。考えられない。何も考えられない。
そうしている内に俺の手は力強く白糸に引かれ、会場の外に連れ出される。当然、後ろから小山が着いて来るが白糸はもはや気にしてない様子だ。
「雪菜さん、先生と教育委員会の人に伝えてきたよ」
「ありがとう。何か言ってた?」
「先生は車を玄関前に動かして来るって。教育委員会の人は『そういうことなら分かりました』って言ってくれたよ」
「やっぱり大人は違うね。どこかの誰かさんと違って理解をしてくれる」
「ちょっと。それってまさか私のことを言ってるの」
気付けば鈴香も来ている。
もしかしたら今俺はもの凄い迷惑を2人にかけているんじゃないか。
「もしかしたら……じゃない。駄目だ……」
心配してくれたのは嬉しいけど、2人にこれ以上は迷惑をかけられない。
そう思い、会場に戻ろうと振り返る。すると小山を追いかけてきたと思われる平瀬と鹿山がちょうど会場から出てくる。
「ちょっと沙也加、いなくなってどうしたの?」
「舞もだよ。私までいきなり外に連れて来て。戻ろうよ。そろそろ再開するよ」
「舞、美菜、いいところに来た。ちょっとそいつをどうにかして」
小山が2人に指図するが何の事かまだ分からない様子。今のうちに会場に戻ってしまいたいが、3人が揃ったことでそれどころではなくなった。
心臓の痛みも呼吸も忘れそうになる。俺はそのくらいこの3人にトラウマを持っている。これでよく小中と耐えてこられたなとも思う。
「どうしたの裕翔君?」
白糸が声をかけてくれる。その声は辛うじて聞こえているが、もはや反応なんてできない。
と言うか、さっきから視界がおかしい。確かに小山、平瀬、鹿山の3人が揃ったところまでは見た。その後から視界がチカチカし始めてる。
「ちょ、ちょっと裕翔君‼︎」
その声を最後に視界が完全に暗転した。
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「どうしてこうなったのか分かる?」
俺の口からガムテープを剥がした小山が俺に聞いてくる。その瞬間、これが夢だと分かる。でも、いつもと違う。これはいつも見る夢の続きだ。
ただ、いつもと違うところもある。小山達が高校の制服を着ている。
「『分からない』? 寝言は寝て言えよ」
口調もついさっき聞いたものだ。青筋を立てた顔だってさっき見た。
「お前が余計な事をしたのが悪いんだからな?
ちゃんと分かってる?」
余計な事……なんだろうか。
俺はただ、両親の事でいじられて泣いている同級生がいたから先生に言っただけだ。……まぁ、こんな事が平気で出来る奴らなら"余計な事"と感じてもおかしくないか。
「『僕が悪かったです。だからやめて』? はっ、分かってないね。だからやめない。続ける。叫んだって無駄だよ。ここは校舎の1番端だから声なんて聞こえない。それともママに泣きつく? あぁ、もういなかったね。じゃあ、パパだ。でも、そんな事をしたらどうなるのか知らないよ」
小山の父親は父さんの勤める職場の社長だ。だから、この頃の俺は何も相談できなかった。言えば確実に迷惑をかけるから。
「『言わない』とか信じられない。『本当に言わないから』? ……ぷぷっ、だから信じないって。うん、信じない。だから、どうするかは分かるでしょ? そう、身体に教え込むの」
そうして小山はビリビリペンを傷口に差し込んでくる。
現実で起きたあの時もそうだった。夢でこの場面を見るのは初めてだけど、小山達が成長しているだけでまんまな風景だ。
(……なんかもう疲れたな。いっそ、このまま目が覚めなければいいのに)
そう考えていると、どこからか声が聞こえる。
『裕翔君……!!裕翔君……!!』
声の主は白糸だ。
この人も可哀想だ。俺と家族になったおかげでこんな迷惑を被って。でも、どうしてだろう。どうしてここまでしてくれるんだ。
まぁでもそんなのどうでもいいか。
「さよなら」
『駄目!! 私はまだ……!!!!』
そこで夢は途切れた。
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目を覚ますと初めて見る天井だった。
あと、めちゃくちゃ眩しい。夕日が顔に当たっている。
ここはどこかと身体を起こすと周りがカーテンで覆われている。
(病院……か?)
どうして自分がここにいるのか思い出そうとする。だが、どうにも思い出せない。
(確か担任に頼まれて交流会に行って、その時に白糸の友達とか小山達に会って。白糸と小山と同じテーブルになって--)
そこまで思い出して、ようやく自分が会場の外で気を失ったのを思い出す。
「……帰らないと」
ベッドから足を降ろして立ちあがろうとするとちょうどカーテンが開かれる。
「「あっ--」」
入ってきたのは白糸だった。
お互いに顔を見たまま固まる。
そして、数秒おいて白糸が駆け寄ってきて飛び込んでくる。あまりに突然の事だったので、俺は耐えられずにベッドに倒れてしまう。
「ぐへっ」
情けないが変な声も出てしまう。
何事だと胸元に顔を埋める白糸に目線を向けると身体が確かに震えている。
もしかして俺と同じ理由で--、とか考えてみるがそうじゃないのは1番分かっている。
「……すみません。俺、迷惑かけましたよね」
白糸は顔を上げることはしないが横に振ってるので否定してくれてるのは分かる。
でも、そのまま白糸は動かない。触るのは駄目だし、「退いて欲しい」と言うのも悩ましいしで、どうしようか悩んでいると白糸は「ごめん」と言って身体から降りると顔を上げて俺を見てくる。
「……ごめん。安心したら裕翔君に抱き付きたくなっちゃった。女の子に触られるの……ってよりも、話すのだって嫌なのにごめんね。でも、それくらい安心したってことを分かって」
「あっ、いえ。心配してくださりありがとうございます。自分は大丈夫で……ん?」
白糸は今、なんて言ったんだ。
流そうとした言葉を振り返り、堪らず聞き返してしまう。
「い、今、今なんて……」
「言ってなかったっけ? 知ってたよ。裕翔君が私を怖がっていたことは」
俺は言葉を失った。




