表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/35

こんなことになるのなら

「お邪魔しまーす。って誰もいないや。」

雪は怪我した足を引き摺りながら保健室までやって来たが周りを見渡してもそこには誰一人としておらずしんとしていた。

雪は意外にも学校の保健室を使ったことがなくどうすればいいか分からなかったがとりあえず椅子に座って先生を待つことにした。

「はあ、どうしてこんなことに。先生もいないし暇だから早く帰って寝たいよ。」

雪は誰もいない空間でぼやきながら窓の外を見た。外ではまだクラスメイトがグランドを走っており、そんなクラスメイトを見ながら雪はため息を吐いた。

授業中だから先生がいなくても仕方のないことだがこのまま虚無の時間を過ごしたくはなかった。かといって勝手に道具を使う訳にもいかなく何も出来ないまま時間だけが過ぎていく。

雪は一人でいることは好きだが無駄な時間を過ごすのが一番嫌いだった。こんな所にいるくらいなら日向達と一緒にグランドを走った方がマシだ。もう少し待って誰も来ないのであればそのまま授業に戻ろう。

そんな風に色んなことを考えながらさっきのことを思い出す。

「はあ、さっきはなんであんなことに。後藤さんはやっぱり私のことが嫌いなのかな?」

雪は右足から流れる血を見てモヤモヤしていた。転んで怪我した痛みよりも後藤が睨むあの表情の方が怖くてずっと頭に残っていた。

「はあ、次後藤さんに会ったらどうしよう。これ以上は無理だよ。」

この前の放課後に文句を言われて絡まれた時があったがあの時も後藤は真ん中にいた。あの時は蓮が助けてくれたから良かったが次会ったら何をされるかも分からない。

これから青葉と関わらなければこの先目をつけられることもなく過ごせるだろうか?そんなことを考えながら先生を待っていると廊下から足音が聞こえる。最初は先生が来たように思えたが落ち着きのない足音に違和感を覚える。

「やっほー雪ちゃん。ずっと帰って来ないから迎えに来たよ。」

「青葉がどうしてここに?まだ授業は終わってないはずじゃ。」

ひょっこりと顔を出す青葉に雪は嫌な予感しかしなかった。案の定外ではまだみんな走っており雪は大きなため息を吐いた。

「雪ちゃんがいないからどうしたのかと思って。って雪ちゃん怪我してるじゃん!早く手当しなきゃ。」

青葉は近くにある絆創膏と消毒液を取って雪の怪我の手当を始めた。傷に消毒液が染みて涙が出そうになる。

「ねえ、保健室の物を勝手に使ってもいいの?それになんか手慣れてない?」

「浅井先生は優しいからこれくらい見逃してくれるよ。この前私が体調が悪くてここに来た時も優しく対応してくれたから。」

確かにこの保健室の先生は美人で優しいとこの学校でもかなり噂になっていた。

「というか青葉は怪我してないでしょ。どうやってここに来れたの?」

「うーん、お腹が痛いって言ったら先生が保健室に行けって。雪ちゃんが心配だからこれくらいはね。」

青葉は小悪魔のように微笑んだ。青葉はよく純粋無垢など言われるが雪からすればずる賢い小悪魔にしか見えなかった。それに体育の先生である中島は目に見える怪我以外は許さないと言っていたのに結局美少女の青葉には勝てなかったようだ。

「はあ、あのエロ親父め。私を見る時はいつも怖い癖に青葉にはデレデレしちゃって。」

「よく分からないけどとりあえず手当てはできたよ。しばらくは安静にしてね。」

青葉は手際良く傷の手当てをして気がつけば血は止まっており、痛々しい傷も綺麗になっていた。まだ痛みはするがこれなら授業に戻れそうだ。

「ありがとう青葉。これで授業に戻れるよ。」

雪は椅子から立ち上がり保健室を出ようとした。先生に怒られたくないし何より青葉がずっとここにいるとまた面倒くさいことになってしまう。

だから雪は手っ取り早くここを去ろうとしたが青葉は雪の腕を強く握ってそのまま近くのベットまで雪を運んだ。そしてそのまま非力な雪を無理やり押し倒して顔を近づけた。

「待って、その怪我で授業に戻るつもりなの?そんなのダメだよ!」

「別にこれくらい平気だから。それに少し退いてくれない?流石にこの状態はまずいと思うんだけど。」

迫りくる青葉に雪はわざと顔を逸らした。今の状況は非常に不味くてどうにかして回避しないといけなかった。それほどに青葉の目は真剣だ。

「ダメだよ、さっきまで血を出して痛そうにしてたのに。少なくとも今の時間はここで休まなきゃ。」

「分かったよ。それなら青葉はもう戻っていいよ。私はここで休んでおくから。」

「それもダメ!私も雪ちゃんと一緒にいるの!」

青葉は頑なに雪から離れようとしない。雪を押し倒したまま強い力で雪を抑えていた。だが雪には何故そこまでして自分といたいのかが分からなかった。

「青葉は怪我もしてないしみんな心配してるから。だから私一人に構う必要なんてないんだよ。」

「そんなことどうでもいいもん。私はただ雪ちゃんといたいの。雪ちゃんが他のことを気にする必要はないよ。」

青葉はムスッとした顔で雪を睨みつけた。青葉はいつも我儘で自分勝手だ。それなのに何故か嫌な気はせずむしろ少し嬉しかった。

「でもやっぱりダメだよ。私と青葉はただの友達でしょ?」

確かに最近は青葉と一緒にいる時間も増えてとても楽しかった。だけど青葉といると雪はこの前や今日のようにいろんな人に嫌がらせをされる。それが怖くて青葉とは一緒にいたくなかった。

しかし青葉は怒ってるようで雪の胸元に抱きついたまま強く雪を抱きしめた。そんな青葉に困惑しつつも何も口にすることはできないでいた。

「ねえ、何で私が雪ちゃんと一緒にいたいと思うか分かる?」

「そ、それは私と青葉が友達だからとか?だとしてもこの距離は。」

雪が最後まで答える前に青葉は雪の手の甲にそっとキスをした。優しくてそして暖かくてそれ以外には何も考えれなくなるほどの破壊力があった。

突然のキスに雪は何も言えなくなる。これほどドキドキしたのも初めてだ。

「これでも私が雪ちゃんと友達だから一緒にいると思うの?私ねずっと前から雪ちゃんのこと大好きだから。」

「それってどういう意味?その、好きというのは。」

青葉の声がずっと耳に残る。早くここから抜け出したいのに抜け出せない。そんな空気が続く中、廊下から足音が聞こえる。そして扉が開くと先生が変な物を見るような目で雪と青葉を見ていた。

「おい、お前ら保健室で何やってんの?ここはイチャイチャする場所じゃないんだけど。」

金髪の長い髪の毛を靡かせながら気だるそうにしているこの先生が浅井雛先生だった。目には隈があり微かにタバコの匂いがする。見た目は明らかにヤンキーのようだが本当にこの先生が優しいのか雪は疑問に思う。

「ご、ごめんなさい。雪ちゃんの手当てをしていたんですけど色々とあって。」

青葉も正気に戻ったのかさっきまでとは違い顔を真っ赤にして狼狽えていた。

「はあ、何でもいいけど早く授業に戻ってくれない?私、恋愛とか一番嫌いなんだよね。」

「すぐ戻りますから。それじゃあ私は授業に戻るから雪ちゃんはごゆっくり。」

青葉はそう言って逃げるように保健室を出て行った。

「ちょっと、私も授業に戻らないと。」

「待って、お前は怪我してるんだからここに残れ。怪我してるのに無理はよくないぞ。」

雪もここを出ようとしたが浅井先生に捕まってしまう。ヤンキーのような風貌の浅井先生に怯えながら雪は授業が終わるのを待つのだった。

そして授業が終わったらさっき青葉が言った言葉の真意を聞き出さなければいけない。














『キーンコーン、カーンコーン』

「よし、授業も終わったことだしそろそろ戻りな。もちろんしばらくの間は安静にしろよ。」

「はい、ありがとうございました。それではまた。」

雪は優しく対応してくれた浅井先生にお辞儀をしながら保健室を出た。授業が終わるまでの間、浅井先生と二人で会話していたが思った以上にユニークで面白い人だった。人気が高いのも納得だ。

「とりあえず着替えないとだよね。はあ、教室に戻りたくないな。」

憂鬱な気分になりながらも雪は急いで更衣室に向かった。更衣室にはすでに誰もおらずがらんとしていた。あと少しで授業が始まる為、雪は急いで着替えようとしたが何か様子がおかしかった。

「あれ?私の制服がない。どういうこと?」

確かに更衣室の一番奥のロッカーに着替えを置いていた。だというのに確認するとそこには何も入っていなかった。他の場所を確認しても雪の制服は一切見つかる気配がない。

訳が分からないまま雪は外に出て制服を探すことにした。時間もなく宛先もない雪には本来分からないはずだった。

だがしかし一つだけ探す当てがあった。それは当然信じたくないことでさっきからずっと胸騒ぎがする。よくあるいじめの手段ですでに嫌な予感はしていた。

青葉という人気者と絡みそして複数の女子に目をつけられた時点で雪には何となく分かっていた。

一歩一歩が重く目的の場所に向かおうとするたびに心臓が痛めつけられるようだった。廊下ですれ違う生徒全員が雪を変な目で見ているようにすら感じる。

雪が普段からよく行くトイレに向かうとそこには後藤とその取り巻きがいた。ニヤニヤと笑う後藤を見て雪は自分を守るように構えた。

「渡瀬さんってばなんでまだ体操服なの?早く着替えたら?」

「クスッ、渡瀬さん足は大丈夫?かなり派手に転けたもんね。」

悪意のある言葉に今にも苛立ちそうなほど震えていた。

「別にこれくらいは普通だよ。それより私の制服がなくなったんだけど知らない?」

雪は怯むことなく後藤達を睨みつけた。雪の制服を隠したのが後藤達だということは察していた。あからさまに嫌われていて吐き気がする。

「私がやった証拠もないのに疑うの?そういうの困るんだけど。」

「本当よ。渡瀬さんってば自意識過剰よね。」

雪の睨みに気にする様子もなく嘲笑いながら背中を向けた。雪には止める気力もなくトイレには雪だけが残った。

一番奥の女子トイレの中には案の定雪の制服が詰められていた。せっかくの綺麗な制服がビチャビチャに汚れていた。そんなグロい光景を見て雪はその場に崩れた。

「なんで私がこんな目に。こんなのおかしいじゃん。」

この先もずっと後藤達にいじめられるという恐怖が辛かった。そして授業が始まるチャイムが鳴ったが雪は教室に戻れないでいた。

日向も梓も心配しているだろうか。本当は今すぐにでも二人に相談したかった。でも日向達や蓮達を巻き込みたくはない。

そして少しの時間が経った後、誰かの足音が聞こえる。先生が心配しに来たのかと思い後ろを振り向くと何故かそこには青葉の姿があった。最初こそいつものように笑顔だったが青葉は驚いた顔で雪を見ていた。

「ゆ、雪ちゃんその制服はどうしたの?なんでこんなことに?」

青葉は雪に優しく寄り添いながらも真剣な表情だった。青葉はいつもと変わらず雪に優しくしてくれる。しかし、雪にはその優しさが嫌で仕方がなかった。何も事情を知らないのに太陽のように笑う青葉を見ると苦しかった。

青葉が雪に触ろうとした時一瞬で中学の頃のトラウマが呼び起こされた。そして気がつけば知らない内に青葉を突き飛ばしていた。

青葉は呆気に取られた顔で見雪を見ていた。

「雪ちゃん?一体どうしたの。もしかして怒ってる?」

「・・・うるさい。これ以上私に構わないでよ。こうなったのも全部青葉のせいなんだから!」

雪は今まで我慢してきた感情を全て青葉にぶつけた。涙も大声なども気にならないほどに今は冷静さを失っていた。

「待ってよ、私は雪ちゃんと話がしたいの。だから待って。」

「ごめん青葉、私はもう青葉と一緒にいたくない。」

青葉は大声で雪を引き止めようとしたが今の雪にはそんな声は聞こえなかった。そのまま雪は青葉の後を静かに去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ