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迷宮の新米守護者  作者: 板 竹輪
第1章 迷宮の新米守護者
31/45

第28話  それぞれの実情と本心

今回は前話より少し長いです。


 リアルスキルの話を終えたカネミツ達は本来最初に話す予定であった契約の確認と打ち合わせに話を移行させていた。


「まず、事前に聞いていた依頼内容の確認からだ」


 本来ならばこの手の契約の確認等は前日までに全て済ませて置くべきものなのだが今回は、カネミツがシグナルに依頼したのが前日の夜という飛び入りの依頼だった事もあり、その機会を設けれなかった為打ち合わせや契約の締結は現地で行なう事になっていた。


「契約期間は今日の21時まで、報酬は前金で100万、依頼成功を確認して貰った後に200万。依頼内容は護衛、対象はアンタとアンタの仲間の護衛。これで間違いないか?」


 シグナルはカネミツから前日に送られてきたゲーム内フレンド用チャットの文面を依頼内容の確認の為にそのまま言葉にした。その表情はカネミツからRPを賞賛された時の様に喜びで眼を細めてはいない。

 その表情は非常に険しく、そしてその胸中は不満とカネミツへの不信感で塗られていた。報酬に不満は無い。依頼の内容も細かく聞かなければ行けないが極々普通の内容だ。何も起こらなければ待機しているだけで大金が転がり込む良い依頼だとさえ、シグナルは思っている。

もちろんそれだけで済むならばシグナル達は呼ばれないだろうとも理解していた――――しかしそれならば何が不満なのか、それはカネミツが持ってきた依頼のタイミングであった。


 そしてその不満をまったく察していないのか、それとも分っていて行なっているのかはまったくの不明だがカネミツは変わらぬ営業スマイルでにこやかに返答を返す。


「間違いありまへん。今回は突発の依頼なのに受けて貰って有り難い限りですわ。いやー、ほんにこのレイドだらけの連休にシグナルはん達が空いててラッキーでしたわ~」


 カネミツが依頼内容に問題無いことを伝え、その後に世間話でもするように語り出した内容にシグナルの背後に居るモヒカン達がギョッとする。

 その理由は、今カネミツが口にした言葉の内容に有った。

 それはシグナルが此の場に来てから続けていた険しい表情の理由であり、此の場を設けられた時にカネミツに必ず問わなければいけないと思っていた事柄だったからなのである。


「…………昨日の夕方、元々入っていた今日のレイドの助太刀依頼がキャンセルされたからな」

「そりゃまた失礼な連中やなぁ。前日のドタキャンなんてワイなら速攻取引停止するレベルや」


 カネミツは表情も声色も変えずそんな事を言うが、その言葉を聞いたシグナルは顔を歪める。


「俺達と契約してたギルドが昨日突発でアンタの所の『黒狩り』と組む事になったらしくてな……俺達の助太刀は要らないそうだ。アンタ知ってたか?」

「ほぉー!それはまた妙な所で『黒狩り』が抜けた影響が出たんやなぁ~」


 まるで初めて聞いた話かのようにカネミツは驚き、それを見たシグナルは心の中で『チッ白々しい』と毒づく。


「まさか知らなかったとでも言うのか?アンタが?」

「ここん所、忙しかったさかい。あんな人等に構ってる暇無くてなぁ。いやー情報も扱う商人としてはお恥かしい限りですわぁ」

「…………」


 恥かしそうに頭をポリポリと書きながら、黒狩りの動向を知らないと言うカネミツにシグナルは沈黙と批難の視線を持って返答する。

 そもそもに有り得ない話なのだ。このカネミツという商人を自称するプレイヤーがその様な動向を把握していないという事が。


『黒狩り』というギルドは戦闘能力だけは優秀だ。AO内でも上から数えたほうが早い上位に位置するギルドである。

 戦闘能力に自信のあるシグナル達『信号機』であるが、もし『黒狩り』vs『信号機』という構図で同人数の戦闘を行なった場合は黒狩りの圧倒的な勝利という形で終るだろう。それほどまでに『黒狩り』は強く、そして戦闘能力を至上としているギルドなのである。

 そんなギルドがこの日行なわれる大規模レイドに『白鷹の同盟』を一時的に抜けてフリーで動くのだ。その動向を注目しないレイド参加ギルドは少ないであろう。

 そしてあわよくば彼らと接触し、レイドでの仮同盟を組みたいと願うギルドは数多に有る。それこそ、金を払ってでも組みたいと願うギルドもある筈なのだ――――そして、そんな金が絡みそうな事をカネミツが把握してない訳が無いのである。


「あれ?もしかしてワイ疑われてます?心外やなぁ。もし、黒狩りのせいでお世話になってるシグナルはん達の商売に支障が出るようなら、ワイの方から一言あそこのマスターのザインはんにシグナルはんの邪魔しないように言っておきましたって」

「それはアンタに損が生じない時だけだろ?」


 カネミツを真に良く知らない人物はカネミツというプレイヤーを木片一つ、草1本すら金に替える金の亡者だと思っている。この良く知らないというのは『白鷹の同盟』に所属する大部分の人員も含まれる。

 しかしながら身内である『白鷹の同盟』メンバーすら知らないカネミツの真の部分、それを知るプレイヤーはカネミツの事を唯の金の亡者とは思っていない。ソレは金亡者という皮を被った別の――――何か……妄執という物に囚われている『何か』なのだ。

 そして、今までカネミツから多くの依頼を受けて達成してきたシグナルはその『何か』を知る数少ないプレイヤーであった。


「まぁ、ぶっちゃけて聞くがアンタ裏で黒狩りを俺らと契約してたギルドに斡旋しただろ?」

「はて?ワイがそんな事をして何の得が?」

「目的はまぁ、仲介料とあぶれた俺達を雇う事じゃないのか?」

「…………だとしたらどうします?今回の依頼は無かった事にしますか?」


 作り物の笑顔を崩さず悪びれた風もなく言葉を吐くカネミツを見て、シグナル以外の沈黙を守るモヒカン達は寒気の様な物を感じた。

 それは、カネミツに些細な変化が起こっていたからだ。

 作り物の笑顔自体には変化は無い、だが笑顔に張り付いていた目は笑っていなかった。

 先ほどまでの媚びる様な視線は冷徹な物が宿っていた。まるで物を見るような眼でモヒカン達を見ていたのだ。

 だがそれに臆さず、シグナルはカネミツに侮蔑の視線を交えて返答する。


「アンタがもし、手を回していたとしても依頼は受ける前提で来ている……俺達をこんな強引な手段で雇うんだ……それなりの俺達じゃなければいけない仕事なんだろ?この依頼は」


 シグナル達は今までカネミツの依頼を多く受けてきたが、その中には普通の傭兵ギルドならば受けない非道な物も多くあった。

 それは、もちろんAO運営の規約に抵触する物では無かったが、倫理や正道とは大きく離れた物ばかりであった。

 故にシグナルはカネミツを金の亡者等と生易しい物言いで評価せず、こう評価する――――利益追求の為ならば何でもする悪魔の様な存在であり、金を集める機械の様な存在でも有ると。


 カネミツは利益が出ると判断すれば、身内である白鷹の情報も敵対ギルドに流す。

 希少な素材が得られる狩場が有ればプレイヤー間で暗黙の禁止事項である狩場の独占なども行なう。もちろんカネミツの悪評が出回らない様にギルド外部の人間を使ってだ。

 商売上邪魔なギルドが存在するならば不利益が生じない範囲で妨害工作を行ない。最終的には活動が不可能なレベルまで追い詰める。しかしながら、それだけならばまぁ良くある話だ。大手ギルドが横暴な事は何処のMMOでも有る話である。

 この様な事は他のMMOやAO内でも噂話程度のレベルで耳に入りその中の何割かは真実なのであるが、カネミツのソレは絶対に自分に不利益が出ない様に徹底されていた。


 そもそもに、この様な行いは倫理感どうこう言う前に行なう者は少ない。それは悪評が付くという大きなリスクが有るからである。

 一度、悪評が付いたプレイヤーはネット上の大規模掲示板の専用スレ等で叩かれ、それが真実かどうかは関係なくほとんど信用されなくなる。

 信用を失うというのは人とのコミュケーションが必要なオンラインゲームをする上で非常に不利益な事だ。

 それはAOでも同じ事で、自らの行いからAOスレで叩かれて信用を失ったプレイヤーも存在している。


 特にに白鷹の商売の顔役であるカネミツに悪評が付けば、その影響はカネミツだけに留まらず白鷹全体にまで影響する事だろう。その様な事態になれば幾ら利益が出てもそれを上回る不利益が出てしまう。それでは意味が無い。

 ある意味カネミツが行なってきた事は自らの首を絞める様な行為なのだが――――カネミツはその悪評というリスクを完璧に管理していた。


 狩場の独占があれば、普通ネット上の掲示板等で噂になり、アバター名やギルド名が晒され、掲示板上で叩かれるだけでなくゲーム内でも多くの妨害を行なう者が現れるのだが、カネミツはその被害に会った事は無い。

 それ所かその狩場独占の話題の中にカネミツの名前は一切出たことが無いのだ。むしろ狩場の独占を行なっている者達すら別の雇い主が仲介している為、大元のカネミツに雇われているとすら気づいていない場合の方が多い。

 邪魔なギルドの妨害工作もそうだ。シグナル達の様な金さえ払えば信頼できる絶対に他言しない裏の仕事を請け負うギルドに依頼し、潰されたギルドのメンバーはカネミツの仕業だと知る芳も無い。

 そしてその様な内容の依頼を数多くこなしてきたからこそシグナルはカネミツの本質の様な物に気づいた。


「流石シグナルはん話が早い?ほなさっさと商売の話を進めまひょうか」

「待て。確かに依頼は受けるつもりだ。だがな先にお前が手を回した事実があるのかどうかを応えろ」

「そんなもん別にどっちでも良いやんどうでも良い事やろ。結果としてアンタ等は此処に居て依頼を受けてくれる。ほな、真偽がどっちであれお互いに利益さえ出れば問題ないやろ?」


 カネミツの本質それは『利益さえ出れば何でも良い』という考えから生じる人間心理の無視である。

 カネミツは様々な悪逆非道ともいえる行いに疑問も悪気も感じない。ならば、悪びれるか悪役や裏の大物でも気取るRPを行なうのかというとその様な気配は微塵も無い。

 これは異常な事であった。

 多くの裏の依頼も文句一つ言わず行なう『信号機』はこの様な依頼がカネミツ以外からも稀に舞い込む事があった。

 そしてそれらの依頼者は達は2極であった。

 片方はにっちさっちも行かなくなった末期の状態のギルドで罪悪感を抱えつつも仕方なくルール破りの稼ぎを依頼してくる場合、片方はその対極である悪人プレイを善しとするプレイヤーで、その悪逆非道な行いをRPプレイとして楽しんでいる者達。大まかな選り分けであるがほとんどの依頼者はこの二つのどちらかに区分できた。だが、カネミツはそのどちらに類しない特異なプレイヤーであった。


 カネミツは唯機械の様に何の感情も持たずに淡々と利益と不利益を天秤に掛けて、もしそれがプラスになるならば何の躊躇も無く如何なる手段もってしても最高利益が出る様に行動するだけだった。

 日々ゲーム内の通貨を増やす事だけ考えているという事だけを考えれば実に商人を自負する人物らしい行動なのであるが、その行動には一切の善悪の概念は存在しない。

 純粋にゲーム内通貨が増えれば喜び、損失が出れば怒り狂う唯それしか無かった。ならば、その金を何に使うと問えば新たな金を得るために投資すると言う。

 何か買う為に金集めるのではなく、金を集める為に金を集める。それこそがカネミツという商人という職を突き詰めたプレイヤーのプレイスタイルなのである。


 そしてそれを知っているからこそシグナルは、今回の依頼主からの仕事のキャンセルがカネミツが裏で糸を引いている事を推察できた。

 そもそもに『信号機』に依頼していたギルドは金は持っているが、そう強くはないレイドにも不慣れなギルドだった。

 そのギルドが、強さとレイドの攻略にギルドの存在意義を持つ『黒狩り』と手を組むめるというのはおかしい話なのである。

 『黒狩り』というギルドは強さに意義を見出しているだけに弱いギルドとは組まない。これはAOでは有名な話なのだ。

 ならば何故『黒狩り』がその様なギルドと手を組んだかは明白である。カネミツが手を回したのだ。

 黒狩りには大金かレアイテムを積み依頼元のギルドと組むように促し、依頼元のギルドからは仲介料という大金をせしめて、『信号機』への依頼をキャンセルさせた。

 カネミツ自身が『信号機』を雇う為に。


「アンタがどうでも良くても俺達は違う。俺はアンタと違ってAOを――――傭兵家業とRPを楽しんでるんだ。出来れば今後は今回の様な手段を取るのは止めて欲しい」


 シグナルは若干の怒りを込めてカネミツを睨みつける。そしてその視線を受けるカネミツの表情は――――まったくといって変化がなかった。


「そう言われましてもなぁ。知らんもんは知りまへんしなぁ~。まぁ、『黒狩り』は白鷹(ウチ)の身内みたいなもんやし、身内が迷惑かけたって事で依頼料に50万追加って事でどうや?それでこの話はお終いにしまひょ」

「ふんっつまり、真偽を不問にする代わり金を出すという事か?」

「取り方はそちらのご随意に」

「ふむ……少し考えさせてくれ」


 シグナルは深く考え込む様にして腕を組み視線を若干下に向ける。

 それと同時にピコリッという電子音がシグナルだけの耳に届き、視界の端に黄色い枠のチャット用のウィンドウが開かれるのを確認した。

 シグナルはカネミツに悟られぬ様に視界の端に音と同時に開かれたウィンドウに眼を通し、そこに書かれたギルドメンバーの名前とそれに続いて書かれたメッセージを確認する。


『お頭、ここ等で手打ちにしては如何ですか?目的の一つであるカネミツ氏への釘刺しは完了したわけですし』


 それは、ギルドメンバーである白い法衣を来た白髪の老人からのメッセージであった。

 シグナルはそのメッセージを見て、返答を心の中で念じるとチャットに次の文字が自動で打ち込まれていった。


『確かにそうだな。カネミツからの謝罪は引き出せていないが、コイツとは今後も付き合って行かなきゃならん。ここらで納得しておくべきか』


 今シグナルが念じるだけで文字が打ち込まれて行くウィンドウはギルドチャット用のシステムウィンドウだ。

 これは各ギルドが使えるシステムの一つで、本来は遠く離れたギルドメンバー同士がコミュニケーションを取る為に使われている物だが今回のように密談等に使われる場合も多い。


『お頭、それにベネさん、ちょっと甘すぎねぇか?うちのRPとしてはこんな奴ヤッちまうべきだろうがよぉ』

『んだなぁ、俺達はコイツに謝罪をさせる為に来たんだろ?これじゃあ本末転倒だなぁ』

『まぁお得意さんだしこんなもんで良いんじゃねぇの?今後もまたあるなら考えればいいさ』

『ヤッちまう……って相手は、最大手の白鷹の重鎮だぞ?もうちょっと考えてからギルチャ打てよ』

『もう、面倒だから帰ろうぜ?』

『帰るって……ここまで来た時間が無駄になるだろう。とりあえず依頼は受けるべきだ』

『そうだ。野郎の考えはどうであれ、依頼は受けるのが前提だって話で今回来たんだろうが』


 シグナルがメッセージを打ち終えた直後更に複数のギルドメンバーからの意見がギルドチャットのウィンドウに表示される。

 それ等、様々な意見を一通りに眼を通した後、シグナルは意見を取り纏めるべく再びギルドチャットに向かって自分の考えを打ち込む。


『正直反対してる奴の意見も分る。俺も今回のヤリ口は正直納得いかん。だが、現在のウチの運営にコイツからの依頼は不可欠だ。業腹だが、今回はここ等で手打ちと行こうじゃねぇか』


 ギルド運営というものは金が掛かる。特に『信号機』はそのRPのクォリティと依頼達成率を維持する為に他のギルドより多くの資金を必要としていた。

 依頼の窓口であるギルドホールの維持費、高水準の依頼達成の為に消耗されるアイテム代、ギルド内では処理できない事に対する協力者への謝礼、特殊なRP用の装備を高水準の戦闘可能なレベルまで引き上げる装備素材の代金、etc……それら莫大な費用の為、信号機は同規模のギルドの数倍から十数倍の運営費を必要としていた。そしてその運営費を稼ぐ為の高額な依頼料設定であり、カネミツの様な大口の依頼人を邪険に出来ない理由なのだが。


『だけどよぉ、お頭今後もこんな事が有ったらやってられねぇぜ』

『その為に態々今後は無い様に釘を刺したんだ。流石に今後もこんな事が有るようなら他のお得意さんを見つける。これは最後通告だ……今回は我慢してくれ』

『そうは言っても久しぶりの大きなレイドだったのに……こんなやり方されたらなぁ』


 『やはり納得しない奴は出るか……』と、シグナルは心の中で小さな溜め息をつき、そして次に、自分自身心の何処かで納得出来ていない内容を仲間に説得しようしても旨くいく訳が無いなと自嘲する。

 だが、それでもシグナルはこの依頼を受けなければいけないと思っていた。

 それはこの局面で彼らを『こんな手』を使ってまで呼んだ事からも明らかだった。


 カネミツは利益を得られるならば何でもする男だが、利益を不利益が上回るならば絶対に行動は起こさない商人であり、何が『利益』になり何が『不利益』になるか鋭敏に見分けれるプレイヤーである。

 しかしながら、今回は『信号機』を無理矢理な形で呼びつけ、自身が『信号機』に不興を買う事『不利益』理解しつつも行動を起こした。

 そしてそれが最悪交渉決裂から、今後の取引停止にも繋がる事が有り得るという事を理解しているのも間違いなかった。 もしこれが十把一絡げの傭兵ギルドが相手ならば、取引相手の傭兵ギルドが一つ減った程度でカネミツの『不利益』とはなり得なかっただろう。

 普通の傭兵ギルド代わりなど幾らであるのだから――――

 しかし、『信号機』はカネミツがツテのある傭兵ギルドの中では最大の戦闘能力を保有している。それを失う危険があるというのはカネミツにとっては『不利益』な事だ。

 ならば、何故そこまでしてシグナル達を呼び出したのか?それの意味する所は、今回の依頼はカネミツが無理にでも『信号機』を雇わなければ行けない状況に追い詰められているという事なのだ。

 もしこの様な局面で怒りに任せてカネミツの依頼を蹴った場合、その結果は火を見るよりも明らかだろうという事もシグナル理解していた。

 カネミツの怒りを買った『信号機』はなんらかの理由をでっち上げられて白鷹に敵対設定を受ける。

 もしくは、今まで彼等が請け負ってきた依頼の矛先が自分達に向き、今後は他所の傭兵ギルドに『信号機』付け狙われる事になるだろうと――――シグナルはこれまでのカネミツの行いから、それら全てを推察したからこそ今回の依頼を断るわけには行かないと思ったのである。


 だからこそなんとかギルドメンバーを説得しなければならない。そうシグナルは思い、新たな説得の言葉をギルドチャットに打ち込もうとした。

 だがその時、今まで出ていなかった新たな意見がベネと仲間内から呼ばれているモヒカン老人からギルドチャットに書き込まれる。


『まぁ皆さんお怒りですが、捉えようによってはカネミツ氏は今回の件について、謝罪をされていると思いますよ』

『どういうことだよベネ』

『考えてもみて下さい。あれだけ金に厳しいカネミツ氏が同じ同盟内とはいえ他所のギルドが我々に迷惑を掛けたからと言って、追加で依頼料上乗せすると思いますか?今までその様な事が一度でもありましたか?』

『まぁ、無かったかもな……』

『ですので今回カネミツ氏は立場上この事を認める訳にはいかないがその行為に反省しているからこそ、迷惑料を追加の報酬という形で出すのではないですかね?』

『あーまぁ、そう考えられなくもないけど……納得できるかというと……』

『はいその気持ちは私も良く分ります。他ならぬ私自信、皆さん同様カネミツ氏に怒りを持っています。ですが、この様な手段を使ってまで我々を頼ったカネミツ氏の気持ちを汲んで差し上げる事も必要だと私は思います。ルール違反ともいえる手段を用いてまで我々を呼び出すという事はカネミツ氏はそれほどまでに追い詰められれているという事です。また、我々の力があれば事態を打開できるとカネミツ氏が我々を信じている事です。この期待に応えてみるのも我々の責務なのではないでしょうか?』


 詭弁だ……シグナルは流れ続けるベネのギルドメンバー説得用の文面を見てそう思った。


 カネミツは今回の事にまったく何の罪悪感も感じていない。

 カネミツというプレイヤーはその様な事を感じるプレイヤーではないのだ。

 追加報酬に提示された50万もシグナル達にはそこそこの大金だが、カネミツにとっては端金だ。

 その程度でシグナル達が納得するならば、今後への投資として喜んで出すだろう。

 それをシグナルは良く分っていた。しかし、それはカネミツという人物を理解しているシグナルと今詭弁の様な説得を行なっているベネのみが理解している事だった。


『――――それに我々は傭兵です。傭兵というものは個人の心情を挟むものではありません。ゲーム内とはいえ我々はプロの傭兵として活動しているのです。それに準じるべきではないしょうか?』


 『信号機』のメンバーほとんどは、カネミツの本質を理解仕切れていない。

 それが効したのかそれとも、ベネに反論するのが難しいと感じたのか、流れるように出るベネの詭弁ともいえる説得に反論する者はいなくなっていた。

 それを見てシグナルは今が好機とギルドマスターとして決定を下す文面を此処の中に念じ、心にも無いことをギルドチャットに打ち込む。


『まぁ、ベネが言う通りだ。今回は世話になっているカネミツさんの顔を立てて依頼を受けようと思う。反対の奴は居るか?』


 ギルドチャットに文字が打ち込まれてから10秒ほど待ち、反対のメンバーが居ない事をシグナルは確認し、『では、依頼を受ける事にする』とギルドチャットに打ち込んむ。そしてその締め括りの文面に異論が無いことを確認すると、シグナルはフレンドチャット用のシステムウィンドウを一つ新たに開き今回の功労者に簡素な礼を述べる事にした。


『ベネいつもすまんな。助かった』

『いえいえ、いつもの事ですので』

『どうにも自分が間違っていると分っている事を人に押し付けるのは苦手だ』

『えぇですからその為に私が居るのですよ。お頭は旗印として十分に働いているのですから、腹芸は私にお任せを』

『すまんな……』

『御気になさらず、さぁカネミツ氏がお待ちですよ。お頭ご返答を』

『あぁ、そうだったな』


 シグナルはどうにも重くなる口を無理矢理に開きカネミツを睨み付ける様にして傭兵ギルド『信号機』としての意思を伝える。


「……良いだろう。この話はこれで手打ちだ。依頼の詳細を聞きたい」

「おおきに、ほな早速――――」



 ***


 カネミツはシグナルに依頼の説明を終えると同時に難しそうな顔で何も存在しない所を見つめ始めた。

 それが何かを察したはシグナルはカネミツに現在の状況を問いかける。


「攻略の方は芳しくないのか?」

「あぁいや、どうもダンジョンの入り口に罠が仕掛けられてたみたいなんや。今見ていたのはアレックスはん……さっきの若い子やね。その子からの報告なんやけど……まぁ少し被害が出たくらいで特に問題はあらへんな」

「そうか……では、我々の仕事に変更は?」

「あらへんあらへん。何や?何か仕事の内容に気になる事でもあったんか?」


 カネミツは笑顔を維持しつつも意外そうな声でシグナルに問いかける。


 「……本当に仕事の内容は今の説明で終わりか?他には何も無いのか?」


 カネミツから依頼の詳細の説明を受けたシグナルの顔はどうにも不機嫌だった。それがカネミツが以外そうな声を上げた理由である。

 元来シグナルはどんなに汚い内容の仕事だろうとプロの傭兵ギルドとしての矜持で文句を言わないし不満も表さない。

 そういう面も評価しているからこそカネミツは『信号機』を重宝しているのだが――――この時は違った。


「あらへんよ?」

「実は護衛に見せ掛けた収穫物の横流しの手伝いという事は?」

「そんな事するんなら最初からそう言ってます」

「では、事故に見せ掛けたアンタに反攻的な傭兵の暗殺という事も?」

「いえいえ、今回はいつもと違って真っ当なお仕事です。今お話した通りワイと荷物を護衛して欲しいだけやねん」


 カネミツから発せられた言葉にシグナルは更に不機嫌になる。それはあまりにも合点が行かなかったからだ。


 カネミツから語れた仕事内容は当初依頼されていた通りで護衛任務としか思えない内容だった。

 護衛対象はこの現在進行形で設営がされているダンジョン前野営地。そして、突入準備と設営に携わる白鷹のメンバー。

 期間は依頼内容には21時と記載されていたが、実際は白鷹の精鋭部隊である第三部隊が到着する迄の間らしい。


 シグナルはてっきり危険度の高いダンジョンへの進入か、ダンジョン内で事故に見せ掛けたプレイヤーの暗殺でも依頼されるのかと思っていたのだが、その実何の変哲もない護衛任務だった。

 唯一危険が有るとすれば稀に『黒狼』と呼ばれるMVPモンスターがダンジョン入り口周辺に出現するというもののみである。これは正直拍子抜けだった。


 シグナルの予想では依頼の文面には護衛とは書いてたがもっと別の、裏の仕事があると予想していたのだ。

 しかし、蓋を開けてみれば唯の護衛任務だとカネミツは言う。

 これは態々、『あの様な手段』を用いて迄シグナル達を雇う難易度の物ではない。


「それだけの為に俺達を呼んだと?この程度の事で何故俺達を呼ぶ必要があった」

「お恥かしい話なんやけど『黒狩り』が抜けて白鷹の同盟(ウチ)、今人手不足と戦力不足なんやわぁ。だからこそ最も戦力的に信用できるシグナルはん達に来て貰った訳やな」

「……あんたの子飼いの傭兵には対モンスター専門の連中が居たんじゃなかったか?そいつらを使えば良いだろう」

「それも同じや。人手不足であの人等にはダンジョンに入ってもらうさかい、こっちの守りが薄うなってしまうんですわ。それにあの人等レベルと装備は良いんやけど、シグナルはん達と違ってソロの集まりみたいな物やから……それじゃあ『黒狼』に対処出来ない可能性が有るやろ?」

「『黒狼』か……確かにアレは連携が取れていないとPTが壊滅する可能性がある相手だな」

「そうなんですわぁ。それで、シグナルはん達に来て貰ったんや。確かシグナルはん達『黒狼』を撃退した事があるやろ?」

「あぁ、確かに2度ほど戦って2度とも撃退している。だが、狩れるかは別だぞ?それに2度目の時は被害は大きかった。今回も被害が出ないと約束できんぞ」

「あーそれはアレが相手なんやから仕方無い。そもそも『黒狼』が本当に出ると限らんし、出た場合は最悪ワイと今回の狩りの収穫物さえ守ってくれればえぇ。それで十分や」

「被害が出た場合の報酬の減額率は?」

「野営地と白鷹(ウチ)のメンバーに幾ら被害が出てもワイと収穫物が無事なら減額は無しや。ただし、ワイが死亡した場合は依頼失敗として成功報酬は無し、収穫物に被害が有った場合、全損なら報酬は無し。半壊なら50%減って所やな―――まぁ、要は第三部隊が到着するまでこの野営地を守ってくれれば良いだけなんや。ぼろい仕事でっしゃろ?」

「ふむ……確かに楽な仕事だな……」


 言葉で『楽な仕事』と言いつつもシグナルは何処かに引っ掛かりを感じていた。

 仕事が楽過ぎるのだ。依頼の報酬額と依頼の内容が釣り合っていない。依頼の報酬は成功報酬と先ほど追加された50万を込みで350万、これは一般プレイヤーの一月に稼ぐ金額の数倍に達する。

 だが、その金額自体も危険性が高い『黒狼』対策だと言われれば、道理が通っていない訳ではない。むしろ正当な報酬額だといえるだろう。

 しかしながら本当に出るかどうかも分らないモンスター対策に金に異常な執着を見せるカネミツがシグナル達を――――高額な傭兵を雇うだろうか?

 ならば、シグナル達を雇ったカネミツの真意が何なのかと考えれば、答えは報酬の減額を明言したカネミツの死亡と収穫物にあるのではないか?と気づき、そこでシグナルは今回の依頼の合点が行った。


 つまりカネミツは絶対に死にたくは無いのだ。


 カネミツが大金を出してまで自らの死を忌避している理由は簡単だ。

 カネミツの死亡それはカネミツが一時的にログインが不可能になる以外に別の大きな意味が有るのだ。

 AOに存在する各町には冒険者居住区という区画が設定されている。

 この区画はS~LLサイズの土地が用意されておりプレイヤーはその土地を購入し、ある程度制約はあるものの思い思いの用途の建物を建てることが出来る。

 購入費用、維持費共に高額な為もっぱらギルド名義で購入し、ギルドの拠点たるギルドホールが建てられる事が多いのだが、中には土地を個人で保有して自宅や商店を建てる者も居る。(中にはゲーム的には得に意味も無い飲食をメインとした酒場や食堂を営む酔狂なプレイヤーも居る)そして、この各町にある区画には必ず派手な電飾を光らせたプレイヤー保有のチェーン店が存在している。その名は『カネミツマート』所有者はもはや語る必要もないが白鷹の同盟財務担当のカネミツである。

 この各町にあるカネミツ保有の商店こそがカネミツが死を忌避する理由なのだ。


 冒険者区画に建てられた建物は保有プレイヤーがログイン不可能になるとそのプレイヤーがログイン可能になるまで機能を停止する。

 そして、この一時停止期間にも建物維持費は掛かる仕様となっている。

 カネミツは商人プレイを主としているプレイヤーなのでそうレベルは高くないが、それでも古参プレイヤー故にに初期レベルとは程遠く10日程のログイン不可能時間が発生する。

 カネミツはそれを恐れているのだ。


 カネミツマートは基本的に全ての町の冒険者区画の入り口に存在しており、一人のプレイヤー個人では手の届き難い値段が付けられているLサイズ一等地に建てられている。

 そしてこの土地は商売するには非常に良い立地なのだが、得られる利益が大きい分その維持費は莫大だ。


 もちろん、カネミツほど莫大なゲーム内資産持っていれば10日間程度の営業停止と維持費はかすり傷程度にもならない。

 しかしながら、カネミツマートは通常の消耗品アイテムの他に白鷹から卸されている素材アイテムや白鷹所属の職人達の製作した装備やアイテム等が売られている。もしその店が機能を停止してしまったら少なからず白鷹にも痛手が出るだろう。 

 それに加えカネミツは商人というRPを貫き通している。そして金への執着は他者の数十倍は有る。

 ならば商人としての矜持で稼ぎの無い建物に維持費を払うという無駄金を本気で嫌っているのではないだろうか?そして狩りの収穫物に固執するのも同じく今後自分の商品になる物を傷つけたくないのだろう。シグナルは今回の依頼の真意をそう理解した。


 カネミツの今回の依頼の真意を理解できれば話は簡単だ。『コレ以上何かを懸念することは無い』という思いを込めてシグナルはカネミツに言葉を返す。


「確かに悪い仕事ではないな」

「そうでっしゃろ~。他に質問が無ければ護衛して貰う場所の打ち合わせに入りたいと思うんやけど、宜しいでっかー?」


 実の所、他に質問が無いか?と問われれば無い訳ではない。

 そもそもに白鷹の事務方のトップであり、戦闘を不得手としているカネミツがこの第一部隊を指揮している事自体が謎であったし、死の危険性が有るダンジョン前に出てきている事も謎であった。

 態々、大金でシグナル達を雇う位ならば最初から危険性の高いダンジョン周辺に出てこなければ良い。

 もっと言えば『白鷹の同盟』はAOで最も所属人数の多いギルドの集合体なのだから、他の者に任せるか白鷹の精鋭を護衛につければ良いのだ。

 カネミツが前線に出て戦闘部隊の指揮を執るというのはシグナルにとっては今一理解出来ない事であった。


 しかしながらそれをシグナルはそれを問おうとは思わなかった。

 利益の無い事で動かないカネミツが無意味に戦闘部隊の指揮を執るという事は有り得ない。

 そして同盟内で強大な権力を保有しているカネミツが指揮官を押し付けられているという事も考え難い。


 『白鷹の同盟』内の財布の紐を握っているカネミツはその一声で同盟所属のギルドに割り振られる活動資金が増減させる事が出来るのだ。

 その権力の強さは『白鷹の騎士団』のマスターであり『白鷹の同盟』盟主であるアルバートに匹敵するだろう。

 そしてその様な権力を保有しているカネミツを強制して指揮官業務を押し付ける事が出来る者など白鷹内には存在しない。

 そうなると、考えられる事は絞られる。


 つまりカネミツは第一部隊の指揮をする事で何か利益が生じる要因があるのだ。

 そして、それはアバターの死という不利益を極端に嫌うカネミツが、危険な前線に出てくるほど大きな利益得られる要因なのであろう。シグナルはそう考えた。

 もしかすると、この様な場所にカネミツ自身が態々出てこなければいけないシグナルの知らない白鷹のギルド内事情か、カネミツ自信が何か問題を抱えている可能性も有るが、それならば余計にその様な事は聞くべきではないとシグナルは思った。


 それらのシグナルが気になる事は、シグナルの個人的な興味であり『信号機』が仕事をする上で聞いておくべきことではない。ならば聞く必要はないとシグナルは判断した。


 所詮は自分達は傭兵なのだ。カネミツと商売上で懇意にしているとはいえ、白鷹という組織全体から見ればシグナル達は完全に外部の人間だ。ならば、依頼元のギルドの事情に深入りするべきではないのだ。

 突かなくて良い藪を突いて余計な物が出てきても厄介なだけなのだから――――


「特に無いな。続けてくれ」

「ほな、まずこの野営地の説明から始めますね。といってもまだ設営途中やから実際に完成した野営地とは少しズレた物になるかもしれんけど――」


 そう言いながらカネミツは何も無い中空を指で何か操作するように動かす。そしてその直後シグナルの視界の端にカネミツからテキストと画像データが送られて来た旨知らせるシステムウィンドウが開く。


「画像は此処の野営地の完成予想図、後はダンジョン入り口周辺の地図や。テキストの方は今回の作戦のタイムフローとシグナルはん達に防衛して欲しい場所が記載されてる物やな」

「ふむ、拝見しよう」


 シグナルはカネミツから送られて来たデータを受け取る為にシステムウィンドウを操作し、送られて来たデータに目を通し始め驚き、感嘆の声を上げる。


「大きいな、この野営地は……」


 カネミツから送られて来たデータには現在の野営地の様子だけではなく、その完成予想図も入っていた。

 その完成予想図に描かれている野営地は、ダンジョン前の広場を全て占める程だったのだ。それは、通常の狩りで使われる野営地の3倍以上の大きさだった。


「本当はもうちょっとコンパクトにしたい所なんやけど後から、第二と第三部隊が来るから場所は大きめに取ってます」

「なるほどな……大所帯故の悩みだな。では、少し資料に眼を通すのに時間を貰おうか」


 シグナルはそう言って改めてカネミツから送られて来た資料に注力した。


 ***


 シグナルは与えられたデータを一通りに目を通した後に依頼を遂行する為に大きな問題点が有る事を認識し、それを調べる為にギルドメンバーを数人テントの外に向かわせた。

 そしてそれが大きな問題であると確認するとカネミツにも問題点を伝える為に会話を開始した。


「防衛に重点を置くのは、野営地中央の此の指揮官用テント、そして隣に設営を予定している狩りの収穫物を貯蔵しておくテントか……それだけならば問題無い。しかし、テキストの方に記載されている野営地全域の警戒網形成、これは問題だな。これは必ず行なわなければいけないか?」

「そうやね。可能ならやってて欲しいんやけどそれは難しいでっか?」

「不可能ではない。だが安全性が著しく落ちる。あまり戦力の分散はしたくない」

「戦力の分散?…………ん?どういう事でっか?レンジャーさん達に周囲に散ってもらって中央は残りの皆さんに固めて貰うんじゃ駄目なんか?」


 戦闘において劣るカネミツであるが定石されていると戦法等は指揮官任せられているだけ有って知識としては持っていた。そして今カネミツが言っている事はAOで定石とされている周囲警戒方法である。

 AOにおいて大きな陣地防衛の行う時には、東西南北に一人ずつ『周囲警戒』スキルを持つレンジャー系職業のプレイヤーを配置し奇襲を警戒する。そして、敵影を発見した場合はPT内チャットやギルドチャットで敵の接近を仲間に知らせる。

 それはこの野営地防衛おいても適用される鉄板の方法であった。

 しかしながらシグナルはそれを否定する。


「駄目だな、アンタだってこのエリアの特性を忘れた訳ではないだろう?」

「あぁ……メッセージ機能の障害……いや、仕様やったな」

「そうだ。アンタから貰ったこのテキストに記載されているコレ、エリア全域に発生しているメッセージ系の機能が使えない仕様。これが問題だ。俺も先ほど試してみたが、近距離ならばギルドチャット等は使える。しかし、送信元と受信先が10mも離れたらもう通信エラーだ。その場合警戒スキルが得意なレンジャー系人員一人で野営地外周に配置する訳にもいかん。護衛を付ける必要が有るんだ」


 今シグナルが問題点として言及したギルドチャントやPTチャット始めとするメッセージ系機能全般が使えなくなる状態は、エリア全域に適用されている仕様である。

 この仕様のせいでカネミツが述べた警戒の定石とされる方法は定石ではなくなっていたのだ。シグナルが問題点として感じていたのはこの事であった。


「敵が『感知察知』系のスキルを持っている場合、発見と同時に警戒に当たっていたレンジャーが危険を知らせる前に狙撃か長距離射程魔法で撃破される可能性がある。通常のエリアならば死亡状態が確定してログアウトさせられるまえにギルドチャットで危険を知らせることが出来るがこの場所でそれは不可能だ」

「あーなるほど、だからレンジャーさんを守る人員が余計に必要になって中央が薄くなるなんやな?」

「そうだ。特にアンタが警戒している『黒狼』は暗殺も得意としている。護衛もそれなりのレベルの者が行なわなければならない。最低でも……レンジャー、レンジャーが死んだ場合の足止め要員、足止めしている間に危険を知らせる事が可能な足の速い伝令、この3名ずつの分隊にする必要が有る」

「そうなると……中央のこのテントや、隣のテントの守りは相当に薄くなりますなぁ……」

「だな。どうする?中央の守りを固めて外周の被害が出ても中央を死守する方法と、全域を警戒して敵の初動を察知する代わりに中央が脆くなる方法、どっちを選択するかは依頼人のアンタ次第だ」

「そんなん言われたらワイが、どっちを選択するか決まってますやん……前者や」

「では決まりだな。早速俺達は配置に付くとしよう」

「お願いします。ほんに今回はシグナルはん達だけが頼りや。期待してまっせ」

「あぁ、任せておけ――――んっ?」


 シグナル達『信号機』の面々が防衛配置に付こうと椅子から立ち上がった時、テントに焦りを伴った大声と共にアレックスが慌てて倒れ込むようにして入って来た。


「カネミツさん!不味いです!!」

「アレックスはん今来客対応中や!いきなり挨拶も無しに入ってくるのはお客さんに失礼やろ!!」


 それを見たカネミツはなんとか営業スマイルを維持しつつ、怒りが混じった声でアレックスを叱り付ける。


「す、すいません。でも、大変なんです」

「カネミツさんあれだけ慌ててるんだ。火急の用件なのだろう。怒る前に先に用件を聞いてはどうだ?」

「む……シグナルはんがそう言うなら……で、一体なんや!」

「先発隊が1階で全滅しました!!」

「はぁー……なんや、そんな事か……」


 アレックスのその報告にカネミツは特に驚きもしなかった。むしろ、アレックスの慌てていた内容の下らなさに溜め息すら自然と出た。『先発隊が敗退する』そんな事はカネミツには分り切っていた事だった。


 先発隊はレベル30以下の白鷹所属の初心者達、レベル30を越えるお手伝いと称されるギルド外部からのギルド無所属参加者達、その2種類のプレイヤーで構成された混成部隊だったのだが、カネミツはその部隊にまったく期待してなかった。

 それは彼等が人数こそ多いが、質はとても低い者達だったからなのだ。


 初心達は、基本的に運営に支給される最低限の装備しか持っていない、そしてデスペナルティが無いのでダメージを受けた時はポーションを使う事を惜しんで無駄に死んでいく、戦闘能力もそのレベル故に期待できず、ある程度の強さを持つモンスターには通じない者ばかりなのだ。そんな者達に期待する事の方が間違いだとカネミツは思っていた。お手伝い達もそうだ。初心者に毛が生えた程度の装備に、無所属の寄せ集め故に統率の取れていない動き、そんな者達に期待できるほどカネミツ楽観主義者ではない。

 中には本当に初心者か疑いたくなる様な動きをする者や、明らかに玄人の動きをするサブアバターで参加していると予想できる者も居るがそれ等は極々少数であるし、この場合は他所のギルドの密偵の可能性も有るのだ余計に信用を置けなかった。


 しかしながら装備と信用、両方で評価が最低の者達でもこなせる役目がある。

 それは本命のモンスター狩り専門の傭兵部隊を出す前に斥候として突撃させる事――――つまり捨て駒だ。


 現在白鷹が攻略しようとしているダンジョンには発見されてから日が浅いのに色々と物騒な噂が出ていた。

 カネミツ自信それらを全て信じている訳ではなかったが、用心する事に越したことは無いと思い、本命の傭兵隊を送り込む前にダンジョンの様子を見る斥候を送りこんで様子を見るべきだろうと、先発隊を送り込んだ。そして先発隊は全滅した。

 それはある意味カネミツの予想通りの結果だったのである。


「で、何人戻って来たんや?時間も無いし直ぐに再編して突入させなアカンなぁ。編成は手伝いと初心者の生き残りでPT組ませてや。細かい所はアレックス君に任せる。あんな連中でも居れば盾と砲台くらいにはなるやろ。ワイは待機してる傭兵さん達に動いて貰うよう連絡するさかい――――」


 大雑把な指示を出しながら『やれやれメッセージ機能が使えんと面倒やなぁ。一々傭兵さん達に伝えに行かなアカン。本当最近面倒な事ばっかりや』と心の中で呟きカネミツは重い腰を椅子から上げるが、それを遮る様にアレックスから声が挙がる。


「いや、だから先発隊は全滅なんですって!」

「は?全滅ったって今回は手伝いも多かったやん?35以上のが4,5人位は戻ってきてるちゃうん!?」

「いやいや、本当に全滅なんですってば!比喩的表現で全滅じゃなくて文字通り全滅なんです!!誰も戻って来ないんです!」

「はぁ!?有りえへんやろ!手伝い連中はデスペナが無い初心者と違うんやで?最低でも一人か二人くらい逃げ帰って来てるやろ!」


全滅と聞きつつもカネミツは先発隊が文字通り全滅したとは思っていなかった。

初心者ならまだしも、レベル30以上のプレイヤーはデスペナルティが有るのだ。ならば死ぬ前に逃げ帰って来ていると思っていたのだ。

そうしてダンジョン内の戦力が減り、最終的にダンジョン内の戦力が0になったという意味で全滅したとカネミツは勝手にアレックスの言葉を解釈していた。

しかしそれが、逃げ帰ってくる来ている所か一人も生きて戻って来ていないとアレックスは言う。

それは、カネミツに取って完璧に理解の外にある事態だった。


「そんなの確認済みですよ!僕あんまりに誰も報告に戻って来ないから一度ログアウトして白鷹(うち)の掲示板でも確認してきました。間違いありません先発隊は全滅です」


 ログアウトして調べた。その言葉を聞いて、カネミツはやっとアレックスが言っていた『全滅』意味を理解し信じた。

 有りえない事を聞いた様に呆けた表情をした後に今度は本気で焦り出し、何かに怯え出す。


「ヤバイ不味い。不味い不味い不味い。あの噂は本当だったんや!……もう誰も、生きて帰れんかもしれん……」


 それはこのカネミツとシグナルの打ち合わせで、始めてカネミツの営業スマイルという鉄の仮面が完全に外れた瞬間であり、この地に対する怯えという本心が表れた瞬間だった。


今回も魔族側の話ではなくAOプレイヤー側のお話になりましたが、次回はプレイヤー半分魔族側半分のお話になると思います。

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