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第33話.「家族」

「……なんの事ですか?」


 しばらくの沈黙の後、俺がようやく捻り出した言葉だった。


 この状況じゃ何を言っても詰む。


 何を言っても詰むのならと、詰む中でもベストな選択をと寝起きの頭をフル回転させた。その結果だ。


「ふーん。なるほどね」


 ジトーっとした目で俺を見てくる。相手が白糸ということもあって平日よるも攻撃力の高い目で見てくる。そこは流石はギャルだと思う。


「あくまでも話すつもりはないと」

「白糸さんが何を言っているか分かりかねます」


 リセットした甲斐もあってか白糸相手に少しだけ強気で出れる。


「そんなの意味がないと思うけどな」

「だから、何の事を言っているのかさっぱり分からないです」

「だから、意味がないって」


 俺は当然だが、白糸も一歩も引く気はないみたいだ。


 立ち上がった白糸は俺を見下ろしてくる。


「私、裕翔君が女の子を泣かせる人には思えないんだよね」

「それは残念でしたね」

「その割には『後悔した』って顔に書いてあるよ」


 ハッタリだ。鈴香の事を言っているのだろうけど、俺の中ではもう昇華したことだ。今の俺にそんなものは残っていない。


 姿勢を直し、ベッドに座り直した俺は白糸を見上げる。


「それにちゃんと見ちゃったもん、裕翔君が自分の首を絞めるところ。普通じゃないよ、あんなこと」


 まぁ、そう言うだろうな。じゃなきゃ、ここにいないだろう。


 まったくしょうがない。白糸の言っていることは正しいのだから。


 しょうがないからこそ、これ以上白糸を部屋に居させてたくけない。

 

「白糸さんには関係ないでしょ。……今は1人にしてください。誰とも話したくないんです」

「関係あるよ」

「どんな関係があるんですか」

「家族だもん。関係あるよ」

「俺は雪奈さんを---」


 俺は自分が何を言おうとしたのか気付いて直前で話すのを辞める。何故ならその言葉は言ってはいけない言葉だったから。言えば、確実に溝を作る。


(耐えた……耐えた……)


 俺は白糸と溝を作ってギスギスしたいわけではない。ただ、白糸に部屋から出て行って欲しいだけだ。


「とにかく、今は1人になりたいんです。お願いします」

「嫌っ。ここで引いたら後悔する気がする」

「お願いしますお願いしますお願いします」


 俺は頭を深く下げてただ懇願することしかできない。そして、それが数分続いた頃、白糸はこう言ってくる。


「分かった。今は素直に聞き入れてあげる。でも、絶対にさっきみたいな事はしないで」

「……はい」

「でも、諦めたわけじゃないから。絶対にどういう理由があって首を絞めていたか聞かせてもらうから」

「…………」


 白糸の目は本気度を見せつけてくる。ただ、俺にも意地があるし、この事は誰にも言う気がない。だから、俺は口を噤む。


 白糸は俺のする事を織り込み済みなようで条件をつけてくる。


「来週の小テスト、私が裕翔君よりも点が高かったら何があったのか、どういう事なのか教えて。その代わりに私より高かったら私の秘密も教えてあげるから」


 白糸との時間を早く終わらせたかった俺はその条件を受け入れるしかなかった。


「……分かりました……」


 俺がはっきり口にしたことを確認すると、白糸は部屋から出て行ってくれる。そして、ドアが閉まったその時、身体の力が抜けてベッドの上へと倒れ込む。


 約束は約束だ。返事をした以上、守らなきゃいけない。首に伸びそうに手を抑えながら天井をただじっと見つめる。


(クッソ……どうしてこうなった……)


 安易に結んだ約束のせいで白糸よりも高い点を取らなきゃいけない。でも、そうなったら新1年の交流会とやらに出なきゃいけなくなる。よりにもよって白糸と---。  


 そうなるくらいならまだ鈴香との方が良かった。


 なんて都合が良過ぎる。


(クッソ……クッソ……クッソ……)


 逃げ道を塞がれた俺は考えるのをやめて、ただ手を抑え込むことだけに集中することにした。

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