イルカショー
「はあはあ、やっとここまで来れた。もうヘトヘトだよ。」
あれから雪と梓は水族館の全てを周って何とか日向達のいる場所まで来た。周りには日向以外にもほとんどの同級生がおり、それぞれのグループが騒いでいた。
「二人とも遅かったじゃん。なんか変なことでもしてたの?」
日向は一人ベンチに座って美味しそうなアイスを食べていた。もしかして日向も友達はいないのだろうか?雪のことを馬鹿にする癖に人のことを言えない日向に雪は笑いそうになる。
それに何故か梓は赤面しながらもじもじとしていた。
「そ、そんなことしてないよ。私達はただ水族館をゆっくり回ってただけだよ。そうだよね、渡瀬さん?」
「うん、水族館は楽しかったけどそのせいで疲れたよ。少し休ませて。」
雪は日向の隣に座って日向の食べてるアイスにかぶりついた。ラムネのような爽やかな味でとても美味しい。
「うーん、やっぱりこんな暑い日にはアイスが一番だね。もう一口だけちょうだい?」
「おい、僕のアイスを勝手に食べるな!そんなに食べたいなら自分で買いなよ。」
日向が騒ぐ中、雪は気にすることなく二口目をいった。雪と日向の中では食べ物の共有など当たり前でこれくらいは雪にとって気にすることではなかった。
しかし、隣にいる梓が何故か震えていた。
「垣根さん?やっぱり垣根さんは抜け駆けするんだね。」
「おい、今のは僕のせいじゃないだろ。どう見ても雪からだったよね?」
「垣根さんはいつも渡瀬さんと距離が近いし間接キスだってしてるし。垣根さんだけずるいよ。」
梓と日向がいつものように騒がしくしているが雪は気にすることなくベンチでゆったりしていた。
周りを見渡すとみんなここに集まっており、青葉もみんなに囲まれながらいつものように会話していた。やはり、青葉は陰キャの雪よりも陽キャの人達といるべきだ。
それにしても明らかにここにいる人が多く雪は疑問を浮かべる。
「ねえ、もしかして今からここで何かあったりする?」
「ああ、後十分くらいしたらイルカショーが始まるんだよ。それをみんなで見るって先生が言ってたじゃん。」
「そうだっけ?先生の話なんて何も聞いてないや。とりあえずそれまでは休むね。」
雪は目を瞑って日向の膝にダイブした。日向の膝は枕にするのに丁度いい。イルカショーまではずっとこうしておこう。
「む、垣根さんはやっぱり私の敵だよ。垣根さんは私の味方だと思ってたのに。」
「いや、だからさっきから僕はとばっちりだよね?雪が天然なのが悪いよね?」
「だとしても垣根さんばかりずるいよ。私だって渡瀬さんと幼馴染なら・・・。」
そう言って二人は再び言い争っていた。この二人は仲がいいのか悪いのか分からない。日向はともかく梓は普段大人しいというのに。
「それなら渡瀬さんは私の膝に乗っていいよ?垣根さんより柔らかくて寝心地いいから。」
「はあ、僕を馬鹿にしてる?まるで僕が硬いみたいな言い方しないで欲しいな。」
梓は日向の発言を全て無視して雪を日向の膝から引き摺り下ろし、そのまま自分の膝に置いた。確かに梓の膝の方が大きくて柔らかい。その分少し虚しさもあるのだが。
「なんか腹が立つけどまあいいや。それにしても二人は長かった気がするけど本当に何もなかったの?梓とかさっき顔赤くしてたじゃん。」
日向は残りのアイスを食べた後ニヤリと笑っていた。日向はいつも雪や梓を揶揄おうとする。しかし、今回は同級生と少しトラブルがあったくらいで他に何かあった訳ではない。
「別に何もなかったよね梓?」
雪は平然と答えるが何故か日向は顔を真っ赤にして震えていた。
その反応に雪は目を丸くする。
「う、うん。特に何もなかったと思うよ?別に変なこととかも・・・」
「ふーん、つまり何かあったんだ。一体何があったのか教えなよ。」
今にもボンッと弾けそうな梓を見て日向はいつも以上に楽しそうにしていた。人の恥ずかしがるところを見て楽しそうにするなんて日向はなんて性格が悪いのか。
「だから私は何も知らないって!とりあえず梓が可哀想だからこれ以上は詮索しないで。」
だが雪はこの状況がよく分からないでいた。雪は水族館ではただ魚を見て回っただけだと思っていた。だが何故か梓は顔を赤くしていた。やはり梓はあの時大事なことを言おうとしていたのかもしれない。
「大丈夫梓?日向は空気読めないからさ。」
「だ、大丈夫だよ?と、とりあえず今は放っておいて欲しいかな。」
梓はゆっくりとそう答えると人気のいない場所へ一人で歩いて行った。とても大丈夫そうには見えなかったが今は梓の言うことを聞くことにした。
とりあえず無性に腹の立った雪は日向にお仕置きをすることにした。これ以上日向に何かされるとたまったものではない。雪は日向のほっぺを強めに引っ張る。
「雪ってば邪魔。分かったから手を退けて。なんとなく察したからこれ以上は言わないよ。」
「もう、だからそのニヤニヤするのをやめてよ!とりあえずこれ以上梓を揶揄ったらダメだからね!」
「分かってるよ。ただ雪のその鈍感さの方がやばいと思うけどね。」
雪は日向を注意しながら遠くでずっと恥ずかしそうにしている梓を眺めた。やはり後でもう一度梓にさっきのことを聞くことにした。
日向がまだ雪と梓に変な勘違いをしてそうなのが気になったが今はそれも放っておくことにした。そして気がつくとポケットの中にあるスマホがブルブルと振動していた。
「雪、スマホが鳴ってるよ。一体誰から?」
雪は宛先の人物を見て深くため息を吐いた。とりあえずゆっくりできなくなるのは確定だった。
「ごめん、少し外に出てくる。イルカショーまでには戻ってくるから。」
「ちょっと、雪ってば何処に行くの?行き先くらいは言えよ!」
雪は日向を無視したまま、我儘な青葉の元に急いで向かった。
「おーい、ここにいるんでしょ?時間がないんだし早く出てきてよ。」
「えへへ、会いたかったよ雪ちゃん!ここなら二人きりでお話しできるね。」
誰もいない所に来るとぴょこっと青葉が出てくる。相変わらずの距離感でくっつく青葉に雪は呆れていた。さっきまで他の人といたはずなのに何故か瞬間移動していた。
「はあ、青葉ってば急に呼んでどうしたの?イルカショーまで時間がないんだけど。」
「だって今日は雪ちゃんと全然一緒にいれないんだもん。遠足だから期待してたのに私に構ってくれないじゃん。那月ちゃんや日野さんばかり雪ちゃんと一緒にいてずるいよ!」
青葉は不満そうに口にして雪の服の裾をギュッと握った。今日の青葉は珍しく怒っていた。
「そんなこと言われても梓はともかく木下さんは私の意思で一緒にいる訳じゃないし。それに青葉には周りに人がいるじゃん。」
雪はただ困ったように青葉を引き離した。確かに青葉とはあまり一緒に入れなかったし青葉はちゃんと約束を守ってくれていた。今だって誰もいない所で話しかけくれてるのはありがたい。
ただそれでも青葉は学校中の人気者で雪というただの陰キャが一緒にいていい人物ではなかった。だから青葉にはもっと自覚を持って欲しかった。
「むぅ、それでも私は雪ちゃんと一緒にいたい。周りの人のことなんて気にしないでよ!」
そう言って叫ぶ青葉に雪は何も言えなくなる。これ以上学校で傷つきたくなかった。だから今は青葉の要望に応えることはできない。
「ごめん、今はまだ無理だよ。私には今の生活がお似合いだから。」
雪は俯いたままそう口にする。青葉は残念そうにしながらも諦めた様子はなかった。
「分かったよ。雪ちゃんがいやなら私も我慢する。だから今みたいに人がいない時になら一緒にいてもいいよね?」
その言葉に雪は俯いた顔をあげて太陽のように笑う青葉を見た。あの青葉のことだからまた駄々を捏ねると思っていたが意外と物分かりがよく雪はポカンとする。
「う、うん。人がいないなら別にいいよ。」
雪が少し照れながら答えるとすぐに青葉は雪に抱きついた。前から思っていたが青葉は昔飼っていた犬のようだ。
「えへへ、それなら今のうちに雪ちゃんに抱きついてエネルギー補給しておくね。」
「ちょっと、もうイルカショー始まっちゃうから!それにそんなにくっついていいとは言ってないってば。」
雪は抱きつく青葉に呆れながら大きな声で叫んだ。
既に水族館の中からイルカショーが始まるアナウンスが聞こえる。このままではイルカショーに間に合わないため、青葉を引き離しながら無理やり手を繋いでみんなのいる所に向かった。
やはり雪はいつも苦労する運命なのだった。
「二人ともお待たせ。はあ、なんとか間に合ったよ。」
「お、やっと来た。いや、なんでそんなに汗掻いてんの?」
雪はぜえぜえと荒い息を立てながらイルカショーの観客席までやって来た。既に日向も梓も席に着いており、不可解な顔で雪を見ていた。
「渡瀬さんさっきまで何してたの?変なこととかしてないよね?」
「トイレに行ってただけだから。それよりイルカショー楽しみだね。」
雪は誤魔化すようにそう答えると梓の隣に座りイルカショーが始まるのを待った。梓は疑いの目をしていたが雪は知らんぷりした。
紆余曲折あったがやっとゆっくりすることが出来る。
雪はもちろんイルカも好きで昔から水族館に来てはイルカショーを見ていた。そのため今からイルカショーが楽しみで仕方がなかった。
「それでは今からイルカショーを始めます。今から個性豊かなメンバーを紹介しますので皆様拍手をお願いします。」
雪が待っているとすぐに水族館のスタッフさんがやって来てアナウンスを始めた。アナウンスが終わるとともにすぐにステージに三頭のイルカがやって来る。
雪はキラキラとした目でパシャパシャと綺麗に泳ぐイルカを見た。
「わあ、二人とも見てよ!イルカってばやっぱり可愛いよ。」
「はいはい、分かったから騒がないで。」
はしゃいでる雪を簡単に遇らう日向にムッとしながらもキラキラとした眼差しでイルカを見つめた。
雪は今までの疲れを癒すようにイルカショーに没頭するのだった。




