第38話.「新高1交流会①」
他人から向けられた厚意を無下にするっていうのは思った以上に胸糞悪い。
あれから4日経ち、今になってそれを実感している。
でも、俺の中での優先順位は父さんが一番なんだとあの時に再確認させられた。
だからと言って同時に思った『どうなっても良い』って感情に変化が起こることはない。今のところは父さんとの関係に変化はないのは幸いなのかな。
……うん、幸いだ。あぁ喜ばしい、とても喜ばしいことだ。
でも、少しだけ変だなと思う。
あんなことを言ってきた白糸の事だ。それとなく父さんにあった事を伝えたかと思った。だが、何もしていないらしい。
狙いでもあるのか……? それとも俺が泣きつくのを待っている……?
どっちも俺の妄想でしかないけど、いずれにしても白糸が動いていないのは好都合だ。
鈴香は…………今考えると申し訳ないことをしたと思ってる。
好意を持ってくれたことも、それを言葉にして伝えてくれたことも今は嬉しいと思える。でも、それ以上に俺のなんかの為にその時間も感情も無駄にさせてしまった罪悪感が押し寄せる。
だからと言って何ができるでもないし、何をするでもない。そもそもする気もない。決めたことは変えないし、鈴香にとっても俺にとってもその方が良い。
俺ができるのはただ影を薄くして鈴香の視界に入らないようにすることだけだ。
具体的には、なるべく教室にいないようにすることぐらいか。
そういうわけで今は誰も来ないような校舎の裏で1人で弁当を食べている。便所飯を経験した俺にとってこの場所に慣れるのは容易かった。
(あっ、あと外で食べるのは意外と悪くない)
これからもこうして行くんだなってことは漠然と想像できる。
でも、この後に待っている交流会だけはどうなるか想像できない。
いちおう担任から聞いた話だと例年は交流会らしく茶菓子を囲んでお喋りするだけの堅苦しくないものらしい。
『中学の時の同級生が来たりしてな。いいな〜、偶然の再開』
そんなことを担任は言っていたが、中学の時に親しかった人なんていないから偶然の再開なんてものは俺には絶対に起こらない。
なのに妙な胸騒ぎがするのは何故だろうか。
「はぁぁぁ嫌だなぁ」
ほぼ強制的だったけれど、いちおうは自分で選んだことだ。弱音を言うのはナンセンスだけど今くらいは良いだろう。
どう足掻いても必ずその時間は来るのだから。
○○○
はい、というわけで来ました"その時"です。
市街地にある商工会議所の一室が今回の交流会の会場らしい。
「ほいっとな。さあ着いたぞー」
通っている高校から離れているので担任がここまで送ってくれた。
車を駐車しに行く関係で先に降りて中に行っているように言われ、俺達は建物の中に入る。
入ってすぐに分かる厳かな雰囲気。そんなエントランスには既に何人かの生徒が待っている。おそらく俺達と同じ目的で来た人達だろう。
やっぱりと言うか案の定なことに俺の知っている人はいない。反応からして鈴香も同じみたいだ。
でも、1人だけ声を出した人がいた。
「あっ‼︎ いた‼︎‼︎ 杏菜ー久しぶりー」
この主は白糸だった。
向かった先に目を向けるとこの辺で1番偏差値の高い進学校の制服を着た杏菜と呼ばれた生徒と言葉を交わしている。
「久しぶりだね、雪奈。変わってなさそうで良かった」
「それはこっちもだよー。って言っても前に会ってからそんなに経ってないけどね」
「それはそうなんだけどね。昔から雪奈には心配かけさせられたからすぐに気になっちゃって」
「えへへっ嬉しい。流石は親友だね」
いかんせんエントランスは声が響く。聞きたいわけじゃないのに2人の話している内容が聞こえてしまう。
悪いことをしているわけじゃないのにしているようにも思ってしまい、俺は目線を晒す。
すると、2人分の足音がこっちに向かって聞こえてくる。
それでもなんとか興味ない風を装っていると俺の前で足音は止まる。
「硯裕翔君ですよね……?」
声のした方を見ると白糸に"杏菜"と呼ばれていた女子生徒が立っていた。
「……はっ…………はい。そうです…………」
ビクッ‼︎‼︎ といつものやつが起こるが、なんとか返事をする。
「やっぱり。雪奈から2人の関係について教えて貰った者です……って言えば伝わりますか?」
杏菜さんは困った笑顔を浮かべながら聞いてくる。
一瞬なんの事か分からなかったが、白糸が前に言ってた『昔から仲良くしている友達』っていうのがこの人だとすぐに気付く。
腰まで伸びた黒髪ときっちりした姿からいかにも真面目な人って印象を受ける。
見た目だけで言えばギャルな白糸と仲が良いとは思えないが、そう考えるのは失礼過ぎるか。
「あっ、はい。……分かります……」
「良かった。それなら話が早くて助かります」
杏菜さんはそう言って手を差し出してくる。
「--っと失礼しました。今のは気にしないで下さい」
だが、杏菜さんは俺が躊躇う間もなくすぐに手を引っ込める。
そして、「改めて雪奈の友達の佐倉杏菜です。硯さん、雪奈のことをよろしくお願いします」と頭を下げながら言ってくる。
「ちょっと杏菜〜今のはどういうこと?」
「言葉通りの意味だけど……? 何か変だった?」
頭を上げたタイミングを図って白糸は杏菜さんに軽いチョップを入れる。
「うん。まるで私が裕翔君に迷惑をかけてるみたいな言い方だった」
「お弁当を作ってもらってるんだから同じようなものでしょ」
「いやまあ……そうかも……?」
「納得するんだ」
昔からの仲なのだからこんなもんなんだろう。
でも、なんて言うか……白糸がいつもより素で話しているように思える。
もしかしたら--いや、やっぱり良いや。考えたって仕方がない。俺にはどうでも良いことだ。
そのまま話し始めた2人から適当な言い訳をつけて距離を取る。
(昼の時の胸騒ぎはこれのことだったのか。……でも、それからどうしてだ。まだ何か起きそうな気がするのは)
そうと思った時にソイツらは現れた。




