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最後に二人で

「うぷ、助けて。もうダメ吐きそう。」

水族館での鑑賞も無事終わりご飯も食べ終え、残るはあと一箇所だけとなっていた。そして今はその最後の場所に向かって進んでいる最中だった。

しかし、今の雪にはそんなことがどうでもいいと思うほどに地獄だった。さっき食べたご飯を全て吐いてしまうそうになるほど苦しかった。案の定、隣で木下が青ざめていた。

「ちょっと、渡瀬ってば絶対に吐かないで。薬飲んだんじゃないの?」

「む、無理。これ以上は。」

そう言って睨む木下に雪は返事することもままならなかった。もはやエチケット袋を持ったままずっと俯いていることしか出来ない。

日向から酔い止めの薬を貰ったからと言って調子に乗ってご飯を食べ過ぎたのが原因だった。どうやら雪は自分が思っている以上に酔いやすい体質だったらしい。

「ほら、肩叩くからどうか吐かないで。」

木下は必死に雪の吐き気を抑えようとしていた。周りのクラスメイトも笑ったりざわついていたりしている。梓と日向に関してはただ呆れているだけだった。

「おえっ、これ以上は無理だよ。助けて。」

すでに喉元まで吐き気が来ており、もはや一度吐いてすっきりしたかった。しかし、次の目的地までかなりの時間がかかる。流石にこの状況で吐くのは女の子としてまずい。

「ねえ、誰か私と変わって。これ以上は無理!」

木下の普段のミステリアスさはどこにいったのか余裕などなく、切実に叫んでいた。

しかし誰も変わろうとする人はいなく再びバスに沈黙が続いた。そしてその後に青葉が自分の席を立ち上がるとそのまま優しく雪の肩を叩いた。

「雪ちゃんは私が面倒見るよ。だから那月ちゃんは私の席に座ってていいよ?」

「いや、でもそれは。青葉にそんなことは。」

戸惑う木下を気にする様子もなく雪の隣に座るとそのまま雪の体を倒して青葉の膝に雪の頭を置いた。周りのみんながざわつく声が聞こえる。

「ほーら、雪ちゃん。落ち着いて深呼吸してね?ほら、スーハーして。」

青葉は優しく雪の体を撫でながら介護してくれる。青葉の柔らかさや温かい雰囲気に徐々に気持ち悪さが薄れていく。

「おい、青葉が膝枕してるぞ。」

「いいな、俺もされたいな。」

人気者の青葉が陰キャである雪を介護して周りは困惑を隠せていないようだった。周りからは強い視線が雪と青葉に集まった。

「うぅ、少しは治ったかも。一度眠るね。」

「うん、それじゃあゆっくりおやすみ。」

周りからどんな目で見られようが今の雪にはどうでもよかった。それよりも青葉の温かさが今はとても心地よくあわよくばこの温もりがずっと続けばと思うばかりだった。










「雪ちゃんもう大丈夫?ほら、もう一回深呼吸して。」

「うん、何とか落ち着いたよ。ありがとう青葉。」

外に出て一度吐いた雪は気持ち悪さもなくなりいつもの雪に戻っていた。しかし、そのせいで冷静さを取り戻してしまっていた。

「えへへ、雪ちゃんが困っていたら私が助けるよ。いつでも私を頼ってね。」

「はあ、それにしてもここはどこ?他のみんなは?」

辺りを見渡すと雪と青葉以外に人はおらず近くには大きな神社があった。ここは昔から恋愛の神様が祀られていて人気な縁結びの神社だった。

「先生が最後に神社に向かうって言ってたよ。クラスのみんなは先に行っちゃった。」

そう言って呑気に笑う青葉に雪は顔を青ざめていた。すでに嫌な予感がしてしょうがない。

「日向や蓮達は?青葉はどうして一人でここに?」

こういう時、日向達なら一緒にいてくれそうなものだが。それに木下がどう思っているか。

「みんな雪ちゃんのこと心配してたけど私が一人で介護するって言ったの!雪ちゃんと二人になりたかったからさ。」

雪の気も知らずはしゃぐ青葉に雪は何も言えなくなる。青葉は雪の苦労など何も知るはずがないし、何より今回は青葉が助けてくれたため、何か文句を言うことも出来ない。

「そ、そっか。それで日向達はどうしたの?あの二人なら一緒にいてくれそうだけど。」

「それも私が押し切ったの!今日だけは私が雪ちゃんを介護させてって。」

その言葉に私はフラフラしながら地面に倒れた。そうなると心配になってくるのは周りの視線だ。青葉と二人きりになるのをクラスに知られた以上早く青葉を木下達と合流させないといけなかった。

木下に何を言われるか分からないし梓に失望される可能性もあった。梓に絶交されたら雪は生きていけそうにない。

「ほら、早く私達もみんなと合流しよっか。」

雪は急ぐようにして青葉の手を握ったが青葉はその場に立ち止まったまま雪の手を強く握り締めた。

「・・・嫌だ。もっと雪ちゃんと一緒にいたい。中々一緒にいられないんだから今くらいいいでしょ?」

「いや、それは流石に。ほら、青葉だって他のみんなといたいでしょ?」

青葉はじっと雪を見つめたまま強く抱きしめた。その空気感が雪には気まずかった。このままでは雪の体が持たない。

「私はもっと雪ちゃんといたい!本当に少しだけだから。」

「そ、それは。・・・本当に少しなら。そうだ、日向達と会うまでならいいよ。」

一切譲る気のない青葉に諦めて雪は譲歩することにした。幸い周りに人はおらず今なら人目を気にすることなく青葉と回ることができる。

青葉の方を見るとキラキラした眼差しで雪を見ていた。

「大好きだよ雪ちゃん!時間もないし早く二人でお祈りしに行こうね。」

「う、うん。そうだね早く行こっか。」

青葉は普段と変わらないはずなのに雪は何故か少しドキドキしていた。前から青葉には抱きつかれているのにこの気持ちは何なのだろうか。

「ほら、鳥居のところまで来たし早く拝殿に向かおかっか。私お祈りしたいことがあるんだ。」

神社の中はとても広く神聖な雰囲気を醸し出していた。神社の奥にあるお守りを売っている場所に学校のみんなは集まっていた。雪と青葉はみんなに気づかれないようにコソコソと拝殿に向かった。

「というかここは縁結びの神社だけど青葉ってば好きな人でもいるの?」

雪は疑問を浮かべながらじっと青葉を見た。青葉ほどの人気者であれば少しの噂でも一瞬で広まると思うがそのような話は一度も聞いたことがなかった。そもそも青葉はあまり恋愛に興味がないと思っていた。

「そ、それはなんというか。えっと雪ちゃんには秘密。」

青葉は照れたように顔を真っ赤にしていた。そんな普段見れない青葉の照れ顔に雪はニヤニヤとする。

「ははーん、その反応青葉ってば好きな人がいるでしょ?誰なの、クラスの人だったりして。」

「べ、別に雪ちゃんに関係ないじゃん。それより早く行くよ。」

「分かってるよ。ただ青葉の好きな人は気になるな。」

ずっともじもじとする青葉を見て雪は笑いながら拝殿にたどり着いた。雪には関係のないことだが青葉に彼氏がいることは想像できなかった。

「よーし、それじゃあ早速お祈りしよっか。」

青葉と雪は賽銭箱にお金を入れて目を瞑った。少しの間沈黙が続きその間に雪はお祈りをすることにした。

雪は恋愛など興味がないため、普通に自分の願い事を祈ることにした。雪の今の願いはただ平穏に学校生活を送ることだった。

この先どんなことがあろうと何の問題もなくみんなと平和に過ごしたかった。

雪は力強く握ってお祈りした。目を開くと青葉が顔を真っ赤にしていた。

「あっ、青葉ってばやっぱり好きな人のこと考えてたんだ。」

「えへへ、私の願い叶うといいな。それより雪ちゃんは何をお願いしたの?雪ちゃんは好きな人とかいないよね?」

「だから私に好きな人はいないってば。ただ平穏に学校生活を送りたいって祈っただけだから。」

雪の問いに何故か青葉は安心したような表情をしていた。よく分からないが雪は大きく深呼吸をした。もう少ししたらこの遠足も終わって家に帰ることができる。

何はともあれ無事にお参りも出来たことで早くここを出たかった。残り時間も少なくなり、より木下達が青葉を探していそうだ。

「ねえ、そろそろここを出ない?って青葉?」

青葉は雪を離さないと言わんばかりに強く抱きしめていた。

「・・・あと少しだけ。今は二人でいさせて。」

青葉はそう言って雪から離れようとしなかった。もう少し青葉が前に出たらキスしそうになる距離で雪にとっては居心地が悪かった。この状況はかなりまずいと言えた。

「だめだよ。ほら、時間だってないしそれに日向達だって・・・」

雪が答える前に青葉は人差し指で雪の唇を押さえた。そしてそのまま青葉はそっと唇を近づけようとする。ここから先は冗談では済まなくなる。

「今は私のことだけを考えて。そうじゃないとお仕置きしちゃうよ?」

「ちょっ、これ以上はダメだってば!本当に無理だから。」

雪は何とか抵抗しようとするが青葉の力には敵うはずがなかった。あと一歩でキスするようなスレスレのところで雪は目を瞑った。しかし、その瞬間奥の方から日向と梓の声が聞こえる。

「二人ともそんなところにいたんだ。探したよ!」

青葉が二人に気を取られた一瞬を狙って雪は青葉を突き飛ばして距離をとった。

「おい、朝比奈さんってば何やってんの?」

「む、もう少し二人でいたかったのに。」

雪の元に駆けつけた二人は鋭い目つきで青葉を見ていた。

雪はひどく安心しながら息を吐いた。二人がいないと今頃青葉とキスをしているところだった。二人は救世主と言ってもいい。

「渡瀬さん、朝比奈さんに何もされてないよね?大丈夫だよね?」

「う、うん。特に何かされたとかはないかな。それより時間もないし早く行こう?」

雪と青葉は近くにいたところを見られただけでキスしようとするところまでは気づかれていないようだった。雪はひどく安心しながら神社を後にすることにした。

まだ心臓はドグドクとなっており、この調子では持ちそうになかった。

「よし、それじゃあ戻るか。帰りは絶対に吐くなよ。」

「帰りは私が隣にいてもいい?私が渡瀬さんを介護したいな。」

日向と梓といつものように歩いていたが青葉は無言のまま雪達の元からそっと去ろうとした。

「それじゃあ、雪ちゃんと約束したし私はみんなの元に帰るよ。」

今の青葉は普段ではあり得ない表情をしており雪は思わず青葉の手を掴んだ。三人とも驚いた表情をしており、雪自身もよく分からなかった。

ただそれでも青葉ともう少し一緒にいたいという気持ちだけは本物だった。

「待って、どうせもうバスに戻るだけだし一緒に行こうよ。私としては二人とも仲良くなって欲しいし。」

雪はプイッと顔を横に向けながらそう答えた。今は恥ずかしくて三人を直視できなかったがこの気持ちは本音だ。

案の定三人とも笑いながら雪を見ていた。

「えへへ、雪ちゃんってば大好き!そう言うことなら一緒に行こうね。」

「ちょっと?一緒に行くとは言ったけどくっついていいなんて一言も言ってないんだけど?」

「おい、雪にくっつきすぎるなよ。雪が困ってるだろ?」

「そ、それなら私も渡瀬さんとくっついていいかな?」

四人はそれぞれ騒ぎながらこの神社を後にした。色々と疲れたしさっきはドキドキしたがなんだかんだ楽しい遠足だった。

雪は四人で楽しく会話しながらみんなの乗っているバスを目指すのだった。








雪と青葉がバスに戻るのと同時にバスの外で複数のクラスの女子がコソコソと会話していた。

「やっぱり渡瀬ってうざくない?」

「本当に何様って感じ。青葉に優しくされるなんて許せない。」

「本当自分のことどう思っているんだろう?」

悪意しか含まれていない会話が本人の知らない所で弾んでいた。それは雪の最も嫌う陰口と呼ばれる行為だった。

「そうだ、いいこと思いついた!今度身の程を弁えさせようよ。」

「それいいじゃん。渡瀬みたいなやつは一生陰でコソコソしてればいいんだから。」

不安な空気が漂う中、雪や青葉達はそのことを知らずに遠足の余興を楽しんでいた。

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