第16話.「呼び出しの理由」
白糸に連れて来られたのは廊下の端っこにある自習室。授業前にこんな所に来る生徒はいないので話をするには最適だ。
「ごめんね、話してる途中だったのに連れ出しちゃって」
白糸は俺達を交互に見ながら話してくる。俺は自分の秘密を気取られないように注意しながら答える。
「大丈夫です。でも、どうしてここに? 話したい事ってなんですか?」
「その前に挨拶が先だから」
そう言うと白糸は鈴香の方を見て頭を下げる。
「裕翔君から聞いてると思うけど、親同士の再婚で義理の姉弟になりました。同じ屋根の下で暮らすことになってごめんなさい」
「僕に謝られても困ると言うか……どうして?」
「だって、蒼山さんって裕翔君の彼女さんでしょ? たとえ親同士の結婚があったからと言って同級生の異性と同居なんて気が気じゃないと思う。だから、蒼山さんに謝ろうと思って」
俺もだが、当然なことに鈴香も困惑した顔をしている。いきなりで何事かと身構えていたので拍子抜けだし、こんな内容なら少し安心できる。
……いや、安心しちゃ駄目だろ。
それゃあ、変に怪しまれるよりかは良いかもしれないけど、これはこれで不味い。いつどのタイミングでそう思ったか分からないが、白糸の勘違いを修正するのは無理だ。
話の流れに乗るしかと分かっていながらも今話しかけられているのは鈴香なので俺が口を挟むわけにもいかず横目は様子を伺う。
鈴香は一瞬曇ったような表情を見せるがすぐにいつも通りの表情に戻り話し始める。
「なるほどね。白糸さん、丁寧な言葉をありがとう。白糸さんの言う通り、僕は裕翔の彼女だよ。再婚の件はもちろん聞いてる。おじさん……裕翔のお父さんには昔からお世話になっているからその件は嬉しいと思ってるよ。まぁ、心配がないかと言ったら嘘になるけど、僕は裕翔を信頼してるからね。だから、白糸さんが謝る必要なんてないんだよ。気持ちは嬉しいから貰っておくけどね」
「ありがとう、蒼山さん。私も裕翔君は信頼してるよ。……あっこれ、私が言ったって意味ないか」
「ふふっ、良いんじゃないかな」
それから2人は握手を交わす。
事情の知らない他人が見たらいい光景なんだと思う。だけど、俺からしたらこの光景は罪悪感を何十倍にも膨れ上がられる為に用意されたものでしかない。
父さんの幸せの為にと鈴香を巻き込んでおいて何を今更って話だ。しかも、こんな嘘までつかせて……。いっそ、俺が居なくなれば全て解決する気がしてきた。
(……あっ、やばっ)
気付いたらまるで防御反応かの如く無意識のうちに首へ手が伸びていた。だが、今いる場所が学校でしかも2人がいる前はまずいと理性が働いて手を引っ込める。
(死ぬ覚悟なんてないくせに何を考えているんだか)
2人が握手を終えると、白糸は次に俺を見て話してくる。
「それでね、裕翔君への話っていうのは」
「クラスの人に話すかですよね」
なるべく早くこの時間を終わらせようと白糸の話している途中で割り込む。
思い返せば、この話を白糸としていなかった。こっちは公言する気なんて全くない。言えば確実に面倒な事に巻き込まれるからだ。
「その通りだよ。私はどっちでも良いんだけど、裕翔君はどうかなって」
「俺は話さないで欲しいです。それに、それが白糸さんの為にもなります」
「そんなことないと思うけど……でも分かった。裕翔君がそうなら言わないでおく」
これで話は終わりかと思ったが白糸は「ただね……」と続けてくる。
「昔から仲良くしてる友達がいるんだけど、その子だけにはどうしても話しておきたいの。いつかきっと裕翔君の助けになるから。……駄目かな?」
白糸は手を合わせて聞いてくる。
出来ることなら誰1人として知られたくないが、こっちは勝手に鈴香に話してしまっている。その手前があるのにどうして白糸の言うことを拒否できるだろうか。否、できない。
「1人だけならまぁ……」
誰に話すつもりか知らないけど、念入りな口止めをついでに頼んでおく。
俺達への話はそれだけかと思い教室に戻ろうとするが「最後に」と止められる。
鈴香への想いも重なって限界寸前だったがなんとか足を止めて振り返る。
「なんですか?」
「あのね、今までは遠慮してたの。蒼山さんがいたからか裕翔君は私を避けていたし、私も最低限の関わりだけで良いかって思ってた。でも、本当は裕翔君と仲良くなりたい。せっかく家族になったんだから、今のままの関係は嫌だ。もちろん家族としてだから蒼山さんとの時間は邪魔しないし、節度は守る。だから、お願い。蒼山さんも許してくれるかな?」
「僕は構わないけど、裕翔は……」
鈴香は心配そうに俺を見てくる。白糸も鈴香と違った意味で心配そうだ。そして俺は、、、もう色々と限界だ。
「そうですね宜しくお願いします」
それだけ言って俺はその場を離れた。
嘘を重ねたのは自分だし、誰かに責任を擦りつけようとは思わない。それでも贖罪という名の救いを求めてしまう。
「ちょっ、ちょっと待って」
俺の後をすぐに追いかけてきた鈴香を無視して、1番近くのトイレの個室へと入る。
学校じゃ狂って声を出すことはできないし、気絶して頭をスッキリさせることもできない。だから、声の出ない、それでもって気絶のしないラインを狙って首を絞める。
やっぱりこんな痛いだけの行為に救いはない。
だけど、この瞬間だけ俺は確かに救われた感じがした。




