第21話.「義理の姉①」
昼休みの終わるギリギリに教室に戻った俺、分かっていたが視線を浴びる。特に普段から白糸の周りにいる連中から……。
言ってしまえば耐えられない。けど、授業をさぼるわけにもいかずこうして戻ってきた。
俺が席に座ると同時に午後1番の授業の教師が教室に入ってくる。
「……? 何かあったか?」
教室の雰囲気がいつもと違うと思ったのかそう聞いてくる。それもそうだ。いつもは教師が来ようが騒がしいのだから静まり返っていると不思議だろう。
でも、それだけのこと。
クラス委員に号令を促すと授業が始まる。
これでちょっとは気が楽になる---。
なんてことはなかった。授業中なのに視線を感じる。主に後方から。そして、時々前方からも。
(まじか……。嫌だな怖いな……。気分が悪くなったって言ってさぼろうかな)
父さんが授業料を払ってくれている以上、そんな手段は取りたくない。だから耐えるしかない。
……耐えられるかな。今でこそ結構やばいのに、これがあと2時間以上も残っている。……本当にやばいかもしれない。
(言っても俺への興味なんて一時的なのものだろうし、授業中は流石に何もして来ないだろ。それより心配なのは家に帰っても関わらなきゃいけない白糸の方だ)
口に溜まった唾液を飲み込む。
ないとは思うけど、もしもの時は覚悟を決めるしかない。
〇〇〇
俺は今、自室の角に丸くなって座っている。
結果を言えば学校では何もなかった。視線を感じるだけで何もなかった。本当に不思議なくらい---。
だけど、俺からしてみたらそれだけでも十分過ぎる刺激になる。おかげで午後はずっと苦しかったし、嫌な汗がずっと出てた。
それでも最後まで授業を受けきれたのは意地だ。
じゃあ何でこんなことをしているかと言うと、言うまでもなく今後の為だ。
白糸がいつ帰ってくるか分からない以上、俺はそっこうで帰って夕食の準備まで終わらせた。そこまでは良かった。問題はここからだ。
(こんなことがあったのに顔を合わせるなんて無理だ。白糸がどういう理由で話しかけてきたんだ。昨日、知られたくないって話をしたばかりなのに。……どうしよう、家にいたくない。気まずい雰囲気を味わうのも、それを父さんに知られるのも嫌だ)
そう思った後の行動は早いもので、家の外に飛び出していた。
行くあてなんてないのでとりあえず学校とは真反対に足を進める。とにかく家から離れるために、とにかく遠くへ。
そう思って足が止まったのは数日前に長時間時間を潰した公園だった。まだ帰る時間でもないのに遊んでいる子供がいない。それなら……と、公園の中に入りベンチに座る。
(……あー、何をやってるんだろう……)
ここまで来て冷静さを取り戻す。すると急にそんな考えが浮かぶ。ここが日陰になっていると季節に合わない肌寒い風に晒されてるせいもあるだろうけど……。でも、本当に何をやっているんだろう。
白糸が話しかけようと近付いてきた理由はあの時持っていた紙で察せる。玉子焼きの話を聞かれてるとは思わなかったけど、俺が好きでやっていることなんだから白糸がいちいち気にすることじゃない。
たったそれだけ。
それだけ言えばいいだけなのに仲良くなりたいって言ってくれた白糸から逃げて本当に何をやっているんだろう。
それに、学校でのあの視線。絶対にかなりのヘイトを買った。ただでさえ女子が無理だっていうのにグループで来られた日にはもうお終いだ。
夕日と呼ぶにはまだオレンジさの足りない光が木の陰から溢れてくる。
(とにかく1回スッキリしないと。帰るのは……後で考えよう)
外でいつものアレをするわけにもいかず目を閉じて頭と心を空っぽにする。雑念が邪魔をしてくるのがそれでもなんとかして空っぽにする。すると次第に意識が遠のいて行くのが分かる。
これは眠気だ。
そうだと自覚してもそれ以上何ができるわけでもないくそのままの姿勢を続ける。そして、少しして俺は意識を奪われた。
○○○
次に目を開けた時には周りは暗くなっていた。
とりあえず時間を知ろうとスマホを見ると19時40分を表示している。2時間以上も寝ていたらしい。ついでにと目線を少し下に向けるとメッセージアプリの通知が1件来ている。相手は父さんだ。
『彼女のところか?』
内容はそれだけ。メッセージは今から1時間と少し前に来たようだ。
「ごめん、今気付いた。そうだよ」
心配はしてないだろうし、ちょうど良い嘘があったおかげで返信自体はすぐにできた。ただ何回やっても罪悪感が湧くのだけは慣れない。
スマホの電源を落として今すぐ帰ろうか悩む。
帰るべきか否かで言えば帰るべきだけど、帰りたいかどうかで言えば帰りたくない。そんな面倒くさい考えが頭に浮かぶ。
(できれるなら白糸が寝るまでここにいたいな)
座りっぱなしの姿勢からベンチに身体を横にする。流石に寝過ぎていたので眠気は来ないが代わりに星空が目に入る。
周りに明るい建物がないおかげで1個1個が綺麗に光っている。星空をじっくり見る機会なんてここ数年無かった。だからだろうか、少し感動する。
だけどそれもほんの僅か時間だった。
スマホが通知音を鳴らす。確認すると父さんからだ。
『雪奈ちゃんが何か心配してたぞ? 何かあったか?』
どうやら要らぬ心配をしていてくれたらしい。幸いアプリのメッセージ画面で確認したわけではないので向こうには既読はついていないはず。
俺は再び電源を落として空に視線を向ける。
雑音なんてない。時々車が通るけど、それだけ。
だから、異常があればすぐに気付く。
だから、気付いた。
「……ハァハァハァ」
誰かが息を切らしている音に気付いた。その人物は公園の入り口にいるようだ。
そして、中に入ってくる。
スマホのライトをかざしているのか暗闇に1点の眩しい光が浮かぶ。その光は確実に俺に近付いてきている。
そして、とうとう俺を照らす。
「本当にいた」
眩しさで目を細める先には白糸が立っていた。




