忠告
「そ、それで用事って言うのは?」
雪は震えながらずっと睨みつけてくる木下を見ていた。わざわざ誰もいない屋上に呼ぶ時点で雪はすでに嫌な予感がしていた。
「まずはこの写真について説明して。何で貴方と青葉が手を繋いでいるの?」
木下のスマホに映ってる写真に雪はどうすればいいか深く考える。まさか誰かに見られているなんて思いもしなかった。
「た、偶々学校の近くで出会って一緒にいただけだよ。手を繋いでいるのも角度的にそう見えるだけだから。」
雪は何とかして誤魔化そうとする。青葉を家に止めたことが木下にバレたらおそらくただじゃ済まない。穏便に済ませるために嘘をつくのもやむを得なかった。
「ふーん、その割には距離も近いし仲良さそうに見える。」
「それも気のせいだよ。第一人気者の青葉がクラスの端っこにいる私なんかと一緒にいると思う?」
雪は自分で言ってて悲しくなりながらも何とか反論する。しかし、木下はずっと疑い深い顔で雪を見つめていた。
「思わない。だからこそ貴方と青葉が仲のいいことが信じられない。青葉は何故か貴方のことを気に入っている。」
「そんなことないから。私と青葉はただのクラスメイトだよ。」
「嘘、屋上の時といいショッピングセンターの時といい青葉は異様に貴方にくっついていた。青葉は警戒心が強くて人に抱きついたりはしなかった。なのに何で。」
木下のその言葉に雪は何も言えなくなる。というか木下はとっくに気づいているのだと思う。
雪だって最初は青葉とただのクラスメイトだと思っていたのだ。しかし、駅で助けたことをきっかけにくっつかれることになって気づいたら友達になっていた。
「正直に言って。青葉と貴方はどういう関係なの?」
青葉はすぐにくっついて来るしずっと振り回されるし苦手な部分もあった。しかし青葉とは似てるところもあってこんな陰キャな自分にも優しくしてくれる。
そんな青葉のことを雪は友達だと思っていた。青葉とは不釣り合いだと言われてもそれでも雪は青葉と一緒にいたかった。
だから雪は今もずっと睨みつける木下の前に立った。怖くて震えているがそれでもこの気持ちを伝えたかった。
「青葉は私の友達だよ。私じゃ青葉とは不釣り合いかもしれないけどそれでも離れる気は無いから。」
雪が自分の気持ちを伝えると木下は少しの間黙って、その後ゆっくりと口を開けた。
「・・・そう。それなら別に仲良くすれば。貴方が青葉と仲良くしようが関係ないし。」
木下はプイッと首を横に向けながらそう口にする。その態度に雪は唖然とする。
「え?木下さんは私と青葉が仲良くするのが嫌なんじゃないの?」
木下はずっと雪を嫌ってるようだったがそれは雪が青葉と仲良くしているからではないのだろうか?
さっきまで雪を問い詰めていた理由も分からない。
「別に私はそこまで心が狭くなんてない。ただ私が聞きたいのは貴方と青葉が付き合ってるかどうかだけ。」
木下のその言葉に雪はひどく安心する。てっきりもっと詰め寄られると思っていた。昔のようなことになるかと思ってしまった。
「別に青葉とは付き合ってないしそもそも私は青葉のことが好きじゃないから。」
青葉のことは友達だとは思っているが青葉に対して恋愛感情は一切ない。そもそも雪は恋愛などに一切興味がない。どうやら雪は木下にひどい勘違いをされていたようだ。
「・・・本当に?その言葉は嘘じゃないよね。」
木下は真剣な表情で雪を見つめる。その質問に雪は本気で答える。
「もちろんだよ。青葉はただの友達だから!別に変なことはしてないから。」
「そっか、それなら良かった。まだ私にもチャンスがあるんだ。」
木下は雪の答えを聞いて少し笑っていた。いつも無表情の木下の笑顔はとても新鮮だった。そしてそんな木下を見て雪に電流が走る。
「もしかして木下さんって青葉のことが好きなの?だから私のことを嫌っていたの?」
「そう、私は青葉が好き。だから貴方のことを問い詰めてたし、私は貴方のことが嫌いだった。でも青葉と付き合ってなくて安心した。」
無表情でそう語る木下に雪は驚きを隠せなかった。
青葉のファンが周りにもこんなにいるとは。
「はあ、ここまで来たら少し話がしたいからここに座って。」
「う、うん。ありがとう。」
雪は木下の隣に座り木下の恋バナを聞くことにした。それにしても木下が青葉のことを好きだったとは。
雪に当たりが強かったのも納得だ。それにしても青葉と付き合っていると勘違いされてるなんて思いもしなかった。
「私は高校で出会った時から青葉に一目惚れした。明るくて優しくて何より顔がいいまさに完璧の美少女だと思う。」
「そっか、木下さんは最初から青葉のことが好きだったんだね。」
青葉は男女ともにファンが多いのは知っていたが蓮や木下まで青葉のことが好きとは何とも罪な女の子だ。
「青葉は誰にでも優しいけどスキンシップは余りしないし恋愛にも興味がなさそうだった。だというのに何故か貴方にだけベタベタしてる。」
「ちょっと、睨まれても困るよ。私だって分からないんだから。」
今の木下はメラメラと燃えてるように熱く睨んでいた。やっぱり木下の話なんて聞かずに早く帰るべきだった。
「普段の青葉は明るく接してはいるけどどこか遠慮がちなところがあった。だけど貴方に見せる青葉の笑顔は他とは少し違う本物の笑顔だった。」
「そうなの?私には違いが全く分からないけど?」
ピンとこない雪は首を横に傾げた。すると更に木下の顔が怖くなっていく。やっぱり木下とは余り関わりたくない。
「青葉は間違いなく貴方のことを大切に思ってる。もしかしたら青葉は貴方のことを好きなんじゃないかと思うくらいには。」
「それだけはないから!青葉とは恋愛の話にならないしそもそも青葉も恋愛とか興味なさそうじゃん。」
青葉が雪を好いている?それこそ幻想もいいところだ。多分青葉は恩義を深く感じるタイプなだけだ。
「青葉が恋愛の話を避けているのは私も知ってる。だからてっきり貴方と青葉は付き合ってるものだと思っていた。でも違うんでしょ?」
「うん、本当に青葉とは何もないからね。だからその顔で私を見ないで!」
木下が青葉のことを好きなのも、青葉が雪にだけ特別なのも理解した。
つまり雪は行動によっては学校の生徒全員を敵に回す可能性がある。今まで以上に青葉と関わるときに周りに気をつけないといけないということだ。特に梓に嫌われたら雪はショックで倒れるかもしれない。
「貴方が、いや渡瀬が青葉のことを好きじゃないのは分かったからもういいよ。ただどうしたらそこまで仲良くなれるの?」
「私だって分からないよ!青葉とは高校で出会ってこの前仲良くなったばかりだし、てっきり青葉は誰にでもこんなものかと。」
雪は木下の地雷を踏まないように何とか事情を説明する。駅で助けたことだけじゃ説明がつかないほどに青葉が雪に懐いていることは誰の目から見ても明らかだ。本当にどうしてこうなったのか。
「まあ、何でもいいよ。貴方と青葉が付き合ってないことが分かったから。とりあえず私はこれで。・・・待って、この匂いまさか。」
木下が立ち上がり雪はホッとしていたが突然雪の匂いを嗅いでくる。もしかして木下って変態なのか?
雪が普段使ってるシャンプーは特に変哲もない市販のやつなのだが。
「ど、どうしたの急に。まだ何かあるの?」
木下は少しの硬直の後ボソボソと呟きながら雪の方に顔を向ける。
「この匂い、今日の青葉の匂いと同じ。もしかして渡瀬、青葉とお泊まりした?だから今日の朝一緒にいたんだ。」
木下は今までの中で一番悍ましい表情で雪を見ていた。青葉とお泊まりしていたことだけはバレないようにしようとしたのにまさか匂いでバレるなんて。
「ねえ、付き合ってないのにお泊まりするの?やっぱり二人には何かある。渡瀬って嘘つきだね。」
そう言って勘違いしたまま屋上を出ようとする木下を雪は必死に止めようとする。このままこの事がバレたら本当にまずい。
「えっと、木下さんちょっと待ってよ!これには訳があって。」
「ふん、私は負けない。私の方が青葉のことを好きだから。渡瀬に青葉は渡さない。それとやっぱり私は渡瀬のこと嫌いだから。」
木下はそのまま屋上を出て行き、雪は一人その場で崩れ落ちた。最初こそいい感じに進んでいたのに最後は結局こうなる定めなのか。
果たして木下が他のクラスメイトにこのことをバラすのかだけが気がかりだが今の雪にできることは何もなかった。それと青葉との二人きりの接触はなるべく避けることにした。
「ねえ、私のこれからの学校生活はどうなるの?」
大きな深呼吸をして雪も屋上から出るのだった。




