思い出の写真
「ぷはあ、乾いた体にはやっぱりサイダーだね。もう当分は動きたくないよ。」
雪はキンキンに冷えたサイダーを飲みながらそう口にする。雪は既に疲れきっていた。
灯台を出た雪達は休憩をするために一度ゆっくり休めそうなお店の中に入った。店内はとてもオシャレな雰囲気だ。
「まだ遠足も始まったばかりなんだけど?雪ってば体力無さすぎ。」
「えぇ、もう少し休ませてよ。今のままじゃまだ歩けないよ。」
灯台を見終わった雪達は売店を歩き回っていたのだが人がワイワイしててとても歩けそうになかった。雪は人混みを歩くのが大の苦手だった。
「別にいいけどここで休んでたら他の場所に回る時間が無くなるからな?ただでさえ回る時間はないのに。」
「それは分かってるよ。ぼちぼちしたらここも出るから安心して。」
雪はそう言って再びサイダーを飲む。最近は五月ということもあり外は暑く、涼しい店内で飲む炭酸は格別だった。
「というか二人とも無言で私に抱き付かないで。せっかく涼しいのに暑苦しくなるじゃん。」
雪にべったりとくっつく二人に雪と日向は顔を合わせて呆れていた。
青葉はいつも通りくっついているが今回は梓までべったりとくっついている。梓は普段は雪にくっついたりしないのだが青葉といる時だけ距離が近くなるのだ。
「だって雪ちゃんといれる貴重な時間だもん。少しくらいは許して欲しいな?」
「私もせっかくの遠足だからもっと渡瀬さんと仲良くなりたいの!だからお願い。」
そう言って可愛いお願いする二人に雪はいつも強く出ることができない。
雪だって二人といることが別に嫌いという訳ではない。ただ二人とも可愛いくてドキドキしてしまうというだけだ。
「ま、まあ少しならくっついていいけど。というか青葉は早く他の人と集合した方がいいんじゃない?」
雪は楽しそうにジュースを飲む青葉に目を向ける。まだ青葉と一緒に行動してそんなに時間は経っていないがそれでも青葉のクラスメイトは青葉を探していそうだ。
特に木下に見つかると思うと恐怖のあまり震えそうになる。雪達がくつろいでいるこの店に学校の人がいないのが幸いだ。
「うーん、もう少しだけ一緒にいさせてよ。ほら、最後に海だけでも。」
「・・・いいけど誰か来たら絶対離れてよ。もう二度と誰かに目をつけられたくないから!」
雪は残ったジュースを飲み干しながら青葉を見つめる。この前のこともあるため雪はいつも以上に警戒していた。
人気者なのにその自覚がない青葉の代わりに雪がなんとかしないといけない。
「雪ちゃんってば気にしすぎだよ。私もそこら辺はちゃんと見ておくから安心して。それより早く海に行こうよ。」
自信満々の青葉に雪は心配でしかなかった。
「はいはい、そう言うことなら今すぐ行くよ。二人ともそれでいいかな?」
「渡瀬さんの言うことなら私はついて行くよ。ただ私も渡瀬さんの隣にいていい?」
「ま、雪のやりたいようにすれば?僕も海は見たいと思ってたし。」
二人の了承も無事に得て、早速四人で海へ向かうことにした。
あの海には雪にも思い出があって今から楽しみだった。
「それじゃあ、早速行こっか。・・・二人ともくっつくのは程々にね?」
雪は両手を塞がりながら不安に感じた。この二人がずっと距離の近い理由が雪には分からなかった。
そしてこの時雪達のことを見てる生徒がいることも雪達は知る由もなかった。
「うーん、風がそよいで心地いいよ。やっぱり海はこうでなくちゃ。」
「雪ってばはしゃぎすぎ。最初行きたくないとか駄々捏ねてたくせに。」
相変わらず嫌味を言う日向にムッとしながら雪はとても綺麗な海の景色を眺める。子供の頃来た時と一切変わらない綺麗な景色だった。
昔はよくこの海で泳いでいたものだ。
本当は灯台の近くの一番海が綺麗に見える場所に行きたかったが人が沢山いたため、人気のない砂場に来たのだ。
「海は久しぶりに来たけどやっぱり綺麗だね。ほら、もっと近くで見ようよ!」
「む、朝比奈さんばかりずるいよ。私も一緒に行くね。」
せっかくのいい景色だというのに相変わらず二人は雪を取り合っていた。日向も助けてくれる様子はなく困りながらも二人にくっつかれたまま海の近くまで来た。
「見てよ雪ちゃん、海の中涼しくて気持ちいいよ。雪ちゃんも入らない?」
青葉は早速靴を脱いで海に足を入れていた。いくら暑いからといって海に入るとは。
陰キャでインドアな雪にはとてもそんな活発なことはできなかった。というか青葉はあまりにも元気する気がする。
「もう限界だし少しは休ませて。私はここで休んでるから。」
雪は砂場に座って海の景色を見ながら砂のお城を作ることにした。雪は普段から体育を休んでるせいか砂遊びが得意だった。
せっかくだし大きなお城でも作ろう。
「雪ちゃんってば本当に体力ないよね。それなら一人で遊んでおくけど。」
青葉はそう言って顔を膨らましながら雪にパシャパシャと水をかける。青葉のかけた水のせいで服が透けてしまう。それに作りのかけのお城もビショビショになってしまった。
カチンときた雪は即座に海に入り青葉に水をかけた。
「もう、青葉ってば。ほらお返しだよ!」
一方的にやられるのが嫌いな雪は負けじと青葉に水をパシャパシャとかける。なんだかこのお互いに水をかけるのも青春っぽい。
こんなこと青春漫画でしか見たことがない。雪は青春漫画が苦手だったがまさか自分自身がそうなるとは思ってもいなかった。
「あはは、お互いにずぶ濡れだね。涼しくて気持ちいいよ。」
「まあ、気持ちはわかるけど流石に一度休ませて。ほら、そろそろ青葉も戻らないとでしょ。って梓はなんで鼻血出してるの?」
ずぶ濡れになった雪は再び砂場に戻りをピクニックシートをひいて地べたに座った。砂場にはさっきまでの風景を笑いながら写真を撮っている日向と鼻血を流している梓がいた。
「な、何でもないよ?ただその・・・、早く服を着替えたほうがいいんじゃないかな。」
梓は顔を真っ赤にして雪から目を逸らしていた。雪にはその意味が分からずにポカンとしていた。
雪だって今すぐに服を着替えたかったが服の予備なんて準備してなかった。青葉には少しキツく叱らないといけない。
というか青葉は着替えがあるのだろうか?なかったからクラス中が大騒ぎになる気がする。
「本当にビチャビチャで最悪だよ。で、日向は一体何をしてるのかな?」
明らかに変なことをしている日向に雪はじっと睨みつける。日向がニヤニヤしてる時は大抵碌なことじゃない。
「何って、さっきの水遊びしてる様子を撮ってただけだけど?流星にでも見せようかな。」
「ちょっ、早く消してよ!こらっ、逃げるな。」
「いいじゃん減るもんじゃないし。」
雪は日向のスマホを奪おうと奮闘するが雪の体力では日向のスマホを奪うことなど出来るわけがなかった。
「垣根さん、私もその写真欲しいな?」
「梓まで貰おうとしないで!早く消してってば。」
雪は日向を追いかけるが結局その写真が消されることはなかった。
「はあはあ、無駄に疲れたよ。日向ってば絶対に許さない。もう、体力が。」
雪はそう一言だけ残して砂場に倒れた。暑さと無駄に体を動かしたせいで雪のバッテリーはゼロになっていた。
砂浜が焼けるように暑く水分も失われて乾いたスポンジのようになっていた。やはり、外に出ることなど無駄でしかないのだ。
「しっかりしてよ雪ちゃん!まだ私と遊ぼうよ!」
「もう、無理。というか青葉は一旦戻りなよ。」
雪は息を荒げながらなんとか深呼吸をする。スマホを確認すると既に時間が経っておりここにいれる時間はあと十分もなかった。
「むぅ、もうそんな時間なの?あと少しでいいから私と一緒にいようよ。」
「ダメ、青葉は私達と行動するから。ほら、早く行くよ。」
誰かの声が聞こえて顔を上げるとそこには木下と蓮がいた。
突然現れた木下は青葉を無理やり掴むとそのまま青葉を引っ張っていった。その様子を蓮は呆れながら見ていた。
「二人とも少し待ってよ。もう少し雪ちゃんといたいのに。」
「急にどこかに行ったと思えば渡瀬の所だったなんて。ほら、時間もないし早く戻るよ。」
「嫌だ!まだ雪ちゃんと遊び足りてないもん。」
そう言って喧嘩する二人を雪達は死んだ目で見ていた。よりにもよって一番会いたくない人と出会ってしまった。
蓮も申し訳なさそうに雪達を見ていた。
「悪い、青葉が迷惑をかけちまった。青葉はいつも自由だからな。」
「とりあえずこの二人をどうにかしてよ。私一人じゃ無理だよ。」
「そんなこと言ってもこの二人を止めるのはアタシにも無理なんだ。二人とも絶対に折れないからさ。」
この中で唯一の常識人である蓮もお手上げ状態で結局みんなで地べたに座って二人の言い争いを見るしかなかった。
「てか、雪はなんでそんなビショビショなんだよ。あとでアタシの予備の服貸そうか?」
「え、いいの?蓮ってば優しいし大好き!」
やはり蓮はとても頼もしい。優しくていつも雪を助けてくれる。
「むっ、蓮ちゃんってば抜け駆け?雪ちゃんは私のだから。」
「違うってば!雪のことは友達としか思ってないから。ってとりあえず時間もないし早く戻るぞ。」
拗ねた様子で抱きつく青葉に今にもはち切れそうな程に怒ってる木下。このままじゃ大変なことになると思い雪を覚悟を決めた。
「分かったよ、それじゃあ最後にみんなで思い出の写真を撮ろう?それで青葉も満足だよね?」
「うん、雪ちゃんと記念写真を撮れるならいいよ。
「はあ?なんで私がそんなこと。」
雪の提案に青葉は納得して木下は不満があるようだったが時間もないし急いで写真を撮ることにした。雪は早くバスに乗って休みたかった。
「ほら、みんな入って。僕が撮るから。」
日向がそう言ってスマホを構え、そこにみんなが入る。綺麗な海をバックに雪達は全員映るように並んだ。梓と青葉が少し距離の近い気がするが。
「それじゃ、行くよ。ハイチーズ。」
カシャと音が鳴り、一枚の写真が撮れるとそのまま雪はその場に倒れるのだった。




