悪く無いかも
「ほら、今日はたくさん作ったから二人ともいっぱい食べなさい。」
「やった、私の大好きな鮭料理もある!」
「わあ、どの料理も美味しそうです。」
青葉とのゲームが終わり、食卓へ向かうとそこにはたくさんのご飯が用意されていた。唐揚げや鮭など雪の好物もたくさんある。
「やっと来たか、雪も早く食べてくれ。俺一人じゃこの量は食い切れねえ。というかお母さんは張り切りすぎなんだよ。」
食卓には既に流星がおり、大盛りのご飯を食べていた。
「別にいいじゃない。青葉ちゃんがいるから少し本気出しちゃったのよ。青葉ちゃんはこの量でも食べられる?」
「はい、私はたくさん食べるので構いません。」
普段からお母さんは多めに料理を作るが今回は青葉がいることもあってかいつもと比べものにならないほどの料理が並んでいた。これだと四人でも食べられるか怪しい気がする。
「ああ、アンタが雪の友達か。まさか本当に雪に友達がいるなんてな。」
「だからなんでみんな私に友達がいることを疑うの?私にだって友達くらいいるから。」
雪をバカにしてくる流星をムッと睨みつける。確かに流星のようにたくさんの友達はいないがそれでも学校でぼっちということはない。
「私は朝比奈青葉と申します。雪ちゃんには仲良くしてもらってます。」
青葉は流星にも丁寧に挨拶するとそのまま雪の手をギュッと握った。
急に手を握られてびっくりしたが家族の前で抱きつかれるよりはマシなので何も言わないことにした。それに女の子同士で手を繋ぐくらいなら普通のことだ。
「そ、そうだよ。青葉は私の友達でクラスでも人気者なんだよ。」
「なるほどな。そんなクラスの人気者がなんで雪と一緒にいるんだ?」
流星は疑い深い目でこちらを見てくる。そんなの雪自身にだって分からないことだ。
「別に私が誰といたっていいでしょ。とりあえずご飯食べたいし席につくよ。ほら、青葉はここに座って。」
「はーい、雪ちゃんの隣に座るね。」
雪は席についてとりあえず好物の鮭料理に手をつける。バイトで疲れた雪は物凄くお腹が空いていた。
「はあ、ちょっとくらい揶揄ってもいいだろ?雪が友達を連れて来るなんて珍しいんだから。」
流星はいつも雪に酷いことを言ってくるから腹が立つ。周りからもよく流星と比べられる雪の身にもなって欲しい。
「雪ちゃんのお母さんの料理美味しいね。これならいくらでも食べられそうだよ。」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ほら、青葉ちゃんまだおかわりもあるわよ。」
青葉は次々とお母さんの料理を平らげていく。青葉は見た目によらずかなりの大食いのようだ。
「うっ、もう無理かも。青葉はよくそんなに食べれるね。」
確かにお母さんの作る料理は世界一だが流石にこの量は食べきれない。いくら青葉がいるからといって気合いを入れすぎだ。
流星もうんざりした顔で唐揚げに手をつけている。
「そういえば学校の雪ってどんな感じなんだ?ちゃんとやってるか?」
「私も気になっていたのよ。雪は学校でいじめられてない?怖い人に目をつけられてない?」
「ちょっと?二人とも青葉にそんなこと聞かないでよ!」
突然雪の学校事情を聞こうとする二人を雪は慌てて止めようとする。いくら二人が心配性だからといって学校のことまで首を出されたくはない。しかし雪のお願いも虚しく青葉は笑顔で語り始める。
「雪ちゃんは学校生活も上手くいってると思いますよ。私以外の友達もいますしテストも上位でしたので。」
「あら、そうなの?雪も意外とやってるのね。雪ってばテストの点数も見せてくれないから心配だったのよ。」
「テストくらいはどうにでもなるよ。宿題だって一応やってるし。」
雪は唐揚げを頬張りながら答える。この学校は学年で三十位以内に入るとテストの順位が張り出されるのだが雪はこの前のテストで二十位だった。
テスト勉強をあまりしない割にはかなりの高順位だ。
「流石雪ちゃんだよ。これなら雪ちゃんと同じクラスにいられるね。」
雪の学校では進級する時に成績によって別れる為、成績が遠すぎると離れ離れになってしまう。そのせいか生徒はみんな成績をできるだけ離さないようにしているらしい。
ちなみに青葉も日向も梓も当然三十位以内にいる為、この調子でいけば来年もみんなと同じクラスである。
「はいはい、分かったからとりあえずこの大量にあるご飯を食べなよ。」
「むぅ、雪ちゃんは私と一緒で嬉しくないの?私は雪ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌なのに。」
「別に嬉しくない訳じゃないけど今ここで言わなくてよくない?お母さん達だって見てるからさ。」
ご飯の最中だというのに青葉は泣きそうな目でじっと雪を見つめる。家族の前だというのにいつもと変わらない青葉に雪はため息を吐くしかなかった。
しかしお母さんはその様子を微笑ましい表情で見ていた。
「ふふっ。二人は本当に仲がいいのね。雪が楽しそうで嬉しいわ。」
「ああ、雪はいつも死にそうな表情をしてるから楽しそうで何よりだ。」
そう言ってニヤニヤとする二人に雪はなんとも居た堪れない気分になる。
確かに最近は青葉と一緒にいる機会も増えてきた。最初こそ青葉に苦手意識があったのに今ではそんなこと気にしなくなった。だから二人の言ってることも間違ってはいないが本人の前で言われると恥ずかしい。
「確かに青葉といると楽しいけどそんなニヤつかれると困るよ。」
雪はもじもじと顔を真っ赤にしながらも青葉に気持ちを伝える。今の雪には青葉を直視することが出来なかった。
「本当に?私も雪ちゃんのこと大好きだよ。これからも一緒にいようね。」
「ちょっと、今は家族が見てるからやめてってば!」
気持ちを伝えると青葉は笑顔で雪に抱きついた。結局青葉は何処にいても青葉だ。
「本当に雪が楽しそうで嬉しいわ。雪もいい友達を持ったわね。」
「ああ、それに振り回されている雪は見てて面白いしな。」
ところ構わず距離感の近い青葉とずっと笑っているお母さんや流星を見ながら雪も微かに笑うのだった。
「ふぅ、やっと食べ終えたよ。まさかこんなに量があるとはな。」
「もう無理、しばらくは何も食べたくないよ。」
あれから雪達はご飯を全て平らげて休憩していた。流石にあの量のご飯を一度に食べるのはキツイ。脂の摂りすぎで若干気持ち悪い。
「とても美味しくて満足でしたよ。雪のお母さんの料理はどれも美味しいです。」
「あら、青葉ちゃんはいいこと言ってくれるわね。また今度、たくさん料理を作ってあげるわね。」
「本当ですか?それならまた泊まりに来ますね。」
青葉は誰よりもたくさん食べていたのに平気そうにしていた。これなら大食い大会にも出られるのではないか?
「そういえばなんで雪は今日帰るのが遅かったんだ?お母さんも心配してたんだぞ。」
「そうよ、一体何をしてたの?変な人に絡まれてはないでしょうね?」
二人に詰められて雪はなんともいえなくなる。とてもメイド喫茶でバイトをしていたとはいえない。とはいえ何も言わないと別の勘違いをされる可能性があった。
「別に変なことには巻き込まれてないよ。ただバイトしてただけだから。」
雪はメイド喫茶ということを隠しながらお母さんにバイトをしていたことを伝える。家族にメイド喫茶で働いていたことがバレるのはあまりにも恥ずかしいことだ。
「バイト?あの雪がバイトをしてたの?」
「はっ、どういう風の吹き回しだ?雪はバイトしないって言ってただろ。」
雪がバイトをしていることを知ると二人とも驚いた表情で雪を見ていた。
「私だって別にやりたくてやった訳ではないんだよ。ただ友達が困ってたからやっただけで。」
「でも雪ちゃんのメイド姿可愛かったよ。また雪ちゃんのメイド姿見たいな。」
「ちょっと、だから毎回余計なことを言わないでってば!」
雪は余計なことを口走る青葉を死んだ目で見つめる。
このことだけは何としても隠したかった。だというのに青葉のせいですぐさまバレてしまった。案の定二人は雪を見て笑っていた。
「雪がメイドだなんて面白いわね。私も一度見てみたいわ。」
「ぷっ、雪がメイドって似合わねえ。ちゃんと接客は出来たのかよ?」
「ちょっと、二人とも笑わないでよ!とりあえず私はもう自分の部屋に戻るから。」
恥ずかしさに耐えられなくなった雪は一人自分の部屋に戻っていく。
これだからメイド喫茶でバイトなんてしたくなかったのだ。当分は二人に顔を合わせれそうにない。
「青葉ちゃん、いつも雪といてくれてありがとうね。」
雪が部屋に戻り、一人残された青葉はリビングで雪のお母さんと雑談をしていた。
雪のお母さんはとても優しくて温かい。青葉のお母さんとは大違いだった。
「いえ、私が雪ちゃんの隣にいたいんです。雪ちゃんは私の大事な友達ですから。」
青葉はそっと答える。雪は青葉の恩人で誰よりも大切な人だった。それに雪は覚えていないかもしれないが青葉にとって雪はずっと憧れの人でもあった。
「そう、それなら青葉ちゃんはずっと雪の隣にいてあげて。最近の雪は前よりも毎日が楽しそうだから。」
「もちろんです。雪ちゃんからは絶対に離れません。雪ちゃんは私が守ります。」
青葉がそう答えると雪のお母さんはとても嬉しそうにしていた。雪のお母さんも雪のことがとても大切なんだと思う。
青葉も雪が大好きで絶対に離れることはない。雪がどんなに嫌がったとしても雪だけは守りたかった。
「あの子は少し気難しいところがあるけど優しくていい子だから。だから青葉ちゃんみたいな子が隣にいてくれて嬉しいわ。」
「もちろんです。私も雪ちゃんの隣にいられるように頑張ります。」
青葉はそう言って雪のお母さんに軽くお辞儀をする。
青葉にとっての雪は大事な存在でこれからもずっと一緒にいたい。
いつか自分ことを思い出してくれるその時まで青葉はずっと雪の隣に居続ける。




