第24話.「義理の姉④」
「あっ、異性としてじゃないよ。あくまでも"人"としてだから」
唐突に告げられた言葉のせいで全身からの油汗が止まらない。それは、白糸が訂正してからもだ。
鈴香の時は声が小さいのを利用して聞いていないふりができた。だけど、今は駄目だ。はっきりと声に出して言われた。
"好意"じゃなくて、あくまで"好意的"ってだけ。それでも俺には十分強過ぎる刺激だ。
呼吸は乱れるし、身体は震えている。でも、手だけはなんとか抑えて首に向かわないようにする。あれだけは見られるわけにはいかないから。
白糸は俺の様子を見て分かっているだろうが気にする様子もなく話してくる。
「お父さんの負担にならないように色々と家事を勉強したのも、中学3年の進路希望表に企業の名前を書いたのも、授業料が安い代わりに偏差値が市内で最低の今の学校選んだのも、私はかっこいいと思う。私にはできなかった事だし、思いすらしなかった」
俺が隠してきた秘密を白糸は言い当ててくる。
「…………その話を何処で……」
思わず、声が漏れる。
「所々に私の予想はあるけど、お母さんとたっつんに聞いた話でなんとなくそうなのかなって思っただけ。でも、間違ってなかったんだね」
口の中が一気に苦くなる。これは……かなり不味い状況だ。
本当に勘で言ってきたのか、それとも別の何かがあってそう思わせたのかは分からないが、白糸の予想はこの瞬間に確定された事実になった。
「と、、父さんにその話は……」
「してないよ。それに、私にはできない。同じ境遇の人間としてそんな事はできない」
その話が本当か嘘か分からない。ただ、今は白糸の言うことを信じるしかない。
とりあえず、今の状態のままではいられないと思い、なんとか呼吸だけでもと落ち着かせる。
「凄いね、裕翔君は。私は自分の事で精一杯でそんな事は考えられなかった。だから、尊敬するし、考え方を私は好きだと思ったの」
白糸はゆっくり歩いて俺に近付いてくる。
「私が昨日言ったこと、、あれの本当の意味は家族として仲良くなりたいだけじゃないんだよ。あの時は言えなかったけど本当は、裕翔君のやってる事、背負ってるものを私にも分けて欲しい。こんな見た目だし、頭はよくないし要領も悪いけど、家族なんだから私にも分けて。……ううん、私だけじゃない。お母さんやたっつんにも分けてあげて」
俺の足は近付いてくる白糸に合わせて後退していた。そして、それは後ろにあると気付かなかった電柱によって止められる。
白糸がどうしてこんな事を言ってきたのか、それを考える余裕は俺にはない。
とにかく今はどうにかしてこの状況を切り抜けないと。それしか頭の中にはない。なぜなら、限界の限界を当に超えている。いつ何が起こっても仕方のないレベルまで来ているから。
「……お願い。そして叶うなら、裕翔君がたっつんにすら隠していることを聞かせて。聞くしかできないけど、それでもお願い。私は裕翔君を知りたい」
白糸は俺から2歩分しかないところまで来てしまった。それが更に俺を追い詰める。
どれだけ白糸が真っ直ぐな気持ちでぶつかってこようと俺の気持ちは変わらない。誰であろうと話すことはないし、今の生活を変えるつもりもない。
けど、こんな話をしても白糸は父さんの様に引き下がらないだろう。
(あの時は俺が逃げただけで、その後は何も聞いてこなかっただけだけど……)
それに、この状況ではさっきみたいな沈黙も許されないだろう。なら、残されたのは追い詰められた鼠の様に噛みつくことだけだ。
俺はなんとか呼吸を整えて公園での事を思い出す。
「……なら、白糸さんが抱えているものも話せますか? 公園での貴女は明らかに異常だった。あれを、自分の口から説明できますか? 俺や父さん、そして冬美さんに」
完全に予想だが、白糸は俺と同じように何かを経験して、それを今も引きずっている人間だと思う。じゃないと、あの反応はおかしい。そして、白糸はその事を他人には話せない。
『さっき言ったことは気にしないで』
これは、他人には話せないだからこその言葉だ。俺がそうなんだから、この予想は外れていないと思う。
その証拠は白糸は1歩後ろに下がる。
「……本当にすごいね。あれだけで気付いたんだね」
「この世で1番嫌いな人間と同じような姿をしていたので」
それはもちろん自分の事だ。そんなことは今はどうでも良いんだけど……。
白糸が離れた事を利用し、身体の横を抜けて離れる。
「質問の返事を貰えなかったってことは、そういうことですよね。白糸さんの言う通り、家族として仲良くがどの範囲かは知りませんが2人に迷惑の掛からない範囲でなら付き合います。だから、もう余計な口を挟まないで下さい。俺は、俺がやりたくてやっているんです。父さんがとか関係ありません」
「……じゃあ、もし、私の抱えてるものを話せたら裕翔君も話してくれる?」
振り返ってきただろう白糸がそう尋ねてくる。だが、俺は白糸の質問に答えなかった。
その時が来ないと願っているからと言うのと、白糸は俺と同じでそんな選択を取れないと思っているから。そして、何よりも『これ以上は本当に白糸と話すな』と身体がとうとう訴えてきたからだ。
(ぐぁぁっっ……)
白糸に背中を見せて歩く俺の首はこれまでとは比べられないほどの締まりを感じた。




