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迷宮の新米守護者  作者: 板 竹輪
第1章 迷宮の新米守護者
44/45

第41話 第一層迎撃戦3:時間が無い

 慌しく動く魔族たちが発する靴音、細かな打ち合わせの声、怒号混じりの作戦指示、それ等が混ざり合いこの防衛線は今混沌とした音が支配ている。

 これは僕がこれから行う作戦をブチとレオナさんに説明し、防衛線の魔族皆に伝達してもらった結果だ。


 そんな騒がしい混沌とした音に囲まれながら僕は静かにミッチーに問い掛ける。


「ミッチー撒き餌の準備は順調か?」


 僕が今から行なう作戦は簡単に例えるならば釣りみたいなもんだ。


 まず作戦の第一段階として壊しやすいが脅威度が高い罠を通路にばらまいてわざと冒険者達に破壊させる。

 これは冒険者達に泥人間マーチが成功していると勘違いさせる為であり、通路の制圧作戦がうまくいっていると冒険者達を安心させる為でもある。

 罠が冒険者達を釣り出す撒き餌となるのであまり冒険者達にストレスが掛からない壊しやすい罠を使うが、それだけでは不自然なので壊しやすいけど放置すると危ない罠を使う。

 必死に抵抗しているが少しずつこちらが追い込まれていっているように見せる為だ。


 次に第一段階で成功した場合、冒険者連中の本隊を釣り出さなけれいけない。

 その為に泥人間の侵攻をこの防衛線で塞き止める。

 徹底した防衛の構えを取り、泥人間ではこの防衛線を突破できないと敵の指揮官に判断させるのだ。

 これがうまくいけば敵の指揮官は泥人間では力不足だと判断し冒険者達の指揮官は本隊を動かすだろう。 ここまでいけば作戦の第二段階は完了だ。


 そして詰めの作戦の第三段階。

 遺跡に入ってくる冒険者本隊は確実に警戒しているだろう。少なくとも僕ならばそんな状況下で警戒を解く事はしない。

 冒険者本隊は警戒しながら通路奥のこの部屋に向かってくるだろうが、あえてこの部屋の手前まで敵本隊を侵入させる。

 通話の罠は全て機能を停止していると敵にそう確信させるために通路奥深く侵入させるのだ。

 下手をすると敵本隊が無傷でこの部屋に到着してしまう可能性があるが、全ての罠を使い切ったと敵に思わせなければいけないので危ない橋を渡るしかない。

 そしてそれ等全てがうまく行き、敵がこちらの思惑に引っ掛かってくれば後はこっちのものだ。

 未だ起動させていない本命の罠で釣り出した敵本隊をまとめて罠にかけて撃破する。


 大まかな感じだが今から行なう作戦そういった感じの作戦だ。

 作戦作戦自体はいたってシンプル。

 餌を撒いて食いつかせて安心させて奥に引き寄せて釣り上げる。そう、単純な釣りみたいなもんだ。だが単純ゆえに見破られる可能性も高い、皆には不自然にならないように気をつけて欲しいとも伝えてある。

 釣り針も罠もその存在を獲物に認識されてしまっては意味が無いのだから………


魔力貫通針(マナピアース)5基起動します。火砕噴煙陣(フレイムクラッカー)2陣起動します。強酸性泡罠アシッドバブルトラップ10基起動します。石化閃光機(ペトリフラッシャー)2基起動します。死の空気(デッドエアトラップ)4基起動します。鋼糸(スチールストリング)剣の罠(ソードトラップ)5基起動します。キノコタケノコ結界展開します。ミスリルの虐殺者ミスリルジェノサイダー1基起動します。冒険者ホイホイ4個――――』


 通路に仕掛けた大量の罠を起動するアナウンスが僕の脳内に流れる。

 これ等は全て自信作――――とは言い難いネタに走って作った物もあるが、冒険者に破壊されるその時まできっちりと役目を果たしてくれるだろう。


『矢罠3基破壊されました。剣の罠2基破壊されました。魔力貫通針1基破壊されま―――」


 今度は罠が破壊されたアナウンスだ。

 こんなアナウンスが立て続けに流れればいつもならば慌てるところだが、今起動している罠は全て冒険者に壊させる予定になっているので問題は無い。

 むしろ問題なのはこのアナウンスの方だ、一つ一つは冷たく静かなアナウンスだがそれが複数合わさると結構に五月蝿い。

 頭の中で同じ声の人が何人も居て、別々の事を囁いている様だ。不快感で頭が痛くなってくる。

 流石にここまで酷いと思考に障害が生じる可能性がある。

 これは後でミッチーに止めてもらった方が良さそうだ。


「順調です。ご命令通りに各種罠の起動を行い、泥の低級精霊への攻撃を開始しております。詳細な報告をお聞きになりますか?」

「いや、流石にこれ以上頭の中が騒がしくなっても困るからいらない」

「それでは、私の方で記録しておきます」

「そうしてくれ。細かい情報が欲しい場合はこっちから言うよ。あぁそうだ、ついでに罠の起動と破壊のアナウンスも止めてくれ五月蝿くて集中できない」

「了解いたしました。システム音声カットします」


 ミッチーのその声と同時に先程迄騒がしかった脳内雑音がスッと消えた。


「OK、静かになった。じゃあそろそろ前に出るぞ」


 前に出る、この防衛線の最前線であるバリケードの前に戦うという事だ。

 侵入してきている泥人間の数は既に1000を越えている。

 流石にそこまでの数を通路の罠だけで全滅させることは出来ない。それに全滅させてしまったら冒険者を釣り出すという作戦に支障が出る可能性がある。

 ならば、この防衛線の戦力で通路を抜けてきた泥人間の処理をしなければならない。だがあんな泥人間どもに魔術師達の魔力を浪費させたくはない。

 本命は敵の冒険者本隊だ。作戦がうまくいっても討ち漏らしはある程度でるだろうから魔術師達の魔力を温存させておきたいのだ。

 だから魔力に余裕が有る僕が最前線に出て火炎宝剣(ファイヤーブランド)と罠を使って兵力を温存しながら迎撃するというのが最も消費が少なく有効な戦術だろうと判断した。ただそれを行うには問題が有って…………


「はい。それでは私の火気管制と火炎宝剣をリンクさせます」

「えっあれ?前に出て良いの?正直反対されると思っていたんだけど……」


 最前線に出るという事は僕に危険が及ぶ可能性があるという事だ。

 そんな事絶対にミッチーは許さないと思っていた。

 ついでに言えば「何を考えているのですか、このお馬鹿様」とか「ご主人様は愚かなのですか?」くらい

 の辛口が飛び出すとは思っていた。


 驚いたな、どうやって説得しようかと思ってたんだけどあっさりとOKが出た。どうしちゃったんだ?


「泥の低級精霊程度にご主人様が敗北する理由がありませんので」

「ミッチーからすればあの程度の連中が相手じゃ脅威として思えないってことか」

「はい。あの様な粗雑な存在に私とご主人様が遅れを取る理由がありません。私が付いている限りご主人様が今回の戦闘で傷付く可能性は限りなく0%――――いいえ完璧に0%です」


 おぉ!なんか0%だと断言されてしまった。これまた珍しいなミッチーが0%だって言い切るなんて――――てっ今日はなんかミッチーの珍しい側面を発見しまくってるな僕。


「――――ん、そっかOKOK。まぁ、ミッチーが許可してくれるなら何だって良いや。前に出よう」


 ミッチーの強気な発言を少し意外に思いながらもこうして話している間にも時間は過ぎていくので、椅子から立ち上がり行動を起こす。

 寝不足故に少々体の調子は良くないが、まぁ何とかするしかない。

 本音を言えば0%と断言した理由じっくり聞いてみたいけど、今はそんな時間も惜しい。


「まずは………火炎宝剣を回収してっと、ほんと不便だよなコレ」


 僕は近場の石材床に突き刺していた火炎宝剣をとくに力も入れずに引き抜いて前線に歩いて向かう。

 火炎宝剣を引き抜いた床からは煙が上がり、ジュウウっと石材が焼け溶ける音が聞こえるがわざわざそちらに眼を向ける気もしない。

 火の元である火炎宝剣が無くなったのだからその内収まるだろう。


「仕様ですので仕方が有りません」

「だね。まぁ他の面で便利なんだから多少不便でも仕方が無いな」


 床に火炎宝剣を突き刺していた理由は、床を鞘代わりに使っていたからだ。

 本当は鞘にでも入れて安全に持ち歩きたいところなのだが、そう出来ない事情がある。


 火炎宝剣は色々と便利な機能を持つ素晴らしい剣だ。

 火の力を刀身に宿し魔術を詠唱も無しに簡略化したキーワードのみで使える、金属製の割には軽い、霊体も切れる、照明変わりにもなる!思いつくだけでもそれだけの便利機能が有るのだが、不便過ぎる機能も有るのだ…………その特性から普通の鞘に収めるとその鞘を焼いてしまうのである。


 火炎宝剣は刃に何も触れていない時は普通の冷たい金属であるのに、一度刃に何かが接触すると熱を発する。故に皮製の鞘に収めれば一瞬で発火させて駄目にしてしまうし金属の鞘に収めればその発する熱で徐々に鞘を溶かしてしまうのだ………これは敵を切った時にその敵を焼き尽くすという機能の誤作動らしい。

 グシオスさんの魔剣も同じ様な切った物を焼き切る機能を持っていたけど、あっちは鞘なんて焼かないのに火炎宝剣は何故か周囲の物を焼いてしまうのだ。

 どうやら火力がグシオスさんの魔剣よりも高いから起こる現象らしいのだが、これは完全に不具合とも言える挙動だろう。

 正直不良品なんじゃないかと思わないでもないがミッチー曰く仕様らしいのでどうしようもないし、多少不便でも便利な部分が勝るので持ち歩いている。


「ミッチー泥人間はまだ侵入してきているか?」

「はい変わらずに続々と」

「まだ続いているのか…………今何体くらい入ってきてるんだ?」


 火炎宝剣を手にして再び目的地に向かいながら必要事項を確認する。

 まず僕が座っていた椅子の周り、獣人と亜人で構成されている志願兵達が固めているエリアの中央を抜ける。

 途中ブチが居たので『頼むよ』という意思を篭めて視線を送ると無言でコクリと頷いてくれた。

 良いよねアイコンタクト、お互いの信頼を築けているからこそ出来る事だ。


「10秒前に1734体目の侵入を確認しました」

「その1734体の内、撃破出来た数は?」

「1643体の破壊を確認しています。また大型罠の火力に巻き込まれたのか3体の冒険者の撃破を確認しています」

「あら?冒険者まで巻き込んだか」

「はい、大型罠と範囲型罠が起動した結果ですね」


 範囲型の罠は文字通り複数の敵をその広い範囲に巻き込むことが出来る罠だ。威力よりも効果範囲を重視した作りになっている。

 大型の罠は一体の敵を確実に仕留めるような大掛かりな仕掛けと強大な火力を持つ罠で、その火力から生じる余波で他の敵にもダメージを与えられる罠も有る。そして今回起動している大型の罠はその様なタイプの罠ばかりだ。

 どちらもあの泥人間の様な数だけで攻めてくるタイプの敵には有効すぎる罠だと言えるだろう。


「じゃあその調子でやってくれ。それと泥人間の群れの分断と、最前列の連中を20前後くらいまで削っておいてくれ。一度に此処に侵入してくる数を削って、小分けで侵入させて処理したい。出来るか?」

「善処してみます」

「うん出来るだけの範囲で良いんでやってみてくれ。ちなみに罠の損耗率はどうだ?」

「現在65%の罠が破壊されています。また10%の罠が動作不良を起こしています」

「ん、動作不良?原因は?」

「はい、針罠等の床に設置されている罠に浸水及び砂や土の混入が発生し動作不良が起こっています」

「え?そんな事でか?…………あーそうだよなぁ。良く考えればそうなるよなぁ」


 疑問の声を出した後に少し考えてみて「あっなるほどな」と心の声を出す。

 泥人間は冒険者達と違い破壊された場合はマナ結晶にはならずただの土と水に戻りその場で崩壊する。

 それが1体や2体ならば大した問題ではなかっただろう。しかし1000体以上破壊した場合その水と土の量は無視できない。

 膨大な量の土と水は床に広がり、針罠のような罠の細部にまで入り込みその動作に影響を与えた訳だ…………駄目だね、本当に駄目だ。

 本当にこういう事を失念していてまだまだゲーム脳が抜けてい無いことを痛感してしまう。


「…………計算が狂いそうだな。作戦への影響は出そうか?」

「影響と言えるほどではありませんが、この防衛線に侵入してくる泥の低級精霊の数が若干増える可能性があります」

「つまり、僕の頑張り次第でどうとでもなるってことね」

「はい。そうなります」

「なら良い。僕が頑張れば良いだけだ」


 自分でミスをフォローできるうちはマシだ。僕の頑張り次第で取り返しがつくならば幾らでも努力をしよう。

 失敗したと悩んでくよくよしていてもどうにもならないと、学んだばかりなのだから前に向かって進むべきなのだ。


「ミッチー空調の風の魔石の出力を最大にしてガス対策を万全にしてくれ。空気の排出方向は外に向けて出来るだけ自然に………あぁ、そうだ。空調自体の防御も忘れずに頼む」

「畏まりました水の魔石の力を使い防御結界を起動させます。模造魔水晶はどうされますか?前線の方へ移動する事も可能ですが」

「どうするかな…………うん、椅子の所で待機でお願い。壊されたら替えが効かない」


 防衛線中央の天井付近で浮いている空調用の火、風、水属性のそれぞれの魔石もそうなのだが模造魔水晶も権能の制限を解除していたからこそ創れた物だ。

 権能の制限を再び掛けなおした今の僕には創り直せない物なので、わざわざ危険な最前線へ持っていくのは得策ではない。椅子の所に待機させておいて必要があれば移動させるのが無難だろう。


「では、何か大きな変化が有った場合のみ私の方から口頭でご報告するという事で宜しいですか?」

「それで頼む。えーと後なんか有ったかな…………ミッチーからは何か有る?」


 ミッチーに問い掛けながらバリケード裏で待機している魔術師達の横を足早に駆け抜ける。

 横切る時にチラっと盗み見するようにローラさんの様子を見てみれば顔を引き攣らせてこちらを見ていた。

 若干その瞳に涙を浮かべているようだが、僕のせいではないと思いたい…………思いたいけど、僕が原因なんだろうなぁ。僕もちょっと泣きたくなる。


「特に御座いません」

「ん、OK。じゃあ後は実践するのみだな」


 もはや必要な全てを語り尽くし、考えを出し切り、今出来る事は全て行った。

 ならばもう目的に向かって歩みを進めるだけだ。


 魔術師達が待機しているエリアを抜けたその直ぐ先に、幾つか有るバリケードの横には直立不動の体制でタワーシールドを立て構えて防衛体制を維持している親衛隊の面々の姿がある。

 レオナさんの姿は無い。多分作戦の為に走り回ってくれているのだろう。


「守護者殿に敬礼!!」

「あ、ありがとうございます」


 僕が通り過ぎる時に親衛隊の皆さんは全員その防衛の構えを一時解き、足を揃えてカチンと金属製の具足を鳴らして一糸乱れぬ敬礼をしてくれた。

 規律を感じられる良い敬礼だ。ただ、その勢いにちょっと気押されてしまうのでそこも足早に抜ける。

 あの様子を見る限り士気も高そうだし次の戦闘も規律と統制の取れた動きで戦ってくれるだろう。頼もしい限りだ。


 そして僕は名無しの遺跡第1層防衛線バリケード前――――――――最前線に到着する。


 ***


 僕の目の前には、この防衛線から遺跡の出口に繋がる唯一の通路が有り松明に照らされている。

 その松明に照らされた通路の闇の奥で何やらドロドロとした人型の者達が物凄い勢いでこちらに向かって走ってきているのが薄っすらと目視できる。

 いよいよ泥人間達がこの防衛線に近づいてきた訳だ。


「もう見える距離まで来ているんですね」


 最前線についた僕は振り返りバリケードにその背を預けている女性に声を掛けた。


「結構な速度で近づいて来ているようです。ご命令通り待機していますが、このまま継続で宜しいのですか?ツルギ様」


 僕の目の前に居るのは、右手に鞘に収められた黒色の大剣を持ち、いつものメイド服を身に着けるメリジューヌさんだ。

 変わっている所といえば、茶色い皮製の普通の靴から緑色の皮の編み上げブーツに変わっている所とポニーテールの髪をまとめているいつものなんの変哲も無い黒い紐が赤い装飾がほどこされた黒いリボンに変わっているくらいだろうか?もしかするとあれ等の装備品は戦闘用のなのかもしれないと思うが、そう考えると防御力が低そうなメイド服を着たままだというのが謎になる。

 実は戦闘用のメイドを身に着けている!!なんて可能性も考えられるけど、そもそもにメイド服を戦闘用に改造する意味も感じられない………うーん、謎だな。


「継続でお願いします。通路に打って出る必要はありません。一度奴等を此処に引き込んでから迎撃を行おうと思います」

「左様ですか、それではご命令通りに待機しております」


 メリジューヌさんにはここで待機してもらっていた。泥人間の迎撃にはメリジューヌさんの力が不可欠だからだ。

 そんなメリジューヌさんの表情はいつもと違い険しい、僕へ対する言葉も微妙に硬い。そんな硬さに釣られて僕の言葉も硬くなってしまう。


「えぇとりあえず僕は遠距離から攻撃を仕掛けますから、メリジューヌさんには接近してきた敵の処理をお願いします」

「分りました」

「じゃあ、お願いしますね」


 失敗したなぁ……「お願いしますね」とそう言って再び体の向きを通路側に向けて視線を通路の先で蠢く者達に戻すが少々後悔が湧き出してきた。素っ気無さ過ぎた「メリジューヌさんの活躍に期待しています」的なもうちょっと気の効いた言葉でも付け加えておけば良かった。

 まぁ、そんな事に気付いたけど後の祭り。今更言ったところで取って付けた様な不自然さが流れてしまうので止めておこう。


「…………」

「…………」


 静かで気不味い空気が流れる。だが僕もメリジューヌさんも無言で泥人間を睨みつけるのみだ。


 メリジューヌさんと話したい事が無い訳ではない。むしろ話しておきたい事は多いくらいだ。

 まず権能の侵食で頭がおかしくなっていた時の事を色々と謝罪やらお礼やらをして、次に誤解を解く為の釈明も行いたい。後そのリボン可愛いですね位言っておくのも礼儀だったかもしれない。しがしながら今はその様な状況下では無い。泥人間の群れの到達までもうあまり時間が無いのだ。

 時間が無い中で適当な謝罪をした所で僕がメリジューヌさんへ感じている気持ちはきっと伝わらない。諸々の事を含めた謝罪や釈明はこの戦闘が終った後にゆっくりと行なうべきだろうと僕は思う。

 それに正直な話、今のメリジューヌさんにこの作戦の事以外で話しかけるのは気が引けてしまう。


 メリジューヌさんの言葉と態度が硬い原因は………あの病気云々の事件と、『権化』化の時に迷惑を掛けたのが原因で間違いない筈だ。

 あんな事が有った後だから僕へ対して不信感を抱いていてもおかしくはないし、僕に対して不機嫌な表情を向けてきてもおかしくはないのである。


 やっぱり今謝っておくべきか?むしろ謝りたい…………でも、やっぱりだめだな。

 メリジューヌさんの心象を察するに今僕が変に釈明や謝罪を行なったところで効果は薄い、下手をすれば関係性が拗れる可能性だってある止めておこう。


「あの者達…………体が液状だというのは本当ですか?」


『謝りたいが今はその時では無いここは一つ必要最低限の事だけを語り、無事に戦いを終らせるべきだ』とかそんな事を僕が思っているとこの沈黙が不快だったのかメリジューヌさんが眉間に皺を寄せて口を開いた。


「厄介な事に本当です。泥が多く含まれているので固体のように見えますけどほぼ液体なので刺すとか切るとかの物理攻撃は効きませんから、気をつけて下さい」

「そう……ですか」


 ひぃっっっ!?そんな悲鳴が口から漏れそうになってしまった。

 メリジューヌさんの表情があからさまに不快を示す表情に歪められたからだ。


 あれ?あれぇー!? 今の返答、何処か不自然だったか?なんで更に機嫌が悪くなるんだ!!?…………ちょっと心臓に良くないぞこれは、蛇に睨まれたカエルの気持ちが良くわかる。なんだろうな、何か返答を間違えたか?いやそれは無い。しっかりと返答できた筈だ。


 僕はメリジューヌさんに不機嫌な声で泥人間達について問い掛けられたので驚きながらも平静を装って間を置かずに返答をした。ここまでは良い。完璧な受け応えだったと思う。メリジューヌさんの不機嫌さに臆することなくしっかりと返答できた自分を褒めてあげたいくらいだ…………だがその返答を聞いたメリジューヌさんは更に眉間の皺を深くし、メイド服に目を落として暗い表情を顔に浮かべている。


 何だ?今度は何をやらかしたんだ僕は!?


「え、えーと、何か心配事でも?」


 色々と不安になりそう問い掛けてみるが――――


「…………いえ、物体だろうが液体だろうが問題ありません。所詮は泥です。私が全て消し飛ばしてみせます」


 ――――暫しの沈黙の後、そう返されてしまった。そしてその返答をしたメリジューヌさんの表情は更に不快感に満ちていた。

 眉間に寄せられる皺は更に深くなり、通路の奥を見据えて剣呑な空気を全身から噴出させている。

 それは明らかに問題が無いという表情と機嫌じゃないピリピリとした殺気混じりの空気がこちらまで伝わってきていた。


「そ、そうですよね。すみません余計な心配でした」


 バクバクと鼓動を早める心臓の悲鳴に耐えながら、平静を装いそう返す。

 口の中が乾き、顔が引き攣ってる気もしないでもないが、こればっかりはしょうがない。

 メリジューヌさんの殺気をまともに受けて無表情で立っていられる人間なんて存在する筈ないんだから……


「余計なんてことはありません。心配して頂けるのは嬉しい限りです……………ですが、ツルギ様はご自分の事を心配された方が宜しいのではありませんか?」

「あ、はい。そ、そうかもしれませんね」

「…………他に仰りたい事はありませんか?」

「へ?いや、あはい。あー僕の事は気にしないで下さい。アハハハ」

「………」


 愛想笑いでなんとか誤魔化したがまぁ、メリジューヌさんは納得していない、非常に不満気だ。

 ギリっと唇を噛み、無言でこちらを睨み付けてくる。

 その視線に呪いでも乗せてるんじゃないかと、思えるほどに僕の体は緊張し萎縮してしまう。

 正直最初にメリジューヌさんと出会った時の事を思い出して――――心の中で笑っている僕が居る。

 これならば問題ない計画通りに事が進むと喜ぶ僕が居るのだ……本当にそのうち僕メリジューヌさんに殺されてしまうか知れないな。


 今回の泥人間迎撃戦はメリジューヌさんと共同で行う予定だ。

 目的は作戦の第二段階を円滑に行うに為である。

 泥人間の中に潜む冒険者にこの防衛線に侵入出来てもこれ以上の侵入は本隊を動かさないと難しいと判断させる材料として分りやすい脅威を用意したのだ。

 ついでに侵入して来てくれた冒険者諸君には恐怖や絶望を存分に味わって欲しいと思っている。

 そしてそう感じさせるには僕だけでは力不足なのでメリジューヌさんとコンビを組むのだ。


 僕の見た目はゴブリンという形で冒険者達に視えている。

 ゴブリンなんてのは大抵のRPGで下から数えた方が早い強さのモンスターだ。AOにおいても初心者が最初に狩るのに一番良いモンスターとされていた。

 そんなモンスターがちょっと強そうな剣を持っていたって冒険者達は尻込みすらしないだろう。

 だからこの作戦を決行するに当たっては、凶悪で恐怖の象徴のような対峙するだけで生きた心地がしなくなる。そんな相方が必要になってくる。そしてそんな相方はメリジューヌさんしか居ない!

 メリジューヌさんは不機嫌に睨みつけるだけで脆弱な生物に恐怖を与えられる存在自体が恐怖とも言える名無しの遺跡最強の生物だ。

 冒険者を怯え恐怖させるすという役目を担うならばこれ以上の適役は存在しないだろう!!(傷付くので本人の前じゃ絶対そんなこと言えないけどね)

 名無しの遺跡最強生物メリジューヌさんと、この遺跡で危ない奴ランキング1位になりそうな僕がコンビを組めば最高の恐怖と絶望を冒険者達に与えられる。

 先程のメリジューヌさんの不機嫌な視線を受けても、心の中で笑えてしまったのはそれを確信できてしまったからだ。


「ご主人様、間もなく泥の低級精霊が有効射程距離に入ります」


 大変メリジューヌさんに失礼な事を考えていたらミッチーから報告が入った。

 どうやら考え事の時間は終わりらしい。


「――――燃えろ火炎宝剣!!」


 呼びかけに応じて次々と火炎宝剣は刀身から炎を噴出し、僕の周囲に火球を形成させていく。考え事は終わりだ。後は実践と実戦が有るのみである。


「ツルギ様、やはり下がられては如何ですか?此処は私一人で十分ですので」

「そうは行きませんよ。流石にあの数をメリジューヌさん一人に任せるわけにいきませんから」


 こうして話している間にも泥人間達は着実にこちらに近づいて来ていた。

 その人型のフォルムも、松明に照らされテカテカと光っている泥の体表もしっかりと認識できる距離まで近づいて来ている。


 数は………20程度か?一度に処理するなら丁度良い数だ。

 流石はミッチー、僕が命じた通りに一度に来る敵を旨く調節してくれたらしい。

 正直『メリジューヌさん一人でもなんとかなるんだろうな~』とか暢気な事を思ってしまうが、そういった軽い考えは戦いにおいて死を招くので心の隅に追いやる。ここは安全でしっかりと徹底した殲滅を行うべきだろう。


「ミッチー火炎宝剣と火気管制のリンクは出来ているか?」

「リンク確立しています」

「なら、念の為火球を5つ預ける。飛び道具の迎撃に使え」

「かしこまりました。実体弾への迎撃に使わせていただきます」

「ツルギ様、まだお話は終ってません!」

「そうですね。でも、ゆっくりとメリジューヌさんとお話をしている時間は無くなりました。続きはまた後で――――」


 僕が前線に居ることに納得がいかないらしいメリジューヌさんから視線を外して正面に向き直る。

 そのまま息大きく吸って精神を落ち着けて心を戦闘用に切り替える。


 もう、泥人間達は既に部屋の中に侵入する一歩手前まで来ていた。

 今は通路を進むために乱雑な列をなして直進しているが、室内に入られ広がられては火炎宝剣の火球から逃れる個体も出てくるだろう。

 それならば通路でまとまっている今が一番有効な攻撃タイミングだ。


「穿て!火炎宝剣!!」


 周囲を漂う火球の数は15個、手始めにその内の10個を残して射出する。


 射出された火球は一直線に泥人間達の群れに飛んでいくが、泥人間達は回避行動すらせずにただ直進し――――火球と泥人間達が衝突するような形で着弾し通路を爆炎と轟音で埋め尽くす。


「敵前列中央に着弾確認――――敵前列のうち5体を破壊。残存兵力変わらず直進中」


 5体?思っていたよりも少ないな半分はやれると思っていたんだが……なるほど、火力が足りなかった訳か。


 爆炎から生じた煙の中から無事な泥人間達がベシャベシャと水音をたてながら走り抜けてくる。

 直撃を免れ、爆炎のみに焼かれた一部の個体は体を乾燥させてひび割れ崩れさせているが、気にする事も無く走り続け進行を止める気配全く無い。

 乾燥してダメージを受けているようには見えるので、どうやら単純に火球の火力が足りなかったらしい。


「ミッチー!火球の作成を任せる」


 一々燃えろ火炎宝剣!!とか行ってるのも面倒なんで、火球の作成自動化をミッチーにお願いする。

 火炎宝剣と導きの腕輪は同じ『神器』の区分にある物だからコアである魔石とミッチーを魔術的?に接続してそういった事も出来るらしい(実は詳しい説明を受けたが半分も分っていないのは秘密だ)


「了解致しました。攻撃のコントロールは如何為さいますか?オート攻撃も可能ですが」

「コントロールはこっちでやる」


 右手から魔力が火炎宝剣に流れて行く感覚がする――――それに応じて徐々に幾つもの火球が僕の周囲に再び形成されていく。


 さて、次はどう攻撃しようか?

 とりあえず爆発系は駄目だな。火球が直撃して5体程度しか破壊できないんじゃ意味が無い。

 そうすると、次に行う攻撃は貫通性の有る攻撃が無難かな?列ごと泥人間達を貫くのが一番楽そうだ。


 そうと決まれば直ぐに行動を起こす。


 火炎宝剣を使って作る火球で行える攻撃はほとんどが遠距離で使うことがミッチーから推奨されている。

 近距離の相手に使えない事もないが、爆発やら熱風に近距離で晒されると脆い人間の僕では耐えられないからだ。

 だから近づかれる前に火炎宝剣を使って減らせるだけ減らしてしまいたい。


「集え」


 静かに僕がそう告げるとミッチーにコントロールを預けた防御用の火球5個以外の火球が集まり融合し、一つの大火球となる。

 このままこの大火球使っても先程と同じ様な結果しか出ないので今回はこの大火球にもう一つ手を加える。


「太陽を穿つ槍よ!」


 少し気合を篭めて火炎宝剣に『槍』を作らせる起動ワード唱える。その起動ワードに従い火炎宝剣は内蔵の術式を発動させて、大火球に干渉する。

 火炎宝剣の干渉を受けた大火球は圧縮されたかのように一度小さくなった。

 膨大な熱量と光を放っていた大火球が圧縮された事により小さな火球は太陽のような眩い光を発する。

 更に圧縮された火球が意思を持ったかのように横に伸びる。伸びながら螺旋状に捻じ曲がり先端を鋭く細い物へと変じさせる。

 そうして強烈な光と熱気を放つ、螺旋を描く炎で形成された炎槍が生まれた。

 この『槍』は火炎宝剣で発現できる魔術の中で単純な火力では上位に位置するものだ。

 ミッチーの話だとこれを普通の魔術として発動させるにはのバカみたいに長い詠唱が必要になるというのだから驚きだ。


「炎槍の形成を完了いたしました。いつでも射出できます」


 炎槍はまるで僕の目線にあわせるかのようにその鋭利な先端を泥人間達に合わせている。

 これで『槍』を放つ準備は完了だ、後は火炎宝剣に射出を命じるだけ。


「――――溶かし貫け火炎宝剣!」


 僕の射出命令に反応し、火炎宝剣の刀身が赤く輝く。

 その瞬間炎で形作られた炎槍も元々発していた光を更に強め音も無く、炎槍は射出された。

 狙うは泥人間の群れの中央、この槍の貫通性を最大限に活かし敵の中央を丸ごと蒸発させる。


 ジュっと何かが蒸発する音が耳に届く。

 それは通路を抜けて今正に部屋に侵入しようとしていた泥人間の戦列を文字通り蒸発させる音だった。


「敵前列に炎槍の着弾を確認。敵戦列中央を貫通、泥の低級精霊11体の撃破を確認」


 視認するのが難しいほどの速度で射出された炎槍は無事に着弾し泥人間の群れに大きな風穴を空けただけでは留まらず更に通路を直進していった。

 この様子だと、もしかすると後続の泥人間の群れにもダメージを与えられるかもしれない。


 後は通路の端に居た炎槍の被害を受けなかった泥人間の始末をするだけだ。でも、それは僕の役目じゃない。


「メリジューヌさん!出番です!!」


 泥人間と僕達の間の距離としては8メートル程度だろうか?そろそろ危ない距離だと判断して半歩下がりメリジューヌさんへ呼びかける。


「先程のお話の続きは…………後で必ずして頂きますからね!!」

「――――っ!はい、必ず」


 僕の背後からメリジューヌさんが弾丸の様な速度で花のような香りだけ残して飛び出す。

 前僕の横を通り過ぎるときにチラリと僕の顔を覗き見ていったが、その時の顔がとても悲しそうだったのは…………今は気にしない方が良いんだろうな。


「ただ進むだけではないようですね」


 僕の前に躍り出たメリジューヌさんに泥人間達は素早く反応する。

 そこまでは直進しかしていなかったのに囲むような動きでメリジューヌさんを取り囲んだのだ。

 足の速さから想定していたが、その動きはやはり素早い。

 一瞬でメリジューヌさんを取り囲んだかと思うと、すぐに飛び掛り始めた。


 どうやらあいつ等は仲間が倒れようが自らの前に危険が迫ろうがその進路を変えないが、獲物を見つけるとその進路を変えて襲い掛かるようだ。

 もしかすると攻撃対象が近づくまでは徘徊するリビングデッドと同じ様な行動原理を持っているのかもしれない。

 まぁ、そんな単純な動きじゃ100匹居てもメリジューヌさんは傷つけれないけどね。


「――――ふんっ!」


 泥人間が飛びかかろうとしたその一瞬、メリジューヌさんは腰を落とし姿勢を低くし、右手に持つ黒色の大剣の柄を器用にクルリと指で何度か回転させる。

 そうやって何気くボールペンを指だけで回すような感じで回された大剣だったが、実際はヘリのローターのような高速さで大きな円を描く。

 大剣は強烈な風切り音を奏で、飛び掛ろうとしていた泥人間達4体の体に接触する。


 グシャリグシャリ――――と、メリジューヌさんの大剣に触れた瞬間に水風船が複数破裂するような音がなり、泥人間達は全身をズタズタに引き裂かれて飛び散っていく。

 物理攻撃への耐性を持つ泥人間だろうと強烈な風圧と質量には抗えなかったようで、体を構成している泥をミキサーに掛けられたかのように切り飛ばされて舞い上がり散り散りになり崩れていく。

 接敵から数秒で4体の泥人間は全滅し、ただの泥に戻った残骸がボタリボタリと雨のようになって降り注ぐ。

 メリジューヌさんはその泥の直撃を受けないように大きく後ろに飛び退り、難なく泥の雨から逃れる。

 今のはそんな圧倒的な実力差が示された戦いだった。


 うん、分ってはいたけどやっぱりメリジューヌさんの身体能力は埒外だ。前衛をお願いしてよかった。


 メリジューヌさんは飛び散った泥人間の残骸を視認し、活動が停止した事を確認するとクルリとこちらに向き直る。そして靴音も立てずにゆっくりとこちらに歩いてきて僕の横に並ぶように立つが――――


「…………」

「…………」


 ――――また、沈黙。

 メリジューヌさんは何も語らず通路を見つめ僕のほうを見もしない。

 やはり気まずい。多分ここは僕が何か声を掛けなければいけない場面なのだろうと察するが………気の効いた言葉が思いつかない。(そもそもそんなことが出来ているならばこんな空気にはなってないなハハハ………)


「お疲れ様ですメリジューヌさん」


 とりあえずだんまりを決め込むのもアレなので、ご機嫌取りでは無いが労いの言葉を掛けてみた。


「いえ、この程度造作も無い事です」


 うん、反応は良く無い。何の感情も篭められていない素っ気無い返答が帰ってきたのみだった。


 正直戦闘中に思うことでも無いと思うけど、ちょっと前までは仲の良い姉弟の様な関係でいたつもりだったんだからもうちょっと関係を改善したい。

 だけど原因を作った僕がそんな事思うのは我侭だろうか?……………いや、やっぱり今のうちにしっかりと謝罪だけでもしておくべきだろう。

 コミュニケーションの欠如は何事においても支障が出る。

 コンビを組んで前線を支えるならばそれは尚更だ。幸い今は泥人間達の処理も一時的に終ったことだし――――どうやら、その機会を泥人間達はくれないらしい。 


「ご主人様、次の群れが近づいております」


 通路の奥に先程同じ様に蠢いている泥人間達が見える。

 先程よりも若干多いだろうか?通路に放った炎槍が届いていれば数は減っていてもおかしくはないと思うのだが……まぁやることはさっきと同じだ。しっかりと此処を死守しよう。


 ***


 ――――――――暫しの時が過ぎ、またしても想定外が起こっていた。



 ハハハ…………出来の悪いタワーディフェンスみたいだなこれは。


「炎の壁よ!」


 火球を幾つか消費して部屋の入り口に火柱の壁を構築する。

 今やこの部屋に一度に流入してくる泥人間の数は100を超えていた。敵に変わりは無く泥人間のみ、冒険者が中に潜んでいる泥人間は一度も来ない。

 泥人間の数だけは増えてきているが、まったく代わり映えがしない敵の構成には飽き飽きしてくる。


 炎の壁で何体かの泥人間をカリカリに乾燥させて行動不能にするが、それは100体を越える泥人間の一部だけだ炎の壁を抜けてくる泥人間は多い。

 そしてそんな入り口で処理しきれない泥人間には先程と同じ様にメリジューヌさんに対応してもらっているが、これだけの数だと流石のメリジューヌさんでも一瞬で全滅させる事が出来ない。

 メリジューヌさんを囲みきれない泥人間達がこちらに殺到してくる。


散弾する円舞(スプレッドロンド)再装填完了。魔力弾発射します」


 天井から円形に舞い踊る様にして小さな紫の光球が幾つも降って来る。

 その小さな紫の光一つ一つが魔力弾だ。

 幾つもの魔力弾は描きながら一定の距離を落下すると静止し円陣を作る――――そしてターゲットを固定し、泥人間達に向かって飛翔する。


 光球が近場の泥人間達に近づくと更に分裂し着弾する。

 そして着弾した後に泥人間で内部で爆ぜて紫色の光を周囲にばら撒く。

 内部からの破壊の力に耐え切れず先頭に居た泥人間達は活動を停止するが、更にその後からも泥人間達が続いてくる。


「ミッチー再装填急いで!親衛隊前へ!」

「槍構え!貫けー!!」


 僕の掛け声でタワーシルド構えた親衛隊の戦士達が前に出て槍衾で泥人間達の生き残りを貫いていく。

 しかしながら物理攻撃に耐性がある泥人間に効果は薄い。

 泥人間は動きを一瞬止めたあとに槍に貫かれながらも再び直進しようとするが―――その貫かれた背後を風のように走り抜けるレオナさんの姿があった。


「傷を開け『サブナック』」


 家名と同じ名を持つレオナさんの蒼き魔剣が親衛隊に殺到していた泥人間たちの背に横薙ぎの一閃を加える。

 切り裂かれた泥人間の背中が再生していくが、すぐにその再生は止まり、逆に裂傷がパクリと口を開きそこから泥人間の体が削れ始めた。

 それだけではない、親衛隊が貫いた穴からも泥人間の体は削れて行き穴を大きく広げていき内部から見えない何かに食い荒らされるようにして消えて行く。

 傷の拡大、再生の防止、回復の妨害、それ等がレオナさんの持つ魔剣『サブナック』の効果らしい。


 流石の魔剣だな。ほぼ今の一撃で目の前の泥人間が消え去った。

 後はメリジューヌさんに集ってる奴等の処理を――――


「ミッチー!こっちはこれでOKだ。メリジューヌさんのほうに火力の支援を!」

「了解いたしました。『散弾する円舞』再発射します」


 再び紫の光球が踊り狂いながらメリジューヌさんを囲む泥人間達に向かっていく。

『散弾する円舞』が放つ魔力弾はコントロールが効き易い魔術らしいのでメリジューヌさんを狙うことはない。


「守護者殿、敵の本隊とやらはまだこないのか?」


 レオナさんが自らの魔剣の力で消えていく泥人間達の残骸を見ながらそう問い掛けてくる。


「えぇどうやらまだのようです」

「まだ、なのか………長期戦に持ち込まれそうか?」

「正直向こうにそのメリットは無い筈なんですが、可能性は高いかもしれません…………そろそろ厳しいですか?」


 正直この敵の動きは完璧に想定外だった。

 まさかまったく本隊を動かさず泥人間の突撃だけで攻めてくるとは予想だにしていなかった。


 通路の罠で起動していた物は99%破壊されてしまっている。

 それを確認したのがもう20分前、そして通路で処理できなくなった泥人間はダイレクトにこちらに流れてくるようになり今の出来の悪いタワーディフェンスゲーのような状態になってしまっている。

 こうなると未だ冒険者達が様子見をしているという可能性は低いだろう。

 リアル生活のある冒険者達が持久戦を選択するとは思えなかったがこのような事態になってしまっている以上認めるしかない。


「今はまだ問題ない。が、これが一時間、二時間続くとなるとその時に同じ返答を返せるかは怪しいな」

「…………分りました。でも、もう少しだけ様子を見させてください」

「分ったこのまま防衛体制を維持しよう…………守護者殿もそのなんだ、例のアレの事も有る無理はするなよ」

「アレ?…………アァソウデスネ。ダイジョウブデスヨ。ナントカナリマスヨー」


 言い難そうレオナさんが言った例のアレ――――ミッチーが適当言って病気持ちにされたアレだ。そんな噂が広まりそうな事実が認めたくなくて棒読みで返答してまった…………釈明しても信じてくれなさそうなのでそう返すしかなかった。

 まぁそんなことは心底どうでも良い!!今はこの状況をどうするかだ!


 ミッチーの話だとこんな出鱈目な量の精霊の召喚と使役は術者に強力な負荷がかかり長続きしない、という話だった筈なんだけど泥人間マーチは続き続けている。

 この敵の動きから予想するにこちらが疲弊しきるの待っているというのが可能性が高い………あっもしかするとこちらの攻撃部隊を釣り出す誘引作戦の可能性もあるのかこれは?どちらにしてもちょっと状況が良く無いな。何か対策を考えないといけない。いけないのだが……


 前方で奮戦するメリジューヌさんの周囲で紫の光弾が爆ぜる。

 今の攻撃で部屋に侵入してきた泥人間の群れをほとんど片付けられた筈だ。

 次の泥人間の群れが到達するまでは2,3分の猶予がある。今のうちに考えをまとめてしまおう。


 今の状況から推察するにおおよそ2時間から3時間はこの泥人間マーチを耐え切る戦力が此処には残されている。

 だから耐えて耐えて耐え切って、本隊が此処に入ってくるのを待つという初期の作戦が一番安全なのは今も変わらない。だが、連中が4時間でも5時間でもこれを続けてくると話は変わってくる。

 作戦は失敗してまうのだ。

 まず僕の罠や設備を維持している魔力があと4時間程度しかもたない。

 次にレオナさんを含む親衛隊やメリジューヌさんが幾ら人間よりも優れた種族であり埒外な体力を持っているとしても限界はいずれ必ず来る。

 そんな時に敵本隊がこの遺跡に侵入してきたらもうこの防衛線は機能しない。

 尻尾を巻いて2層の最終防衛線に逃げるしかなくなってしまう。 

 そして2層は大部隊が一気に雪崩れ込まれると対応仕切れ無い構造だ。

 だから敵本隊を無傷で2層に降ろすというのが一番避けなければいけない事態だ。

 ならばどうするか?こちらから何か敵に攻撃を加えるべきだろうか?それならば敵へダメージを与えられる可能性があるが、どうやって攻撃する?精鋭部隊を編成して遺跡の外に向かう――――却下だな。敵の泥人間マーチ自体僕達を誘い出すの作戦の可能性がある。

 そういった場合どんな罠が有るかも分らない敵の作戦に乗る訳にはいかない。

 それにあの数の泥人間の群れを越えて外に向かうのは流石にキツイ。外に出る頃には攻撃部隊は疲弊し切ってしまう。だけど、外への攻撃手段なんてほかには無いし………どうするか……………もう少し様子をみるか?だがこうしている間にも時間が――――あれは!?


 それは僕がぼんやりとメリジューヌさんの戦を見ながら今後の方策を巡らせていた時だった。

 その時、最後の泥人間の上半身切り飛ばしてメリジューヌさんは勝利を確信していたのだろう。

 余裕のある歩幅と表情でこちらに戻ってきていた――――その瞬間、倒した筈の泥人間の下半身を構成していた泥の中から人間の子供サイズの塊が跳ねた。


「メリジューヌさん!後ろだ!」

「―――――え?」


 泥の中から口元を白い布のようなもので隠した小人の冒険者が飛び跳ねて出て来た。

 やはり先程侵入してきた冒険者達同様の白い装備を身に着けているが泥に塗れて薄汚いイメージを僕に抱かせる。

 突然現れた小人のその身は泥に塗れているが体に傷のようなものは見受けられない。

 恐らくその小さな体躯ゆえにメリジューヌさんの斬撃を免れることが出来たのであろう。

 そして小人は無言で低い姿勢を取りメリジューヌさんに向かって走る。その歩方は最小限の動きで最大の速度を出すミッチーの猛攻を避け続けていた忍者を思い起こさせる動きだ。もしかすると中のプレイヤーは同じ人物なのかもしれない。


「チッ、ミッチーあいつを止めろ!!なっ早い!?」


 ここに来て僕はあの小人に対して強い焦りを覚えた。

 それは小人が手にギザギザとしている刃を持つサバイバルナイフを持っていたからだ。

 しかもそのナイフ、刀身は緑色の不気味な輝きを放っている何らかの魔術的な効果を有している可能性が高い物だった。

 幾らメリジューヌさんが頑丈な体をもっているとしても正体不明の魔術の効果を受けてしまえばどうなるかわからないので急ぎミッチーにあの小人を捕縛するように叫んだが――――間に合わない。


「縛鎖きど――――間に合いません!」


 全身に付着した泥を撒き散らしながら小人は尋常じゃない速度で動き、完全に勝利を確信していたメリジューヌさんの背後を狙う。

 メリジューヌさんがその気配に気付き振り返り小人を視認し表情に驚きを表す。

 縛鎖が起動し防衛線の壁から大量の鎖が出現し、通路に向かって殺到する。だが通路にいるメリジューヌさんの元へ到達するには数秒の時間が必要であった。

 それ等の事が数秒の間に一度に起こった後―――――――まず最初に振り向いたメリジューヌさんの左わき腹にサバイバルナイフが吸い込まれた。


「なっ!?――――――あっ……よ……され……た?」

「メリジューヌさん!!」


 メリジューヌさんはお腹を抱えるようにしてペタンと膝を付く、何かを言っているようだが刺されたショックで声があまり出ないのか聞き取れない。

 更に小人は必死の形相でナイフをメリジューヌさんのお腹から引き抜き、そのままナイフを振り上げてペタンと座り込んで放心してしまっているメリジューヌさんの頭を狙ってナイフを突き刺そうとする。がそれを10数本の縛鎖が雁字搦めにして止めた。

 更に数秒遅れて遅れて来た数本の縛鎖が小人の体に殺到して簀巻きのような状態にする。


「メリジューヌさん!」


 走る!メリジューヌさんの元に走る!完全に慢心していた、メリジューヌさんの強さに僕は完全に慢心していた。また、僕が愚かなせいで負傷者が出た。ボクは一体どれだけ失えば――――あれ?メリジューヌさんなんか普通に立ち上がったぞ?あっなんかブツブツ言ってる…………汚れた?あぁ服が汚れた事を気にしているのかな?うん、割と余裕っぽいな!


「…………」


 ブツブツと呟いた後再び無言になるメリジューヌさん。

 それに応じるようにシーンッと全ての音が止まったような錯覚を僕は覚えた。しかしその直後ゾワリとした恐怖が背中を走り、続いて全身に怖気を伴う鳥肌が立ち始めた。


 これは知っているぞ………メリジューヌさんと初めて会った時感じたのと同じものだ。


 僕に強烈な恐怖とを感じさせているものの正体は怒り、それも近くに居る者を自然と恐怖させる強烈な怒気だった。

 服を汚された程度で何故そこまで怒っているのかは理由は不明だがメリジューヌさんは今確実に怒っていた。


「ひぃやああああああ、来るな来るなくるなぁあああああああああ」


 そこまで無言だった冒険者の悲鳴があがる。

 別にメリジューヌさんが何かしたわけでもないのに悲鳴をあげて絶叫しているのだ。

 それほどにメリジューヌさんが放つ怒りは強烈だ。

 その怒りがこちらに向いているわけでもない近くに居る僕に対しても影響を与えているのだから直接あの怒りをぶつけられている冒険者はたまったものじゃないだろう。


「キーキー五月蝿い黙れゴミめ。すぐにその口を引き裂いてやろう」


 非常に煩わしそうな不快そうな声でメリジューヌさんはそう言った。その怒りのあまりか変化した口調から、またしても初めてメリジューヌさんと遭遇した時を思い出してしまう。

 恐怖の悲鳴をあげる小人に、同じを経験した者として少し同情してしまうが自業自得だ。


 メリジューヌさんは怒りで力が制御できないのかカツドスン!カツカツドスンと床を左足で粉砕しながら右足は普通に歩くという器用で奇妙な靴音?を立てて簀巻きになっている冒険者にゆっくりと近づいて行く。

 僕はメリジューヌさんの背後に居るので分らないが、恐らく今あの石化の力を持つ蛇目は怒り狂い金色の光を放っていることだろう。

 その証拠にメリジューヌさんの怒りに直接当てられている小人は尋常じゃない程に眼を見開いてガタガタと震えだした。


「ご主人様、メリジューヌ様をお止め下さい」

「ん?なんでさ?別にあのままメリジューヌさんにあの冒険者を始末してもらっても問題ないんじゃないか?」

「はい。あの冒険者をメリジューヌ様に始末して頂くのには異論はありません。ですが縛鎖は別です。あのメリジューヌ様の様子から加減は出来ないものと私は推測します。今の状況で複数回使える罠を無駄に壊してもしまうのは如何なものかと」

「あぁそういうことね」


 なるほど、ミッチーは縛鎖の心配をしていたのか。

 確かに今の怒り狂ってるメリジューヌさんに縛鎖を壊さないであいつを殺す器用さは残っていない筈だ。

 普段ならまぁ縛鎖の2、3セット壊されても構わないが、持久戦になる気配が濃厚な今消費は抑えるべきだろう。ミッチーの言う事は正しい。正しいけどこの状態のメリジューヌさんに声を掛けるのは若干の……いや、結構な恐怖を感じる。


「根性無し様さっさとメリジューヌ様を止めて下さい」

「根性無し!?それ酷くないか?根性無かったら僕こんな仕事してないよ!」

「でしたら、臆することなく勇気を持ってメリジューヌ様を止めてください」

「うー………分ったよメリジューヌさんを止めよう。メリジューヌさんストップストップ!!」


 怒り狂うメリジューヌさんに声をかけるのは恐怖を感じたが、今は僕個人の心象よりも戦線を維持するということが何よりも優先される。(別に根性無しって言われたのが原因じゃないぞ!)勇気を出してメリジューヌさんに声を掛けた。


「止まれ?何故止められるのですかツルギ様!」


 あーストップって『止まれ』って翻訳されて伝わってるのね。


「いや、ちょっとメリジューヌさん鎖ごとそいつを殺しそうな勢いだったしさ。ちょっと落ち着いてもらおうかと――――ん?メリジューヌさん泣いてるんですか?」


 僕の声に反応し振り返ったメリジューヌさんの金色に輝く蛇の瞳には涙が溜まっていた。

 その様子からもしや先程の小人にナイフで刺された時に怪我でも負ったのかとメリジューヌさんの元まで駆け寄り観察する。が、怪我どころか泥に汚れているだけでメイド服自体にも傷一つ無い。恐らく防刃素材か何かで作られていたのだろう…………やはりこのメイド服、戦闘用なのかもしれない。

 しかしながらあのサバイバルナイフには魔術的な効果が掛かっている可能性が有った。

 服が傷付いていないだけで、肌だけを切り裂かれたとか、身体的な不調を起こしている可能性がある一応確認しておくべきだろう。


「もしかして何処か怪我を?」

「あの程度の者に怪我なんて負わされておりません!」


 怪我は無い。じゃあなんで泣いているんだ?…………分るわけがない。


「えーと、じゃあなんで泣い――――あ、うん。なんでもないです」


「何で泣いているんですか?」と言い切る前に「グスッ別に泣いてません!」と鼻をすすりながらメイド服の袖でゴシゴシと顔を拭かれてしまった。折角の美人さんが台無しである。


 しかしどうしたもんかね…………サンプルこそ少ないがうちの姉ちゃんが泣いた時のパターンを参考にするとこういった場合下手に刺激すると良くない事になるのは分っている。となると、まぁメリジューヌさんが落ち着くまでスルーしてあげるのが無難だろうなぁ。


『ご主人様、女性=お姉さまで考えるのは如何なものかと』


 心の中でミッチーに変なツッコミを食らうがこれは無視だ。そんなことは分っている。

 だけど有用な行動パターンがサンプルな姉ちゃんのしか無いだから仕方が無いじゃないか。

 僕だって時間が有れば、ちゃんとフォローして慰めたりしたいさ。でも、今は時間が無い。

 さっさとこの場を収めて次の泥人間マーチに対応しなければいけないし今後の対応策も考えなければいけないんだ。些事に構っている暇は無い、当たり障りの無い対応が一番なのだ。


 そんな事を考えているとメリジューヌさんの怒りを現していた瞳の光が消えていた。

 どうやら興奮状態は治まったようだ。


「メリジューヌさん落ち着きましたか?」

「…………はい」

「じゃあソレ始末しちゃっていいですよ。あっ鎖は壊さないでくださいね」


 メリジューヌさんは何かを探るように僕の顔を見つめた後、再び小人に向き直る。

 そして小刻みに震える簀巻き状態の小人を見つめている。それはまるで獲物を見つめる蛇を連想させるが、直ぐにプイッと視線を外し踵返して防衛の定位置に戻り始めた。


「え?あれ?こいつ始末しなくても?良いんですか」

「えぇ、ツルギ様にお任せします」


 この場から離れて行くメリジューヌさんの表情はとても悲しそうだった。

 それは今日何度も見た表情だった。しかしながら僕はメリジューヌさんの心の中で何が有ったのかは分らない。

 分った事といえばこの小人に対して殺意を完全になくしてしまったのだろうという事だけだった。

 何かもどかしさを感じてしまうが、今回もまた後の祭りだ。気にしないでおこう。


「お任せしますって言われても………どうしよっかミッチー?」


 見下ろすようにして、この哀れな簀巻き状態の小人を観察する。

 余程メリジューヌさんが恐かったのか未だに小刻みに振りえて逃げようと必死にもがいている。

 そんなに怖いならもうログアウトしてアバターを捨ててリアルに逃げれば良いだろうに何でしないだろうな?


「次の泥の低級精霊の群れも近づいておりますので、早急に破壊してしまうのが無難かと」

「あぁうんそれはそうなんだけど、なんか折角捕まえたんだし有効利用する方法は無いかな?と思ってさ」


 こんな無防備な状態の生きている冒険者を安全な状況で確保出来る事は少ない。

 有効利用する方法は無いだろうか?欲を言えばこの小人をつかって外の連中に攻撃できれば最高なのだが……


「ゾンビパウダーでも残っていれば、死体の利用は可能でしたが残念ながら在庫切れです。やはり破壊してしまうのが無難かと」

「だよなぁ…………やっぱり外に設置したアレで使いすぎたな。少し手元に残しておくべきだった」

「ご主人様は計画性はあるのに大雑把過ぎますね」

「うっ……反論できない」

「まぁそれが美点となる場合もありますが、今はそんな事を話している場合ではありませんね。さぁこの者の始末を」

「始末をって、ミッチーのほうでやってよ。この距離だと火炎宝剣の魔術は使えない」

「はい、魔術を使えば巻き込まれてしまいますね」

「それが分っているならなんか適当な罠を起動してよ。それで終わりだろう?」

「…………ご主人様、ご主人様が今手に持っている物は何ですか?」

「いやだから火炎宝剣の魔術は――――あっまさかミッチー僕に直接こいつを斬れって言ってるのか?」


 そこで気付いた、気付いてしまった。

 火炎宝剣は剣だ。高度な火属性の魔術でも簡易な方法で使用出来る便利な物だが、杖では無い。敵を切り裂き、切り殺す為の剣なのだ。

 火炎宝剣を剣として使うのがもっとも簡単なこの小人を殺す方法なのは僕以外の誰もが気付くことだろう。


「はい。それが一番魔力消費が少ない、この者の破壊方法です」

「それは…………そうだな…………うん、よしやるぞ」


 意を決して火炎宝剣構えるが、手が震える。

 別にこれが初めて冒険者を斬る訳でもないのに手の震えが止まらない。

 これこそがAOで受けたトラウマが僕の心に未だに残っている証だろう。

 そして今思えば火炎宝剣でこの小人を斬るという選択が直ぐに思いつかなかったのもあのトラウマが原因だと思う。

 しかしながらそんなトラウマに引き摺られて無駄な時間と魔力を浪費する訳には行かないという事も理解している。

 だから僕は大きく息を吐いて精神を集中し、小人の首に狙いをつける。

 精神を集中させてもまだ手元が震えている。小人は僕からの攻撃の気配を感じ取って先程より強く必死にもがいてなんとか逃げようとしているが縛鎖の戒めは強力だ。もし、今鎖を消失させてれば一目散に逃げ出すのだろうけどそんなことでは逃げられな―――――あぁ良い事思いついた!!


「ミッチー反撃方法を思いついたぞ!これやれるか?」


 必死に逃げようとしている小人を見て僕は一つの事を思いついてしまった。

 思いついてしまったのならその利用方法を構想し、実用化に運ぼうとミッチーに頭の中の考えを開示する。


「はぁ……まぁ可能ですが、ご主人様は本当に根性無しですね」


 ミッチーがわざとらしい溜め息をついて(ミッチーに肺なんて物はないのでわざとなのは間違いない)

 人の構想に文句を付けて来た。


「なんだよ。文句でもあるのか?」

「いえ今のは賞賛ですよ?自らの手を汚したく無いからと。こんな手を思いつくとは流石はご主人様です」

「嘘だ!まったくちっとも褒められている気がしない。そもそも斬りたくないから思いついたわけじゃないぞ!」

「左様ですか、ではそういう事にしておきましょう」

「むぅーもういいよ!さっさとやっちゃってくれ」

「かしこまりました。魔力地雷(マナマイン) 『創造』します」


 さて、この小人にはに一つ働いて貰うとしようか。




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