第27話 リアルスキル
カネミツはアレックスにダンジョン入り口で発動した罠の処理を任せ、急ぎ早にダンジョン前に設営したテントに向かう。
そして、テントに入るやいなや開口一番に中で待つ者達に謝った。
「いやー大変お待たせしてすんまへんな」
カネミツの視線の先、そこにはモヒカン頭のギルド『信号機』の面々が姿勢良く椅子に座っていた。
人数は15人ほど、その全てがモヒカンと同色の装備に身を包んでいる。
そのモヒカン達はカネミツの存在を認識すると、それぞれ椅子から立ち上がり軽く礼をした。
モヒカン集団が礼儀正しくしているのを見て強烈な違和感を感じるカネミツであったが、仲間内から鉄面とも言われている営業スマイル維持しつつ、関西弁のイントネーションで「どうぞそのままお掛けになっててください」と声を掛ける。
そしてカネミツの声に従ってモヒカン達が腰掛けるのを確認した後、カネミツはモヒカン達の対面に用意された椅子に腰掛け、まるで集団面接の面接官にでもなった様だなと心の中で笑い。再び心にも無い謝罪を続けた。
「ほんに申し訳ありませんなぁこっちから準備為に遅れて来て貰う様に言ったにも関わらず、こちらの準備が遅れるとは――――」
カネミツの口からはまるで決壊したダムのように上辺だけの謝罪が流れ出した。
これはカネミツの常套手段で「とりあえず落ち度があったときは適当に謝り倒す!」という物だった。
これはここまで謝り倒すと大抵の人物は恐縮するか、煩わしさを感じるという日本人心理を捕らえたカネミツの得意な謝罪方法である。
そしてカネミツの狙い通りに煩わしさを感じたのか、一人のモヒカンがカネミツの声を制するようにして声を挙げた。
その素振りを見てカネミツは狙い通りになった、と心の中でガッツポーズを作り上げるのだが――――
「別に構わん。俺達は契約した時間内だけお前を守るだけだ。待機しているだけで良いならば楽で良い」
カネミツの言葉に傭兵ギルド『信号機』のギルドマスターである三色モヒカンの男は凶悪な人相で、外でカネミツと会った時とはまったく違う低い声で返答した。
そして、その返された言葉にカネミツの営業スマイルが一瞬崩れピクリと動くが、その変化を悟られてはならないと直ぐに鉄のスマイルを本来の形に戻す。
「なんだ?やはり『ドケチ』としては、ただ待機している連中に金を払うというのは気に入らないか?」
だが信号機のギルドマスターはその一瞬を見逃さなかったらしく半笑いでカネミツに問いかける。
「あぁ、いや、ちゃいますちゃいます。シグナルはんの声が普段の声と違ったんでちょっと驚いただけです」
本音を言えばカネミツにとって、この三色モヒカン――――シグナルが問いかけた言葉は図星であった。
しかしながら雇い主として、此の場の最高責任者としてその様な器量が小さい所を見せたくなかったカネミツは咄嗟に直前に感じた違和感についてだったと言い逃れた。
「声?あぁ、そうかアンタには―――――」
低い声でシグナルがそう言うと――――
「こっちの声でしか対応した事はなかったか?」
喋りながらシグナルの声がまったく違う甲高い声質に変わった。
その声の変化はただ声質を変えているとかではなく、もはやまったく別人と言って良い物になっていたのである。
突然のその声の変化にカネミツは困惑し、再び営業スマイルが崩れそうになるが商人を名乗る者としての矜持で必死にスマイルを維持しようと努める。
AOは基本的に音声会話でコミュニケーションを取るゲームであるが、その会話で使われる声はアバターの骨格から算出された、その骨格に適した声質で発せられる。
それ故に、現在シグナルが行なっている事はカネミツの知る限りAO内では不可能な事であったのだ。
目の前で話していたアバターの声が突如として声質がまったく違う別人の声になる。
その様な現象をカネミツは聞いた事も、聴いた事も無かった。
そして、それは情報を最も尊ぶ商人としては詳細を聞かずにはいられない事象であった。
「それは、ボイスチェンジャー……?いや、そんな機能有るってのは聞いた事ありまへんし……アバターの固有スキルか何かでっか?」
カネミツの言葉にシグナルはニヤリと笑いを浮かべ、カネミツの予想と反した回答を口にした。
「まぁスキル……技能ってのは当たりだが、これはゲーム内の技能じゃない。俺の現実での特技ってやつだ」
甲高い声のまま、シグナルはからかう様に声の変化の種明かしをカネミツに行なった。
その種明かしにからかいが混じっているのを見てカネミツはそれが真実かどうか疑問を覚えるが、そこである人物の顔が浮かぶ。
そしてそれと同時に作り物の体に鳥肌が立つような錯覚に襲われた。
カネミツの脳裏に浮かんだのは『大量殺戮コンビ』と呼ばれている二人、そしてその二人が起こす不可思議な現象についても思い出し、シグナルが今語った事の名称を口にする。
「もしかしてリアルスキル……でっか?」
「おぉ、流石は白鷹のカネミツ。やはりコレの事を知っていたか」
「ワイの知り合いにも二人ほど使えるのが居ますんで――――」
ゲーム内挙動を逸脱したスキル、通称リアルスキル――――――それは何の事は無い、アバターを操作するプレイヤーが現実で有している特技をゲーム内でも使えるという事だけだった。
しかしながらそれを行使できる者は少ない。正確には、ほとんど存在しない。
数多く居るAOプレイヤーの1%にも満たない人数しかゲーム内挙動を無視したリアルスキルを扱える者は居ないのである。
リアルスキルはスキルを設定するシステムウィンドウには、表示されないスキルなのだ。
それ故に使用方法も不明で、使用するのに隠し条件の様なものが有るのか、はたまたプレイヤー側に適性が必要なのか、実は唯のスキルアレンジなのではないか?とリアルスキルの実在を信じる者は様々な考察をしてきたが、まったくといって使用方法が解明されていないスキルであった。
「で、そのスキルどうやって使えるようになったんでっか?」
カネミツは本来の目的である『信号機』との打ち合わせを頭の隅に追いやり、細い眼を更に細めて目の前に居るリアルスキル保有者にスキルの詳細を問うが……
「はっ!タダで貴重な情報を得られるとでも思ってるのか?」
「もちろん、それ相応の代価は払います。とゆうかそれが目的で今、ワイにそれを見せたんちゃいますか?」
「…………誤解されない様に言っておくがな、今のはギルメンと雑談する為に声を変えていただけだ。この声は甲高すぎて会話には向かない」
確かにシグナルの発する声は甲高すぎて耳に悪いとカネミツは常々思っていたので、シグナルの言をカネミツは納得する。
だがもし、それがカネミツに売り込む為に声の変化を行なっていたとしてもカネミツは気にしなかったであろう。
むしろ諸手を上げて喜んでいた可能性すらあった。彼にとって大事なことは大きな商材と鳴り得るリアルスキルの詳細な情報だけなのだ。
「そうでっか~。まぁそんな事はどうでもええ…………で、教えてくれるんでっか?」
目の前にぶら下げられたリアルスキルというエサにカネミツは食いつくが、対するシグナルは少しだけ驚いた顔をした後疑いの目で質問を質問で返した
「その前にカネミツさんアンタ俺の話を信じるのか?チートとか疑わないのか?」
リアルスキルの中には規格外のバランス崩壊気味の効果をもたらす物がある。
それを見た情報に疎いプレイヤー等はリアルスキル所有者をチーター扱いする事があるのだ。
シグナルが驚き訝しむのはそういう理由であった。
「確かに一般のプレイヤーなら信じんかもしれへんな、やけど………使えるのが知り合いに二人ほど居るって言ったやろ?それにその二人のリアルスキル自体……シグナルはん達も最後のほうは見ているはずや」
「俺も見ている?何の話だ?」
「ほら、ワイがシグナルはん達を初めて雇った時の事や……」
その言葉を発した瞬間一部のモヒカン頭たちの顔が苦い物で噛んだかのように醜く歪む。
それと同時にカネミツの脳裏にもジリっと焼けるような記憶が蘇る。
その時、新築されたばかりのギルドホールの白い石材で造られた壁は赤く発熱していた。
そして壁に彫られていた美しい女神の彫刻は元の形状を思い出せないほどに醜く溶岩状になり溶け出し始めていた。
それを背景に青い髪の魔女は狂気の哄笑を上げならかつての仲間達に魔法を乱打し、倒れる仲間達を見て更に凶悪な哄笑を上げる。
更にその女を守るように立つ銀髪の女は、魔女の凶行を止めようとする者達を鬼気を纏った斬激で紙でも切るかの様に切り裂き、恐怖を感じる美しい微笑を浮かべていた。
そんな光景が次々とカネミツの脳内で再生されていく。
それは白鷹とキサラ達が袂を分った時に起こったギルド内抗争の様な物だったのだが、その時の損害は当時隆盛を誇っていた『白鷹の騎士団』に大きな傷を残した。
特に痛手だったのは白鷹の主力戦闘メンバーのほとんどが、この二人にPKされた事であった。
主力メンバーのほとんどは、レベルが高く一度死ぬと数十日のログイン不可能時間が発生するレベルに達していたのだ。
当時彼等の狩りでの収穫がほとんどの収入源となっていった白鷹に大きな財政危機をもたらしたのだった。
そして、それを再建したからこそカネミツは今の地位に居るのだが……
「あぁ、アレか……あれもリアルスキルだったのか?俺はてっきり吸血の固有スキルかと思ってたんだが……」
かつて、シグナル達『信号機』もその抗争の終盤に傭兵として白鷹側に付いて参戦していた。
白鷹の騎士団ギルドホールで丸一日行なわれたその戦いの結果はシグナルを含めたモヒカンたちの表情どおりに、酷い物だったのである。
「うちのギルマスの話だとリアルと固有の並列使用だとか言ってましたなぁ~」
「ほう、そんな事が出来るのか俺も今度やって――――いや、駄目だな俺のコレはどうみても固有とは噛み合わねぇな」
今度は甲高い声質を急に低い声質に変じさせてシグナルは自嘲気味な表情を作る。
「で、どうや?一つワイにリアルスキルの使い方を教えて貰えくれまへんかね?」
白鷹の抗争でリアルスキルについて知ったカネミツは一度その詳細を運営に問い合わせた事が有ったのだが、運営からの回答はテンプレートの挨拶文の後に『ゲーム内の隠し要素になっておりますので明確な回答は控えさせて頂いております』と予想通りの回答が返ってきたのみだった。
だが、これでリアルスキルはチートではなくゲーム内仕様だと確信したカネミツは本格的にリアルスキルについて、調べる為に行動を起こす。
それは彼が理念としている金儲けの為でもあり、ギルドの仮想敵と想定している『大量殺戮コンビ』に抗する為であった。
行動を起こしたカネミツは、リアルスキル保有者のプレイヤーから情報を得ようとしていた。だが、その計画はほぼ頓挫する事になる。
様々な情報を彼の派閥に属する者達を使って探らせ、状況次第ではカネミツ自信も赴いて情報を得ようと東西奔走したのだが、その苦労が実を結ぶ事は無かったのだ。
リアルスキルの使用可能者は少ない。また、リアルスキルは一部でチート扱いされているのでそれを保有していると公言する者が少なかったのも大きい。
その様な状況で多大な労力を費やし、幸運に恵まれ、リアルスキルの使用者を見つけ出し、その話を聞き出せたとしても――――
「悪いが教えられん。俺も何故使えるか分らんのだ」
――――決まってこの様な回答が返ってくるのだ。
「やっぱそうでっか……まぁそれなら仕方ありまへんな」
「ん?アンタにしては随分諦めが早いな。儲け話が絡んだアンタはもっとこうなんか蛇みたいな執念深さが有る筈だろ」
「まぁ、皆さん同じ答えを返すさかい。その先の事を聞いても同じなのは分ってるんです」
様々なツテと資金を投入してカネミツが探し出したリアルスキル保有者達は決まって何故そのスキルを使えるか分らないと答える。
スキルの使用方法を隠しているのではないか?と思ったカネミツは、何人かのスキル保有者に「使える理由も分らないスキルを何故ゲーム内で使おうと思ったのか?」と質問した所、その回答は「これだけ現実に似せた自由度の高いゲームだから出来るかと思ってやってみたら出来た」「現実でのクセがゲーム内でも出てしまい、それで使える事に気づいた」という何の身にもならない回答しか返ってこなかったのである。
「まったく難儀やなぁ。使い方さえ分れば良い儲け話になるんやけどなぁ……使用方法の糸口すら見つけられへん……本当に難儀や」
現実の特技をゲーム内で行なう。それだけならば大した事が無く聞こえる。カネミツがここまで拘る理由は無いように思える。だが、それにはそれなりの理由が存在していた。
現実の特技を現実のようにAO内で行なう。それは現実で行なわれるよりも強力な特技としてAO内で効果が現れるのだ。
その理由はAOのアバターの身体能力がレベルが上がれば上がるほど現実の人間の肉体を凌駕して行く事と、アバターが現実には存在しない魔力という物を有しているのに理由が有った。
例えば、今シグナルが行なった『声の変性』等は現実では声色を別人の域にまで変える事は出来ない。精々、低音と高音の歌を旨く歌い分けれる程度の能力なのだ。
だが、それがAO内に入れば此の通りまったくの別人の声を出せるようになるのだ。
現実で戦闘系の特技を有していた者が、AO内でその特技を行使した場合はどの様な結果になるのかは、『大量殺戮コンビ』が引き起こした白鷹の内部抗争の惨状が如実に表していた。
「こういう隠し要素が山ほどあるからAOってのは面白いんだと俺は思うがな」
「まぁ、そうかもしれまへんね」
数々のMMOを渡り歩いてきたカネミツは様々な思いを込めて感慨深く頷く。
「所でシグナルはんもう一つ聞きたいことが、あるんやけど質問してもいいでっか?」
「ん?何だ?」
「シグナルはんの声って本当はどっちが正しいんでっか?」
「ん?こっちの低い方だ」
「じゃあ、何で普段から高い方の声で喋ってはるん?聞こえ難いし耳が痛くなるし良い事無いやんか」
「そりゃあ決まってるだろ。アンタの営業スマイルと同じだよ」
「は?何処が?」
自分の営業スマイルと無駄に甲高い声が同じ物という訳の分らない言葉に自分の理念を傷つけられた様な気がしてカネミツはエセ関西弁のRPすら忘れて不満が篭った疑問の声を挙げる。
「む?分らんか?じゃあちょっとヤッてみるか……お前等ヒャッハァだ!」
「「「了解だぜお頭ぁ」」」」
シグナルは突如椅子から立ち上がり背後のモヒカン達に謎の号令を掛けると、それまで綺麗な姿勢で座っていたモヒカン達が椅子からスクッと立ち上がった。
そして、それぞれが顔に凶悪な人相を作り、真っ直ぐだった姿勢を猫背気味にして武器取り出し構えてカネミツに視線を集中させる。
「ヒャッハー死にたくなきゃ身包み全て差し出しなぁああああああ!」
と、高音の声で叫ぶシグナル。
そして、それに追従するように肩バッドが付いたレザーアーマのモヒカンエルフはナイフを取り出し、その刀身を長い舌でベロベロと舐めだした。
白い法衣を纏う老人のモヒカンは杖を片手で構え、空いた手には紫電を発生させている。それは高位雷撃の魔法で、もしカネミツに直撃すれば一撃でHPの全てを奪い取れる威力を秘めていた。
更にその横の紫色の重鎧身を身に着けて、兜からモヒカンだけ出しているドワーフは先端に分銅のような物が取り付けられている鎖をブンブン振り回しながらシグナルに追従するように「ヒャッハアア」と叫んでいた。
カネミツは『信号機』の面々のいきなりの豹変に驚き固まっている。
そして固まるカネミツに満足したのかシグナルはウンウンと満足気に頷き、再び声の音程を通常のものに戻して口を開いた。
「今のが基本的なヴァージョンのヒャッハァだ。他には山賊ヴァージョン海賊ヴァージョン、未開の部族ヴァージョンなんてのも有る」
「は、はぁ……」
訳が分らない物を見る眼でシグナルを見つめるカネミツに、シグナルは「ちなみに特殊ヴァージョンは契約時に別途料金が必要だ。専用装備を用意しなきゃいけないからな」とカネミツにとっては必要の無い注釈を付ける。
「で、このヒャッハァを地の声でやるとだな――――ヒャッハー死にたくなきゃ身包み全て差し出しなぁ!となるんだ。分るか?この違い」
「い、いいえさっぱり」
「ふむ?分らんか?どうも前者のほうが自然と気合が入るんだ」
「…………えーと……ワイにはよく違いが分りまへんが……それがどうしてワイのスマイルと関連があるんで?」
「原作を知っている人間にはウケがいいんだ。敵にも味方にも」
「げ、原作でっか?」
「なんだ知らんのか?まぁ有名とはいえ、1世紀前のアニメだから知らん奴は知らんか。あ、ちなみに高い声でヒャッハーするのも原作再現だ」
「は、はぁ……そうなんでっか……」
「うむ」
カネミツの言葉にシグナルは満足気に頷き、椅子にドカリと座りなおす。
それに続き、背後のモヒカン達も行儀良く音を立てないように椅子に座りなおした。
ギルド『信号機』、ギルドマスターの頭髪のカラーリングからその様に名づけられたギルドの評判は良い。
高い賃金を要求するがその仕事ぶりは何処のギルドも賞賛している。カネミツ自身も契約料金さえ高くなければ常時雇用したい程だった。
MVP狩りやレイドの助太刀を依頼すれば期待以上の戦果あげる。
対人の依頼であれば雇い主の意向を最大限に汲み取りどの様な仕事にも文句を付けない。
もちろん狩りのアフターケアである、野営地の撤収作業や負傷者の回復等の雑務も率先して行なってくれる。
何を任せても卒なくこなしてくれる優良な傭兵ギルドであった。
また、ギルドマスターのシグナルも出来た人間でギルドメンバーからの信頼も厚く、シグナル自身もマスターという地位に驕ることなくギルドを運営する男であった。
だがしかし、その様な優良ギルドであるのに『信号機』にはメンバーが少なかった。
信号機の所属メンバーは15名――――それはそれなりに有名であるギルドにしては少ない方であった。
では、何故このギルドのメンバー数が少ないのか?それはこのギルドの加入条件と規約に有った。
一つ、髪型は派手な色のモヒカンにする事(毒々しい色ほどポイントが高い)
二つ、装備は鋲付きレザーアーマー、もしくは肩パッド付きの物を使用する。また武器もモヒカンらしい物を使用する(職と装備の適正が合わない無い場合は除く)
三つ、装備もモヒカンと同色に染める事(染色不可能な装備は除く。その場合はモヒカンの色を装備に合わせる)
四つ、マスターと同じRPを行なう。
という規約なのだ。
三つ目迄の規約までは面白半分でやっても良いという者も今まで何人か居たのであるが、4つ目のRPに耐えられる者は少ない。
今まで加入してきた者達の中には半分恥かしがりながらRPを行なう者も居たが、それらの者達は全てある程度の期間を経て脱退させられていった。シグナルが求めるRPの水準に達せれないとして――――そうしてシグナルが厳選の結果残ったのがカネミツの前に立つ信号機の面々だ。
彼等こそが、シグナルが認めた魂の底からモヒカンを演じれる者達なのだ。
そうして誇らしく演じるモヒカン達を見たカネミツは同じくRPを嗜む者として、畏敬の念をほんの少しだけ抱く。
元々カネミツのRPは他者に『胡散臭い』という先入観を抱かせる為に行なっているものであったが、『信号機』の面々はそれをAOを楽しむ為に行なっているのだ。
その行為は幾多のVRMMOを渡り歩いて擦り切れてしまったカネミツの遊び心に僅かな感動を与えていた。
しかしながらそれよりもカネミツは、そこである事に気づいた。
それに気づいたカネミツは遊び心などという自分のプレイ思想とは相容れない物を捨ててシグナルに問いかける。
「最後にもう一つだけ聞いて良いでっか?」
「なんだ?」
「その声を変える特技は現実で得た特技なんでっしゃろ?」
「うむ、そうだ」
「こう言ったら失礼かもしれまへんけど、なんでそれが特技なんでっか?」
「仕事柄得た特技だな」
シグナルはカネミツの問い掛けに何の事もなくそれを仕事で得た技能だと言う。
シグナルの答えにカネミツは更なる疑問が生まれて首を捻る。
「は、はぁ…………差し支えなければ何のお仕事してらっしゃるか教えて貰っても良いでっか?」
躊躇いがちにカネミツはシグナルに更なる質問をぶつけた。
カネミツが躊躇いがちなのは理由がある。
オンラインゲームで他人の個人情報を探ろうとするのはマナー違反だ。
職業などもそれに含まれる。
よほど仲の良い関係でもなければ相手には自分の素性は明かさないというオンラインゲームが生まれた当時より存在しているマナーであった。
「ん……売れない役者をやっている……それと――――副業で声優を少し……」
だが、シグナルはカネミツに答えを返す。
その理由はカネミツがシグナルと仲が良かった、からではない。
ただ単にお得意様であるカネミツの心象を悪くしたくなかったという理由と、適当な言い訳になりそうな他の職業を思いつかなかったからなのだが……カネミツはそのシグナルの返答を聞いて非常に上機嫌になった。
「あーなるほど。それであのRPでっか。いやー本職さんは違いますな。ワイ見惚れてしまいましたわ~」
「その賞賛素直に受け取っておこう」
珍しい事もあるなとシグナルはカネミツの賞賛に強面の顔に笑顔を作り眼を細める。
カネミツという商人はあまり無意味に人を褒める事がない。
おべっかとして同じギルドのメンバーを無駄に褒める事はあってもそれをシグナル達外部の者に行うことはなかった。
故にこれはおべっか等ではなく自分達の演技への本気の賞賛なのだろうとシグナルはそう思った。
そして、彼はそう確信した故に妙に上機嫌になったカネミツの目が少しだけ喜悦に歪んでいるのに気づけなかった。
シグナルは知らなかった。
カネミツが他ギルドの者を褒め賞賛与える時、それは必ずカネミツに利がある時だけなのである。
では、カネミツの利とはなにか?それはシグナルの現実での職業をカネミツが知った事であった。
これこそが、カネミツが求めていたリアルスキルに繋がる答えだったのである。
(声優……声のプロ……つまり声を極めた者……つまりリアルスキルには一芸を極めたレベルじゃなければ到達できない……これだこれこそが!!)
現実で一芸を極めた者こそがリアルスキルを扱える。
そのオカルト地味た考えをカネミツは何故か『これが真実』だと確信に近い物を得ていた。
その辿りついたカネミツの考えが正しいのかどうかの証明と、カネミツの確信の理由が明確になるのはこれからしばらく後の事になる。




