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入部体験

「じゃあ、僕は部活に行くから。」

「それじゃあまたね、渡瀬さん。」

「うん、二人とも頑張って。私は家でゆっくりするよ。」

雪はいつもの様に学校が終わって部活へと向かう二人を手を振って見送る。今日は何も予定がなく、家に帰ってゴロゴロするだけだった。

昨日の疲れもまだ取れてないし昼休みに木下と話したせいで既に限界だった。こういう時は早く帰ってゲームをするに限る。

教室にはまだたくさんの人がおり、とても騒がしい。雪はまた変なことに巻き込まれる前に家に帰ることにした。しかし雪が教室を出ようとするといつもよりテンションの高い青葉がやって来る。

「おーい、雪ちゃん。私と一緒に入部体験に来てよ!」

「な、何で私が?私は部活に入る気ないんだけど。」

青葉は周りにまだクラスメイトがいるのにぎゅっと抱きついてくる。木下に忠告されたばかりだというのにこんなことになるなんて思ってもいなかった。

「だって雪ちゃんが私をやる気にさせたんだもん。それに人は多い方がいいでしょ?」

そう言って可愛い顔で抱きつく青葉に雪はどうしたらいいか分からずにため息を吐く。クラスのみんなが見ているのに青葉は一切気にしないから困る。

ただこのまま青葉と入部体験なんてしたら雪の体が壊れてしまう。青葉には悪いが雪は一人で帰ることにした。

「私はその、用事があるから!だから先に帰るね。」

雪はそう言って教室を出ようとするが青葉に抱きしめられて逃げれなくなる。

「むぅ、雪ちゃんってばひどいよ。私は雪ちゃんと一緒に回りたいのに。」

青葉は泣きそうな顔で雪を見つめる。だがそれでもこれ以上青葉と関わると木下に殺される可能性がある。

だから本当は今すぐにも逃げたいというのに。

「なあ、今朝比奈さんのお願いを断らなかったか?」

「嘘でしょ?渡瀬さんって何様なの?」

雪が青葉の誘いを断ったせいかクラスは前と同じように騒ついていた。クラスメイトのほとんどが雪を見て居た堪れなくなる。雪はもう死にそうだったが木下がここにいないのだけが救いだ。

「分かったから!私も青葉と入部体験に行くから!」

流石にこの場の雰囲気に耐えられなくなった雪は青葉と一緒に入部体験に行くことにした。

「いいの?やったー、それなら早速入部体験に行こうよ。ほら、気になってた料理部に行くよ。」

「ちょっと、分かったからもう少しゆっくり行こうよ。ねえ、青葉ってば!」

雪の切実な叫び声も無視されてそのまま雪は料理部まで運ばれてしまう。結局青葉には勝てそうにない。しかもそこにはまさかの人物がいた。

「よーし、それじゃあ早速入部体験に行こうよ。ほら、二人とももっとやる気出して!」

青葉はそう言って雪と木下の手を無理やり引っ張った。料理部まで来たのはいいがとても今から体験をするような雰囲気ではなかった。

予想してなかった状況に雪は胃が痛くなる。まさか木下までいるなんて聞いてなかった。これじゃあ、雪が大変な目にあってしまう。実際、木下は今も不機嫌そうにしていた。

「ねえ、青葉がどうしてもって言うから来たのに渡瀬がいるなんて聞いてないんだけど?」

木下はいつもの様に鋭い目つきで雪を睨んでいた。昼間忠告されたばかりで余計怖い。しかもさっきから青葉が雪にくっついているせいで木下は既に爆発寸前だった。

「わ、私はやっぱり帰るね。よ、用事を思い出したから。」

青葉のお願いも聞いてあげたいが流石に背に腹は変えられなかった。雪は青葉から離れようとする。

「だーめ、ここまで来たんだからみんなで行こうよ。それに那月ちゃんも雪ちゃんを怖がらせたらダメだよ?」

「いや、でも私は。」

「とにかく、二人とも仲良くして。ほら、早く行くよ。」

戸惑う木下と既に辛い雪を気にする様子もなくそのまま青葉は料理部の教室へと向かった。

雪と木下はお互いに顔を合わせてため息を吐いた。もしかしたら木下も相当苦労してるのかもしれない。







「お邪魔しまーす。今日は入部体験に来たんですけど大丈夫でしたか?」

青葉がドアを開けるとそこには煌びやかな料理が並ぶまさに理想の料理部。ではなく一人の先輩らしき人がぶつぶつと独り言を言いながら料理を作っていた。

「あら、誰か来たのかしら。って可愛い子達じゃない。私に何かようでもあるの?」

先輩らしき人は雪達を見ると優しい表情で笑いかける。さらさらとしたココア色の髪に透き通った肌はとても綺麗だった。それに何だか甘い匂いがする。

「私達入部体験に来たんですけどお時間大丈夫でしょうか。ってどうしたんですか?」

先輩らしき人は何故か突然泣き出して雪はギョッとする。

「うう、遂にこの部活にも新しい部員が来てくれるようになったのね。しかも全員可愛くて私嬉しくなっちゃうわ。」

先輩らしき人はそう言いながらキラキラした目で雪達を見ていた。もしかしたらこの人は相当ヤバい人かもしれない。

この教室にはこの人以外に誰もいないしもしかしたら部員はこの人だけなのかもしれない。

「はあ、とりあえずこの部活のことについて知りたいです。」

「あら、ごめんなさい。また私だけの世界に入っていたわ。とりあえず説明をするから椅子に座って。」

先輩らしき人が用意した椅子に座り、雪は深く考え事をする。今ならまだ逃げてもいいのではないのだろうか。

雪はそう思い、立ちあがろうとするが木下に強い力で腕を握られる。

「一人だけ逃げようとしないで。こうなったら渡瀬も道連れだから。」

木下はコソコソと怖い顔で呟く。いよいよ逃げられなくなった雪は諦めて先輩らしき人の話を聞くことにした。

「まずは自己紹介からするわね。私は元宮紅葉よ。私は二年生で一年の時からこの部活に入ってるんだけど先輩達が卒業しちゃって私一人だったの。だから貴方達が入ってくれて嬉しいわ。」

「いや、私はまだ入るなんてひと言も。」

「よろしくお願いします紅葉先輩。料理部ってどんなものを作るんですか?」

嫌そうにする木下に対して青葉はやる気に満ち溢れていた。その間雪は紅葉先輩の作ったクッキーを食べていた。このクッキーは甘さが丁度よくてとても美味しい。

「そうね、いろんな料理を作るけどやっぱり基本的にはお菓子になるわね。料理ってのはみんなでやった方が楽しいから早速みんなで作って見ましょうか。貴方達は料理経験ある?」

「私もお菓子作りが好きでよく作ってます!」

「私も偶になら作る。渡瀬は?」

料理が全くできない雪は無言で震えることしかできない。そもそも料理なんてしようとすらしたことがない。

「えっと、その料理は出来なくて。ご、ごめんなさい!」

「あら、別に料理が苦手でもいいのよ。誰だって得意不得意はあるもの。私が優しく教えるから安心して。」

「あ、ありがとうございます。」

紅葉先輩は優しく笑うとそのまま準備をしにキッチンに向かって行った。紅葉先輩は暖かくて落ち着く。紅葉先輩は優しくて可愛いし料理部も案外悪くないかもしれない。

雪が紅葉先輩を見ていると青葉が突然雪の手を強く握った。

「むぅ、雪ちゃんも早く準備しようよ。ほら、このエプロンを着て!」

「ちょっと、青葉ってば怒ってる?急にどうしたの。」

何故か機嫌が悪そうな青葉に雪は疑問を持ちながらもエプロンを来て料理の準備をする。

「チッ、やっぱり渡瀬は見てて腹立つ。何でこいつはこんなに鈍感なの。」

木下にも睨まれているが雪はもう深く考えないことにした。







「だから、どうやったらここまで間違えれるの?塩と砂糖が違うから!」

「ご、ごめん。ちゃんとレシピ通りやったんだけど。」

怒鳴り散らかす木下に怯えながら雪は自分の作ったクッキーを口に入れる。あまりにもしょっぱくて食べれそうにない。

あれから雪は紅葉先輩に教えられながら初めてのクッキー作りに挑戦していたのだが全てうまくいかずに木下を怒らせていた。

「ほら、もう一回作る!クッキーなんて分量さえ合ってれば作れるから。」

「ごめんね?私がもっと教えるのが上手かったら良かったんだけれど。」

紅葉先輩も申し訳なさそうに雪と木下を見ていた。

というのも最初は紅葉先輩に料理を教わっていたのだがあまりにも教えるのが下手だったため、代わりに木下が教えることになった。料理部に入部する人がいなかったのも今なら分かる気がする。

「うう、私も教えるのは苦手だよ。やっぱり那月ちゃんは頼りになるなあ。」

「べ、別に、青葉がどうしてもって言うから教えてるだけ。ほら、早くもう一度焼いて。」

雪は木下の言われた通りにもう一度クッキーを焼いた。木下は教え方こそ怖いが丁寧に説明しながら教えてくれるため、すんなりと頭に入ってくる。

「それにしても木下さんって料理が上手だよね。普段からお菓子とか作ってるの?」

「別に。親の帰りが遅いから自分で料理を作る時があるってだけ。」

雪の質問に木下はあっさりと答える。木下も色々と大変なのだろう。

「それにしても三人とも料理部には入ってくれるのよね?廃部しない為に部員があと三人必要なの!」

キラキラとした目で見る紅葉先輩に雪はどうしたらいいか分からない。本当は部活に入部なんてしたくないがこのまま入部せずに料理部が廃部になるのも嫌だった。

「私はもちろんやります。ほら二人ともやるよね?」

「・・・まあ青葉がいるししょうがなく。ただ毎日は来れないかも。」

「あら、二人とも嬉しいわ。それで渡瀬さんはどうするの?」

紅葉先輩の言葉に雪は真剣に考える。雪だって青葉みたいに前に進んでみたいという気持ちはある。ただそれでも前に進むのは怖いし雪の自由時間が減るのも嫌だった。

「えっと、私は。」

雪はどうしたらいいか分からずに目を閉じた。雪はやっぱり集団に入るのが怖くて苦手だった。いつだって一人でいた方がいい。

そう思っていると青葉が優しく背中を叩く。そしていつものような笑顔で雪に優しく微笑んだ。

「雪ちゃんは悩んでるかもだけどやっぱり私は雪ちゃんと一緒に部活をしたい。ほら、一緒に進もうよ。」

「そうよ、私も教えるのは下手だけど頑張るから!四人で料理部を盛り上げましょう。」

そう言って笑う二人に雪は少し気楽になる。確かに集団は嫌いだが少なくともこの二人となら上手くやっていけるような気がした。ただ木下とだけは上手くやっていける自信がなかった。

「ほら、那月ちゃんも雪ちゃんがいた方がいいよね?」

「まあ、人は多い方がいいんじゃない?それに女子高生で料理も出来ないってやばいし。暇な時は私が教えるから。」

木下は少し頬を染めながら口にする。もしかしたら木下とも案外上手くいくかもしれない。雪は一度現実から逃げたけど青葉達とならもう一度進むのも悪くないかもしれない。

雪はまだ不安だったがそれでも大きく深呼吸をする。もう一度だけ進んでみよう。

「私もこの部活に入ります。みんなでこの料理部を盛り上げたいです。」

雪は覚悟を決めて料理部に入部することにした。やるからには全力でやってみせる。

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