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第3話.「顔合わせにて(後編)」

 父さんの面子を守る以上、ここで本人を責める訳にはいかない。なので代わりに目で強くメッセージを飛ばす。『後で色々と文句言ってやるから』と。


「ん? どうした?」


 残念ながらそのメッセージは届かないんだけど、まあ良いか。


 2人が席に着くとまずは、ということで軽い自己紹介から始めることになった。


辰哉たつやさんと交際させていただいている白糸冬美しらいとふゆみです。この度はいきなりの事で本当にごめんなさい。そして、認めてくださり本当にありがとうございます」


 冬美さんは父さんの話していた通り、落ち着いた女性って印象の人だ。それに加えて俺に対して丁寧過ぎるくらいの挨拶をしてくれた。


「私のことは良いよね。硯君とクラス一緒だし、たっつんとは何回か会ってるし。あっ、これから裕翔君って呼んでいい? ってか呼ぶね」


 白糸は冬美さんと正反対で勢いが凄い。朝の事を気にしていた俺からしてみたら嘘みたいな勢いだ。しかもそれだけじゃなくて、父さんのことを『たっつん』と呼んでいた。


 聞きたいことは色々ある。「会ったことがあるの?」とか、『たっつん』呼びとか、本当に色々と。だけど、それをしていられないほどに自分の精神状態が危険なところまで来ていることに気付く。


(3人には悪いけど、早くここを離れないと)


 そう考えていると白糸が尋ねてくる。


「裕翔君は誕生日いつなの?」

「……さ、3月です……」

「私は4月だよ。うーん、じゃあ、私がお姉ちゃんで、裕翔君が弟になるんだ。えへへ〜」


 白糸に悪気も何も無いのは当然分かっている。だけど、やっぱり駄目だ。違う人間だと分かっていてもどうしても《《アイツら》》を思い出してしまう。


 俺は父さんに少しでも異変を見させないように適当に理由を作って帰ることにした。


「すみません。自分、今日はここまでで……」


 怪しさしか無いけど、仕方ない。即興で思い付いたのがこれなんだから。


「もしかして、先に何か用事があったのか?」

「言えなかったんだけど実は……」

「なんだよぉ。それなら言ってくれれば良かったのに」


 有無を言わさず予定を捩じ込んだのは父さんの方なんだよな。まぁ、用事なんて無いし嘘だから良いんだけどさ。


「用事ってもしかして彼女?」


 無事に理由を言わずに抜けれそうだったのに、予想外な事に白糸が食い付いてきた。


「裕翔、そうなのか!?」


 それに父さんも引っ付いて来てしまう。とにかく早くここを離れたい俺は黙ったままコクリと頷く。


「そうなら早く言えよぉ」

「ごめん、恥ずかしくて。でも、父さんが話を聞かないから」


 まったく、他責もいいところだ。でも、こうする他にないのだから仕方ない。


 俺は立ち上がり2人に挨拶すると足早にその場を離れる。


(まさか白糸があんな事を聞いてくるとは思っても無かった。でも、そのおかげで自然に店を出れた。はぁ、新しく作った嘘を貫く為に設定を考えなきゃいけないなぁ)


 もういっその事、全部ゲロっちゃった方が楽だと言われればその通りだ。だけど顔合わせまでしてしまった以上、もう引き返せない。それに父さんだけでなく白糸親子にも嘘をついてしまった。余計、話す訳にはいかない。


 だからこそ、隠し切るんだ。父さんの幸せのために……。



 俺が家に帰ってきてから1時間ほど経った頃、父さんが帰って来る。


「おかえり」

「おう、ただいま」


 特に機嫌を損ねた感じも無く、ほっと安心する。


「食事は筒がなく終わった? って、父さんは向こうの娘さんと面識あったんだったね」

「あぁ、まあな。前に冬美さんと街中を歩いてたら偶々会ってな。その時に少し話したんだ」

「なるほどね」


 無い話では無いからそれを嘘だとは思わない。だけど、もしかしたらと警戒しているのは俺が嘘をついているからだろうな。


 父さんは脱いだジャケットをハンガーに掛けると冷蔵庫から缶ビールを取り出す。そして、ソファに座ると缶ビールを開けながら聞いてくる。


「裕翔は2人の事をどう思った?」


 どう思ったも何も俺は大した会話をしていないのだから2人に大して何も感情は無い。まぁ、そんな事は言えないので当たり障りの無い感想を伝える。


「良い人達だと思ったよ」

「一緒に生活できそうか?」

「実際にしてみないと分からないけど、大丈夫じゃないかな」


 俺が答え終わると父さんはビールを一口飲む。その姿を俺は少し離れた場所から眺めている。


「それは本当の気持ちか?」


 突然、そんな事を言って来るのだから驚く。だけど、ファミレスでの俺の行動を見れば『本当は不満があるけど、付き合ってやった』と捉えられても仕方ない。間違っては無いけど、白糸親子に不満があるわけじゃ無い。あるのは自分自身へ向けての不満だけだ


「本当だよ。それに言ったでしょ、彼女との約束があったって。途中で抜けたのはごめん。大事な日だっていうのは分かってるんだ。でも、彼女との約束も俺からしてみたら大事だったから」


 大事な約束なんて何も無いし、彼女だって存在しないのによくこんなことを言えるなと我ながら思う。それで今助かっているのだから何も言えないけど。


 父さんはもう一度ビールを飲むと俺の顔を見ながら言ってくる。

「分かった」と。


「話をちゃんと聞かなかった俺も悪かった。彼女さんは怒ってなかったか?」

「うん、大丈夫。むしろ、抜けて来たのを怒ってたくらいだから」

「そうか。なら良かった。……良かったのか?」

「良かったんだよ」


 そして、2人で笑い合う。もちろん俺は表面上は、、だけど。


「じゃあ俺、課題があるから行くね。あんまり飲み過ぎちゃ駄目だよ」

「分かってるよ。じゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみ」


 こうして無事に父さんとの会話を終えた俺は2階にある自分の部屋に戻る。階段を上がると同時に胸がチクチクと痛い。それはきっと罪悪感を感じているせいだ。


(ほんと今更だよなぁ。俺が選んだのはこういう道だって分かっていただろ)


 部屋に戻った俺はベッドの上に身を投げて天井を見つめる。『もし仮に……』なんて考えるのは駄目だと分かっているが、それでもと考えてしまう。


(俺がもし本当の事を話していたら父さんはどうしていただろう。必死に俺を説得するか、籍を入れずに今のまま交際していくか。もしかしたら俺に黙って籍を入れてたかも……。いや、それは無いな)


 なんであれ今の状況が1番だってのはちゃんと理解している。だからもう余計な事は考えないようにしよう。考えるだけ精神を無駄に削ることになるから。


「はぁ〜ぁ」


 都合のいいことに眠気が俺の元に来てくれた。寝る準備は全部終わっているのだから今日はもう寝てしまおう。


 そして、俺はすぐに夢の世界へと落ちた。

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