#62 本当の仲間
砂埃から姿を現したフィリアとティアナ、そしてノイン。
フィリアとティアナはわかる。どうして薬師のノインまで……。
いや、そんなことはどうでもいい。大事なのは、俺のためにみんなが助けにきてくれたことだ。
彼女たちは俺と奴を素早く見比べた。その瞳には、焦燥の色が浮かんでいる。
「アルトくん!」
フィリアが真っ先にこちらへと駆け寄った。左右に結ばれた金色の髪が激しく揺れる。次の瞬間、眩い閃光が俺とフィリアを遮るように空間を貫いた。
雷鳴の音が響き、床が振動する。
「雷魔法……」
俺を嵌め殺そうとしていた奇妙な存在。奴の杖が黄色に光っている。今の攻撃は、確実にフィリアを遮るように放たれていた。雷に怖気づいたのか、フィリアの足は止まってしまった。
「あたしが行く!」
ティアナが奴へと一直線に駆け、剣を振るう。
しかし、奴はひらりと剣をかわし、杖をティアナに向けた。
撃ち出された火球が彼女に迫る。
「くっ……!」
ティアナは火球を避けるが、そのたびに距離を取らされ、反撃することができない。
「隙ありーっ」
その間にノインは手のひらほどの大きさをした赤い球体を奴に向かって投げた。それが奴の身体に触れた瞬間、轟音とともに周りの瓦礫を吹き飛ばしながら大爆発した。
「フィリアちゃん。魔物はあたしたちに任せて」
「うん」
ノインの声を聞いたフィリアは頷き、俺へと再び駆け寄った。
「アルトくん! しっかりして!」
フィリアの杖から、彼女の瞳と同じ色をした淡い緑の光が灯る。
「チェインヒール」
浮かび上がる光が俺の身体に吸収されると、痛みが少しずつ引いていくのを感じた。少しだけ身体に力が戻った俺は震える腕に力を込め、なんとか上半身を起こす。
「よかった……。無事で――」
瞳がゆらゆらと揺れるフィリアを見て、口を噤む。
もはや、俺には何も言えない。ごめんの一言さえも。
二人に黙って受けた依頼なのに、結局巻き込んでしまっている。
それどころか、無関係だったはずのノインまで来てしまった。
結局、俺は仲間に守られ、支えられているんだ。
* ―――――――
俺のそばで、フィリアは回復魔法をかけ続けてくれている。
「痛くない?」
たびたび聞かれるその言葉に罪悪感を覚えつつも、大丈夫だと返事をした。
彼女たちには感謝してもしきれないな。
遠くで、剣戟や爆発の音が響く。
ティアナもノインも、助けるためにここに来て、俺の代わりに戦ってくれている。
俺も動けたら――いや、魔力切れだ。
それに、今俺が出たところで迷惑だろう。
フィリアが懸命に回復してくれている。だから、少しだけ休ませてもらおう。
* ――――――
「よけて、流れ弾!」
突然響くティアナの声。
刹那、火球が一直線に迫ってくる。
氷魔法で相殺――いや、無理だ。
逃げないと。
急いで立ち上がろうとした、その時――
視界が、突然真っ白になった。
熱い、熱い、熱い!
身体の表面を焼かれるような熱が一瞬、全身を包み込む。
「うぅ……!」
声にならない叫び。
何かが焦げたような嫌な臭いが鼻をついた。
燃えていた時間はわずかだったと思う。だが、その一瞬の熱が、俺の身体を容赦なく焼き焦がした。
熱は皮膚の奥にまで伝わり、意識が飛びそうになる。
薄れゆく意識の中、必死に目を開けた。すると、緑色の眩い光が視界に広がっていく。
何なんだ、これは――
視界を移動させると、光源と思われるものを見つけた。
目を深く突き刺すような光に耐えながら、光の先を確認する。
「……!」
光源は、魔物の攻撃でも、窓からの日差しでもない。ノインだった。全身がまるでオーラを纏ったかのように光っている。
あまりの強い光に、本当にノインなのか疑ってしまったほどだ。
辛うじて見えるのは、彼女が杖をバトンのように高速で回転させているところだった。
「もう怒ったんだから!」
回転させていた杖を天に掲げる。すると、空間そのものが姿を変えたかのような錯覚に陥った。
いや、これは本当に錯覚なのか?
現実感が全くない。目を開いていればそこに映るのは瓦礫が広がる小部屋じゃない。星空が広がる、まるで空の上にいるような景色だった。
「あたしの本気――見せてあげるんだから!」
彼女が叫ぶと、ノインの光はさらに強くなった。足元には大きな魔法陣、そして左右にはそれぞれ6つずつ、合わせて12もの魔法陣が浮かび上がる。
そもそも、これが本当に魔法陣なのかすらわからない。強い光はますます姿を曖昧にし、目に映るのは突き刺すような光に、円の形をした紋様。それだけだ。
この人、本当にただの薬師か?
「いっけええええええっ!!!」
掛け声と共に、紅い光線が一直線に放たれる。
光線はただの光じゃないのか。着弾した先からは激しい打撃音までもが聞こえてくる。
激しい光も相俟って、目がおかしくなりそうだった。
もはや、俺には魔物がどこにいるのかすらわからない。
彼女には見えているのか?
確実に言えることは、目の前で起こっている光景が俺の理解の範疇を超えていることだった。
* ――――――
「ティアナさん、今のうちにとどめを!」
「任せて!」
俺にはもう何が起こっているのかわからない。
地面を蹴るような振動が、身体にじわりと伝わってくるだけだ。
「やあああああああああああああっ!!!!」
掛け声とともに肉体を切り裂くような生々しい音――これはティアナの剣か。
軽快な振動と共に、剣を鞘に仕舞う音が聞こえた。
「討伐、完了だね」
さっきまでの死闘とはかけ離れた爽やかな声。それを聞いて安心した俺は、糸が切れるように意識を失った。




