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第30話.「勉強会③」

〈鈴香視点〉


 やってしまった。


 本当は「知らばっくれてる」なんて言うつもりなんてなかったのに言ってしまった。勢いに任せて言いかけた僕が悪いのに、その責任を裕翔に押し付けてた。


 それに何が『幼馴染でいられれば満足』だよ。


 本当はその先を望んでいるのに、なんで自分でその道を塞ぐことをしたんだよ。


 あーもう、本当に馬鹿だ。……本当に馬鹿だ。よりにもよって女の子を怖がる幼馴染を男の子として好きになるなんて本当に何をやっているんだ。裕翔は僕とそんなことを望んでいないだろ。しかも、今のやり取りで知られちゃったじゃないか。もしこれで裕翔が僕のことを異性と認識し始めたらもうお仕舞いだ。


(チラッ)


 机に顔を向けたまま目線だけ裕翔に向ける。休憩が終わって勉強を再開してからもう30分---質問すれば教えてくれるけど、それ以外はずっと姿勢が変わらず黙々と勉強を続けている。


(真剣な顔しちゃってさ。はーあ、好きだなぁ)


 昔から沢山の時間を共有した。だって、僕らは幼馴染だから。それでも、関わりが薄くなる時はある。幼馴染であって家族じゃないのだからそれは仕方がないことだと思う。


 でも、そのタイミングが悪かった。裕翔の両親が離婚した時に僕が近くにいてあげれば、未だに教えてくれないあの日の出来事は起きなかったかもしれない。そうすれば、今頃は気持ちを伝えて恋人になれていたかもしれない。もしそうなっていたら今頃は……なんて言うのはただの妄想だ。


(はぁあ)


 いい加減に教えてくれてもいいと思うんだけど、話してくれないってことは余程の事をされたんだろう。


 元凶になった奴らの顔と名前は覚えてる。知れたのは本当に偶然だった。


『あいつ、今日も休んだらしいよ』

『えーまじぃ? だっさぁ』

『泣きつくママもいないのに休んだってしょうがないのにね』

『『『あははー』』』


 あの時、なんのことか聞きに行く勇気が僕にあれば、と後悔してもし足りない。あの3人が素直に教えてくれるとは思えないから結果は変わらないかもだけど、もしかしたら変わっていたかもしれない。


 どうしたって今が全てだし、今更何を言ってもタラレバなのに考えてちゃうのは駄目なところだ。


「おいっ」

「ん? なに?」

「何じゃない。自分が呼んだのに手が止まってるぞ」


 さっき、あんなことを話した後なのに注意されちゃった。てっきり、僕のことなんか構わずこのまま時間が経って行くと思ってたから意外だ。……いや、僕が自分で『忘れて』って言ったんだった。それに裕翔は『分かった』って返したなら、言った通りに忘れて接してくれてるんだ。


「ごめん、ごめん。裕翔の力に頼らず応用問題を解いてみようと思ったら詰まっちゃって」

「それならいいけど。あんまりかかるなら聞いてくれ。考えるのはいいことだけど時間をかけ過ぎるのは良くないから」

「うん、そうする」


 そう言ってノートに目を向ける。


 実際は裕翔の事を考えていたからそんな問題はないんだけどね。でも、なんでうちの高校は偏差値低いくせに特定の教科になるとレベル高めの問題集を使うんだよ。しかも、今回の小テストの範囲になってるし……。僕は問題なく解けるから別にいいけど、教科担任を呪っておこう。


(チラッチラッ)


 こんなことをしていると「手が止っている」とまた注意されてしまう。だから、解けたふりをして進めて行く。


 しばらくすると今度は本当に応用問題にぶつかる。もう本当に、この問題のいやらしさと言ったら堪ったもんじゃない。


「(う〜ん、分からない)」


 あんまり時間をかけるのはよくないと言われたばかりだし、裕翔なら解けてるよね。


「ごめん裕翔、ちょっとここの問題が分からないんだけど」


 顔を上げながら裕翔を見ると、首元に手が伸びている。そして、苦しそうな表情をしている。


「えっ……?」


 その光景に思わず困惑の声を出してしまう。


「なっ何してるの!?」

「何って……ははっ、見られちゃったか」 


 裕翔はそう言って笑ってくる。でも、それが作り笑いだっていうのは分かる。それが分からないほど鈍くはない。だけど、なんたってそんなことをしている。


「…………見なかったことにしてくれ。さっに言ってくれたみたいに。俺が何も言わずに呑んだんだ、鈴香も何も言わずに呑み込んでくれるよな」


 裕翔は僕の顔すら見ずに言ってくる。


 『そんなの呑めるはずがない』って言いたい。言いたいのに口が動いてくれない。

 

「あ……あ……」


 代わりに涙が出てくる。


「……ごめん、今日は帰るわ。あとは頑張って。大丈夫、鈴香なら1人でもできるから」


 さっさと荷物をまとまると部屋から出て行ってしまう。


 僕は自分の見た光景を受け止めきれずにいる。だって、幼馴染が、好きな人が比喩的な表現ではなく物理的に表現で首を絞めていたのだから。


 『何がそうさせた』なんて考えられない。


 1人残された部屋で、たった今見た光景を何回も思い返すことしかできなかった。


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