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#63 帰還

  次に気が付いたときには、俺はベッドの上にいた。静まり返った暗い部屋の中、どこかに置かれた明かりだけがぼんやりと周囲を照らしている。


 さっきまで、オーリリア城跡地にいたはず。どうして、ベッドの上に……。


「ここは……」


 視界に入るものを一つずつ確認する。目に映るものは、どれも知っているものばかりだった。

 二つ並んだベッド。控えめに配置されたテーブルと椅子。見覚えのある壁。そして、すぐ横には俺の杖が立てかけられていて、その隣にはフィリアの杖もある。


 ――ポルトマーレの宿屋だ。


 帰ってきたんだ。でも、どうやって……。

 いや、わかっている。

 きっとティアナとフィリア、そしてノインが俺のことをここまで運んできてくれたんだ。




 みんなは、どこにいる?

 俺は思わず、勢いよく体を起こした。


 あれ……。身体がちゃんと動く。痛みも無い。

 さっきまで身体中が燃えるような熱さに包まれていたはずなのに。


 ところどころ傷は残っているものの、身体を動かしても痛みはほとんど感じなかった。



 * ――――――



 思考を整理していると、「ギィ……」という小さな音と共に、遠慮がちに扉が開いた。


 入ってきたのは、フィリアだ。彼女は俺を見て、勢いよくこちらへ駆け寄ってきた。そして――


 気付いた時には、俺はフィリアの胸の中にいた。


「アルトくん!」


 ちょっと待って! 彼女の身体が密着している。自分の怪我のことよりそっちに意識が向いてしまう。


「フィリア……!」


「アルトくん……。気が付いたんだね、よかった!」


 フィリアの腕にさらに力が込められた。

 当たっている! 何がとは言わないけど、当たっているから!


 顔が熱くなる――けど、あの時のような物理的に燃えるような熱さじゃない。内側から温まるような熱さに、くらくらしてしまう。


「フィリア、どうしたんだよ……!」


「だって、だって……!」


 頭に、ぽたりと雫が落ちた。


「!!」


 顔の熱が急激に冷める。さっきまで感じていた羞恥心も、どこかへと消えてしまった。

 静かな夜の部屋に、フィリアの震える声だけが響いている。


「アルトくんが、死んじゃうかもしれないと思って」


「ちゃんと生きてるよ」


「回復魔法をかけても、薬を使っても、ずっと起きなかった……。あれから3日も経っているんだよ」


 そんなに重傷だったのか。オーリリア城跡地にいた時のことがついさっきのように感じていたけど、そんなことはなかったんだな。驚きはしたが、身体に残った傷を見れば、3日という時間も不思議ではない気がした。


「もうダメかと思った。でも、諦めたくなくて」


 フィリアの心配が、痛いほど伝わってくる。でも、それだけじゃないのかもしれない。仲間なのに頼ってもらえないことの悲しさや、不安もあったのだろう。

 それに、彼女は特別俺に対して協力的だった。相談さえしていればもっと違った結果になったかもしれない。


 ――俺に協力してくれる仲間ではない。共に支え合う仲間なんだ。


 今まで、なんて浅い考えをしていたのだろうな。


「助けてくれて、ありがとう」


 ごめんじゃない。こんな俺のことを見捨てずにいてくれてありがとう、だな。



 * ――――――



 フィリアの腕から解放された俺は、二人で静かな時間を過ごしていた。彼女も落ち着きを取り戻したものの、目元の赤みはまだ残っている。


「アルトくん、窓開けてもいい?」


「いいけど、どうかしたのか?」


「なんとなくじめじめしてて」


 窓を開けても、外からはかすかに波の音が聞こえるだけで、人の気配が感じられなかった。

 夜遅い時間なのだろうか。

 そうだとしたらティアナも一緒に宿にいるはずだが、どうしてフィリアしかいないのだろう。


 オーリリア城跡地で大けがしていたらどうしよう。ノインだって、もし無事じゃなかったら――


「ティアナとノインはどうした?」


「お姉ちゃんはお風呂。ノインさんは帰ったよ」


 フィリアの言葉に、正直なところかなりほっとした。


「みんな、無事だったんだな」


 俺のせいでみんなを巻き込んでしまったから、もし誰かが大けがでもしていたら立ち直れなかっただろう。


「アルトくんが一番重症だったよ。ノインさんだって、アルトくんを治すために薬を用意してくれたんだからね」


 フィリアは透明な液体が入った細長い小瓶を手に取り、俺に見せる。


「後でお礼を言っておかないとな」


「忘れないようにね」


「ああ。でも、フィリアもありがとうな。ずっと回復魔法をかけてくれたんだろ」


 フィリアは黙って頷いた。一つ息を吐き、まっすぐ俺を見つめる。


「もう二度と、一人で行かないで」


「約束するよ」


 心の中では決めていたことだけど、言葉にすると重みが違うな。


「本当にびっくりしたんだよ? 朝起きたらアルトくんがいなくなってるんだもん」


 フィリアは俺にそう言って、事の顛末を話し始めた。


 ほのかに潮の香りがする静かな部屋でフィリアと二人。長い話になりそうだけど、俺は最後まで聞くつもりだ。


次回は別視点となります。長いので話を分割する予定です。

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