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第31話.「バレてしまった秘密」

「あれ、もう帰るの」


 鈴香の部屋を出て階段を降りてる途中で春香さんとばったり出会う。


 正直、今、この人に会いたくなかった。


「食事の準備があるので」

「ああ、そっか。裕翔君は偉いね。爪の垢を煎じて飲ませたいくらい」

「恐縮です。でも、鈴香もやる時はやる奴ですよ。今も凄い集中したましたし」

「そうなの? ……ふふ、裕翔君が来てくれたおかげね」


 階段ですれ違いつつ言葉を交わしていく。


「……今日はお邪魔しました。」

「うん、また来てね。って言っても明日また会うのよね」


 そういえば、春香さんと菓子作りの約束をしていた。春香さんに言われるまでそんなことを気にしてなかった。今はとにかくこの家から離れたい。


 最後に春香さんに軽く会釈をして玄関を目指して足を速める。


(……あぁもう、、最悪だ……)


 外に出るとそのまま家に向かう。


 頭の中を巡るのはどうしてこんなことになったかだ。原因なんて俺以外に考えようがないのにだ。なんであのタイミングでやってしまった。鈴香に見られたらどうなるかぐらい想像できていた。なのに、それでもやってしまった。


 さっきのは鈴香の部屋に入ってすぐの時とは理由が違う。あれは白糸が来るかもしれないという恐怖があったからだ。


(くそっ……くそクソクソクソッ)


 これはツケだ。カモフラージュの為にと一緒に帰った時に鈴香が言いかけた事、そしてそこから見える鈴香の俺への気持ちに目を背けてきたツケなんだ。


 これでもう俺は鈴香とは顔を合わせられない。俺は鈴香を”幼馴染”として認識できなくなった。それはつまり家族のようにも思っていた気持ちもなくなったということ。もうこれで特別扱いはなくなった。他の女子と同じような存在になった。


(……嫌だ)


 いや、この期に及んで何を言ってるんだ。鈴香からの善意を散々利用したろ。なら、良かったじゃないか。これで鈴香を偽装彼女とか、幼馴染なんてものから解放してあげられる。勝手に巻き込んで申し訳なかったことをしたけど、俺なんて存在に縛られることはなくなったんだ。


 家の前まで来た俺は家の鍵を取り出すと入るために鍵を開ける---はずだった。


(手が震えて入らない……)


 鍵穴に鍵を入れるのを手こずっていると後ろから声が聞こえる。


「裕翔!! 待って!!」


 鈴香の声で一刻も早く家に入りたくなったのに鍵穴に鍵が入ってくれない。


「裕翔、、さっきのを忘れろなんて無理だよ。あんなの見て忘れられるわけがない」


 鈴香はとうとう俺のすぐ後ろまで来る。


「…………」


 鈴香の言葉を俺は無視する。


「僕は君の事を大切に思っている。それはこの先も変わらない。もう知られちゃったことだから言うけど、幼馴染としてもだし、1人の男の子として、ずっと大切な人だ。裕翔にとって僕はどうでもいい人間だと思う。けど、僕の気持ちは覚えておいて。僕は君が好きだ。これまでも、これからもずっと好きだ。自分を犠牲にしてまでおじさんの幸せを願う君が好きだ。好きだから、僕は卑怯だから例え偽装でも裕翔の彼女になれて嬉しかった。約に立ったのは数回しかなかったけど、それでもその数回裕翔の役に立ったなら僕は嬉しい」


 この場で誰よりも卑怯なのは俺だ。鈴香にこんなことを言わせて、それを無視してる。あわよくば、このまま俺の事を嫌いになってくれると嬉しいんだけど、そう上手くいってくれないのだけはよく分かる。


 だって、相手は鈴香だ。何年も一緒にいた人だ。それどころか、どんな人かは1番身を持って知ってる。


「これまでもそうしてきたんでしょ? 自分を痛みつけて保ってきたんでしょ? だったら僕の事は無機物でも、空気だと思ってくれていいから。だから、裕翔の側にこれからもいさせてよ」


 そんなことを俺ができるはずがない。そして、俺はもう鈴香に何かを背負わすつもりはないし、今までの関係は今ここで終わらせる。


「裕翔……」


 すがるように名前を呼ぶ鈴香の顔をなんとか見ると、最後の言葉を伝える。


「ごめん鈴香。もう無理だ。これ以上は鈴香に迷惑をかけれない。それに見ろよ、俺の身体は鈴香の事を怖いって思っているんだ。だからさ、もう何もしなくていいよ。俺の事を気にかけて話しかけなくていいし、昼飯だって友達とだけ食べればいい。俺に鈴香の時間を裂けなくていい。だから、俺の事は忘れてくれ」


 鈴香の顔が曇るのを見ながら俺は一呼吸置いて伝える。


「さよなら、()()()()。今までありがとう」

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