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お泊まり

「それで家に帰れないってどういうこと?もうすぐ電車が来るから急がないといけないんだけど。」

家に帰れなくなったという青葉に雪は頭を傾げた。

もう時間がないというのに一体何があったというのか。

外を見ると既に真っ暗で早く帰らないと怒られる時間だった。雪は普段寄り道をすることがないからお母さんも心配しているはずだ。

「それがお母さんが夜から仕事なんだけど私が鍵を家に忘れたせいで帰れないの。だから雪ちゃんの家に止めて欲しいな?」

可愛い顔をしてお願いする青葉に対して雪は顔を青ざめていた。

「流石に家に泊めるのは無理だよ!青葉は友達が多いんだから他の場所を当たってよ。」

雪は全力で断る。いくら雪でも今回ばかりは譲れなかった。

「むぅ、私は雪ちゃんの家に泊まりたいよ。私と雪ちゃんは同じ町に住んでるじゃん!」

どんなに泣きつかれても無理なものは無理だ。確かに家に帰れないのは可哀想だがそれでも雪の大切な自由時間を奪われる訳にはいかない。

それに青葉を家に連れて帰ったらお母さんや流星に揶揄われるに決まっている。

「アタシの家は狭いしボロボロだからな。やっぱり雪の家が一番だと思うよ。」

「そうね、私の家は大きいけど流石に女子高生を家に招くのは色々と危ない気がするわ。だから私からもお願いするわ。」

「ほら、雪ちゃんしか頼れる人がいないから。だからお願い!」

蓮と店長にまで見つめられて雪は遂に逃げ場を失ってしまった。このままじゃ困ってる青葉を見捨てる畜生になってしまう。

雪は大きく息を吸って覚悟を決めた。

「はあ、私の家に来てもいいけど絶対に何もしないって誓って。家族に変なことも言わないでよ?」

「もちろんだよ!えへへ、雪ちゃんの家に行くの楽しみだな。」

青葉は嬉しそうな表情で雪にギュッとくっつく。

雪としては明日学校で噂にならないか心配で仕方がなかった。

「ふふっ、二人とも仲が良くていいわね。とりあえずもう店を閉めるから三人とも気をつけて帰りなさいよ。」

「ああ、それじゃあ二人とも今日はありがとうな。夜は危ないから気をつけて帰れよ。」

蓮も店長も優しく声をかけてくれる。とりあえずやっと帰れることに雪は安堵していた。

「うん、今日は楽しかったよ。それじゃあまた明日。」

「私も今日はメイドになれて楽しかったな。それじゃあ、蓮ちゃんもまた会おうね。」

雪と青葉は二人に挨拶をしてメイド喫茶を後にした。電車が来るまで時間もなく雪達は走りながら駅へと向かった。

こんなに疲れたのに家に帰っても一人になれないという事実に雪はため息を吐くしかなかった。








「はあ、やっと家に着いた。今日はご飯を食べてお風呂に入って早く寝たいよ。」

「えへへ、雪ちゃんとのお泊まり楽しみだよ。一緒にいっぱい遊ぼうね?」

「私にそんな気力はないよ。とりあえず変なことしたら追い出すからね。」

なんとか家まで帰って来れた雪はテンションの高い青葉に呆れながらも扉を開けた。

扉を開けるとすぐに心配した表情でお母さんがやって来る。お母さんは心配性だから困ったものだ。

「雪ってばこんなに遅くまでどこで何をしてたの?あら、そこの女の子は誰かしら?」

「この子は私の友達で事情があって私の家で泊まることになったんだ。今日一日だけだから。」

物珍しそうに聞いてくるお母さんに雪は簡単に青葉のことを説明した。

「なるほどね、そういうことなら構わないわ。まあ、もっと早く言って欲しかったけど。」

お母さんはあっさりと了承してくれる。雪にはいつも厳しいというのに。

「朝比奈青葉です。今日はよろしくお願いします。」

青葉は丁寧にお辞儀をしていつものように微笑んでいた。

「それにしてもこんなに可愛い子が雪の友達なの?というか雪って日向ちゃん以外に友達がいたのね。」

「友達くらい普通にいるよ!とりあえず青葉はご飯が出来るまで私の部屋にいて。」

「はーい、それならその間、雪ちゃんとゲームしたいな。」

雪にだって少しは友達くらいいる。お母さんに心配されるほどではない。

失礼なことを言うお母さんを見つつ、雪は青葉の手を掴んで部屋の方へと向かった。

「それじゃあご飯が出来たらまた呼ぶからそれまでくつろいでてね。それと雪はちゃんと宿題しなさいよ。」

「分かってるってば。もう疲れたし早く私の部屋に行くよ。」

今の雪にこれ以上お母さんの話を聞く余力はない。少しでも早くベットで転がりながらゲームをしたかった。

「雪ちゃんの部屋楽しみだな。私友達とお泊まりするの初めてだから。」

「はいはい、とりあえず私の部屋に着いてからね。だから廊下ではあまりくっつかないで。」

この先も絶対に何かあることは分かりきっていた。青葉を家に招いた時点で雪に自由というものはなかった。

しかも相変わらず青葉は雪の手をギュッと握ってる。この姿を家族に見られたらと思うと恥ずかしくてしょうがない。

「ほら、ここが私の部屋だよ。絶対に勝手に私の物に触らないでよ?」

「分かってるよ。それより早く雪ちゃんの部屋を見たいな。」

「はいはい、別にそんなに大したものはないけどね。」

雪は扉を開いて自分の部屋の中へと入る。







「ほら、ここが私の部屋。どこか適当な場所に座ってゆっくりしてくれればいいから。」

部屋の中はパソコンやゲーム機に大量の漫画があり、とても女子高生の部屋だとは思えなかった。

「えっと、なんだか散らかってるね。それにあまり女の子らしい部屋じゃないというか。」

「だって片付けるの面倒だし。それに女の子らしい部屋じゃなくて悪かったね。」

部屋が汚いのも女の子らしくない部屋なのも雪自身理解しているが他人に言われると少し腹が立つ。雪は小さい頃から整理整頓が苦手だった。

「ねえ、このうさぎさんのぬいぐるみ可愛いね。それにこのパソコン大きくてカッコいいよ。」

青葉は約束通り雪の物を触ってはいないがキラキラとした目で見てくるせいで気がそれてしまう。

今日はものすごく疲れたからベットでゆったりとしたいだけなのに。

「ねえ、ゆっくりしたいからもっと静かにしてよ。」

「もう、雪ちゃんってばベッドの上でダラダラしてないで私と遊ぼうよ。ほら、私もゲームはある程度できるから。」

「嫌だよ。逆に青葉は疲れたりとかはしないの?少しは一人にさせてよ。」

毎日学校に行くだけでも疲れるのに今日はバイトまでしたから疲れるのは当たり前だ。明日の学校もあるというのにここではしゃいで無駄に体力を使う訳にはいかない。

雪は昔から体力がほとんどなく運動も苦手だった。だというのに青葉は体力まであって羨ましい。青葉ならどこの部活でもやっていけそうだ。

「それなら机にあるゲームでもしていい?」

「まあ、それくらいならいいよ。その代わり騒がしくはしないでね。」

「はーい、それじゃあ雪ちゃんはゆっくりしててね。」

青葉はそう言ってゲームの電源を入れてコントローラをカチャカチャしていた。

やっと大人しくなった青葉に雪を大きなため息を吐く。一体どうしてこうなったというのか?

普通に考えて陰キャの雪の家に人気者の青葉がいるなんておかしい。確かに場所や時間的に雪しかいなかったのは分かるがそれでもこの状況は非常にまずい。というかこれが木下にバレたら殺されるんじゃないだろうか?

クラスメイトにだって青葉との関係を不審に思われてるのに、もしお泊まりをしたなんてことがバレたらただじゃ済まない。特に梓と木下は要注意だ。

幸いこの地域に雪達以外のクラスメイトは日向しかいないし蓮も黙ってくれるはずだ。問題があるとすれば青葉がポロッと他の人に言わないかだが。

「ねえ、今日のこと全部他の人に言っちゃダメだからね。」

「安心してよ。今日のことは絶対に言わないようにするから。」

雪の切実なお願いを青葉がちゃんと聞いてるかが分からない。これは青葉にとっては些細なことかもしれないが雪にとっては命に関わることなのだ。

「本当に分かってる?って青葉なんだかゲーム上手くない?」

なんのゲームをしてるのか気になって青葉を見てみるとなんとFPSで敵を撃ちまくっていた。青葉のことだからもっと可愛い感じのゲームをしていると思っていた。しかもとても動きが慣れていて少なくとも初心者ではなかった。

「私も家でよくゲームするからこれくらい普通だよ。雪ちゃんも一緒にやる?」

「ま、まあ少しなら。」

「やった、雪ちゃんとゲームできて嬉しいな。」

青葉のプレイを見てやる気が出てきた雪は青葉からコントローラーを受け取って一緒にやることにした。

『ゲームスタート』

雪がコントローラーを手にすると同時にゲーム内で開始の合図がなる。

雪はゲームが開始された瞬間に銃を手にして敵の方へと向かう。雪は敵の攻撃を全て交わしながら敵の不意をついて銃弾を入れ込んだ。

「すごい!雪ちゃんはすごくゲームが上手いね。」

「これくらいは普通だよ。とりあえずこのまま二人で敵の方に行くよ。」

雪は基本的に毎日このゲームをプレイしてる為プロ並みの実力を持っていた。ランキングもいつも上位帯におり、ネットでは密かに話題になっている。

「雪ちゃんそっちに敵行ったよ。」

「ここは私に任せて。青葉はそっちの方を頼むよ。」

青葉もかなり上手で気付けば二人のチームワークでかなりの敵を倒していた。

基本的に雪は一人でやるか通話しながら日向とやるかしかない為、こうやって同じ部屋で騒ぎながらやることは珍しいことだった。

『YOU WIN』

気がつけば敵の陣地を攻略して雪達のチームの勝利になっていた。勝利と共に雪と青葉はハイタッチを交わした。

「やったね雪ちゃん!やっぱり雪ちゃんとやるゲームはとっても楽しいな。」

「私も久々にこんなに楽しんだよ。それじゃあ2回戦でもやろっか。」

最初こそ少しだけやる予定だったが既に雪はそんなことを忘れていた。

今の雪には疲れなどなく、ただ青葉とのゲームを楽しむだけだった。

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