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第11話.「はじめの一歩」

 やってしまった。


 冬美さんが言ったことは的を得ている。それゃあ、義理とは言えど親なんだから学生は学生らしくいて欲しいって思うのが普通だろう。


 ただ、あの時は遠回しに『君いらないよ』と言われた気がした。そんなこと一言も言われてないのに……。


(しまったなよな)


 せっかくいい雰囲気になれていたのに台無しにしてしまった。

 

 朝の仕事が全て終わり、自室の椅子に座って伸びていた俺は唐突に朝のことを後悔していた。ちゃんと正面から受け取れば至極普通のことを言っていた。捻くれて捉えてしまったのは俺の落ち度だ。もしそれが原因で嫌われてそれが父さんに知られたら、この家にはいられなくなるだろう。そしたらもう、、その時だ。


 でも、それは杞憂だった。


 昼食の準備の為に1階に行くとキッチンで冬美さんが待っていた。


「一緒に作っちゃ駄目かな?」


 その言葉に思わずキョトンとした顔を晒してしまう。


 あんな態度をとった後なのにこの人は許してくれるみたいだ。いや、そもそも許すとかそういうのじゃないのかもしれない。具体的にどう言えないけど、お互い『やっちゃったな』って感じなんだと思う。


 まぁ、どうであれ返事をしないと進まないわけなので言葉を探す。


「駄目というか……」


 俺には断る理由がない。なら作れば良いじゃないか。それに向こうの方が経験は多いし、春香さんと違ったものを吸収できるだろう。


「宜しくお願いします」


 そうして俺達は昼飯を一緒に作り始める。


「やっぱり凄いね。さくさく進んで行く。……私ね、いうか裕翔君と一緒に台所に立ってみたかったの。辰哉さんを支えていた人がどんな顔をして料理するのか気になってたから。だからね、私は嬉しい」


 その言葉を聞いて、心がくすぐられたように感じた。たぶん、素直に嬉しいと思えたってことだ。


 それに気付けたこともあって、やっぱり歳上の人なら普通に会話してても意外と大丈夫なことだ。顔合わせの時の怖さは単純に初対面だったから、それ以降のは俺の行動が原因の先入観から来ていたものだ。それでも全くとは言えないけど、少なくとも今は精神的ストレスを感じていない。


「そう言ってもらえて俺も嬉しいです」


 この光景を見つめる視線が2つある。言わずもがな父さんと白糸だ。朝のことを知らない2人は俺と冬美さんのやりとりの意味が分からないだろう。でも、分からなくても俺達が打ち解けたというのは伝わったんだと思う。だから、生温かい視線を向けられている。


「私の気持ちは変わらないけど、ずっと続けてきた事をやめても良いよっていきなり言われるのは嫌だったよね。軽率な発言だった……」

「冬美さんは謝らないで下さい。俺のことを考えてくれての発言だっていうのは分かっているので。でも、むっとしたのも確かで、それを態度に出してしまった俺が悪いんです。謝らなきゃいけないのは俺の方です」

「裕翔君が謝る必要もないよ。だから、今回はお互い様ってことにしよう。ねっ?」

「分かりました」


 今日、一番に話した人が冬美さんで良かったと思う。表面上には出していないだけで気まずさ当たり前にあった。でも、少なくともこの人とは上手くやっていける。そんな確信を持てた。だから、余計に意識をするのは、この人の娘‐白糸雪奈のことだ。


 冬美さんが台所から離れたタイミングで白糸が近付いて尋ねてくる。


「お母さんと何かあったの?」


 フライパンの柄を持つて手が一瞬ブルっと震える。ここじゃあ逃げることも無視することもできない。なので、出来るだけ会話をしないように簡潔に伝える。


「今後のやり方を確認しあっただけです」

「えっ、それだけ?」

「それだけです」

「裕翔君が言うならそうなんだろうけど……ふーん、まっいっか」


 なるべく白糸の方は見ないようにしていたつもりだけど、含みのあるその呟きに堪らず視線を向けてしまう。俺が見ると白糸は少し口角に上がった表情をしていた。


 どういう顔だ? 


 そんな邪推はいらない。


 白糸が俺と冬美さんが一緒にいるところ、そして、打ち解けあったと分かって嬉しいそうにしているなんて俺でも分かることだ。


(やっぱり、白糸は良い人だ。アイツらとは違う)


 だからと言って、トラウマを克服できるわけでも、女性恐怖症が治るわけでもない。その証拠に手がまた震えてきた。まだ心の限界は迎えていないが、向かっているのは確か。それを申し訳ないと思う。でも、今はとにかく気付かれないようにしないと。


 平静を装いつつ何とか昼食を作り続ける。終わる頃にはかいた汗で服がびしょびしょだった。

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― 新着の感想 ―
歩み寄ってきてくれる冬美さん素敵だなぁって思いました 裕翔くんが少しでも心を許せる相手ができて嬉しいですね
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