第20話.「事件の発端は玉子焼き」
いつものことだが、授業を集中しているとすぐに時間は経つし腹が減る。今日は3限目の授業が体育だったおかげで弁当の時間が待ち遠しかった。
「今日は一緒にいい?」
俺以外にも一緒に過ごす人なんているだろうに気にしてくれてか週に何回か昼休みに来てくれる。
「なんか最近の裕翔のお弁当気合入ってる?」
どうしてそう思ったのか不思議だ。何にも変わらない普通の弁当だ。強いて言うなら気合よりは緊張感の方が正しいかも。
「普通だよ。ふ・つ・う。そういう鈴香の弁当だって気合入ってるだろ」
「そう?」
言うが目に見えて気合が入っている。具体的に言うと、豪華だ。弁当にエビフライが入っているなんて漫画でしかみたことないし、米は赤飯だし。
よっぽどいい事があったんだと見て取れる。
「なんか推してるアイドルのライブが当たったとか言ってたよ。なんでもどっかのドームでやるやつで、6周年記念のライブらしいからそれでもかも」
見事に予想は的中し、「あぁ、それで」と納得する。
赤飯にごま塩をかけているところを見てると鈴香が尋ねてくる。
「食べたいの?」
いけない、いけない。少し見過ぎた。
俺は手を振りながら大丈夫なことを伝える。
「遠慮しなくていいよ」
「残念ながらしてないんだよな」
「じゃあ僕は遠慮なく」
そう言うと鈴香は俺の弁当箱から玉子焼きを一切れ盗っていく。
いつものことだからいいけど、なんでわざわざ玉子焼きを選ぶのか。他にも美味しそうなおかずなら色々あるのに、、、。
(前に聞いた時は『味が僕に合うんだよね』って言ってっけな)
盗られた玉子焼きが鈴香の口の中に消えていくのを見てから俺も食べようと弁当を見て気付く。
鈴香が盗っていった玉子焼き、冬美さんと白糸用に作った少し甘めのやつだ。いつもは父さん好みの出汁の効いた玉子焼きだから違和感があるのだろう。
咀嚼して飲み込んだ鈴香が尋ねてくる。
「裕翔、玉子焼きの味付け変えたの?」
今日に限って冬美さんの要望で味付けの異なる玉子焼きを半々に入れた。その影響で俺のと交換したので当然半分は甘いのになる。
俺はそのことを2人の名前を出さないように気を付けながら説明する。
「新しい同居人の慣れた味付けが甘めらしいから2種類作ってる。こっちはいつもの方だぞ」
少し端折ったがこれで伝わるだろう。
いつもの味付けの方を鈴香の弁当に入れる。鈴香はそれをすぐに食べると「本当だ」と言ってくる。
「わざわざ2個も作ってるの?」
「まぁな。どうせ使う卵の量は一緒だし、慣れた味の方が良いだろ。親御さんのと全く一緒の味付けにはできないから、そこは勘弁して欲しいところだけど」
「へぇーそれはそれはだね」
鈴香は言いながら俺の弁当に海老フライを半切れ入れてくる。
「気にしなくていいよ。玉子焼きを2個も貰っちゃったし」
おかずが2品減った上にいつもより腹が減っていた俺はありがたく貰うことにする。図らずもわらしべ長者になってしまった。
一緒に貰った味噌に付けてさっそくいただく。
(……鈴香の奴、昔から食べない尻尾の方を渡してきたな。あっ、うまぁ)
そして、次は自分で入れたおかずへと箸を進める。
「それにしても2種類ねぇ。自分用に作って貰っているとも知らずに食べてるわけでしょ」
鈴香はいきなりそんなことを言ってくる。
「そうだな」
「その人、知ったらどう思うかな」
「ん? 別にどうも思わないだろ」
「果たしてどうかな?」
鈴香に言い方を奇妙に思っていると背中に嫌な視線を感じる。そして、直感で分かる。
『後ろにいる。確実にいる』
だけど、俺はまだ話かけてないことを利用し、弁当を食べ進める。
できることならこのまま話しかけて来ず、席に戻ってくれと切実に願う。だが、その願いは届かず声を掛けられる。
「裕翔君、今の話ほんと?」
話かけられた以上は無視はできず、浮かぶ冷や汗や痛みだした心臓に耐えながら仕方なく振り返る。
分かっていたが案の定、白糸が立っていた。しかも、今朝、俺が入れたメモ用紙を持って---。
「今の話はほんとなの?」
白糸は明らかに申し訳なさそうな表情を浮かべている。この人、昨日に話を覚えていないのだろうか。それに俺が勝手にやっていることなんだからいちいち気にしなていいのに。
だけど、白糸はそうじゃないらしい。
俺は振り返ってしまった以上は何か言わないと思い、言葉を探す。
「し、、白糸さんが何を言ってるか分かりかねます」
「誤魔化さないで」
「本当に分からないです。では」
広げた弁当はすぐに片付けると俺は教室を離れることを選ぶ。
白糸との会話を無理矢理終わらせる為であるが、もう1つ−白糸が一緒にいたであろうグループからの視線に気付いたからだ。
白糸と少し話しただけで限界ではあったが、その視線が一気に超えさせる。
廊下に出るとどこに行こうか悩むまでもなく、俺の足は男子トイレの個室へと向かう。
「うっっっ…………」
飯を食べ途中だったこともあり、首を掴む腕は意地でも抑えて最小限の声を出すことで発散する。
それが終わり落ち着きを取り戻した俺はもはやそんな気分じゃなかったが、午後からのことを考えて弁当の残りを食べる。
この日、図らずも俺は入学してから初めての便所飯を経験した。




