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灯台で

「えっと、お菓子とか食べる?」

「いらない。」

「見てよ、あそこの景色とか綺麗だよ。」

「興味ない。」

バスで目的地へ向かう途中に雪は気まずい雰囲気をどうにかするために木下に話しかけるが木下は全て簡単に遇らう。雪は人と話すのは苦手だがかといって気まずい沈黙が続くのも嫌だった。

バスが目的地に着くまで時間もあるせいで雪にとっては苦痛でしかない。雪に構うことなくスマホをいじる木下に雪はどうしようもなくため息を吐いた。

周りを見ると青葉も梓も楽しそうに周りと会話しており、日向も面倒くさそうにしながらも他の人と会話していた。

「私達も何か話そうよ。ほら、趣味のこととか。」

「なんで?私は渡瀬に興味ないし放っておいて。」

ただそう呟く木下に雪は諦めて外の景色を無言で眺めることにした。木下って青葉や蓮以外といることはほとんどないしもしかしたら雪と同じタイプなのかもしれない。

「わあ、すっごい綺麗。今はどこに向かっているんだろう?」

窓の外には真っ白な海が一面に映っていた。ゴミ一つない綺麗な砂浜に目を奪われる。丁度今日が晴天なこともあってまさに遠足日和だ。

雪はバスに乗るにつれて少しずつ遠足に対するモチベが上がっていった。雪は別に外に出るのが面倒くさくて嫌なだけでなんだかんだ楽しむタイプではある。

そんな感じで雪が一人で外の景色を楽しんでいると木下が呆れたような顔で雪を見ていた。

「なんで今日行く場所のことを知らないの?普通調べない?てか学校で何回も言われたじゃん。」

「だって面倒くさいし、そもそも遠足に行く気なかったから。」

雪は遠足に興味もなく、気にしたこともなかった。だからそんな目で見られても困る。

「今は灯台に向かってる。渡瀬は本当にだらしない。」

雪が尋ねると木下は意外にもちゃんと教えてくれる。この前の部活の時もそうだが木下は意外と面倒見がいいのだ。

「ありがとう、教えてくれて。灯台に行くのも久々だよ。」

普段外に出ない雪でも流石に灯台に行ったことはある。小さい頃にお父さんと一緒に行ったのもいい思い出だ。

昔の雪は活発だったし普通に人と話すこともできた。どうしてこうなったのか。

「ふん、別にどうでもいいけど青葉には近づかないで。」

「分かってるってば。それより吐きそうだから袋とかない?」

雪は顔を真っ青にして手で抑える。雪は普段外に出ないせいで乗り物酔いが酷いことを忘れていた。今にも吐きそうなくらい辛い。

「はあ?そう言うのは早く言ってよ。すぐに袋貰ってくるから我慢して。」

「う、うん。ありがとう木下さん。」

雪と木下がわいわいとざわついていると他の人達からの視線も集まる。その中で青葉も雪を睨んでいたが雪がそのことに気づくことはなかった。











「では目的地に着いたので今から灯台に向かいましょうか。」

「よっしゃ、最初はどこ行く?」

「やっぱり最初は灯台っしょ。」

目的地の灯台の近くに着き、先生の指示が出るとともにバスから生徒がゾロゾロと降りていく。

「はあ、やっと終わった。まだ気持ち悪いよ。」

やっと地獄から解放された雪は水を飲みながら近くのベンチに座った。雪は二度と乗り物なんか乗らないと誓った。

「渡瀬さん大丈夫?背中叩くよ。」

「ありがとう梓。早く家に帰りたいよ。」

「まだ来たばっかりだよ?まだ何もしてないから帰らないで。」

梓は優しく背中をポンポンと叩いてくれる。梓のおかげで少しマシになったがまだ歩きたくなかった。

「はあ、雪ってばバカなんじゃない。酔い止め対策くらいしときなよ。」

日向はそう言って鞄から酔い止めを取り出して雪に投げる。

「なんで日向がこれを?今更遅いよ!」

「僕も酔いやすいから持ってるんだよ。帰りはちゃんと使いなよ。」

そう言って平然としてる日向に腹が立ってくる。雪は目的地に着くまでずっと苦しんでいたというのに。

「もっと早くくれても良くない?日向ってば気が効かないなあ。」

「は?それなら薬を返してよ。帰りも苦しむことになるけど。」

「ごめんなさい。それだけはやめてください。」

薬を回収しようとする日向に雪は敬語で頼み込む。もう二度とあの苦しみは体験したくなかった。日向が楽しんでいるのが癪だが今は日向に逆らうことができない。

「と、とりあえず早く灯台に行こうよ。みんなもう行ってるよ?」

「そうだぞ、せっかくの遠足なんだから楽しもうよ。」

二人の言う通りせっかく外に出たからには楽しむべきだ。雪はまだ辛いが灯台に向かうことにした。

「う、うん。ただまだ気持ち悪いし梓の肩を借りるね。」

雪はなんとかベンチから立ち上がり梓に擦り寄った。灯台まで距離があるため一人で歩くのは無理だった。

「わ、渡瀬さん。そんなにくっつかられたら恥ずかしいよ。」

「ご、ごめん、それなら離れるよ。日向の肩を借りるから。」

「待って!別にくっつかれるのが嫌という訳じゃないしむしろくっついて欲しいけどその、心の準備というものが。」

梓は早口でそう言って雪に体をくっつける。いつもより顔も赤いが梓も車酔いしてるのだろうか。それに日向は何故かゴミを見る目で雪を見ていた。

「これで大丈夫?苦しくはない?」

「うん、酔いの苦しさはないよ。別の意味で苦しいけど。」

「・・・?よく分からないけどとりあえずゆっくり進むね。」

梓の大きな胸が腕に当たり唐突な虚無が雪を襲う。雪は酔いの苦しさと虚しさで辛かったがなんとか目的地の灯台にたどり着いた。

目的地に着いた雪は水を大量に飲んで再びベンチに座った。日向は雪のことを変な目で見ていたが気にしたら負けだ。

「はあ、もう動きたくないよ。あとは二人で見てきて。」

遠足はまだこれからだと言うのに雪はすでに限界に近かった。正直当分は歩きたくない。

「ったく雪はだらしないな。ほら、早く行くよ。」

「そうだよ。あと少しだから頑張ろう?」

雪は二人に無理やり足を引っ張られて灯台のある道へと連れていかれる。雪の力では二人に勝つことなど不可能だった。

「二人とも強いってば。そんなに急いでもいいことないから。」

「雪はいっつもマイペースすぎるんだよ。もっと急がないと見る時間が減るから。」

そんな感じでしばらく歩いて坂を下っていると遂に大きな海が見え始める。近くには真っ白で大きな灯台も見える。

白い砂浜、青い海、とても綺麗で神秘的な海に雪は目を奪われる。

「わあ、すごい綺麗な海だね。この景色も久しぶりだよ。」

思えば昔はこの海を見てはしゃぎ回っていた記憶がある。あれから時間が経ち雪も大人になってしまった。

「ほら、早く灯台に登ろう?渡瀬さんと一緒に上の景色を見たいから。」

「うん!灯台に登るのも久しぶりだよ。」

雪と梓は手を繋いで灯台に向かうことにした。灯台にはすでにみんな登っており楽しんでいた。青葉もすでに上にいて楽しそうにみんなと写真を撮っていた。

「フッ、雪ってば結局楽しんでんじゃん。」

「だって、この景色を見たらしょうがないじゃん!そんなことより早く灯台に登るよ。」

雪を嘲笑う日向に目を向けながら微かに微笑んだ。昔のことを思い出して懐かしい気持ちがあるが何よりこの二人と一緒に回れることがとても嬉しかった。

「はいはい、とりあえず雪が楽しそうで何よりだよ。」

「屋上に着いたら三人で写真も撮ろうね。」

雪は二人と手を繋いだまま屋上の中へと入るのだった。青葉が灯台の上から雪のことをずっと睨んでいると知らずに。










「はあはあ、なんか思ったより長かったけどこんなものだっけ。昔来た時はもっと楽だった気するんだけど。」

灯台の屋上まで来た雪は息を荒らしながら大きな柵に掴まった。まさか螺旋状の階段しかなくてここまで疲れることになるとは思っていなかった。

「はあ、この程度でバテてんの?もっと普段から運動しなよ。」

「そんなの嫌だよ。私はずっと引きこもるから。」

雪は堂々と引きこもり宣言をしながら灯台から見える景色を眺めた。そこから見える景色は絶景でずっと見ていられる。

遠くから見る海はキラキラとしていた宝石のように綺麗だった。頑張ってここまで登った甲斐がある。

「ふふっ、渡瀬さんが楽しそうで私も嬉しいよ。この景色を背景にみんなで写真を撮らない?」

「いいね、それ。ほら、雪も早く入ろうよ。」

「ちょっと待って、急かさないでよ。」

雪は二人にくっつきながらこの綺麗な海をバックに写真を撮った。キラキラとしていてまさに青春していた。

「ほら見てよ、いい感じじゃん。」

日向はそう言って今撮った写真を雪達に見せた。三人とも笑顔でとてもいい写真だった。普段から写真なんて撮らないため新鮮だ。

「この写真素敵だね。一生の宝物にするから。」

「いや、梓ってばなんか重くない?私も宝物にはするけど。」

写真を見て楽しそうにしている梓に少し呆れながら雪は再びとても綺麗な景色を覗いた。昔と全く変わってない景色にノスタルジーを感じているとみんながゾロゾロと展望台を降りて行く。

「あれ、みんな早くない?もっとゆっくり見たらいいのに。」

「まあ、ここにいれる時間は少ないからな。みんな海や売店の方が興味あるんだろ。」

さっきまではたくさんの人がいたのに一気にすっからかんになり、灯台の上には雪達しかいなかった。そう思っていると後ろから突然誰かが抱きついて来た。

「これで、やっと雪ちゃんと一緒にいれるよ。私も一緒に回っていいよね?」

「青葉がどうしてここに?他のみんなはどうしたの。」

人がいなくなったことを見計らって現れた青葉に雪は首を横に傾げる。人がいない場所で話しかけてくれるのは嬉しいが青葉がいなくなったら周りのみんなはざわつくんじゃないだろうか。

「ふっふっふ、少し一人で回りたいって言ったらみんな分かってくれたよ。ほら、少しの時間でいいから一緒に回ろう?」

そう言って笑う青葉に雪はどうしようか考える。

「いいの雪?また誰かに目をつけられるかもよ。」

「そうだよ。渡瀬さんは私達と回ろうよ。」

「やーだ、私は雪ちゃんと一緒がいいの。お願い!」

あまり歓迎してなさそうな二人と抱きつきながら懇願してくる青葉に雪は頭を抱えながらもなんとか決断する。

「まあ、少しでいいなら一緒に回ってもいいよ。ただ抱きつかないこと!少しでも他の生徒がいたら距離をとること!分かった?」

雪が厳しく忠告すると青葉は笑顔で頷く。

「雪ちゃんは優しいね。大好き!」

「ちょっと、だから抱きつかないでってば。」

早速約束を破って抱きついてくる青葉に雪はこの先大丈夫か心配で仕方なかった。

雪達は不安でため息を吐くがまだ遠足は始まったばかりだった。

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