第39話.「新高1交流会②」
エントランスのドアが開いて3人の女子学生が入ってくる。
その顔を忘れるはずもない。なんなら中学までは同じ学校に通っていたのだから顔を見るのにそれほど期間は空いてない。
「えー知り合いいるかな〜」と話す小山沙也加。
「どうだろ?」と小山に話すのが平瀬原舞。
「いたらうける〜」と最後に話すのが鹿山美菜。
(…………ぐっ。胸騒ぎの正体はこっちか)
小山を中心に色々とされたが、どれよりも思い出されるのは俺が今の状態になるに至ったあの日だ。
既に跡なんて無いのにカッターナイフでつけられた場所が痛みだし、そこから流されたドッキリペンの電流が痛みを伴って流れるのを感じる。
心臓の鼓動はこれまでにないくらい早くなり、呼吸も浅くなり始める。
でも、3人はそんなことを何も知らない。知らずに生きている。
(なんで……なんでこうなる。アイツらと関わらなくていいように市内で1番馬鹿な高校を仕方なく選んだのにこんなところに来るとか聞いてない……)
言ってしまえば授業料の言い訳なんて建前だ。今通っている高校を選んだ本当の理由はこっちだ。
中学後半にもなれば嫌でも耳に入ってくる誰がどこの高校を受験するかという話。その頃には俺は進路を就職から今の高校への進学に変えていたので鈴香に頼んで探ってもらった。
そして、出た結果は市内でもとりわけ高い進学率で有名な女子校だった。
『良かった……。一緒じゃなくて本当に良かった……』
ようやく離れられて、顔を見なくていいと思ったのに----なんでだよ。
俺はこんな偶然の再会は望んでない。
顔を見ただけなのに心臓が痛む。それに一瞬でも気を抜けば目の前が真っ白になりそうだ。
奴らに背を向けて顔を見られないようにしてからエントランスに置いてある椅子を目指して歩く。
「裕翔……」
鈴香が心配そうな顔を見せてくるが、俺にはもうその厚意を受け取る資格はない。だから、鈴香を無視する。
なんとか椅子に着いたので座る。多少は楽になると思ったけど、3人の楽そうな声が響いて聞こえてくるから全然楽にならない。
それでも交流会が始まるまでに精神状態を少しでも平常に戻しておきたい俺は、周りに誰もいないことを確認して俯いた状態で首に手を添える。
一時的な解決にすらならない自傷行為に縋らないといけない自分が嫌になる。そして、同時になんで自分がこんなことにならなきゃいけないんだとも思う。
(そうか……そうだよな。アイツらがいなければこんなことにはなってないんだ)
今までに恨む気持ちがあったわけでも、アイツらに復讐してやろうと思ったこともないが俺だけが苦しんでいるのは不条理だと思う。
でも、いくらそう考えたところで俺には何もできない。ましてや復讐なんてできるはずもない。
だから、その分が自分に向けられるだけだ。
聞こえてくるアイツらの声が時折夢で見るあの光景に重なる。ここがどこかも忘れて痛く苦しく意識が飛びそうになる。
あと少しで----というところで「皆さんお揃いですね」と言う男性の声が聞こえる。
それで我に返った俺は首から手を離し声のした方を見る。
「本日は集まっていただきありがとうございます。会場に案内するので私に着いてきてください」
この会の運営の人だろうか。俺だけでなく他の人も戸惑っている様子だが「こっちで〜す」と言う声に促されてぞろぞろと歩き出す。
自分の精神状態がある程度は回復できたことを確かめて俺は立ち上がる。
「…………どうかしましたか」
「ううん。ただ、やっぱりなって思っただけ」
知らないうちに神妙な顔で背後に立っていた白糸の存在に気付いたので話しかける。
「どういうことですか」
「知りたいなら後で時間をちょうだい」
白糸はそう言うと俺の返事を聞かず杏菜さんの所に戻って行く。
(白糸はいったい何を話そうと言うのか)
考えれば思い浮かぶのは一つだけだ。できれば白糸と話したくない。
これからの事を考えると不安になる。だから今からの事に集中しようと周りを見ると、もう俺しかいない。
最後の1人になった俺は交流会の会場に向かった。




