第17話.「幼馴染:蒼山鈴香」
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俺にとって蒼山鈴香という存在は家族の次に多くの時間を共有した人物だ。幼馴染という
物心がついた時から一緒に遊んでたし、一時期は日が暮れた後も一緒にいた。それでも関係が希薄になる時期はあるし、だからこその問題もあった。
小学3年のトラウマを植え付けられた次の日、父さんに嘘をついて学校を休んだ。あいつらと顔を合わせるのが嫌だったのもあるが、同じくらい"女子"という存在に恐怖を抱いたからだ。
父さんは仕事を休んで看病してくれようとした。だけど、「いきなり休むのは職場に迷惑かかるから行ってきて。寝てれば治るし、大丈夫だから」と理由をつけて背中を押して家から追い出した。
学校が終わってからすぐに鈴香は家を訪ねてきた。たぶん父さんが春香さんに何かあった時の為にと鍵を預けていったんだろう。
『風邪ひいたの? 大丈夫?』
ちょうど関係が希薄になっていた時期だったし、髪の毛が肩下まで伸びたまさに"女子"な見た目が相待って鈴香に酷い言葉を浴びせて顔すら合わせなかった。
普通ならそれで終わるところなのに、その次の日も休んだ俺を鈴香は訪ねて来てくれた。
『何があったかまでは知れなかったないけど、何かあったのは分かった。そうでしょ?』
『私には話せない?』
父さんにすら話せないのに鈴香に話せるはずがない。そう思っていたのに気付いたら話していた。された事は話せなかったけど、鈴香を含めて異性が怖いと関わりたくないという話をした。
問題が起きたのはその日の内だった。
帰ったはずの鈴香が1時間も経たないうちにまた尋ねてきた。
『面白いものを見せてあげる!』
その声に促され部屋のドアをほんの少しだけ開けて覗き見る。すると、そこにいたのは男子並みに短髪になった鈴香だった。
『そろそろ短くしたかったと思ってたんだ。似合ってる?』
その後の記憶は曖昧だ。ただ、声を上げて泣き続ける俺の背に鈴香の手があったのだけは覚えている。そして今もその手は時々、俺の背中を支えてくれている。まぁ、鈴香からしたらいい迷惑だとは思うけど。
……もう一度言おう。
俺にとって蒼山鈴香という存在は家族の次に多くの時間を共有した人物だ。そして、家族以上に俺について知っている。"幼馴染"って名前の関係ではあるけど、俺にとっては鈴香もまた"家族"の1人だと言っていい。
だからこそ、俺は鈴香に---。
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最後のコマの授業が終わり、俺は下校している。それも今日は珍しく鈴香と一緒に。
『あんな話をした後だからさ、カモフラージュの為にいちおう一緒に帰った方がいいと思うんだ』
一緒に帰ることは度々あったし、言っていることも一理あると思った。だから2つ返事で帰ることにした。だけど、間違いだったかもしれない。
朝の件で抱いた罪悪感は1日を通してしっかり俺の心を蝕んでいた。
「僕の話、聞いてる?」
考え事をして話を聞いていなかった俺は並んで歩く鈴香に足をガシガシと蹴られる。
「あぁ、うん聞いてる」
「じゃあ何を話した?」
当然の事ながら話なんて耳に入ってきていない。だから適当な返事でなんとかやり過ごそうとする。
「あれだろ、あれ。来週の小テストの話だろ」
「……ふふっ、ハズレ。聞いてないなかったなら正直に言って欲しいかな」
「すみません。聞いてませんでした」
俺が正直に話すと鈴香はそこそこ強めに頭にチョップする。
「痛っ!? ちゃんと正直に話したのに……!?」
「話を聞いてなかった罰だよ。まったく、裕翔には困らされるよ」
「だからって強さの限度があるだろ」
「知らなーい」
鈴香は更に数発のチョップを叩き込んでくる。普通に痛いし、いい加減に煩わしくなってきたので俺は一度立ち止まると次のチョップが来る前に鈴香の腕を止める。
「おっ……! やるねぇ」
「『やるねぇ』じゃねぇ。痛いわ」
感嘆詞を溢す割に鈴香は腕に力を入れて動かそうとしてくる。
(どうしてそこまでしてチョップをしたいんだ?)
俺が疑問に思っていると鈴香は諦めたのか力を抜いてくる。そして、完全に抜き切ったのが分かり俺は腕を離す。
「もういいのか?」
「痛いって言ってたくせに。……えっ実はマゾ?」
「馬鹿っ。でも、鈴香が満足してないなら考えてやらないこともない」
「やっぱりマゾじゃん。……はぁーあ、話は聞いててくれないわ、マゾだわで、僕の幼馴染はやれやれだよ」
どうしよう。俺も1発入れたくなってきた。でも、話を聞いていなかったのが原因なので我慢だ。
いつまでも止まっているわけにいかず、俺は鈴香を置いて先に歩き出す。それを見ていた鈴香はすぐに追いついてくる。
周りをキョロキョロ見渡して人がいないことを確認した鈴香がまた話しかけてくる。
「朝から思ってたんだけどさ、僕を巻き込んだって悔やんでる?」
頭の中を読んだかの様に聞いてくる。
「さっきもだけど朝も、僕の声を無視するくらいにはご立派な罪悪感を感じてるんだ」
「罪悪感に立派もクソもないだろ」
「感じてたんだ」
「…………」
「裕翔の顔を見てれば分かる。何年一緒にいると思ってるんだか。……それで、何を考えてたの?」
『顔に出ていた』……それが本当か分からないが鈴香はピンポイントで言い当ててくる。
鈴香のことだ、ここで嘘をついて適当な事を言ってもすぐにバレるだろう。それにこの後の考えると鈴香に嘘をつくのは精神的に少しきつい。ここは嘘をつかずに正直に話すしかない。
「巻き込んだ事についても考えてた。それと昔の事も」
「昔の事?」
「鈴香が初めて髪を短くした時の事だよ」
「あーぁ、あったね。そんな事も」
「あの時から、いや、もしかしたらずっと前からかもしれないけど鈴香に迷惑をかけ続けてるなって」
自分で話してて情け無くなる。
弱さを見せることに恥はないが、巻き込んだと罪悪感を持ち、今は気を使わせている。
あぁ、情けない。
だけど、鈴香はそんな俺の気持ちを察したのか鼻で笑ってくる。
「ふんっ。まったく、馬鹿馬鹿しいことこの上ないね」
そして、またチョップを1発---。
流石に怒ろうかと隣を向いた瞬間、鈴香が俺の口を手で塞いでくる。
「少なくとも僕は迷惑だとも、巻き込まれたとも思ってない。おじさんの幸せを願う気持ちは裕翔には負けるけど確かに持っている。今の状況が最善だとは思ってないけど、"こうするしか"なかったのも事実。なら、最後まで付き合うのが幼馴染として僕が出来ることだよ。……この言葉を聞いてもまだ"迷惑をかけた"と思うなら裕翔は僕の気持ちを蔑ろにするってことだ。僕が自分でするなとは言えないけど、果たして裕翔にそんなことが出来るかな?」
鈴香は脅迫じみた言葉を並べてくる。それだけ父さんのことを考えてくれているのだと伝わる。それと、蔑ろに出来るかどうかの話をするなら俺の答えはひとつ。
(出来るはずがない)
だからと言って、鈴香の言葉をそのまま飲み込むことも出来ない。
それを察したのか、鈴香がため息をしてからまた話してくる。
「はぁあ、別に罪悪感を持つことを悪いとは言わないよ。言わないけど、それが足枷になるならいっそのこと僕と---。……とにかく、今は僕よりも白糸さんとの事を考えて。わざわざ呼び出して宣言したってことはそのつもりしかないんだから。僕的にはそっちの方が裕翔に響きそうだ」
それだけ言うと鈴香は口から手を離して俺を置いて行く。
(要は白糸とのことを優先しろってことだろう)
鈴香の言う通り、確かに白糸のことも重大だ。確実に響いてくるし、俺を苦しめるだろう。本人曰く節度は守るらしいがこれまで以上に関わってくることに違いないのだから覚悟を固めなければならない。
(……今の俺に上手くやりきれるだろうか……)
それでも今後の生活の為にやりきるしかない。そして、自分の幸せよりも父さんの幸せを優先してくれた幼馴染の為に。
俺は覚悟の証拠に拳を固めて、鈴香のあとを追いかけた。




