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一緒にいたいから

「はあ、疲れた。なんでこんなことになったんだろう。」

先に部屋に戻った雪は独り言を呟きながらベットにダイブした。やっと一人きりになれて落ち着く。

青葉はうるさいしお母さん達も色々言ってきて面倒くさい。やっぱり一人の時間こそ至高だ。まあ、その時間もすぐに終わるのだが。

「はあ、青葉は今日ここで泊まるんだよね。大丈夫かなあ。」

とてもあの青葉が何もしないとは思えない。変なことをしなければいいのだが不安で仕方がない。

青葉は陽キャだから陰キャの気持ちが分からないのかもしれないが悪気なくやらかすからたまったものじゃない。今日のことだってクラスに言いふらす可能性があるし怖い。

「一体どうしたらいいんだろう。もう眠いし早く寝よっかな。ってスマホが鳴ってるや、誰からだろう?」

突然の着信音に驚きながらも雪は電話に出た。こんな時間に電話を掛けてくる人なんて一人しかいない。

「もしもし、日向ってばこんな時間に電話なんてどうしたの?」

「別に暇だったから掛けただけだよ。偶には雪とゲームをしたいなと思って。」

確かに最近は日向が忙しかったりお互いの事情が合わなかったりであまり一緒にゲームをできていなかった。日向とはよく通話しながらゲームをするのだが今日ばかりはゲームをする気にはなれなかった。

労働による痛みと睡魔が同時に襲ってきてもう限界だった。

「ごめん、今日は疲れたしまた今度やろうよ。今日はもう寝るから。」

「まだ早いのにもう寝るの?もしかして今日何かあった?」

勘の鋭い日向は当たり前の様に雪の異変に気づいていた。普段から日向は雪のことをよく見ている。

「そうなんだよ、今日は色々とあって限界だよ。バイトだって初めてしたし。」

既に限界だった雪は日向に悩みを吐くことした。雪の愚痴を聞いてくれる人なんて日向くらいしかいない。天使の様な梓にはとても愚痴なんて言えないし日向くらいが話し相手にも丁度良かった。日向はほどほどに雪の話を聞いてくれる。

「雪がバイト?ははっ、何の冗談だよ。雪にバイトなんてできる訳ないじゃん。」

「冗談じゃないってば、色々あって今日だけ手伝わされたの!本当に大変だったんだから。」

他人事のように笑う日向に雪はムッとする。この大変さを日向にも分かって欲しかった。

「それで一体何のバイトなの?」

「えっと、何というかその・・・メイド喫茶だよ。」

雪はあまり言いたくなかったがしょうがなく恥ずかしがりながらも口にする。

「雪がメイド?ハハっ、何の冗談だよ。雪がメイド喫茶で働くなんて場違いすぎじゃん。」

「だから笑わないでよ!これでも大変だったんだから。」

みんなメイド喫茶で働く雪をバカにするがこれでも大変なことを理解してほしい。確かに自分でもおかしいとは思うが。

「ごめんごめん、だってあの雪がよりにもよってメイド喫茶で働くだなんて面白すぎるんだもん。一体何があったのさ?」

「そ、それは言えないけどとにかく色々あったんだよ!もう、私には限界だよ。ふわあ、もう眠い。」

雪は大きなあくびをしながらうさぎのぬいぐるみをぎゅっとする。まぶたは重く今にも寝てしまうそうだった。

雪は何とか持ち堪えつつ日向との通話を続けようとする。しかし突然ドアが開き青葉がやって来くるとすぐに雪の後ろから抱きついてくる。

しかもいつもの青葉よりも雪を抱きしめる力が少し強かった。

「むぅ、雪ちゃんってば誰と電話してるの?早く私と遊ぼうよ!」

「その声もしかして朝比奈さん?どうしてさ朝比奈さんが雪の家にいるの?」

突然聞こえる青葉の大きな声に日向も疑問に思っていた。あまり青葉を家に泊めていることは誰にも知られたくなかった。

「だから色々とあったんだよ。とりあえずもう眠いから今日はまたね。」

「ちょっ、まだ話は終わって。」

雪は慌てて日向との通話を切った。これ以上話すと雪が疲れるし何より青葉が何か余計なことを話す危険性があった。日向ならこれくらいしても多分怒ることはないし大丈夫だろう。

強く抱きしめてくる青葉に呆れながら雪はそっと目を閉じる。青葉の体は温かくてこのままここで眠りたい。

「えへへ、それじゃあご飯も食べ終わったしまた二人でゲームでもしよう?私はもっと雪ちゃんと遊びたいから。」

「無理、私はもう寝るから青葉一人で遊んでよ。」

雪はそう言ってベットでぐったりとする。流石に今から青葉を相手にする気力はなかった。

「やーだ、私は雪ちゃんと遊びたいよ。ほら、もっと私に構ってよ。」

「何で青葉はそんなに元気なの?私はもう眠いから話しかけないでよ。」

常に元気そうな青葉を少し見習いたい。これが普段全く外に出ない雪との差なのだろうか。

とりあえず青葉には悪いが雪は青葉を無視して寝ることにした。

「ぐぬぬ、それなら一緒にお風呂に入ろうよ。それならいいでしょ?」

「えっ、お風呂?ま、まあそれで落ち着いてくれるなら。」

「本当に?それなら今すぐお風呂に入ろうよ!ほら、早く立ってよ。」

どうせお風呂には入らないといけないし諦めて一緒にお風呂に入ることにした。

青葉は一歩も引き下がることなく雪に抱きついて来る。青葉は本当に恐ろしい。









「一緒にお風呂に入るのはいいけど変なことをしないでよ。」

雪は洗面所で服を脱ぎながら青葉を睨みつける。青葉のことだから変なことをしてくる可能性がある。

「安心してよ。別にそんなことしないから。雪ちゃんは私のことを何だと思ってるの?」

青葉はそう言いながら服を脱いでいた。というかクラスの人気者と二人でお風呂というのは冷静になるとかなりマズいのではないだろうか。

「青葉って肌綺麗だね。やっぱり手入れとかしてるの?」

青葉の肌はとても綺麗で真っ白だった。男女問わずモテモテなのも納得だ。それに青葉の胸はやはり大きくて何だか虚しい気分になる。雪だって後二年ほどあれば大きくなるはずなのに。

「そ、そんなに見つめられると照れちゃうよ。ほら、早くお風呂に入ろう?」

青葉はさっきまで真っ白だった肌を赤くしながらお風呂場へと向かっていった。普段あれだけベタベタしてくるのにこういう時だけ恥ずかしがって新鮮だった。

とりあえず雪もお風呂場へと向かった。この疲れた体を癒すには熱々のお湯に浸かるしかない。

「ふう、やっぱりお風呂は気持ちいいね。ちょっと二人はきつい気がするけど。」

やはり一般家庭の浴槽に二人で入るのはかなりきつい。それに青葉の足や手が当たって何だかいやらしいことをしてる気分になる。

「でも雪ちゃんとお風呂に入れて嬉しいよ。ほら、雪ちゃんの体モチモチしてて可愛いし。」

「だからあまり触らないでよ。それにモチモチしてるとか言わないで。」

結局約束を破って体を触ってくる青葉にため息を吐きつつ、浴槽から出て体を洗うことにした。まだ体は重く疲れはとれなかった。今度からもっと運動をしよう。

「それにしても今日は楽しかったね。雪ちゃんとずっといれて嬉しいよ。」

「はいはい、それでも今日はこのあとすぐ寝るから。」

「なんで?せっかくなんだし私ともっと遊ぼうよ。ほら、お泊まりと言ったら夜遅くまで起きるものじゃん!」

相変わらず子供の様にごねる青葉に雪はこれ以上付き合いきれなかった。雪は体を洗うとシャワーで洗ってすぐにお風呂場を出ることにした。

「私は先に出るから。寝るのは邪魔しないでね。」

「やーだ、待ってよ雪ちゃん。って泡が。」

なんと雪を追いかけようとした青葉が石鹸の泡で滑って、気がつけば雪の胸をがっつり触っていた。雪にはもはや恥ずかしさも怒りもなく雪の目の前にあるボリュームの違う胸を見て虚しさだけが広がった。

「えっと、これは違くて。その雪ちゃんの胸は小さくて柔らかいね。」

「・・・とりあえず手をどけて。私はもう戻るから。」

何故か青葉は雪以上に顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。こんなに恥ずかしそうにしてる青葉は初めて見る。

「青葉、とっても大きかったな。私だっていつか必ず大きくなってやるから。」

先にお風呂を出た雪は廊下で一人虚しく呟く。雪にだってまだ希望はあった。

ちなみにこのあと少しの間、青葉は目を合わせてはくれなかった。








「雪ちゃんの布団ふかふかだね。これならぐっすりだよ。」

「青葉は寝相とか悪くないよね?途中で絶対に起こさないでよ?」

お風呂から上がった雪達は結局遊ばずにそのまま一緒のベットに入った。最初は青葉の布団を別に用意していたが一緒のベットじゃないと暴れると脅されたことにより同じベットで寝ることになったのだ。何はともあれ早く眠れるなら文句はない。

「むぅ、少しでいいからお話ししようよ。ほら、恋バナとかさ。」

「私は好きな人とかいないから。逆に青葉は好きな人とかいるの?」

雪の質問のあと部屋に少しの間沈黙が続いた。気になって目を開くと顔を真っ赤にしてもじもじとしている青葉がいた。

「わ、私はいるよ?ずっと大好きな人なんだ。優しくてカッコよくて可愛いんだ。」

「そっか、青葉にも好きな人とかいるんだ。何だか意外かも。」

青葉の可愛さなら告白したらOKされそうだが青葉の好きな人とは一体誰なんだろうか。気になって仕方なかったがあまり深いことは聞かないでおくことにした。

「雪ちゃんは好きな人とかいないだよね。えへへ、ピュアで可愛い。」

「もう、揶揄わないでよ。それじゃあ、おやすみ。」

「うん、おやすみ雪ちゃん。また明日いっぱい話そうね?」

嬉しそうに笑う青葉を見ながら雪はそっと目を閉じる。

雪だって今日一日青葉といて満更でもなかった。確かに騒がしいところもあるが明るくて元気な青葉を見てると楽しくなる。だから偶にはこういった日があってもいいとは思う。

「ねえ、雪ちゃんこれだけは言っておきたいの。私雪ちゃんと友達になれてから毎日が楽しいよ。学校でも家でも私に居場所があるのか分からなかったから。」

「・・・そっか、青葉でもそんな風に悩むことがあるんだね。」

雪はよく自分に居場所があるか分からない時がある。クラスではほぼ空気だし家でもお母さんや流星の様に明るくはなれない。みんなと合わせられない時辛いなと感じることがある。

しかし青葉も同じことを感じているとは思わなかった。青葉ならいくらでも居場所があると思っていた。いつも誰かといて誰にでも明るい青葉がそんな風に思うのは意外でもありながら少し嬉しかった。青葉とは違う世界に住んでいると思っていたから。

「うん、私も雪ちゃんとそんなに変わらないよ。だから私とずっと一緒にいて。私から離れないで。」

青葉の切実な言葉が雪の心臓に突き刺さる。雪はもう二度と誰かを裏切りたくはなかった。そしてもう誰にも裏切られたくはなかった。

「私からは絶対に離れないから。だから安心して。」

雪はそっと青葉の手を握った。暖かくて優しくてずっと握っていたい。

「約束だからね。絶対私から離れないでね。」

青葉は力強く雪の手を離そうとしなかった。そして気がつけば雪と青葉は深い眠りについていた。

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