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迷宮の新米守護者  作者: 板 竹輪
第1章 迷宮の新米守護者
43/45

第40話 第一層迎撃戦2:やっと僕のターン

今回は短めのお話しです

 20分後――――――なんとか、事態は終息した。


 あの後ミッチーの説教の勢いが落ちるまで10分ほどの時間を要し、そこから僕がミッチーに休戦を申し出た事により一端のミッチーの説教は終息した。

 休戦する為に持ち出した言葉は至ってシンプル「今は戦闘中だから後にしよう」そんな当たり前の言葉だった。その言葉をもっと早く伝えておけばよかったのだが、マシンガンのように飛び出してくるミッチーの説教に中々口を挟めなかったのだ。結局、ミッチーの説教の勢いが落ちたところでようやくその言葉を吐き出すことが出来た。


 後は一度話し合いのテーブルに付ければこっちのものだ。「これからの戦いは苛烈になる事は間違い無しだ。そんな時に先程の様な予想できない挙動をミッチーにしてもらっては困る」と言った感じにしっかりと説明し、そのおかげかミッチーは一時的な学習の凍結を飲んでくれたのである。

 そうして休戦の条約は締結され、ミッチーの『人間臭さ』学習は一時凍結ということになった。

 今回の件は無駄ではなかったが今は有効に利用できないと僕は判断した故の凍結だ。

 だからこの戦いが終った後、ミッチーには人格のコピーなどでは無い、しっかりとしたミッチー自身の感情を獲得して行って欲しいと思っている。

 いずれは、ミッチー独自の感情を持った『個』が確立して欲しいとも願っている。だが、それはもっと遥かな未来になるだろう。

 そしてその未来を獲得する為にも今は確実にしっかりとこの防衛線の守備を固めて生き残るべきであり、無駄口を叩いている暇はない!…………無い筈なんだけど…………そういう予定だった筈なんだけど、今僕はゆっくりと遅めの昼食をとっている。


「贅沢は言いたくは無いけど、やっぱりこのエルフパン美味しくないよな」

「栄養価は高いそうですよ」

「あぁ、うん。そんな味だね確かに………」


 斥候が進入してきた後、再び冒険者達の動きは止まった。

 こちらの様子を伺っているだけという可能性が高いが、まったく動きは無い。

 しかし様子見をしているとしてもこの動きは遅すぎる。何か事情があるのかもしれないけれど、ゆっくりし過ぎなのである。


 まぁおかげで色々と補給も出来たからこっちとしては助かってるんだけどね。


 この何も起こらない時間は敵にとって致命的であり僕たちには有難い時間となった。

 僕達はこの時間を有効利用し二層へ繋いだ転送魔法陣から矢弾及び食料の補給と兵の補充を済ませたのだ。


 そして現在のパンを頬張りながらしかめっ面をした僕に繋がる。


 僕の右手にはこの名無しの遺跡でもっともポピュラーな食料である苔色をしたコッペパンのようなパンが握られている。

 これはエルフ達から食糧支援として贈られてきているエルフ麦から製造されているパンで、通称エルフパン。

 このパン見た目は柔らかそうなのに硬さはフランスパンに匹敵するし、味はパンというよりは葉っぱを食べている感じなのだ。正直美味しくない。美味しくないけど………


「でもまっ食べられるだけマシだよな」


 この遺跡に避難した魔族達の状況を考えると食料があるだけでもマシな状況だ。

 エルフ達には感謝しなければならない。

 それにあんまり食べ物に文句を付けるのは良くないよな――――そう思いつつもこの中々にきつい味のパンを長々と食べているのは辛いので一気に口の中に放り込んで差し入れの野草茶を飲み干す。

 これまた、草味がきつくが渋いお茶だ。だがほんのりと渋みの後に甘みが感じられて糖分に飢えている僕の頭は美味しいと認識できるのだから不思議なものだ。


「うん、美味しい。これが美味しいって感じられるなら割と僕もこの遺跡生活に慣れてきたのかな?」

「そちらは草食獣人用のお茶だと記憶していますが、食生活が乱れて味覚が壊れてきたのではありませんか?ご主人様」

「ぐっその辛口は止まっていないのか…………」

「こちらはまた別の学習の成果ですので正常に機能しております。こちらも止めますか?」

「いや、いいよ。何でもかんでも禁止したい訳じゃない。口は悪くてもミッチーが普通に働いてくれるならそんなことに文句はつけないさ」


 僕は姉ちゃんのような暴君じゃない。

 気に入らないからって折角ミッチーが頑張って覚えた事を止めさせたりはしない。

 もちろん実害が無い場合に限るけどね。


「で、敵に動きは無い?」

「はい、ありませんね。小動物一匹進入してくる気配はありません」

「うーんまさか持久戦を狙っているってことは無いだろうしなぁ」


 冒険者達はAOというゲームをプレイしていると思っているプレイヤー達だ。

 持久戦という選択肢は有り得ない。

 プレイヤー達には日常生活がある分あまり多くの時間をこの遺跡を攻めるのに使えない筈だ。



「まぁ、待つだけだな。このまま亀の様に引き篭って守りを固めるだけだ」


  ***


 更に20分経過――――――


「来ないな」

「来ませんね」

「もしかして帰った可能性は?」

「洞窟外に置いたセンサー類はコード『死者の葬軍』(レクイエムレギオン)の効果終了により消滅しておりますので分りかねます」


 うーん、アレを使っちゃったのは早計だったかな?ていうかその名前止めて欲しいって言った筈なんだけどな…………もしかしてミッチー気に入っちゃったのか?それなら無理に止めろとは言わないけど………まぁ、流してしまおう。


「じゃあ、現状維持しかないか……」

「それが最良の選択かと――――あら?これは?」

「ん?何か有ったか?」

「はい、第一層入り口にて微弱な魔力反応有りです。恐らく洞窟の外で何か魔術を行使しているのではないかと推測されます」

「動いたか!」


 ミッチーの言葉を受けて既に第一層の入り口に映像を固定している水晶板に眼を向ける。


「…………何も来ないぞミッチー」

「まだ僅かな魔力を感じただけです。侵入してきたわけではありません。そんなに腕輪()を睨み付けないでください。ご主人様が戦いに飢えているのは分りましたから」

「むぅ、別に飢えているって訳じゃないさ。ただ良い加減に待ち飽きただけだ」


 正直いつまでも来ない冒険者達に対して焦れていた。

 先程までのミッチーでは無いが鬱憤が溜まって来ている。そんな状態だ。

 ちょっと肩透かしを食らって目付きが悪くなったって仕方ないじゃないか。


「左様ですか、私には飢えた獣の様な目付きに見えましたが、私の気のせいだったようです」

「飢えた獣って……姉ちゃんじゃないんだから、ん?何か見えてきたな………人?じゃないな………泥の塊?」


 ミッチーと談笑しながらまだ見ぬ敵に焦がれ、水晶板を凝視していると何やら変な物が入って来た。

 人間型の茶色い表面をドロドロとさせた物体が入り口から走るように侵入してきたのだ。


「1,2、3、6、8うわっ駄目だ数が多すぎて数えられないドンドン入ってくる」


 泥の塊が人間の形を模しているかの様にしか見えないその謎物体は最初は一つだけだった。

 だが、一体が進入してくるとそれに続くように2体目3体目と次々と入って来て10体目になる頃には横列で入ってくるようになり今では規則性も無く垂れ流しの様な状態で進入してくる。


「現在39体の進入を確認。ご主人様、どうやらあれが先程の魔力反応の正体です」

「とりあえず今進入してくる奴は敵だオートモードの罠で殲滅。でっミッチーあれは一体なんだ?」

「魔力反応は微弱ですので低級の使い魔の類かと」

「低級ってことは弱いのか?随分動きが早いけど……」


 泥人間達は陸上選手のような綺麗な走行フォームで第一層の中央通路駆け抜けている。

 まったくこちらの動きを警戒していないせいか、先程撃破した忍者よりも早いくらいだ。

 そして疾走する泥人間達に、天井から矢罠の矢が降り注ぐ。


「ん?効いていないのか?もしかして物理攻撃が効かない系か?」


 何本もの矢が、泥人間に突き刺さるがまるで効いていない様に直進を続けていた。

 陸上選手のような綺麗な走行フォームもまったく崩れる様子がない


「着弾結果より『解析』――――解析結果でました。あの侵入個体達は泥に低級の精霊を憑依させている者達のようです」

「低級精霊?精霊ってことはカーバンクルの親戚みたいなもんか?」


 リリアから借りてるカーバンクルは緑色のリスのような姿をしているが一応は精霊らしい。


「いえ、カーバンクルよりももっと下位の位階の精霊ですね。自然物に取り付き動かす事が出来るタイプの者達だと思われます」


「ふむ、見たまんま泥な訳か。物理攻撃が効かない理由はやっぱり泥だからか?」

「はい。随分と水分の多い泥のようですので、固体ではなく流体に近いようです。ですから刺突や斬撃は効きません」

「なるほど液状な訳かドロドロしてるもんな」


 水に矢や剣を突き刺した所で意味が無い。

 あの泥人間に今使用している罠が効かないのはそういった理由だろう。

 火炎放射床で燃やした場合はどうなるのだろう?と思いもしない訳ではないが、あの罠の設置数は矢罠ほど多くない。数の多い泥人間達を始末しきれないだろう。


「何か矢罠や剣の罠で有効打を与える方法は無いか?」

「オススメは対精霊加工です。対精霊加工を罠に施すのが有効かと思われます。加工を施しますか?」


 なんか今侵入してきている連中にピンポイントな加工がミッチーオススメリストに有った。


「その加工って魔力を結構食うか?」


 ミッチーの提案してくる特殊金属加工って妙に魔力を食うのが多いんだよな。どれくらい魔力を消費するか一応確認しておかなきゃいけない。


「罠全てに加工を施す場合は、全罠の稼働時間が1時間ほど減ります」


 1時間…………まぁ、妥協範囲だ。

 残りの罠の起動と敵の数を考えると長くても3時間もあれば勝負は付くだろうから加工を施しても問題無いだろう。


「んー……まぁ、仕方ないかやってくれ」

「かしこまりました」


 じわりと『導きの腕輪』に熱が篭る。

 最初の頃はこの熱を不気味に感じたものだが、今は頼もしさすら感じるのだから僕がミッチーを信頼している証といっても良い心象だろうこれは。


『全物理攻撃系罠に精霊消滅印を付加開始―――――付加完了』


 でも、このアナウンスの無機的で冷たい感じだけはちょっと苦手だ。

 今度この辺りは改善できないかミッチーに聞いて見よう


「対精霊加工完了しました。攻撃を継続します」

「あぁやってくれ――――ん、対策すれば結構脆いのな」


 僕は罠に施した対精霊加工の効果に満足しニヤリと笑う。


 映像が映し出されている水晶板の中では先程と同じ様に群れを成して侵入してくる泥人間達と、なにやら光る文字を矢尻に印字された矢を射出している矢罠が映し出されている。

 矢はバルカンのように高速で射出されザクリザクリと泥人間達に突き刺さり、突き刺さった泥人間はベシャリと潰れていく。

 更に矢の一撃を運良く避けた泥人間達の数体が横薙ぎに切り払われ洞窟の壁にその残骸を飛び散らせる。

 矢罠と同じ様に剣に光る文字が印字された剣の罠が泥人間達を切り払ったのだ。

 どうやら対精霊加工さえすれば、あの泥人間達は罠の一撃を受けるだけで活動を停止してしまうらしい。


「今のところは順調だな。ミッチーこいつ等って戦闘力事態はどうなんだ?」

「弱いです。速力以外は、腕力耐久性魔力全てがレベル10の冒険者以下ですね」

「ふむ、じゃあこれがずっと続く可能性は?」


 泥人間達は倒されても倒されても入り口から侵入してきている。

 倒された仲間を踏み越えその先で自信も穿たれなぎ払われるが、新たな泥人間その残骸を踏み越えて更に侵攻して来る。

 それこそ、無限に入ってくるのではないと錯覚してしまう程にだ。


「あの様に無造作な精霊召喚は術者に強力な負荷が掛かりますので有り得ません」

「じゃあ問題なさそうだな、通路の罠で余裕だ。大型や範囲罠は使わずに通常の罠だけで処理してくれ」


 数こそ多いけど、その程度相手ならば脅威とはならない。

 数が多くて動きが早いので何体かは此処まで到達できるかもしれないけれどそれだけだ。

 レベル10以下の冒険者程度の強さならば到達出来た所で直ぐに始末できる。


『矢罠1基破壊されました。機能を停止します。剣の罠3基破壊されました。機能を停止します。火炎放射床動作不良、待機モードに移行しま――――』


「壊された?ミッチー状況は!」


 造作も無い敵だと余裕を持っていてた僕に冷水を浴びせられた様なヒヤリとした感覚が襲ってくる。

 次々と罠が破壊されていくミッチーアナウンスが流れた――――いや、流れている!今も僕の脳内では罠の破壊や停止を告げるアナウンスが流れ続けているのだ。

  油断していた訳ではないが、してやられたという気持ちが強くなり思わず唇を強く噛んでしまう。


「ご主人様どうやらステルス状態の冒険者が泥の低級精霊と同時に進入してきていたようです」

「それで罠を破壊されたのか。ステルスは見破れなかったのか?」

「はい申し訳ありません。感知できませんでした。一瞬反応は有るのですが直ぐに消えてしまいます……」

「ミッチーの感知をやり過ごすか…………罠は起動前に壊されてた?それとも起動あとか?」

「起動後です。攻撃位置から罠の位置を割り出している可能性があります」

「じゃあ隠蔽処置を破られた訳じゃないんだな…………破壊方法は?魔術か武器か?」

「物理的な攻撃で破壊されていますので武器だと思われます」

「チッさっきの忍者と同じ方法だな。まぁ、情報は持ち帰られるとは思ってたけど随分的確じゃないか………」

「同一個体の仕業でしょうか?」

「どうだろうな、一回殺した奴はしばらくデスペナルティでAOにIN出来ないって話だったけど………まぁ、答えの出ない推測をしていても仕方がない。模造魔水晶の映像を9分割に変更、通路全域の映像を出してくれ。攻撃を目視できるか確認したい」

「はい出力します」


 まずは敵の攻撃の正体を確かめなきゃ、武器での攻撃なら攻撃の瞬間が見えるはずだ。

 それを見てミッチーのセンサーをやり過ごしているステルスの正体が分るかは分らないが、少なくとも何か手がかりがある筈だ。


 水晶板の映像が切り替わる。

 先ほどまでは入り口周辺の映像を大きく映していたが、今は一枚の水晶に映像を9分割した状態で中央通路の各所を映し出している。

 映像の中では人型の泥が罠の一撃を受けて潰れたり弾け飛んだり切り飛ばされたりしているが、今のところ変わった点はない。


「冒険者の魔力反応ありました」


 その時僕が見ていた映像の一つの中に有った矢罠に矢が突き刺さった。

 突然何処から矢が矢罠に放たれ突き刺さり罠の表面に電撃を走らせたかと思うとその機能を停止させたのだ。


 何処だ?何処から今の矢は放たれた?


「反応消えました」


 壊された矢罠から目を離し、矢を放った敵の痕跡が無いか探すが目に入るのはもはや濁流のようになり突き進む泥人間達だけだった。


 駄目だな。ステルスしているだけあって目視じゃわからない。もしかすると光学的に完全に消えている可能性がある。

 何かせめて手がかりを掴めないかと思ったけど何の手がかりも得られなかった。


「厄介だなこれは。ミッチー新たな泥人間はまだ侵入し続けているか?後冒険者の侵入は確認できるか?」

「はい、まだ進入してきています。冒険者の姿見えません。泥の低級精霊のみです」


 落ち着け考えろ。考えるんだ。まだ幾らでも手はある筈だ。


 僕は先程とは別の焦りを覚えていた。

 泥人間の処理は今のところ旨く行っている。だが、泥人間達は味方が倒されても倒されても臆することなく入り口から進入してきている。それに加え罠は次々に破壊されて行く。

 このままだと、いずれ泥人間の処理が追いつかなくなりこの防衛線に泥人間達に進入されるのは明白だ。

 そして泥人間と一緒に正体の分らないいステルススキルを使用している冒険者も間違いなく進入してくるだろう。そいつ等が厄介だ。

 ミッチーのセンサーが効かなく光学的にも姿が見えない以上もしこの防衛線に進入されてしまったら対応のしようがない…………もう、姉ちゃん用の罠を使うか?


 この第1層には対姉ちゃん抹殺用の罠魔力地雷(マナマイン)10基がある。それ等を一気に使用すればステルスしてようが関係なく皆一気に爆死か生き埋めだ。それで片が付く。良し!もう通路を丸ごとぶっ飛ばしちゃ―――――駄目だな。これは楽な考えに逃げすぎだ。あれは最後の手段だ。まだ使いたくない。通路が落盤で崩れるのは極力避けたい。それに冒険者が穴を掘れないと決め付けるのも早計だ。こんな訳の分らない攻撃すらしてくるんだ。穴を掘れる奴が居たっておかしくない。 そしてそんな奴がいれば1層通路を崩壊させた所で意味が無い。


「ご主人様、それは流石に考えが飛躍しすぎでは?」

「むぅ勝手にまた僕の思考を読んだなミッチー」

「はい、お困りのようでしたので」

「別に困っちゃいない、と言いたい所だけど結構困ってる」

「『冒険者は何をしてくるか分らない』ですか?」

「そう、それだよ。正直初めて本気でAOをもうちょっとやっておけばよかったと思う程には困っている。何か良い案は無いか?」

「案ですか?ありません。ですが疑問は御座います」

「疑問?なんだよなんでも言ってくれ。解決に繋がるなら今はどんな意見でも欲しい」

「何故大型の罠や、範囲攻撃が可能な罠を使われないのですか?」

「あぁそれね。一応考えたけど駄目なんだ」


 隠蔽したままの大型の罠や範囲攻撃できる罠をまだ使っていない。

 それ等を使えば一応は効果が出る可能性が有るが、出来れば敵の本隊が来るまで温存しておきたい。

 しかも、もしそれ等を使っても泥人間しか始末できない可能性がある。

 ステルス状態の冒険者の姿が見えない以上泥人間だけを処理してステルス冒険者を巻き込めない可能性が高いのだ。

 そうなると大型の罠や範囲罠も破壊されてしまう。むしろそれこそが敵の本当の狙いじゃないかと僕は思っている。


「考え過ぎだと思うか?」


 こういう時ミッチーはどうせ僕の思考を勝手に読んでいるから説明もせず問い掛ける。


「いいえ。先程の穴を掘る冒険者のお話よりは随分と現実味が有るお話かと」

「だよね。これに関しては経験があるから確信が持てる」

「経験ですか?私の記憶にはこの様な状況に陥った事はありませんが、どちらで経験を?」

「あぁ、いやDGで良く有ったんだ。あのゲーム防衛の主力は罠だから、如何にそれを排除するかが…………あっ。馬鹿か僕は!ちょっと現役を離れてたからって忘れるか普通!?これって僕が良く使われたし使っていた手じゃないか!!」

「ご主人様突然叫ばれると危ない人に見えますよ?考えすぎてまた頭がおかしくなりましたか?」

「違うよ!あーもうそんな事はどうでもいい!ミッチー泥人間の魔力反応って皆同じか?」

「はい同じです」

「じゃあ、一箇所何処でも良いから罠がいっぱい設置してある場所を映像に出してくれ」

「了解致しました。出力します」


 水晶板の中の映像が切り替わる。

 映像の中では4基ほどの矢罠が泥人間に対して休み無い射撃を繰り返していた。

 もはや、通路のほとんどは泥人間に占拠されており狙う必要も無く矢は泥人間達に吸い込まれていく。

 そしてその矢に穿たれベシャリベシャリと泥人間達は崩れて行くが、何処からか一本のナイフが飛んできて矢罠に向かっていく。

 そして矢罠に直撃すると同時に小さな爆発を起こし矢罠が破壊された。

 ここまではさっきと同じだ。だが、此処からは僕のターンだ。


「ミッチーあの映像の2列目の右側から3番目の泥人間に矢罠一斉掃射だ」

「畏まりました。オートモードから指定モードに切り替えて対象を射撃します」


 オートモードを切り替えるアナウンスが脳内で流れた後に矢罠の照準が変わり一斉射撃が行われる。


 先程まで機械的にバラバラとランダムに放たれていた矢は殺意を突然持ったかのように一体の泥人間へと収束し、その全身のほとんどに矢を突き立てる。

 そして全身を穿たれた泥人間はベシャリとは――――崩れない。代わりに泥人間の中から青い粒子が噴出される。

 数秒後、白い金属軽装備を身に着けた女性エルフが泥人間の中から倒れてきた。そしてその後に女性エルフを内包していた泥人間がベシャリと崩れる。


「なるほど。泥の低級精霊の中に冒険者が潜んでいた訳ですか」

「うん、どういう理屈か分らないけどアレの中に入るとミッチーのセンサーすら誤魔化せるみたいだね」

「はいその様ですね。対応できるようにセンサーの改良を試みてます」

「それ、直ぐ出来そう?」

「いいえ直ぐには無理です。最低1日は掛かるかと思われます」

「んじゃ、それは後だ。とりあえずあのスケルトンマーチをなんとかしなきゃいけない」

「スケルトンですか?あの敵は泥の低級精霊ですよ?」

「あぁいやスケルトンマーチってのは戦術名だ。元ネタで使ってた一番安いモンスターがスケルトンで、安価な兵隊が欲しい時に主に使われるのがスケルトンだったからスケルトンマーチって呼ばれていた」

「元ネタ。ダンジョンガーディアンですか?」

「そう。これってDGでちょっと罠が多いダンジョンを攻めるのに良く使う手なんだよ」


 スケルトンマーチ――――DGでは中級者ならば定番の、上級者ならば稀に使う戦法だ。

 一番安い雇用費の最弱モンスターであるスケルトンを大量に雇い、そこに罠破壊スキルを持つブレイカーというそこそこにお高い雇用費のモンスターを雇う戦術である。


 この戦術は敵対ダンジョンに流し込んだスケルトンを盾にしてブレイカーに罠を破壊させるというシンプルなものであるが対応の遅い相手には良く効く施術だ。

 ちなみにこの戦術の亜種として、スケルトンと共にスケルトンに良く似たスケルトンの上位モンスタースケルトンナイトやグレイスケル混ぜて相手を騙すという戦法もある。

 どちらかというと今回はその方法に近いだろう。


「さて相手の戦術も分ったし、反撃といこうか」

「何か良い対処法があるのですか?」

「そりゃあね、散々使った方法だし使われた手だ。対処法ぐらいは心得ている」


 DGでのスケルトンマーチへの対処法は簡単だ。

 罠の機能停止が出来なかったDGの場合は罠に強めの護衛モンスターを付けるかダンジョン中央部に全てのモンスターと罠を集めるという方法で簡単に対処が出来た。

 スケルトンは戦闘能力が低い、ブレイカーは罠に強いだけでモンスターを相手には戦えない。

 そういった事情からスケルトンマーチを返すには少しランクが上のモンスターを雇いモンスター同士の戦いに持ち込むのが最良の策とされている。

 故に強いモンスターが多く使われる上級者同士の対戦にはほとんど使われない。せいぜいかく乱に使われる程度だった。


 そしてこの遺跡の防衛の場合はDGより簡単だ、

 今回の場合は罠を使わなければ良い。破壊されるくらいならば使わず敵に位置を把握させなければ良いのだ。

 残した罠は後から突撃してくるであろう冒険者本隊に使う。

 無傷で泥人間とステルス冒険者達がこの防衛線に流れ込んで来るだろうが冒険者のステルスの正体が分った以上もはや脅威ではない。

 本隊を罠で処理し、泥人間+ステルス冒険者をこの場で処理する。我ながら良い戦法である。


「しかしご主人様。ご主人様がこの戦術の対処法を知っているのならば相手も知ってるのではありませんか?」

「あーそっかそうだよな。普通そっちも対策してると考えるのが自然か」

「はい。ご主人様の冒険者は穴を掘るという考えよりずっと自然な考え方かと」

「それこだわるね」

「はい。中々ユニークで、私が思いつきもしなかった発想でしたので気に入りました」

「そ、そう」


 さて、このスケルトンマーチ改………まぁ、長いから泥人間マーチとでも呼ぼうか。

 泥人間マーチを侵攻作戦に採用した奴は間違いなくDGを知っている。

 もしくはDGに近いゲームの経験者だと言って良いだろう。

 そうなるとミッチーの言う通り対処法の対処法を知っているのも当然だ。


 スケルトンマーチの対処法の対処法は幾つかあるが、その中でもっともポピュラーとされているものは罠の護衛にモンスターを使われた場合は温存しておいた虎の子モンスター複数で一箇所一箇所を各個撃破する方法だ。

 次にダンジョン中心部以外を切り捨てて、中心部に引き篭られた場合は自爆モンスターを特攻させるか範囲魔法が使えるモンスターを使用することである。

 これ等はスケルトンマーチを使う上で覚えておくものだ。

 もちろん今回の敵はスケルトンマーチを流用した作戦を使って来ているのだ知らないわけが無い。

 ならばその相手の裏をかくべきだ。だが、どうやって裏をかく?―――――罠に護衛なんて物は付ける気が無いので、定番の戦法通りだと僕達が此処に引きこもっていれば敵の本隊は此処を攻撃しに来るだろう。

 その対応方法としてやはり無難なのは先程思いついたDGには無かった罠を停止させて敵本隊をおびき寄せる方法だ。

 だが、考えて見れば未だ通路を進行しているステルス冒険者達の処理は終わっていなく、今罠を突然停止させればそれを目撃されてしまう。

 そして壊してもいない罠が突然止まったら明らかに不自然であり不審に思うだろう。だから罠の破壊を恐れて罠を停止させるという案は却下だ。


 では、どうするべきか…………定番を崩すべきだ。完全に相手の裏をかくなら定番を崩して尚且つ相手を騙し罠にハメるべきなのだ。


「ミッチー隠蔽状態の大型罠の3割と範囲攻撃が可能な罠の4割……いや、5割を起動させろ」

「宜しいのですか?」

「あぁ、構わない。裏の裏をかいて冒険者共をハメ殺す」


 さて、方針は決まった反撃開始と行こうか。此処からが僕の本領発揮だ。


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