↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮の新米守護者  作者: 板 竹輪
第1章 迷宮の新米守護者
41/45

第38話 守護者悩む

大分予定していた日付を越えた投稿になってしまいました。

遅れてしまい申し訳ありませんでした。

 ツルギ視点――――――――名無しの遺跡第一層防衛線



 カーバンクルからの報告を聞き終えた僕は現在、遺跡前に新たに現れた冒険者達の動向を伺いながら防衛の為の『準備』を急ぎ行っている。

 そしてその準備に必要な物が僕の手の中に有る。

 最近名無しの遺跡の名産品になりつつある木炭を材料とした鉛筆(外での伐採を続けたおかげで木材だけは豊富だからね)とこの遺跡では貴重品である羊皮紙だ。


 僕は今この羊皮紙をあまり宜しくない表情で睨みつけながら一つの図を描いている。

 これが僕の次の戦いへの準備の方法である――――だが、作業の進展は良くない。

 この表情の通り僕の心理状況は良くない。

 作業自体はまもなく終りそうではあるが、大分完成が遅れてしまった。

 カーバンクルの報告に含まれていた内容が少々僕を悩ませ、発想を鈍らせたのだ。


「はぁ……また100か……多くて50程度だと思っていたんだけどなぁ………どうするかな本当に」


 思わず溜め息とそんな独り事が漏れてしまう…………それほどに僕の頭は疲労困憊していた。


 冒険者の数はおおよその概算で100程度とカーバンクルは僕に報告した。

 それを聞いた僕は思わず頭を抱えてしまった。この数は先程の冒険者集団と同じ程度の数である。

 しかもカーバンクルの報告には遺跡前に居る連中はしっかりと遺跡前で布陣や準備を行っているという様子も含まれていた。

 そしてそれ等の報告を聞き終えた僕は一先ずはカーバンクルを労い、その後に再びカーバンクルに命令を出した。

 正直カーバンクルを酷使しすぎな気もするけれどもこんな状況だ。そんな事は気にしていられない。


  カーバンクルに与えた命令の内容は未だ遺跡の外に居るであろうグシオス隊のコボルト二人への伝令だ。

 ブラウンとホワイトが無事かどうかは分らない。

 既に遺跡前に冒険者が到着してから20分ほど経過している。

 だから二人が今外に居る冒険者と遭遇し既に息絶えている可能性は十分ある……それでも僕は彼らが生きていると信じてカーバンクルに伝令を頼んだ。

 伝令の内容は極々シンプルで「帰還が難しいのでとりあえず、その場から離れ南西へ向かえ」という物だ。

 この遺跡の南西には僕たちと協力関係にあるエルフ達が住む場所があると聞いている。

 うまくそちらまで逃れればこの戦いが終わるまでは保護してもらえる事だろう。


 そしてそんな僕の命令を受けてカーバンクルが出発してから早10分。

 一番の心配事へのとりあえずの対応を終えた僕の頭に残ったのは、やはり冒険者達の事でありそれが今も僕を悩ませている。


 『白鷹の騎士団』の所属人数が100名を越えているってのは噂程度に知っていたけど、まさか200名近いプレイヤーが所属しているとは知らなかった。

 いや、カーバンクルは空から概算で敵の数を数えたに過ぎないのでもしかすると今遺跡前にいる冒険者は100名を越えているのかもしれない。

 そうすると『白鷹の騎士団』の総数は200名を超えるプレイヤーが所属してるということになる――――ちょっとこれは僕が想定して人数よりはずっと多い。


 最初に来た冒険者の集団に『白騎士』の姿が無かったので、敵の援軍が来ること事態は想定していた。

 それに敵の本拠地に冒険者がまだまだ残っているという事はグシオスさんの報告で分っていた。

 しかしながらまさか切り札を投じてまで処理した冒険者集団と同規模の冒険者集団が直ぐに訪れるとは予想していなかった。


 正直先程100人ほど冒険者を処理したばかりなのにまた100人現れたという事実に気が滅入ってしまう。

 しかもカーバンクルの報告通りならば、今遺跡前に居る連中は鉄や銅の鎧を身に着けている者が居なかったらしい。

 ならばバラバラの装備を身に着けているのか?と僕がカーバンクルに聞いた所、カーバンクルは違うと答えた。


 カーバンクルの報告によると遺跡前に居る冒険者のそのほとんどが白色の装備を身に着けているとの事だった。

 その白色の装備というのがどういう意味合いと性能を持っているのかを僕は知らない、だがはっきりとしている事は有る。

 胴や鉄の装備を持ったプレイヤーが居ないということは、それは敵がもう初心者の含まれる構成がバラバラな部隊などではないという事であり、最低でもレベル30より上の強さを持っている中級者か上級者の集団だという事なのだ。


 恐らくこれが『白鷹の騎士団』本隊なのだろうと僕は踏んでいるが、その実力がどの程度なのか計り知れない。

 そしてその中には彼の『白騎士』が含まれていることであろう。

 だが、それを確認する術は今の僕には無いない。

 遺跡の外に設置していたレーダー兼切り札のゾンビパウダーを含む罠は既に効力を消失しているからだ。

 つまりそれは遺跡外への直接攻撃をする手段と遺跡外の冒険者のレベルを知る術を失ったという事だ。


 正直切り札を切るのが早すぎたと、今にしてみれば思う。

 でもそんなこと今更どうにもならないし、あの時アレを使ってなければ今どうなっていたかも分らないので後悔しても無駄だろう。

 そして必然的に防衛に有利な構造のこの防衛線で戦うというのが最良の選択となる――――しかしながら敵の数は多い。しかも先程の戦いでこちらのメンバーにも死者や怪我人が出ている。

 もしかするとこの防衛線では抑え耐え切れないかもしれない。

 その場合の選択肢はもはや2層の迷宮区画で分断しながら戦うという選択をしかない。だがそれは最後の手段だ。

 2層にあの冒険者の大軍が丸々流れ込んできたら迷宮区画を利用しての各個撃破どころではなくなってしまう。

 だから最終的にこの防衛線を放棄し、2層の命九区画使用する結果になっても此処で出来るだけ敵を減らせるだけ減らしておきたいというのが僕の考えだ。

 そしてその為に行っているのが今僕が行なっている防衛の為の準備である。


「よし、出来た!」


 そんな考え事をしながら描いていた図面はまぁまぁの出来だった。


「さてさてどこまでやれるんろうな……」


 その出来に満足し、ほんの少しだけ笑顔を取り戻した僕は再び意識せずそんな独り言を言ってしまい苦笑するしか無かった。



 ***


 カーバンクルがこの部屋を突風の様に出て行ってから20分程が経った。


 敵に未だ動きはない。

 恐らくこの遺跡に突入する為の準備を入念に行っているのだろうが……思いの他敵の動きが遅い。

 一度目に来た連中の一部は遺跡前に到着直後にこの遺跡に突入してきたのだから、今遺跡前に陣取っている冒険者の動きは余計に動きが遅く感じられた――――だが、今はそれが助かっている。


「うん、とりあえずは図面通りの配置になったな」


 僕は自らが創り出した石材の椅子に座り一先ずの安堵を得る。

 それは仮初の安堵とも言える物であったが今の追い詰められている僕にはほんの少しだけ安心できた瞬間であった。


 今僕は用意した『準備』通りに動く魔族達を見て間違いが無いか最終チェックを行っている。

 敵の突入が遅れて助かっているのはこの『準備』にそれだけ多くの時間を費やせたからだ。


「守護者殿、全部隊の布陣が完了したぞ」


 僕の視界外から凛々しい女性の声が耳に届く。

 その声に釣られ前線の魔族達から眼を放し、声が聞こえた方に眼を向ける。

 そこには小走りでこちらに近づいてくる魔族の騎士レオナさんの姿が確認出来た。


「ご苦労様です。問題無く行きましたか?」

「あぁ、布陣自体は問題無く行っている」


 レオナさんが言う布陣とは先程の冒険者の襲撃で少なからずの被害を受けた僕がそれに対策する為に作成した防衛案――――つまり先程から行っていた『準備』だ。


 レオナさんには今前衛部隊である親衛隊の面々の指揮をお願いしている。

 そもそもに僕はリリアに指揮官という立場を任命されたけどれど軍隊の指揮自体に慣れていないし、最前線に立つ戦闘スタイルでもない。

 ならばいっそ僕は防衛の配置だけを考案し、後は的確な現場判断を行える人物に部隊毎の指揮を任せてしまおうと思ったのである。


 これは少々無責任に思われるかもしれないが新しい防衛配置において各々が臨機応変に動かなければいけないという理由があるからだ―――後はまぁ、正直さっきの『権化』化の魔力の件で皆の僕への信頼がとてつもなく落ちてしまっていて僕の命令なんて聞きたくなくなっているっているんじゃないか?って思ったのも理由の一つである。


 そして親衛隊の分隊長であるレオナさんには親衛隊の個別指揮をお願いした。

 そんなレオナさんの顔は少々疲れていて浮かない表情だ。

 しかも伏し目がちに視線を落としているがこちらをチラチラと伺っている。


 これは何か僕に言い難い事でもあるのだろう。

 それはならば、まぁこちらから聞いた方が良いのだろうな……


「何か問題がありました?」

「…………メリーが守護者殿の直衛を外された事をボヤいている」

「あぁ、その件ですが……」


 この新しい防衛配置ではメリジューヌさんに僕の直衛を外れてもらい遊撃を担当して貰うことになった。

 先程の冒険者のように爆弾等のアイテムを使う冒険者を相手にする場合、アイテムを使われる前に殺しきらなければいけない。更に先程の経験から緊急時に即時に動いて対応できる人が必要なのも解った。

 そしてそれを行えるのは僕の罠を除けば、火力と速度に優れてるメリジューヌさんだけだ。


 敵の数が多ければ多いほどいずれ僕の罠だけで抑えきれない事態が起こる。そんな時メリジューヌさんの力を僕を守らせるだけに使わせて腐らせておくには惜しい。

 だからメリジューヌさんには僕の直衛から外れてもらい遊撃担当になってもらった。


 ちなみにこの件をメリジューヌさんに伝えた時、かなりに渋られた。

 メリジューヌさんは随分と僕の事を心配してくれていて中々にこの遊撃担当の件を受け入れてくれなかったのだ。

 危なく少し前にやらかした口ゲンカにまた発展しそうになったが、それでも色々と説得しなんとか了承して貰えたのだが……


「メリーを戻すわけにはいかんか?正直グチグチ五月蝿くてかなわん」

「あらら……さっきは納得して貰えたんですけどね」

「それは守護者殿が頼み込んだから断り難かったたのだろうよ」

「なるほど……まぁ、メリジューヌさんには戦いが始まる前に僕の方からもう一度お願いしておきますので今は我慢してください」

「頼む。あれはあれでしっかりしてるように見えるが歳相応に子供な所があるからな。少しは甘えさせてやってくれ」


 甘えさせるね……どちらかというと僕の方がメリジューヌさんに甘えてばかりなのにそんなこと、どうやってやれば良いんだ?

 悪いけど僕は年齢=彼女無しを地で行っている人間だ。

 女性を甘えさせるなんて方法知らない「さぁ!甘えろ!」とか言ったら甘えてくれるのか?……こんな事を考えてしまうんだ、お察しだろう。

 だいたい、歳相応って言ってもメリジューヌさん、どう見ても僕より年上である。

 それにメリジューヌさんの性格的に年下に甘えるタイプでは無いと思うんだけどなぁ。


「検討しておきます……それで親衛隊の方は問題ありませんか?」


 うん、解らん事を考えても無駄だ!それに今は優先することがある。

 そういう事を考えるのは無事皆で生き残った後で良い。

 今は話を逸らしておこう。


「ん?あぁ実にシンプルな布陣だからな、配置自体に問題はない」

「良かった…………何かご意見などがあれば伺いたいんですが何かありますか?」


 僕は皆に提示したこの新しい防衛布陣に絶対の自信を持っているわけではない。

 むしろ各所に負担を大きく掛けているので、何かクレームなどが来るのでは思っていた、だがそんなものはまったく来ない。

 それは誰もが僕の意見を素晴らしいと思って受け入れているからだ――――なんてことは絶対無い。

 実際は単純にに先程の蝕む魔力や威圧する気配の件で皆僕に対して恐怖して、萎縮してしまい意見述べてこないのだろう。

 少なくとも僕はそう思っている。


 だからあまり僕に対して萎縮していないレオナさんにこの布陣の事をあえて聞いてみた。

 そしてレオナさんから意見やクレームがあれば受け入れて改善を施したいと僕は思っている。


「意見か?まぁ無い訳はではないが、言ってもよいのか?」

「はい、意見でなければ文句などでも良いです。何か有れば言ってください」

「ふむ、ならば……この布陣、厚みが少々足りなくないか?」


 オークや大柄な魔族で構成されている親衛隊の重戦士の皆さん8名(二人は先程の戦闘で負傷してしまったので3層に撤退してもらった)には2名ずつに分かれて4つの組を作ってもらった。

 そして組み毎に間隔を取り個別に魔術達を守るようにお願いしてある。

 これは冒険者の投げてきた爆弾のような物に対しての警戒の為だ。

 元々親衛隊がとっていた密集陣形や横列陣形というものは高い防御力と攻撃力を両立している良い陣形だけども、範囲攻撃には滅法弱い。

 魔術の類ならば僕の罠で対応できる可能性が高いが、詠唱も必要ない爆発物に対しては対応が遅れる可能性がある。

 ならばいっそ効果範囲に入る人数を減らすべく散開させて被害を減らすというのがこの布陣の目的だ。


 今回の防衛案は基本的に散開というのが重要視されている。

 また速度の速い冒険者がバラバラに分かれて行動して来た場合にも各箇所で対応できるようにという目論みもある――――ただ、この布陣には大きな穴がある。それは僕も気付いている。


「あれでは敵の一斉突撃を中央に食らった場合一気に食い破られてしまう。もちろんそこの対策はしてあるのだろうな?」


 レオナさんがそう言いながら鋭い視線で僕を射抜いてくる。

 その視線の迫力に圧されて少々動じてしまいそうなるが大丈夫だ。

 これについては、しっかりとした対策は立てているので慌てることない。


 この新しい布陣は散開する事により正面バリケードの守りを薄くしてしまう。

 そうなった場合中央一箇所に敵が集中した時に敵を処理し切れなくなり守りを突破される可能性が高い。

 そしてそれをこの防衛線が崩壊する事を意味し、同時に敵が狙ってくる可能性は高い事だと思う――――だからそこはしっかりと対応済みだ。


「もちろんです。そこは僕が専用の罠を用意し対応をします」

「守護者殿のみでか?守護者殿が強大な力持っているという話は皆から聞いてる。だが、それでも少々厳しいと私は思うが?」

「む…………それは…………その通りかもしれませんね」

「ならば、守護者殿以外にも敵の一点突破に対応する為の対策を講じるべきでだろう」


 一応絶対とまでは行かないまでもそれなりに自信のある対策は施してある――――だが、それは絶対ではない。

 もちろん物事絶対と呼べる事は少ない。だが重要な局面において対策を講じる場合に、絶対に近くなるような対策を講じるべきなのだ。 

 そしてこの場合に最も絶対に近くなる方法は――――


「そうですね。遊撃と兼任になりますがメリジューヌさんにもこちらを助けて貰うというのはどうでしょうか?それでも足りなければ、レオナさんにもご助力願いたいです」


 人手も戦力も足りない。そうなると解決方法としてはこの場に居る最強の戦闘能力を持つメリジューヌさんを投入するしかない。

 それでも足りなければ恐らくメリジューヌさんの次に接近戦に優れているレオナさんにもフォローを頼む。

 この限られた条件下ではそれしかないと思う。


「うむそれが無難だろうな。そして助力の件了解した。私はローラ達を守りながら敵の動向次第では前に出るという動きで問題ないか?」

「はい………正直遊撃と防衛の兼任になるので大分メリジューヌさんとローラさんを酷使する事になっちゃうかもしれませんが……よろしくおねがいします」


 人手が足りないのだ。

 レオナさんと、メリジューヌさんを酷使する事になってしまうが仕方が無い。

 その事を分ってくれたのか、レオナさんは視線の鋭さを若干和らげ仕方ないなという風に笑う。


「ふふ、構わんよこんな状況だ仕方あるまい。それにメリー、あれは丸1日戦い続けた所でケロっとしているからな問題ないだろう。私も体力はある方だからなんとかやってみせよう……しかし、それよりも問題はローラ達だ」


 レオナさんはそう言って視線をバリケードが有る方向に向ける。

 その視線の先、親衛隊の皆さんが守るバリケードの裏には5名の魔術達と彼等の隊長である水棲魔族のローラさんが居る。


 彼女達は遠距離攻撃の要だ。

 一度目の襲撃を退けたのも魔術達の功績が大きい、だからこそ彼女達を守り通すというがこの防衛線の大前提である。

 そしてそれは敵の突撃を防がなければ難しい話なのだ。


「……魔術師隊の方はまだ厳しそうですか?」

「あぁ大分消耗しているようだな」


 この防衛線の要たるローラさん率いる魔術師達だが、今彼女達は各々バリケード裏で立ったままの瞑想を続けている。

 そしてローラさん達はその瞑想を先程の戦闘が終ってからずっと続けている。

 なんでもあれは深く魔力を補給する(僕が手当たり次第に魔力を補給してしまったので周囲から普通の方法では魔力が補給できないらしい)方法らしくああやって空いた時間を魔力補給に充てないと長時間の戦闘は難しいそうだ。

 更に今の状況下で魔術の連射すると直ぐにバテてしまうらしいので、その辺りの調整はレオナさん経由でローラさんにお願いしている。


「そうなると、通常運用は難しそうですか?」

「敵が攻めて来る時間次第だが……あれでは攻撃魔術は行使できても防御用の方には魔力を振り分けられんだろうな」

「そうですか……戦闘中に魔力が枯渇しなければ良いけど……」

「そこは時間とローラ次第としか言えんな。まぁ、あれはあれで中々出来るヤツだ戦闘中に使い物にならんという事もあるまい…………ただ1戦目のように魔術を立て続けに行使するのは難しいだろうな」

「えぇそこは僕も分っています。元々詠唱時間の事もありますしブチにはそれも考慮するようにも言ってあります」


 魔術は強力だが発動には詠唱が必要で使用には時間が掛かる。

 それに加えて使用頻度落ちるとなればこの部屋の入り口へ向けて行なう遠距離攻撃の弾幕はもはや弾幕と言えなくなるだろう。

 しかしながら元々詠唱の間を埋める必要が有るのは分りきっていた事だ。

 元々それを埋める為に居るのが志願兵部隊であり、彼らが持つ弓や投石での攻撃である(こちらはブチに現場指揮を任せてある)


 魔術詠唱の合間に間断のない矢と投石での攻撃を行ない敵の侵入を牽制し、止めの魔術を敵に叩き込む。

 元の布陣から行っているこの部屋での基本防衛戦術だ。それは今も変わらない。


「ふむ、あの部隊は1戦目の戦いで大分被害を受けていた筈だが大丈夫なのか?」


 レオナさんのその言葉を受けてチクリと僕の胃が痛む。


「えぇ、それは2層から援軍を出してもらう予定ですし……グシオスさんの隊の二人も加わってくれているので大丈夫かと……」


 志願兵部隊には現在グシオスさんの部隊から合流したグレイとレッドも加わっているので戦闘力は若干上がっている。

 そして一度目の襲撃で大きく数を減らしたこの部隊には2層のオーカスさんの本隊から援軍を出してもらう予定になっている。


 ちなみにこの舞台の布陣場所は魔術達からは更に後方、今僕が座っている防衛線中央付近で分散してもらっている。

 特に獣人は火に弱い者が多いらしいので、密集状態していると先程のような被害をもう一度被るの事になってしまうので親衛隊よりも細かく分散して貰っている。


「そうかならばとりあえず部隊として機能する訳だな」

「えぇ……そうですね」

「どうした守護者殿?随分顔色が悪いようだが」


 まるで心の中を見透かされたようで心臓の鼓動が跳ね上がる。


「……大丈夫です、少し疲れが溜まっているだけです」

「そうは、見えんがな」


 眉をひそめた鋭い視線が再び僕を貫き胃がチクチクと痛み吐き気を催す。

 レオナさんには疲れと言ったがその実、僕の顔色が悪い理由は心因性のものだ。


 思い起こされるのは先程の爆発で倒れた獣人や亜人達、彼等は僕が作った防衛案を信じ戦って死んだ。

 鼻の置くには未だ彼等の血の匂いがこびり付いている。

 その事を思うと僕は…………いけないこれは今考えてはいけない事だ。

 そしてそれに思いを馳せ、反省し、罪を受けるのは全てが終った後でなければいけない。

 今は自分の務めを全うしよう。それが一番良い選択だ。


「何も問題ありませんよ。全然大丈夫です」


 出来るだけ明るい表情を作りそう答える。

 だが今の僕は外面だけを何とか繕っているにすぎない。

 明るく振舞っているがその心情も体もまったくの真逆で真っ暗だ。

 そう、今僕は皆に不安を与えないようにする為だけに明るく振舞っている。


 そもそもに調子なんてものはずっと良くない。

 徹夜明けな所に侵食が体にかけた負担は大きい、もう部屋に帰って寝たいというのが本音である。

 そして精神的にもよろしくない事が多発しているので、胃液が喉から逆流してくるのを必死に押さえ込んで空元気を維持しているというのが今の僕状況だ。

 だが、それもレオナさんの前では無駄だったらしい。


「あの……何か?」 


 レオナさんの目付きに鋭さが無くなっていた。

 レオナさんは僕と話すとき大抵鋭い視線を向けていたが、今はそれが無い。

 僕と同じ様な物憂げな表情をしているのだ。

 しかも、何かを思い悩むようにして顎の辺りに手を当てて考え込んでいる。


「あぁ、うむ…………そのメリーから聞いたのだが……本当に戦い続けて大丈夫なのか?」


 僕の言葉を受けてレオナさんはまた思い悩むようにした後に意を決しそう僕に問い掛けてきた。


 はて?メリジューヌさんから聞いた?――――あぁ、もしかしてさっきの権能の侵食の件の事か?

 あの時結局詳しい原因を伝えなかったけれども、発生源が僕だということをメリジューヌさんは知っていた。

 そしてその話がレオナさんに伝わったのかもしれない。


「えぇ、今は何とも……そのご迷惑お掛けしました。今後はこの様な事は無い様にしますと親衛隊の皆さんにお伝え下さい」

「迷惑?いや守護者殿の献身痛み入るよ。それに病のことは皆に伏せているのだろう?」


 んん?あれ?なんか話が噛み合って無くないか?献身ってなんだ?人間の僕が魔族の味方をしているのはまぁ、そう取られても仕方ないけど病って……


 話が噛み合わず困惑し、返答に窮する僕にレオナさんは表情を和らげて更に言葉を続ける。


「私が知っている事が意外だったか?すまんな。あまりに守護者殿の様子がおかしいのでメリーから無理矢理に聞き出してしまった」

「え、あ?あのそれは……?一体なんのお話でしょうか?」


 様子がおかしかった?あぁ『権化』化が進んでいた時の事か?まぁ確かにあの時の僕は正常ではなかった。

 そしてその事に関しては秘密にしているので隠しているとも言える……けれどもそれと今レオナさんが今言っている事は何かなにかがズレている。

 あーなんか嫌な予感がしてきたぞ……これっていつものアレじゃないか?


「しかしな守護者殿、その、なんだが……流石に先程の様な状況になるのならば少しは安静にしていた方が良いと私は思う」


 レオナさんはそう言い悩ましげな表情を取る。


 レオナさんは顔に幾つかの刀傷が有るがそれを加えても結構な美女だ。

 そんな女性に悩ましげな表情で見つめられて少々鼓動が早くなるのを感じてしまうが………そんな事よりも事実確認が大事だ!

 これあれだろ!またなんか誤解を生んでいるいつものパターンだろ!


「あのー心配していただけるのは有難いんですが、僕には何のことやら…………」

「うむ隠したい気持ちは分らんでもない。だが皆見てしまっているしな。隠し通せる様な状況でもないと思うが?」


 え?何だ?皆見ている?僕は何を見られたんだ!?

 考えろ僕……考えるんだ。

 ここでまた選択肢を間違うとまた要らぬ誤解を生む。

 人食いの悪魔だの、不死者扱う恐ろしい人間だのと言われるのはもう真っ平だ!…………あ、でも後者は事実になったんだよな……っていけない思考が脱線している、考えを戻そう。

 えーと、まずレオナさんは僕の様子がおかしいのでメリジューヌさんから詳細聞いたと言っていた。

 これはなんだろうな、メリジューヌさんには権能関係の詳細を教えられないので周囲を蝕む魔力の正体については言っていないし、『権化』化の事も教えていないので詳細は知らない筈だ。

 メリジューヌさんが詳細を知っていることで僕の体を心配されるような事は………寝不足くらいか?いやーその程度で此処まで心配はされないだろう。

 そうするとなんだろうな……分らないこれは保留しよう次だ。後、レオナさんが言っていた事で、気になったのは…………病だな。


 僕は小さな自慢だがそこそこに健康で割と丈夫な体を持っている。

 骨は折った事も無いし(一度姉に折られた事があるが、あれは怪我や事故というよりも悲劇だったので僕は骨折にカウントしていない)ゲーム廃人なのにも関わらず視力は裸眼で2.0を維持している。

 もちろん風邪程度ならば罹った事があるが、インフルエンザにも罹った事はない病気とは無縁な健康な体を持っている。

 だからレオナさんが言う病というのはまったく僕に思い当たりはな……………中二病は……違うよな?そんなもんで心配されるわけも無いし、心配されるレベルだったらもっと痛い目で見られている筈だ!それにあの病気はもう治った!完治した……とは言い難い、偶にぶり返すし……まぁ、これは関係ないだろう。

 さて、そうなるとまったく思いあたりが無い。素直に分らんと言った方が身の為かなこれは……


「いや、ですから何を仰っているのか今一理解できないというか……えぇ、本当に何の事か分らないんですよ」

「ふむ…………そこまで隠したいか……いや、無粋であったな。忘れてくれ」


 僕が本当に分らないと伝えるとレオナさん暫く逡巡し、納得行ったという顔をしてそう言った。

 僕はその求めていた答えとまったく違う返答に再び間の抜けた声で返答してしまう。


「へ?いや隠しているという訳ではなく本当に――――」

「言うな!それ以上はお互い辛くなる…………だがその高潔な精神を私は評価しよう。隊の皆もこの事実は知ったら守護者殿を褒め称えるだろう」

「いやいやいや、そうじゃなくてですね――――」


 僕はその事実とやらを知りたいのだけれど何やら感動してしまっているレオナさんは聞いてくれない。


「だが守護者殿が隠しておきたいというのならば仕方があるまいな。周囲の者に心配を掛ければたくないというその姿勢素晴らしい、実に指揮官らしい判断だ。よし、私も守護者殿に見習って自らの務めを全うしよう」


 まずいまずいまずい!なんか誤解が解けない所かその誤解の内容を知る前にレオナさんが勝手に納得して立ち去ろうとしている!


「あのーレオナさん!?ちょっと待って――――あっ!」


 必死に僕は声をだしてレオナさんを引き止めようと椅子から立ち上がる。

 しかしながら寝不足のせいかそれとも先程の侵食が与えた肉体的疲労が思ったよりも高かったのかうまく立ち上がることが出来ずフラッと体が後ろ斜めに傾く。

 そしてそのまま床に倒れこみそうになるがなんとか椅子の背もたれに体を縋り付かせ、頭から床に倒れこむのを阻止する。更に立ち去ろうとしていたレオナさんは一度僕に背を向けて持ち場に戻ろうとしていた歩みを止めた。

 僕の声に反応したからだ。そしてそのままレオナさんは僕の声を聞いて振り返り、僕が情けなく倒れようとしている姿を目撃されてしまった―――それが今の一瞬で起こった最悪の流れだった。


 今僕は寝不足で相当に青白い顔をしていると思う。

 更に大きい悩みが幾つもあるのに加えて謎の誤解がまた広がる兆しを見せていたので顔に悲壮が浮かび上がっているだろう。

 さてそんな僕の様子と顔色は他者の眼にはどの様に映るのだろうか?


 顔色は病人のように蒼白であり椅子に縋り付き必死にレオナさんを呼び止めてようとする姿は悲壮さすら滲み出ているであろう。

 それは僕が何かの病気を患っていてそれを隠していると思っている場合「行かないで、この病気の事だけは誰にも言わないでくれ!!」と必死に懇願しているように見えなくも無いのである――――つまりレオナさんはそう解釈してしまったのだ。


「む?大丈夫か守護者殿。やはり少し休んだ方が……」


 レオナさんは僕が倒れかけれているので心配した表情で近寄り、その表情を今度は優しい表情に変えて手を差し伸べてきた。

 僕は「レオナさんでもこんな優しい表情をするんだなぁ」とか非常に失礼な事を思い、その手を取ろうとする。


「すみません助かりま―――へ?」


 だが、僕の手が届く寸前にレオナさんは何かを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべたかとおもうと、その手を引っ込めた。


「…………また同じ過ちを繰り返す所だったな」


 そして優しい女性の表情から強い意思が篭められた騎士らしい凛々しい表情にその顔を戻し強い意思を持った言葉を静かに紡ぐ。


「手は貸さぬぞ守護者殿それは貴方の本意を捻じ曲げる事になる」


 そしてそのまま踵返してそのままツカツカと自分の持ち場の方に戻って行く。


「え?あ?ちょっとあの話を!ねぇちょっと!!行かないで――――あ、あぁああ……」


 僕は椅子に縋り付きながら再び叫ぶがレオナさんはもう振り返ってくれない。

 その肩は振るえ、手を何度か顔にもって行き涙を拭うような仕草を行っているのが背後からも見て通れた。

 そして何事かと近場に居た獣人や亜人達が僕に視線を向けてくる。そこでで僕は叫ぶの止めた。

 更に余計な誤解を生んでしまう可能性があるからだ。


 最悪だ…………なんでこうなる。

 しかもレオナさん泣いてたぞ!?もしかしてこれも変な誤解を生むんじゃないか?

 ていうか何で泣いてたんだ?理解不能だ!どうなってるんだ?

 僕が知らない所で何が起こったんだろうこれ!そうじゃないと納得が――――――知らない所?そうか!あぁそうだよ!僕が知らない所で話が進んでいたという事は僕が認識できていない時という事だ。


 朝から今の今までに僕は寝不足だからといって居眠り一つしていない。だが…………不本意ながら一度だけ意識を消失していた期間がある。

 そう権能に支配されそうになっていたあの時だ。あの時完全に僕は周囲を認識できなくなり意識を失っていた。

 恐らくこの時だ、何かが起こっていたのは…………そうなると答えを求める先は直ぐ傍にある。


「ミッチー!僕が権能に支配されそうになっていた僕は時どうなっていた!」

「ご主人様は意識を失われていました」


 僕の問いかけにミッチーからの返答は直ぐに帰ってくる、だが僕が求めているのはそういう簡潔な答えじゃない。


「違う!その間に何が有ったかって聞いてるんだ!」

「その間ですか?メリジューヌ様に説明を求められました」


 ビンゴ!レオナさんはメリジューヌさんから話を聞いたと言っていた多分原因はコレだ。


「説明?何のだ?」

「何故ご主人様が痙攣しながら笑顔で泡を吹きながら白目を向いて天上を向いてるのかと」

「ん?……………えーと…………ん?」

「聞こえませんでしたか?復唱致しましょうか?」


 訳が分らない事を言われて思考が空白で埋まる。

 それをミッチーは僕が聞き逃したと捉えたのか、復唱するかどうかと聞いてくるが……


「いや、大丈夫ちゃんと聞こえていた……なぁ、僕意識失ってたんだよな?」

「はい失われていました」

「でも、笑顔だったの?」

「はい。普段難しい顔している事が多いご主人様には珍しい、中々見られない良い笑顔でした」


 僕そんないつもいつも難しい顔しているか?

 まぁ今日に限ればずっと表情は良くなかったと思うが、いつもはそんなに酷くないと思うんだけどなぁ……


「そ、そうか……それで泡も……吹いてたの?」

「はいそれはもう白い泡をブクブクと」


 まぁ痙攣してたらしいし泡を吹くことくらいはあるか……


「な、なるほど。しかも僕はそんな状態で白眼をむいて痙攣しながら天上を向いてた訳だ」

「はいまるで天を仰ぎ見るているようでしたね」

「でも、僕の意識は無かったと…………」

「はい完璧にご主人様の意識はありませんでした」


 あぁーなんか色々と原因が分ってきた気がするけど、ちょっとこれは認めがたい事実だな。ていうか嘘だろこれは流石に………


「――――じゃあなんで!そんな状態になってるんだよ!泡は百歩譲ってスルーする!痙攣しながら白眼をむいてたのも意識をなくしてりゃ色々あるだろうから有り得るさ!でもさ、意識無かったのに何で天井見上げているんだよ!ていうか笑顔ってなんだよ!笑顔って!」

「正確な事は分りかねますがご主人様はの体はかつての権能の所有者に乗っ取られそうになっていましたから、恐らくその所有者それぞれ肉体を得た喜びを表した表現が合わさって出たのかと推測されます」

「いやそれは流石に無い!嘘だろ!?泡を吹いて喜びを表すってどんな表現だ!そもそも泡を吹き出していた痕跡なんてないじゃないか!」


 正直ミッチーが僕に嘘を付くことなんてないと思っているけれども今回ばかりは嘘だと思った――――思いたかった。

 だってもうそんな事認めてしまったら僕完璧に危ない薬をキメてる人か、ちょっと危ないやつじゃないか!こんな事実認めない!

 そもそも、泡なんてふいてたら僕の口元が汚れていたりするはずなんだ。

 でも、そんな痕跡はまったくない!そしてそれが無いならばちょっとミッチーのお茶目な嘘だと思う事位許されず筈だ!


「痕跡が無いのは当然です。魔力による拘束が解けたメリジューヌ様がご主人様が意識を取り戻す前に甲斐甲斐しくハンカチで拭かれていたのですから」


 アッサリと僕の希望は打ち砕かれ、しかも何か凄い情けないオマケの事実まで発覚した。


「ハハ、ハハハハそ、そう。随分迷惑かけたんだな後でお礼を言わなきゃいけないなそれは……ハハハハ」

「はいその方が宜しいかと」

「うん……そうするよ。ハハ、ハハハハハ…………」


 アァー駄目だ。もうなんか乾いた笑いしかでない。

 泣きたい。もう、部屋に帰って不貞寝したい。


 意識が戻った僕は直ぐにメリジューヌさんにケンカの事を謝った。

 そして許してもらえたか分らなかったけど会話はして貰える位にはなっていた――――でもなんか、余所余所しいとは思っていたんだよな。

 だからこそ僕は許して貰えてなかったのではないかと思っていたのだけれど事実は違ったらしい。

 きっとあの余所余所しさってなんかあれだ。痛いものとか腫れ物を扱うような態度の現われだったんだ…………で、遊撃の件で僕のそばを離れるように言った時に妙に僕の事を心配してたのもそのせいだ!


 まずいぞこのままじゃ、僕このままだとちょっと危ない変な奴だと誤解されてしまう。

 直ぐに何とかしなきゃ!


「じゃあ早速行ってくる――――とっその前に、ミッチーはその時メリジューヌさんになんて答えを返したのさ」


 メリジューヌさんにお礼と色々と釈明する前にまずはミッチーと口裏をあわせておかなければならない

 リリアと僕以外には権能の事を話したがらないミッチーの事だ、絶対に権能の侵食のせいで僕がおかしくなっているとは言わなかっただろう。

 そうすると適当な理由をつけて回答を濁したか嘘の回答をして居る筈なのである。

 そのあたりの事をしっかりと把握しておかなければまた僕の行動は裏目に出てしまうであろうそんな気がする。


「流石に権能の事をそのままお伝えする事出来ませんでしたので――――」


 うんうん、ここまでやっぱり僕の予想通りだな。


「――――ご主人様は魔力を使いすぎると体に激痛が走り、性格に変異をきたし――――」


 おぉ!そこは伝えてくれたのか!その辺りのこともなんとか説明しなきゃいけないと思ってたんだよね。

 でも権能の事を絡めないで伝えるのが難しいと思ってたんだ。

 そこの所をミッチーはなんてメリジューヌさんに説明したんだろう?


「――――痙攣して笑顔で泡を吹きトリップする不治の持病をお持ちだとお伝えしました」

「は!?どうしてそうなった?」

「何か問題が?」

「いや問題というか、どういう理由でソンナ回答ニナルノみっちー?」


 何かが心の奥底で燃え上がり、うまく情報を処理できない頭が言語処理を阻害し言葉を片言にしてしまう。


「理由ですか?幾つか選択肢はありましたがこちらが最大現にプラス効果がある選択だと私が判断したからです」

「へ、へぇ一応聞こうかそのプラス効果とやらを」

「はい。ポイントとしては不治の持病という点です。権能の侵食、これはご主人様が戦う上で必ず起こることであるので不治の病という事にしておけば、いつそうなっても病のせいだと皆様を納得させる事ができます」

「お、おう……でもそれ、別に病気なんてことにしなくても良くないか?」

「いえ、病気と説明する事で大きな利点が生じるのです。こちらも理由を説明したほうがよろしいですか?」


 原の奥底で感情が煮えたぎるがグッと抑えて静かにミッチーと会話を続ける。


「あぁ、まったくその利点とやらが僕には分らないからな……」

「まず病とすると事で乱心しても仕方が無いと皆様に思わせる事が出来ます」

「へ、へぇ」

「また病故に仕方なしという効果を利用し先程失ったご主人様の信用を僅かながらに回復する事もできます、尚且つその様な病をお持ちでも痛みに耐え魔族の皆様の為に尽力しているというのは大きなアピールにもなります」

「あーなるほどね……病気だって事にしておけば、そんな状態の僕を見ても誰も不審に思われないし仕方ないと思う訳か……」

「はい、そうなります」

「なるほど、なるほどぉいやーミッチーは機転はが利くなぁ――――」

「お褒めに預かり光栄です。しかしまだプラスの効果はあります。ご主人様が病を患いながらも戦闘に出る姿は将兵に大きな感動を与えるでしょう。そしてそれは士気の向上にも繋がります。やはり戦争というものは士気も重要な要因――――」


 病気に罹りながらも守るべき者の為に戦いに挑む――――うん、見かたに寄っては感動的だね

 しかもその病気は戦えば体に痛みを与える類の物で精神にも偏重を来たす厄介な病気だ。そしてそんな病気を患っているにも関わらず僕は戦い続ける――――それだけ聞けば感動的だろう!

 後は乱心してもまぁ不治の病気なら仕方ないかな?と思わせる事も出来るな?僕はそんな奴と一緒に戦場には立ちたくないけどな!!

 うん、どうやらミッチーはミッチーで人間心理と言う物をなんとなく理解してきて来ているらしい。

 いやー生き物の考えが良く分らないと言っていたミッチーがよく此処まで成長した物だ。

 そしてそれはミッチーも同じ事を思っているのか、なにやら少し得意げな声で喋り続けている――――だがそんな事に構うことはない!僕は一気に今感じている感情を最大限に言葉に乗せて叫びをブチまける!!


「――――とでも言うと思ったか!どうしてそうなった!というか原因はやっぱりお前かぁああああ!!」

「――――!?何故お怒りなのでしょうか?」


 ミッチーがそう驚き、僕に怒りの理由を求めてくるがそんなもん決まっている。

 そんな怪しい病気に罹った危ない奴、普通近づきたくも無いだろうに!


「なんでだって?んなもん勝手に変な病気持ちの設定にされたら怒るに決まってるだろ!」

「そうなのですか?」

「当たり前だろ!あーもう、メリジューヌさんに何て釈明すれば良いんだ……」

「理解不能です。これは確かにマイナス効果も若干ある選択でしたが総合的に見て一番のプラス効果の方が有る選択です。釈明の必要はないかと」

「有るよ!大有りだ!!僕だったらそんな危ない奴戦場に立たせる気もしないし、一緒に戦いたくない!」


『病を患いながらも戦う』『痛みに耐えて戦う』『不治の病を患っている』確かにこの3つの要因に感動やらなんやらを感じる人もいるかもしれない(レオナさんは若干感動しているようだったからミッチーのこの処置、遺憾だが意味はあったのだろう)だけどその病気の症状というのが全てを台無しにしている!考えても見て欲しい。


 戦闘中背中を預けていた味方が外傷もないのに突然笑顔で痙攣しながら泡を吹いている姿を見た兵士の心情という物を………少なくとも僕だったら絶対にそんな奴とは組みたくない。

 メリジューヌさんもその辺りの事は分っていたのだと思う。だから多分レオナさんから無理矢理に聞き出されなければ誰にも話していなかった筈だ。


「良く分りませんね。確かにその様な心情を持つ者も要るかもしれませんがそれは僅かなマイナス効果であり、私とご主人様の戦闘能力を加味すれば戦場に出さないという選択には繋がらない筈です」

「確かに軍隊の一兵力と考えれば僕がそんな病気を患っていたとしても関係ないな。でもそれと個人、個別の感情ってのは別だろう。少なくとも僕はそんな病気を患って居る人と同じ戦場に立ちたくもないし立たせたくも無いよ……」

「ご主人様今重要なのは軍隊としてのお話です、個人の意志は今回の場合関係なくありませんか?」

「む?それは本気で言ってるミッチー?」

「はい私は常に本気です」

「じゃあ、なんでこういう説明になるんだよ!」

「何故?と問われれば私は常に最善を選択するのみですとしかお答え出来ません」

「あ、そう…………いや、そうだよね。ミッチーはそういう奴だよね……ちなみに今、僕はどういう感情を持っていると思う?」

「ご主人様のご様子から何かご主人様がお困まりだというのは理解できます。しかしその原因が不明です。私の選択に何か問題が有りましたか?」


 僕は「常に最善を選択するのみです」というミッチーの言葉を聞いて急激に自らの中の怒りが冷めて行くのが分った。

 そして脱力してしまう。

 その言葉で僕とミッチーでは見ているというか感じている物が違うのだと感じてしまったのだ。


 ミッチーは人間的な心理の動きというものを僕に取り付けられてからそれなりに学んだのだと思う。

 そしてそれをミッチーなりにミッチーらしく考えた結果が今のこの事態だ。

 生き物の心理というものを理解したミッチーに有るのはそれを利用した損得勘定の判断であり、小さなマイナスを帳消しにできるプラスがあるのならば誰がどう思おうとプラスの方を取る機械的な思考なのだ。

 そして小さなマイナスがどの様な効果を周囲に与えても気にしないし、その事で誰が傷付こうが総合的にプラスになればそちらを取る。

 そこには人間らしい判断と言うか、感情的な物は一切無いのだ。

 恐らくミッチーはその辺りの感情的な部分をまだ今一理解出来てないのだと思う。


 そしてそんなミッチーに怒っていても仕方ないと思った僕は気持ちを落ち着けて諭すように話しかける。


「あるよ……一緒に戦うんだから大有りだ。だいたいそんな病気に罹っていると思われると僕が困る」

「……つまりご主人様は私が想定していたものより大きなマイナスを受けているという認識で宜しいですか?」

「うんそうだね」

「なるほど。何故それが大きなマイナスなるかは分りかねます、ご主人様は私の選択が間違っていたと仰りたいのですね?」

「そうだよ……そもそもそんな危ないヤツ設定されて喜ぶ奴なんて居ない」

「左様ですか……私なりに生物の心理という物を学習した結果がこの回答だったのですが、中々難しい物ですね」


 難しいか……確かに機械的な思考を持っているとこういう細かい人間心理的な事を理解して貰うのは難しいのかな?


「ミッチーはAIみたいなものだしそこ等の事を理解するのは難しい?」

「はい難しいですね…………今後の参考の為にお伺いしたいのですが、私は何を学ぶべきなのでしょうか?」


 ふむ、そう問われると難しいな。


 前に僕が言った細かい機微とかを学んだ結果、こうなっちゃてるんだから何を学んでも機械的に処理してしまいそうな気もする――――――じゃあそういう処理をしないようにする為の事を学ぶべきなのか?

 だとすると、それはなんだろうな……機械的な判断の逆…………人間的な判断……人間と機械の違い……人間臭さか?うーん何か他にある様な気もするけど今は思いつかないな。


「……人間臭さ?うん、そんな感じかな?そういうのを学んでみるというのはどうだろうか?」

「分りました。それではこれより『人間臭さ』というものを理解してみようと思います。ご主人様の記憶や会話からデータを参照しますが宜しいですか?」

「あぁ、うん構わないよ。ドンドンやってくれ」


 記憶見られるというのは少々恥かしい、しかしながらそれで今回の様な事態が無くなるなら万々歳だ――――ん?来たか!?


 その時導きの腕輪に熱が篭った。

 つまり遂に冒険者達が動き出しこの遺跡に侵入したという事だ。

 僕は急いで思考を戦闘モードに切り替える。


「ご主人様、冒険者4体入り口より侵入しました」

「あぁ、分っている!今の話は後でしっかりと話そう!今は迎撃に専念する!」

「了解致しました。迎撃準備開始します」


 僕は良く考えずにミッチーに記憶を参照するように言ってしまったがこの後直ぐに後悔する事になる。

 だって僕の記憶を参照するということは――――


次回は久しぶりのツルギの戦闘回になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。