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遠足

「おい、雪ってばそろそろ起きろよ!今日は遠足じゃねえのか?」

「ん、遠足なんて行かないよ。今日はもう休むから。」

流星はいつものように雪の布団を剥がしながら起こそうとするが雪は頑張って抵抗していた。今回ばかりは雪も折れるわけにはいかなかった。

あれから数日が経って遂に雪の大嫌いな遠足の時間になってしまった。遠足なんて疲れるだけだし陽キャがうるさいしで最悪なイベントだ。

木下に目をつけられているせいで青葉と関わると大変なことになるし部屋でゆっくり過ごしていた方が楽だ。

確かに日向や梓といろんな場所に行けるのは楽しそうだけど今まで遠足にいい思い出はなく雪には行きたくない気持ちの方が大きかった。

「はあ、お前ってば本当に青春したがらねえよな。いい加減だらけてるとお母さんに怒られるぞ。」

「別に私がどうしようと関係ないじゃん。これくらい放っておいてよ。」

雪はそう言いつつ流星を睨みつけた。遠足なんて行かなくても成績には響かないし雪がいなくてもクラスメイトが困ることはなかった。

雪は今日のために昨日から冷水に浸かったりしたが風邪を引くことが出来ずただ虚しいだけだった。こうなったらズル休みをするしかなかった。

「あのなあ、そう言う問題じゃないだろ。俺たちはお前の心配をして。」

『ピンポーン』

雪と流星が揉めていると一階からチャイムの音が聞こえる。

「こんな時間にチャイムなんて日向か?とりあえず俺は戻るから遠足には絶対に行けよ。」

「やだ、今日は絶対休むから。」

呆れた様子で見る流星に雪はあっかんべーして布団にくるまった。

お母さんや流星のようなコミュ力の高い陽キャには雪の気持ちなど分かる訳がないのだ。

日向が来ようが雪はここから一歩も動くつもりはなかった。そして少しするとすぐに雪の部屋の扉が開いた。

「おはよう雪ちゃん!今日は遠足日和のいい天気だね。」

「なっ、なんで青葉がここに?」

扉から入ってきたのは日向ではなく青葉だった。青葉はいつものように笑顔で雪の布団を剥いでいた。

「えへへ、今日も雪ちゃんと一緒に行きたいなと思って迎えにきたよ。ほら、一緒に行こうよ!」

そう言って笑う青葉に雪はうんざりする。青葉は気楽そうで羨ましい。

「私は遠足に行く気なんてないから。だから一人で言ってよ。」

雪がだるそうに答えると青葉は驚いた表情で雪に抱きつく。

「な、なんでなの?遠足は楽しいんだし一緒に行こうよ。遠足だけ休むなんて意味分かんないよ!」

「無理、遠足なんて楽しくないし疲れるだけだから。」

雪は昔から集団行動が嫌いで遠足も嫌々行っていた。そもそもみんなで外に出て何が楽しいのか。外に出るなんて雪には地獄だ。

だから今も青葉がキラキラとした表情で見ているが雪は気にしないことにした。最近はずっと青葉に流されているから今回ばかりは流されないようにすると誓ったのだ。

「むぅ、雪ちゃんがいないとつまんないよ。絶対に楽しいから行こうよ!」

「だから嫌だってば。なんでそんなに私を連れたがるの?」

一歩も引く気のない青葉にどうしようか悩んでいるともう一度ドアの開く音がした。

「おーい、雪ってば早くしないと遅刻するよ。ってなんで朝比奈さんがここに?」

雪の部屋に日向までやって来てゴミを見るような目で雪を見ていた。ベットの上で青葉が抱きついていたせいで勘違いしているようだった。

「こ、これは違うから!ただ青葉が抱きついてきただけでいかがわしいことをしてる訳じゃないから!だからその目はやめてよ。」

「チッ、雪ってば本当にいい性格してるよね。それで朝比奈さんはどうしてここに?」

とりあえず誤解は解けたのか呆れながらも青葉を引っ張って離してくれる。日向は話を分かってくれるからありがたい。

「私はただ遠足に行きたがらない雪ちゃんを無理矢理連れて行こうとしてただけだよ?垣根さんも雪ちゃんに来てほしいよね?」

青葉の発言に日向は立ち止まるとそのまま雪をベットから引き離そうとしだす。突然の裏切りに困惑しつつも雪は抵抗した。しかし雪は抵抗しようとするが二人には敵わなかった。

「はあ、雪ってば流石に遠足は行こうよ。ほら、早く布団から出な。」

「ちょっと、二人とも急に引っ張らないでよ。私は絶対に行かないから!」

ベットを掴んで抵抗するが二人に引っ張られて雪はベットの外へと引っ張られてしまう。既に雪に選択肢は一つしかなかった。

「ほら、一緒に行こう?」

二人の声が重なり雪は断れなくなる。雪は諦めて首を縦に振った。

「はあ、分かったよ。行けばいいんでしょ?」

何度目か分からないが二人に勝てないことを理解した雪は無言で制服に着替え初めた。










「えへへ、雪ちゃんと登校できるとやっぱり幸せだよ。遠足も一緒に回ろうね?」

「それは無理。私は日向達と一緒に行動するから。」

雪はふらふらとやつれながらも二人に掴まってなんとか学校を目指した。あと少しで学校につくが歩くたびに体が重くなっていく。

それに相変わらず距離が近い青葉はともかく日向までいつもより距離が近かった。日向は少し怒っているような雰囲気するある。

「まさか朝比奈さんが僕たちと同じ磯部町に住んでるとは思わなかったよ。同じ中学校にいて合わないことなんてあるの?」

「そ、それは何というか偶然だよ。クラスが違ったら意外と気づかないものじゃん!」

青葉はかなり動揺しながら早口で喋っていた。雪だけでなく日向まで分からないとは青葉は一体何者なのだろうか?

「はあ、よく分からないけどもっと雪から離れなよ。」

「なんで?今は誰もいないし少しくらいいいよね?」

雪から離させようとする日向と一切離れる気のない青葉はお互いに目を合わせていた。やはりこの二人はあまり仲が良さそうではない。

「いや、少し離れてよ。もう学校に着くしこの前みたいに誰かに見つかったら嫌だから。」

雪はそう言いながら青葉を引き剥がして日向の横側に回った。青葉はすごく残念そうな顔をして何故か日向は勝ち誇ったような顔をしていた。

青葉には悪いがこれ以上青葉と関わると雪の命が無いためしょうがないことだった。

「むぅ、雪ちゃんは気にしすぎだよ。私は雪ちゃんといたいだけなのに。」

「はいはい、とりあえずもう学校の中に入るから離れてよ。」

青葉は残念そうな顔をして雪の手を握っていた。

「分かったよ、それならまた後で会おうね。絶対にまた会いに行くから!」

「うん、とりあえずまたね。あと絶対にみんながいる前では話しかけないでよ。」

雪は青葉を軽くあしらってそのまま学校内へ入って行った。青葉はまだ納得してるようには見えなかったが退いてくれたことで雪はやっと解放された。

雪は疲れながらグランドを覗くとそこには既に殆どの一年生が集まっていた。バスが何台が停まっており、みんながそれぞれ騒がしくしていた。

「ふわあ、それにしてもすごい人だね。みんなワイワイしてるよ。」

「そりゃあ、年に一度しかない遠足だからな。ここまで嫌そうにしてるのは雪だけだよ。」

今にも帰りたい雪はあくびをしながらグランドへ向かった。グランドには他の人と楽しそうに離している梓がおり、雪を見つけるとこちらに向かって走ってくる。

「二人ともおはよう。今日は楽しい遠足にしようね。」

いつも通り優しくふわっとした梓は可愛らしく周りもざわついていた。今日の梓は普段と違うポニーテールでいつも以上にオシャレに力を入れていた。

「いや、私は別に。って梓は他の友達と回らなくていいの?」

雪が頭を傾げると梓はもじもじと雪を見ていた。何故梓は友達が多く、さっきも他の人と話していたのにわざわざ雪のグループに来るのだろうか。

雪といて楽しいのだろうか?

「わ、私は渡瀬さんと回りたいから。ダメかな?」

「ま、まあ梓がいいなら私は構わないけど。」

クラスの陽キャよりもわざわざ教室の端っこにいる陰キャの雪を選ぶあたり梓も変わり者なのかもしれない。

「そ、それとこの髪型どうかな?似合ってると思う。」

「うん、今日の梓も可愛いよ。そんなに遠足が楽しみなんだね。」

雪は無難に褒めたつもりだが何故か梓は顔を真っ赤にしていた。そして隣を見ると日向が暇そうにあくびをしていた。

「それじゃあ、そろそろバスに乗らない?」

日向の発言に頷いて雪達はバスの席を確認することにした。バスの座席配置は先に決められており、これは雪にとって何よりも大事なことだった。

もし、陽キャの隣とかだったらこの遠足中ずっと地獄だ。隣からもコイツつまらないなという目で見られながら過ごすことになってしまう。それだけは何としても避けたかった。

「お願いします。どうか梓か日向の隣にしてください。」

雪は神に祈りながらバスの席を確認した。緊張の中雪はなんとか目を開く。するとそこには木下那月と書かれていた。

「お、終わった。私の遠足が。」

雪はショックのあまりその場に倒れた。よりにもやって木下の隣なんて悪運にも程がある。絶対に何か言われてしまうではないか。

「わ、渡瀬さん大丈夫?そんな絶望した顔しないで。」

「いつものことだからほっとけばいいよ。それより僕たちも早くバスに乗ろうよ。」

既にぞろぞろとバスに乗る生徒が増えて、もうすぐ出発の時間が迫っていた。雪は泣きながらバスの席に座ることにした。

バスの中では既に木下がおり、雪を見て顔を歪めていた。

「・・・なんで渡瀬が私の隣なの?しかもなんか泣いてるし。」

「と、とりあえずよろしく。お互いにいい遠足にしようね。」

雪の問いかけにも木下は応じずただ雪を見ていた。既に二人の間には沈黙と気まずさの地獄の雰囲気が出来上がっていた。

「別に私は遠足なんてどうでもいい。それより青葉にはあまり近づかないで。」

「も、もちろんだよ。安心して。絶対に近づかないから!」

雪は恐怖のあまり大きく首を縦に振ることしかできなかった。色々と言いたいことはあるがとりあえず雪は今回ばかりは絶対に大人しくしようと心の中で違うのだった。

「ええ、では今から高校一年生の遠足を開始します。」

バス内でアナウンスが流れて本来なら楽しいはずの遠足が始まったのだが雪にとっては地獄のバスツアーの始まりだった。

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