第25話.「義理の姉⑤」
家に帰った俺はすぐに部屋へと逃げ込む。理由は、今の俺の顔を父さんに見せたくないのもあるが、1番は白糸と一緒にいたくないからだ。
家に入る前に多少は発散できたけれど、もうそんなに心に余裕はない。それに、一緒にいてさっきの話の続きをされたらたまったもんじゃない。
(……でも、白糸もそれは避けるはず。だとしても、もう同じ空間にはいたくないのは変わらないんだけど)
どれだけの時間が経っても収まらない胸のざわめきと震えをでかい図体ごと布団の中に隠す。
いつもは大丈夫なのに手首を触ると不意に思い出すあの時に痛み。仕方ないとは言え、自分で触ってしまい、あろう事かあの時の痛みを思い出してしまう。
そのせいで今日はいつも以上に身体が震える。できるなら痛みと苦しさに逃げたい。それを僅かに残っている理性が止めてくる。
今日の力の入り方はいつもより強い。今日ばかりはどうなるか分からず、最悪の場合は目を覚せない可能性もある。それを分かっているからこそ最後のブレーキをかけてくれている。
俺はどうにか発散する為に口の前に何重にも重ねた布団を押し当てる。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」
白糸が小学校の時のあいつらとは違う人間だってことはちゃんと分かっている。それでも、やっぱり怖いものは怖い。白糸が俺のことをどう思っていようがそれは変わらないし、変えられない。だから最後にあんな事を言った。
本当ならもっと強い言葉で拒否を示したかったけど、父さんの新しい生活を壊すかもと考えてたら言えなかった。もし言えていたら…………。
そんなことを考えながら発散を続けて数分が経った頃、部屋のドアがノックされる。父さんかもしれないと思い、すぐに整えるとドアに近付いて「どちら様ですか」と尋ねる。すると「ごめんね、私」と返ってくる。そして、白糸は「言いたい事を言うの忘れてから言いに来たの。このままで良いから聞いて」と話してくる。
「何ですか」
「全然大したことじゃないし、さっきの話の続きをしようと思って来たんじゃないの。ただ、せっかく家族になったんだから『白糸さん』じゃなくて『雪奈』って呼んで欲しいなって思ったのと、義理の姉弟とは言っても同級生なんだし敬語じゃなくて良いよって。それだけ言いたくて」
最後の方はドア越しって言うのもあってかよく聞こえなかったけど、言いたいことは何か伝わった。俺がそれに応えられるかは別問題だけど……。
このままドア越しに話し終えてもいいけど、さっきの事があるし、発散したおかげで少しだけなら顔を合わせれると思った俺は本当に少しだけドアを開ける。
「あっ!」
開けた先の白糸と目線がぶつかる。
「いきなりごめんね。あんなことがあった後なのにこんな話をして」
白糸は両手を合わせて謝ってくる。
(……俺もだ)
俺はさっき、明確に白糸の事を無視をした。だから、俺も謝らないといけないのに、分かっていても口は動いてくれない。
「あっ、……おっ、……俺も」
それでも今はどうにかしてでも話さなきゃいけない時だ。
俺は白糸から見てドアの陰に隠れているのをいいことに足を抓って痛みを与える。
「俺も、すみません。さっきとか、前も学校で無視してすみません」
おかげで最後まで言い切れた。
白糸は「気にしてないよ」と手を振りながら言ってくれる。
「……敬語が抜けないのはすみません。いきなり変えるのは難しいです」
「ううん、大丈夫だよ。急がないし、裕翔君の好きな時に変えてくれたらいいよ」
白糸ならそう言ってくれると思った。
俺は最後の頑張りにと足を抓る力を強くする。そうでもしないとどうにかなってしまいそうだから……。
部屋のドアをもっと開けて白糸の顔をちゃんと見る。
本当ならもっと前に言っておきたかった言葉をこの機を利用して伝える。幸い、一言話すくらいは我慢できそうだ。
一度、深めに息を吸うと覚悟を決めて口を開く。
「雪奈さん、遅くなりましたが改めて……家族として、義理の姉弟としてよろしくお願いします」




