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第41話.「新高1交流会④」

 交流会という名の自己紹介タイムが始まって早いものでもう30分過ぎた。その間に2回の席移動があったけど知った顔と一緒になったのは最初の佐倉杏菜さんくらいだ。


 でも、その時は唐突に来る。


「こんにちは〜」


 小山沙也加--俺にトラウマを植え付けた中心人物でありながらのうのうと生きているこの女と一緒になった。


 それだけなら良かった(良くはない)のだが、よりにもよって白糸まで同じテーブルになるなんてどうなっているんだ。


 って言いたいけど、それは運営側の都合があるだろうから声に出しては言えない。


 しかしだ。小山1人でさえ与えてくるストレスはその他の女性に比べたら大きいのに白糸も一緒だと耐えられない。でも、逃げ出すわけにもいかないのでなんとか平静を保とうとする。


「じゃあ、私からしようかな」


 最初に名乗りを上げたのは白糸だ。


「白糸雪菜です。通ってる高校は千曲川高校で、学校の印象はいつも賑やかかな。出身中学は第4中です。こんな見た目だけど怖がらずに仲良くしてください」


 第4中というと俺の通っていた中学の隣の学区だ。と言うことは前に住んでいた所もそっち側ということ。


(確か引っ越しの前の週にうちに来たよな。あの時は歩いてきていたはず。前のアパートからどれだけ時間がかかるのか知らないけど、もしかしてあの時ってかなり酷いことをしたのか?)


 そんな考え事をしているもんだから白糸が最後に言った言葉を聞き逃す。……いったい何を言ったのか。分からないが、とりあえず俺に視線が集まっていることは分かる。


「へ、へぇーそうなんだ」

 

 小山の動揺したような声が聞こえてくる。


「あっ、ごめんね裕翔君。勢いで言っちゃった」


 そして、手を合わせながら白糸が謝ってくる。


「あっ、いえ、はい……大丈夫です」


 俺はなんの事か分からないまま反応してしまい、そして次の人へと順番が回って行く。


 俺は分からないまま時間だけが過ぎていった。


○○○


「ねえ」


 このテーブルでの交流が終わり次のテーブルに移動しようとした時、小山に後ろから声をかけられる。おかげで身体がビクッッッと反応し、心臓が今日1番強く鼓動を鳴らす。


「親、再婚したんだ」


 なんでその事を……と一瞬考えるが、白糸が言ったのはこれかとここで知る。


(だからなんだって言うんだ。お前には関係ないだろ)


 心でそう思っても実際に言えるわけではない。言えたらいいが、場所と何より心臓が許してくれない。


 小山は俺の顔を見ると「ふっ」と鼻で笑い、あの頃のような下卑た笑みを浮かべてくる。


「ママができて良かったね。昔からママが好きだったもんね。いなくなってから落ちんでたもんね,」

「…………」

「ただでさえキモい奴だったのに、めちゃっくちゃキモかったよ」

「…………」

「自覚は……ないか。あったらもっとましな態度を取れるもんね」

「…………」

 

 言われている内容よりも小山に話しかけられているという事実が反撃を許さない。


 そんな事を露とも知らない小山は青筋を立てて舌打ちをしてくる。


「チッ」


 何故か苛立ち始めた小山を見ながらなんとか平静で居ようと胸を抑える。


「あのさ、私が話してるんだから何か言えよ」


 交流会後半ともなれば最初の様なガッチガチの雰囲気は無くなり、思い思い話す声があちこちから聞こえる。その音と小山が小さい声で話しているからここだけ異様な空気になっているのに誰も気付かない。


 心臓が痛い。呼吸もなんとかいつものを意識しているが気を抜けば過呼吸になってもおかしくない。


 でも、それは俺の話。小山には関係のない事だ。


 苛立ちを隠さなくなった小山は足を揺すり始める。


「チッ--あぁ、ごめんごめん。何も言えないか。だからあんな目にあったんだもんね」


 会場を出ずともこの場から離れることぐらいできるはずなのに足がすくんで動けない。小山の顔から目線を逸らせない。文字通り蛇に睨まれた蛙だ。


「無駄な正義感を持つからあんな目にあったんだよ。ま、自業自得だよね。……はぁ、本当にキモい。キモくて滑稽な男だよお前は。あの女とパパ、新しいママがかわいそ」


 恨みの感情すら小山に抱いていたはずなのに恐怖で身体が動かなくなり、女性恐怖症も相まって震えが止められない。自分がどうして立っていられてるのかすら分からない。


 言われた言葉はたぶん幼稚じみた品性のない事なんだろう。でも、俺の身体は理解するのを拒んでいる。それが動けないなりのせめてもの防御反応なんだろうということだけはなんとか分かる。


「ちょっと外に行こうよ。今、休憩時間みたいだしさ。久しぶりに分からせてあげるよ。せっかくだし他の2人も呼んでこうか? 懐かしいでしょ? それにその方が思い出せるでしょ。自分がどういう人間かを」


 小山は俺に近付くと外に無理矢理連れ出す為に右手を掴もうとしてくる。


 だが、その手よりも先に後ろから右手が握られる。


「貴女なんかが手を握っちゃ駄目だよ。その醜くて汚い性根が移っちゃう」


 声で誰が小山よりも先に手を握ってきたのかすぐに分かる。その人は鈴香でも杏菜さんでも無い。


「そんなの裕翔君が可哀想だよ」


 白糸だった。

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