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第35話.「秘密の話と秘密の告白」

 なんでこんなことに---。


 なんて悲劇のヒロインを演じるつもりはないが、誰かを責めれるとしたらこんな自分にした小学校の時の3人を間違いなく責める。


 いや、責任転嫁は良くないな。こんな自分になったのは他でもない俺の責任だ。余計な事に首を突っ込んだ俺が悪いんだ。


 でも、あの時の事を見逃していたら、それはそれで自分を許せなかったと思う。


 だから、結局はまたアイツらへと責任を擦りつけるしかない。


 担任の話が終わり、俺はさっさと教室に向かうつもりだった。なのに白糸がそれに待ったをかけた。


『せっかくならさ、少し話して行こうよ。2人の事を私はもっと知りたいよ』


 そんなつもりなんて全く無い俺だったが、担任が白糸の考えに賛同した事で残って話すことになった。……話すって言ったって一体何を話すのだろうか。


 ただでさえ苦しさを覚えるこの空間で俺ができることはただ身体の震えを抑えるだけ。時々、鈴香から視線を感じるがそれだけで特に何も話さない。


「じゃーん!! 先生がジュースを奢ってくれたよ。気前良いよね〜」


 席を外していた白糸が同じ中身の入ったペットボトルを3本抱えて戻って来る。そして、俺と鈴香の前に置くと席に座る。


 さっそく蓋を開けてグイッと一口飲むと俺と鈴香を交互に見た後に話しかけてくる。


「その様子じゃ、何も話して無いんだね」


 その言葉でこの場の目的を察する。と、同時に椅子から立ち上がる。


「すみません」

「駄目だよ」

「まだ何も言ってないんですが」

「戻らないで。お願い」


 逃げようとしたが、俺の行動を察知した白糸に止められる。


「用事があるのですぐに戻りたいです」


 無視してドアの前まで来た俺は、背中を向けたまま白糸に言ってしまう。


「すぐ終わるから、ちょっとだけ。……ね?」


 両手を合わせて頼んでくる。だが、俺の手はすでにドアにかかっている。


(この手を勢いよく引けば、全て終わる)


 それを望んでいるのに、こういう時に手が動いてくれない。いつもは勝手に動くくせにどういう事だろうか。


 仕方なく白糸の方を向く。


「ありがとう。裕翔君の優しいが助かった」


 白糸は俺に笑顔を向けてくる。


 次に鈴香に顔を向けると、「蒼山さんもありがとう」と話す。


「いえ……、それで何を話すんですか?」

 

 気不味そうな声で鈴香が尋ねると白糸はまた俺と鈴香を交互に見てから言う。


「私の秘密。と言っても別に大した話じゃないよ。でも、知って欲しいことではあるよ。それに、この話はお母さんにもしてない話。だから、できれば言わないでくれると助かるな」


 鈴香は何の事だかって顔だが、俺はすぐにピンとくる。


 俺が白糸に公園で見つけられた日の話だ。


 それをどうして言う気になったのかなんて分からない。だが、聞かざるおえない状況なのは違いない。


「私の両親が離婚したのは、裕翔君のお父さんと私のお母さんが再婚したので分かってくれてるよね。話って言うのはその離婚……が原因で抱えることになった私の秘密」


 そう言い、白糸は話し始める。


「今でも覚えてる。小学1年生の時のまだ冬真っ只中だった2月のある土曜日、お母さんが夜勤でその時のお父さんと2人で過ごすこと予定だったの。でも、お父さんはお母さんが家を出てしばらくしてから私を置いて出て行った。『30分したら戻るから、お利口にして待ってなさい』。ふっ、今考えただけでも腹が立つよ。確かに留守番はしてたけど、それは昼間の話だったし当時はめっちゃくちゃ怖がりだった。だけど、お父さんが言うならって30分待ってた」


 時々鼻で笑いながら話を続ける。


「だけど、お父さんは帰って来なかった。30分ばかじゃ無い。何時間も帰って来なくて、結局帰って来たのは朝。しかもお母さんが帰ってきた後だった。あー、あの時のお母さん本当に驚いた顔をしてたなぁ。だって、お父さんはいないし、私がリビングで毛布にくるまって寝てたんだもん。それで帰って来たお父さんをガン詰して不倫してたのが分かったの」


 初めて聞く白糸親子の過去。俺が知ろうとも聞こうとも思っていなかった話だ。でも、この話のどこに白糸の秘密があるのだろうか。


 その疑問に答えるように白糸は続ける。


「本当のところはね、今の話はどうでも良くて……あっ、どうでも良いっていうのは本筋に関係無いってだけで……。何が言いたいかって言うとね、理不尽に怒ってごめんなさい……ってことなの」


 確かに白糸は俺に怒った。


 その裏に何か隠していることがあるのも分かっていたけど、俺はそれを知ろうとはしなかった。そもそも、知りたくなかったわけだから良いんだけど、今度はそうはいかないらしい。


「家にいると思った裕翔君がいなかったから。それに全然帰って来なかったから。まったく酷い話だよね。義理の姉のくせに彼女持ちの高校生相手に帰る時間の約束をしたわけでもないのに勝手に怒ってさ。秘密……なんて言ったけど、要するにトラウマなの。特に夜、1人でいるのが怖いの。また朝まで1人にされるんじゃ無いかって怖かったの。そんなはずもないのに」


 これが冬美さんにも話していない白糸の秘密らしい。  


 ……ほら、俺と同じだ。親にも言えず1人で抱え込んで今日まで来てしまった。


「私と裕翔君は同じだね。たった1人の家族にも言えないまま大きくなっちゃった」


 白糸は俺が考えた事と同じ言葉を言ってくる。


「でもね、なんとなくだけどお母さん達は気付いているよ。言ってくれるのを待っているだけで。裕翔君にも経験があるでしょ?」


 ああ、ある。白糸が引っ越して来た次の日に行った温泉での父さんとのあの会話だ。


 白糸にも同じような事があったし、俺と同じようにはぐらかしたって事も今ので分かる。


「だからさ、もう白状しようよ。お父さんを騙すのは辛いでしょ?」


 ああ、辛い。でも、もう今更の話だし、大切な人を巻き込んでまでした事だ。もう後には引けないし、引かない。今更、白糸の言葉で揺らぐような覚悟じゃない。


 だけど、白糸は更に追い打ちをかけてくる。


「それにこれ以上は蒼山さんを見てられない。ずっと辛そうな顔をしてるもん。幸いさ、たっつんにバレてないんだからまだ蒼山さんとの関係だって戻せるよ。だって、2人は幼馴染なんでしょ?」


 その言葉の意味するところをすぐに俺も鈴香も察知する。


 そして、白糸ははっきり言ってくる。


「ごめんね。2人が本当は付き合ってないの、最初から知っていたんだよね」

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