ご注文はどうしますか?
「えへへ、雪ちゃんってばすごく可愛い!まさかこんなに可愛いメイドさんがいるなんて思いもしなかったよ。」
「いやそんなことどうでもいいから!何で青葉がここにいるの?」
突然メイド喫茶にやって来た青葉に雪は頭が真っ白になる。
何故青葉がこんな所にいるのだろうか?だってメイド喫茶なんて社会に疲れた男性しか来ない筈では?
雪は出来るだけ青葉と目を合わせない様にする。
「私、一度でいいからメイド喫茶に行きたいと思ってたんだ。そしたら雪ちゃんがいるからびっくりしたよ。」
「な、なるほどね。とりあえずそれは分かったから少し離れてくれないかな?」
相変わらず青葉は距離が近くて困ってしまう。それにさっきからずっと周りに見られて恥ずかしい。
この姿を学校の人に見られたくないと思っていたがよりにもよって青葉に見つかるとは思わなかった。もしクラス中にこのことが広まれば雪はもう生きていけない。
「えへへ、とりあえず雪ちゃんと一緒にいたいな。ほら、一緒の席に座ろうよ。」
「いや、私はいいから。って急に引っ張らないで!」
青葉は無理やり私と席に座るとそのまま楽しそうにメニューを見ていた。こんなことになると分かっていたら山尾のお願いなんて聞かなかったのに。
というか山尾は青葉がここにいることをどう思っているのだろうか?
「おーい、そこ業務妨害やめて貰っていいか?渡瀬には他の業務があるからな。」
「あっ、蓮ちゃんもいるんだ。突然どこかに行くからびっくりしたよ。二人して何でメイド喫茶で働いてるの?」
雪が困り果てていると異変に気付いた山尾がやって来る。山尾も何故蜜柑がここにいるのか疑問の表情で見ていた。
「アタシのバイトの従業員が足りてなかったから渡瀬に頼んで臨時で入って貰ってたんだよ。青葉こそメイド喫茶にいるなんて思いもしなかったよ。」
「蓮ちゃんは偶にすぐ帰るから何してるんだろうと思っていたけどまさかメイド喫茶でバイトしてるなんてね。それに雪ちゃんがメイドをやるなんて意外だし。」
青葉は頬を膨らませながらまじまじと雪を見ていた。
山尾もまさかこんな所で青葉と会うとは思っていなかったのか少し顔が赤くなっている。
「私だって別にやりたくてやってる訳じゃないから。とりあえず、そっと肩に寄り添ってくるのをやめて。」
「渡瀬が困ってるし、ここはお触り禁止だから早く離れろ。」
「嫌だ。二人だけ楽しそうなことしてズルいもん!」
山尾は雪にくっつく青葉を剥がしながらため息を吐いていた。山尾はなんだかんだ雪を守ってくれるから安心できる。
それに青葉のスキンシップは毎度疲れる。
「むぅ、私は雪ちゃんとお話ししたいだけだよ。私はメイド喫茶のお客さんなんだからこれくらいいいでしょ?」
「もう無理。私にはもう限界だよ。」
相変わらず青葉は眩しい。何でこんな陽キャがメイド喫茶にいるのか理解不能だ。陽キャはみんなでスタバとかに行くものじゃないのか?
というか木下とはどうしたのだろうか。これではまた別の日に雪が木下に怒られるのでは?
「ほら、渡瀬は嫌がってるだろ。とりあえず何か頼んだ後に渡瀬を指名してくれ。アタシはもう別の接客しに行くから。」
「そっか、それならこの愛情モリモリ苺パフェにしよっかな。ほら、今度こそ一緒に座ろう?」
「えっ、私を助けてくれる訳じゃないの?ここは代わりに山尾さんが接客してくれるって言ってくれる流れじゃないの?」
てっきり山尾が守ってくれるものだと思っていたから簡単に売られて裏切られた気分だ。
しかも青葉はポンポンと隣の席を叩いて雪を待っていた。
「ねえ、山尾さんが代わりにしてよ。私には青葉の相手は無理だって。」
雪は山尾にコソコソと文句を伝える。
「しょうがねえだろ。青葉は客なんだから強くは言えねえよ。とりあえず渡瀬は青葉と話しといてくれたらいいから。」
「そんなこと言っても青葉の相手は疲れるんだよ。それにこの格好ってだけで恥ずかしいんだから。」
「だからって青葉が渡瀬を指名している以上は変えることが出来ねえんだよ。店長に叱られる前に早く青葉の隣に行って来い。」
結局店のことしか考えていない山尾に雪は大きなため息を吐く。こうなったら逃れられない運命だ。
「はあ、それじゃあ私が接客するからパフェが来るまで待ってて。それとお触りは禁止だから。」
「はーい、それじゃあ今日はいっぱいお話ししようね。」
雪は全てを諦めて青葉の隣に座った。青葉は満足そうにしてるし山尾はすぐに別の人の接客に行ってしまった。山尾には後で文句を言ってやる。
「それにしても最近蓮ちゃんと仲良くない?私とももっと仲良くしようよ。」
「ちょっと、だから手を握るのもダメ。それに山尾さんとはただ友達になっただけだから。」
青葉は触らないといいつつ結局雪にくっついたままだ。それに相変わらずふんわりといい匂いがする。
「二人で一緒にバイトするなんてずるいよ。私だって雪ちゃんと二人で遊んだことないのに。」
「そんなこと言ってもこれはあくまで山尾さんの手伝いをしてるだけだから。それより青葉は他の友達と帰らないの?」
山尾も青葉もたくさん友達がいるのに一人なことが多い様に感じる。意外と二人とも群れたりしないのかもしれない。
「別にみんな忙しいってだけだよ。私は部活もバイトもしてないから。というか私はみんなの様に熱中出来るものがないんだ。」
そう口にする青葉はいつもと少し違って違和感を感じる。青葉ならもっと何でも楽しくやるものだと思っていた。
雪にだってやりたいことはなくて今も適当に生きているから青葉の気持ちが分かる。それでも雪は青葉に伝えたいことがあった。
「私はゲームが好きだよ。中学の頃にハマったんだけど楽しいんだよ。辛いことがあっても全部忘れられるから。」
「雪ちゃん、どうしたの?」
雪が突然ゲームの話をすると青葉はキョトンとしていた。青葉は困った様に雪を見つめるがそれでも雪はそのまま話を続ける。どうしても今の雪は青葉にこの気持ちを伝えたかった。
「私は今もあまり学校が好きじゃなくて辛いなって思いながら学校に行ってるんだけど、それでもゲームのことを考えると何だか楽になるんだ。青葉だってそういうのないの?」
雪は本心をそのまま青葉に伝える。青葉は困った様にしながらも真剣に考えていた。
「そうだね、私もゲームは好きかな。メイクや料理だって好きだよ。それでもみんなほど物事に熱中してる訳じゃないんだ。全部中途半端なんだよ。」
その声は今にも消えそうなほど弱かった。しかし雪は青葉の本音が聞けて少し安心した。
「いや、それだけ好きなことがあるって凄いことだよ。やっぱり楽しことをするのが一番だからさ。」
雪は優しく青葉の手を掴んだ。
雪は中学の頃を思い出す。あの頃は今よりも友達が多くて成績も良かった。それなのに毎日が辛くて楽しことなんて一つもなかった。
その後に色々あって雪は完全に心が折れた。もう消えてしまいたいと思ってしまった。
だからゲームを初めてした時はあまりに楽しくてずっとやっていた。好きなことをやる幸せに気づいた。好きなものがあるだけで世界はより明るく感じると思っている。
「それに料理とかメイクが好きなら一度部活に入ってみなよ。自分が思ってるよりも意外と好きなことには熱中してるってのがオチだから。」
雪が笑うと青葉も泣きそうにしながらも笑ってくれる。
「ありがとう雪ちゃん。雪ちゃんのおかげで少し勇気が出たよ。」
「うん、私も応援してるから。」
青葉にはうんざりすることも多いけどやっぱりいつもの様に明るくて笑顔の方が好きだ。
「よーし、それなら早速明日二人でいろんな部活に回ろうよ!」
「いや、何で私も行くみたいな流れになってるの?私は家でゲームするのが一番だからやめとくよ。」
さっきまでいい感じだったのに急に嫌な予感がしてきた。雪はどうしていつも余計なことを口走ってしまうのだろうか。
「だーめ、私をやる気にさせたんだから雪ちゃんにも付き合ってもらうよ。」
「ちょっと、だからそんなにくっつかないでよ。恥ずかしいじゃん。」
雪はただ青葉を慰めるつもりだったのに何故こうなったのか。
「ほら、注文されてたパフェを持ってきたわよ。って二人とも凄い距離が近いわね。」
店長も笑いながら雪達の様子を見ていた。どうせなら助けて欲しい。
「ほら、雪ちゃんも一緒にパフェ食べよ?ほらぎゅーっとしながらさ。」
「ちょっ、だから恥ずかしいって。さっきからみんな見てるんだってば!」
「あらー、これが百合ってやつね。うちのメイド喫茶も百合営業を取り入れてみようかしら。」
青葉と雪が騒いでそれを喜んで見ている店長と、まさしく今のメイド喫茶は地獄と化していた。
「おい、お前ら全員大人しくしやがれ!さっきから集中できねえんだよ。」
そして怒りの頂点に達した山尾の怒鳴り声が店内に響き渡るのだった。
「はい、とりあえずパフェが来たから食べなよ。って何でさっきから無言で私を見てるの?」
せっかくパフェが出てきたというのに青葉は食べずにじっと雪を見ていた。
「せっかくメイド喫茶に来たんだしおまじないをかけて欲しいな。ほら、ここに書いてるやつ。」
「えっ、何のこと?」
雪は青葉の指差した看板に目をやる。確かにそこにはご飯が美味しくなるおまじないというものがあった。
「ムリムリ、そんなの私は絶対やらないから!というか何でこんなおまじないがあるの?」
それは確かにメイドといえばど定番かも知れないが、とても雪にはできるような内容ではなかった。
「しゃあねえだろ、店長がやるって言い出したんだから。そんな恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。」
「いや、恥ずかしがるよこんなの!それにおまじないなんてして何になるのさ?」
山尾を睨みつけながら雪は絶対にしないという意志をみせる。それにおまじないなんてただのまやかしにすぎない。
「雪ちゃんのおまじないがあったら百倍美味しくなる気がするな。」
「そうよ、料理で一番大事なのは愛情なんだから。それに雪ちゃんのおまじないは私も見たいわ。」
「そういうことだ。大人しく諦めるんだな。」
逃げ場はどこにもなく、既にやらないといけない雰囲気だった。
青葉達に追い詰められた雪は深く深呼吸をして、恥ずかしがりながらもポーズを取る。
「お、美味しくなーれ。萌え萌えきゅん♡」
雪は死んだ目で意識が曖昧になりながらなんとかおまじないを唱える。今日だけで一生分の恥かしい思いをした気がする。
「か、可愛い!今のもう一回言ってよ?」
「もうしないから!それより早くパフェを食べなよ。」
「そんな、もっと雪ちゃんを見たかったのに。あんなに可愛い雪ちゃんを見れて嬉しいよ。」
キラキラとした目でみる青葉に呆れつつ雪はそっと青葉の隣に座った。恥ずかしいのに青葉が喜んでくれて少し嬉しくもあった。
さっきまでいたガヤもいなくなり、雪と青葉は今度こそ二人きりになった。
「ってだから何で食べないの?私がおまじないしてあげたじゃん。」
「・・・どうせなら雪ちゃんに食べさせて欲しいと思って。」
「いや、さっきから注文が多いよ。それくらい自分で食べなよ。」
青葉は顔を赤く染めて恥ずかしそうにしながらこちらを見つめる。恥ずかしいのならそんなこと言わなければいいのに。
「やっぱりメイド喫茶の定番だし前からずっと憧れてたから。」
「もう、分かったよ。あーんってしてあげるから口開けて?」
青葉の元から一刻も去りたい雪は恥ずかしいそうに口を開ける青葉にパフェを食べさせる。
「どう?ちゃんと美味しい?」
「ふふ、雪ちゃんに食べさせて貰っちゃった。そうだ、雪ちゃんにも一口あげるよ。」
「いや、私はいいよ。って無言で食べさせてこないで?まあ、美味しいけども。」
青葉は無理やり雪の口にパフェを放り込む。口に入れた瞬間苺が広がってとても美味しかった。
メイド喫茶って味はそんなに重要じゃないと思っていたから美味しくてびっくりした。
「えへへ、雪ちゃんとお食事できて楽しい。ほら、私は雪ちゃんが大好きだから。」
「はいはい、青葉が食べ終わるまでは、隣にいてあげるから。」
雪はわいわいとした雰囲気のメイドカフェを眺める。
この騒がしさも悪くはないかな。
「店長大変ですよ!外に団体のお客様が来ています。
このままじゃ人手が足りません。」
雪が青葉と話しているとメイドさんが忙しそうにやって来る。雪は既に猛烈な嫌な予感を感じた。




