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迷宮の新米守護者  作者: 板 竹輪
第1章 迷宮の新米守護者
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第15話 馬乗り兎パンチ

 迷宮生活2日目――――――――1層入り口


「此処が、ラルフの言ってた経験値3倍のダンジョンか?普通の洞窟と変わり無い様にみえるけどな」


 青い重鎧をつけた男がそんな事を言っている。

 経験値3倍か……AO(アバターオンライン)現役の時なら姉に頼み込んでも此処に僕も来ただろうな……


「うん。あいつが、俺に売りつけてきた地図だと此処だね」


 ラルフのヤツ、ついにこの迷宮の地図まで売り出したのか、厄介だな。


「俄かに信じられないね。3倍なんて、そんなバランスがぶっ壊れたダンジョンを、あの現実再現主義の統括AI(デミ)が作るのかねぇ」

「多分、それなりのリスクが有るんじゃないかしら?ラルフもある程度戦力が整ってないPT(パーティー)以外では行くなって言ってたし」

「まぁ、軽く入り口周辺のモンスターと戦ってみれば、経験値が3倍かどうか直ぐに分る事さ、準備が終り次第周辺を廻ってみようか」


 入り口から入って来た冒険者達の人数は4人。

 アイペロスの嗅覚感知通りの人数だ。

 彼等は現在、作戦会議を行ないながら各々に武器やアイテムを取り出し、此の遺跡を進む為の準備をしている。

 冒険者達の話を盗み聞きして分ったが、冒険者達はどうやら結構なバランス重視PTの様だ。


 防御役は、見た目通り、最初に口を開いた重鎧の冒険者。頭部をスッポリと覆う角兜をつけているので顔は確認できないが、声と口調から察して男だと思う。

 2番目と最後に口を開いた、白地に金の鶏の刺繍が入ったローブを着ている黒髪男は治療魔術を扱う様だ。

 そして、3番目に経験地3倍に懐疑的だった黒いローブと眼鏡付けた白い髪の男は魔術師だろう。

 最後に肌の露出が激しいピンクの軽鎧を装備している緑髪のエルフ女は、片手に斧を持っているので物理攻撃職に間違いないと思われる。


 つまり、盾役(タンカー)1名、治療師(ヒーラ)1名 魔力と物理の攻撃役(アタッカー)2名の少人数AOPTの鉄板と言える構成のPTという訳だ。


「皆、準備は良いかい?準備OKなら出発だ」


 どうやら、治療役がPTリーダーらしく、PT各員に声を掛けている。


「あぁ、問題ない。じゃあ予定通り俺が先頭で行くぞ」


 青い重鎧が此の遺跡への第一歩を踏み出した。


『対象エリアへの侵入者を検知。矢罠10基ランダム射撃開始』


 ミッチーアナウンスの後、前回の冒険者達の大半を破壊()に至らしめた罠が起動する。


 今回の入り口の矢罠は対象地点に冒険者が踏み込むと自動で入り口にランダムに射撃する設定だ。


「何?上から攻撃だと!?ヘイトコントロール!」


 ふむ、やはりホークと同じ様な装備だったから、ターゲット誘導スキルを使える可能性も考慮していたが、やはり使ってくるのか……だが!


「ってなんだこれターゲットを引き寄せられないぞ!どうなっている!」


 前回の戦いで学んだ僕は今回矢罠の射撃対象を指定せず、入り口に向かって適当に打つように設定していた。

 これでは致命傷を与えられない可能性の方が高いが、これで良いのだ。元々唯の足止め用に今回はこの罠を使った。


「落ち着つけ鉄アレイ!あれはランダム攻撃だ!俺が詠唱をする間少し盾になってくれ、俺が物理障壁を張る!クルースは天上を魔法で攻撃だ!」


 あの重鎧は鉄アレイって、名前なのか……?前回の鴨葱もそうだが適当な名前付けすぎだろ。AOプレイヤー。


「了解!風よ全てを……うわっ!左右から敵が大量に!これはまさか待ち伏せか!?」


 クルースと呼ばれた白髪魔術師が詠唱を開始した瞬間に何かが彼の周囲で爆発した。

 僕と鍾乳石の裏に隠れていた獣人3名が僕の攻撃を見て命令どおりに遠距離攻撃を始めた様だ。


 アイペロスと共に反対側に隠れた獣人達は弓を構えて冒険者達に矢継ぎ早に射撃をしている。だが、その中にアイペロスの姿は見えない、魔術師らしいので鍾乳石の裏で呪文でも詠唱しているのだろうか?

 そして、僕の周囲に居る獣人達は何か石の様な物を投げているが、これは唯の石ではない様だ。

 獣人達が投げているのはどうやら、小さな爆発を起こす拳サイズの赤い石の様な物で、手榴弾の様な使い方を出来る物らしい。


 もっとも、投げた石と放たれ矢は鉄アレイと呼ばれていた重鎧に吸われて行き、矢は鎧に弾かれ地に落ち、小型爆弾の方は鉄アレイに当たって周囲に極々小規模な爆発を起こして周囲に石礫ををばら撒いている。

 矢は破壊されずに地面に落ちているのでホークの鎧の様に武器破壊(ウェポンブレイク)の呪いは掛かっていない様だが、鉄アレイ自身はビクともしていない。

 どうやら効果は今一つの様でダメージも受けている気配が無い、もしかするとホークよりコイツの方が防御力が高いのかもしれない。

 しかしながら、全体的に見ればまったく効果が無い訳では無く、砕けた石の破片が大量にクルースに直撃し、詠唱を妨害できた様だ。


「――全ての物を退けよ!プロテクション!」


 リーダーの治療師が呪文を完成させて、緑色のバリアみたいなものが冒険者達を覆う。

 この緑のバリアに弾かれ、矢も石型手榴弾も弾かれ攻撃を完全に封じられた。


「プロテクション詠唱完了だ!先にボムを投げてくる方から倒すぞ!」


 チッこちらから来るつもりか、出来れば防御用の『創造』は使いたくないのだが、こちら側から来るのならば間違いなく使わされてしまうなこの状況は……しかも、あの防御魔術が相手では獣人達の攻撃もまったくダメージ与えられないだろう。

 少し面倒な事になるかもしれないなこれは。


 とりあえず、物理攻撃が効かないのならば属性攻撃用の罠を配置しようと思った時、反対側からアイペロスの叫び声の様な詠唱が聞こえた。

 どうやら詠唱が完了した様だ。


「――ならば、雷撃よ。我が敵を穿て!『雷撃の槍(ライトニングスピアー)!」


 アイペロスの脇から長さ1メートル程の電気で作られた槍が治療師に向かって高速で、飛んでいく。が、やはりそれも鉄アレイにターゲット変更され不自然な軌道を描いて鉄アレイに向かっていく。


「駄目だ。アイペロス!、攻撃は全部あいつに吸い寄せられるから、魔術を打つなら、狙いを付けずに――」

「む、魔法を使うのもいるのか?あっまずい!アレイあれはお前にはヤバイ!避けろ!」


 僕が反対側に居るアイペロスに叫ぶのと、鉄アレイに飛来する雷槍を見て、クルースが叫ぶのは同時だった。


「は?避けろって?ヘイトコントロール中に避けれるわけねぇだ、あがぁーーー?で、電気ぃ!?」


 そして鉄アレイに雷槍は直撃した。

 周囲に電気がスパークして弾ける音と白い煙が吹き上がり、何かが焦げた様な匂いが周囲に広がった。


 その結果予想していなかった結果が僕の目の前に映し出されていた。

 獣人達の攻撃が鉄アレイに向かわず真っ直ぐに他の冒険者達を狙う様になったのだ。


 そして、今まで僕らの攻撃がまったく聞いていなかった鉄アレイが、地に膝を付き鎧の隙間から電気と火炎を吹き上がらせている……そうか!あいつ例のサイボーグタイプの冒険者だったのか!

 この焦げた匂いは何処かで嗅いだ事が有ると思ったが、機械の基盤が焼け焦げる匂いと一緒だ。

 一度僕が使ってたPCから火が吹き出た事が有ったが、あの時の基盤が焦げた匂いに似ている。

 今まで全身鎧を着ていたから気づかなかったが、なるほどあの金属の体の上に重鎧を付けている訳か道理で硬い訳だ。


「チッだから雷撃耐性は付けろって言ったのに!」

「ハハハわりぃ、今まで電撃を使ってくるモンスターとか見た事が無かったからお飾りの弱点かと思って……」

「言い訳は後で聞く!クルース!リンカ!魔術を使ってきたキャストラビットを先に倒してくれ!俺は鉄アレイを回復させる」

「「了解」」


 先に防御役が苦手な攻撃をしてくるアイペロスに狙いを変えたか、なるほど的確な判断だ……だが!


「ミッチー呪文封印(スペルシール)設置!後アイペロス側の鍾乳石の手前に針罠(ニードルトラップ)設置だ!」

「はい、設置開始します」

「うおっらああああああ!」


 リンカと呼ばれたエルフ女が咆哮挙げてアイペロスに向かって突撃する!

 あの咆哮はAO特有の戦闘中の異常な興奮から来る物だろう。僕も経験が有る……


「風よ全てを切り裂き――」


 続いて、クルースが先程と同じ呪文でアイペロスに向けて詠唱を開始した。


「両罠共に設置完了、呪文封印起動条件を満たしたので起動します」

「汝の侵攻を妨げる者を両断せよ!ウィンドカッーうげぁ」


 呪文封印の光の帯がクルースの首の周りに突如出現して、クルースの詠唱が完了する寸前で喉を絞めあげた。

 クルースの喉からメキメキと何かが、軋む音がする。

 恐らく光の帯に喉を締め上げられて首の骨が軋んで悲鳴をあげているのだろう。


 今回は前回の様に呪文封印の殺傷設定は切っていないので、クルースはあの光の帯をなんとかしない限り窒息死か首の骨を圧力で砕かれて死を免れない。

 どうやら呪文封印は立派な殺傷用の罠として機能するようだ。


 とりあえず間一髪だったがクルースの攻撃魔術は止めれた。次はあのエルフを!


「アイペロス!そいつの動きを止める!お前の魔術で殲滅しろ!」

「了解です兄貴!」

「うらああああああ、死んじゃえええーーーー」

「針罠起動します」


 緑のバリアーで矢を弾きながらアイペロスにもう数歩の所まで迫っていたリンカに針罠が起動し地面より数十本の巨大な針が競りだして来る……が、リンカを囲む様に2メートル針が出現したのみでリンカは無傷だ。

 恐らく、足元から出現するはずの針は緑のバリアーで防がれたのだろう。


 だが、これで問題ない。

 僕の想定通りにリンカは複数の針に進路と視界と進路を塞がれた。

 後はアイペロス次第だ。



「地の毒よ!水の気と交わり――」

「くっこんな物----」


 アイペロスの詠唱開始と同時にリンカは斧を振り回して目の前の針をなぎ倒した。

 針の強度強化をしておくべきだったか……だが、大丈夫だ。これも予想していなかった訳ではない。


「燃えろ火炎宝剣(ファイヤーブランド)


 僕の周囲に火球が生成されていく、前回お試しで使った時より、大きい火球が作られて行くが増殖スピードが遅い。魔力を多めに流して玉を大きくしているからだ。

 3.4.5.……と徐々に個数を増やして行くが、最大個数に到達するのを待っていられないので直ぐに発射準備に入る。


「穿て!火炎宝剣!」


 リンカの背中に向けて火球を5発を発射する。

 昨日の晩に僕は、ミッチーにこの火炎宝剣の使い方を『解析』の権能で解析してもらい、使い方を事前に調べておいたのだ。

 この、火炎宝剣はミッチーと同じ一種の『神器』らしく、簡略した起動コマンドで火魔術を操れる優秀な武器らしい。


 リンカがアイペロスの元に到達して斧を振り上げていたが、その背中に火球が直撃する!

 だが、リンカは体制崩しはしたものの顕在だ。あの緑のバリアーが彼女を守ったのだろう。

 アイペロスへの攻撃を一時的に止めはしたが、背中を焦がして攻撃の体制を崩した程度に留まった様だ。


 厄介だなあのバリアーは……だが、あまりダメージを与えられなかった僕の攻撃も、時間稼ぎにはなったようだ。

 どうやら、アイペロスの呪文の詠唱が完了した様だ。そして、リンカはダメージを受けながらも再度斧を頭上に振り上げた所だった。


「――敵を蝕め!強酸の雲(アシッドクラウド)!」


 アイペロスが呪文を完成させるとリンカの両腕と斧に黄色いガスの様な物がまとわり付いた。

 そして、リンカは斧を振り下ろそうとして自分の腕の異変に気づいて叫び声をあげる。


「うらあああああ!え?なんで?あたしの手があぁ……」


 アイペロスが放った霧は緑のバリアーで威力を減衰させながらも、リンカの腕と斧をドロドロに溶かしていた。

 グシャっと地面に液状になったリンカの手が落ちる。

 更に手をいきなり失ったショックで驚止まっている、リンカにアイペロスの追撃が入る。


攻撃強化(アタックブースト)!!!往生せいやぁあああ」


 アイペロスがケルス君に怒鳴り散らしていた時の様な、ドスの聞いた声で何か叫ぶと、アイペロスの腕や足に赤い光が灯る。そして……


「アハハハ!人間め怖いか怖いよな?おらおらおらぁ!泣け!叫べ!アハハハハハ」

「いや、なにこれ怖いやめてやめてやめてぇ!」


 腕を失ったショックでAO特有の戦闘状態における異常な興奮が抜けたリンカは恐怖の声上げている。

 それもその筈だ、アイペロスは楽しそうにハイキックをリンカの顎に叩き込んで、壁まで叩きつけると、そのまま跳躍してリンカを両足で踏みつけた。そして、倒れて戦意喪失しているリンカに馬乗りになり、笑いながらリンカの周りの緑のバリアーをベリベリと素手で引き裂く。

 その後、一段と高い、狂ったような笑い声を上げながら穴だらけになったバリアーの開いた部分にバルカンの様な速度で拳を叩き込んでいる。


 アイペロスは魔術師だと思っていたが、どうやら格闘もいけるらしい。

 でも、僕接近戦は控える様に言った筈なんだけどなぁ……


「クレスお願い助けて、!このモンスターなんか怖い!」


 まぁ、そりゃあ怖いよなぁ。

 あいつらの視界にアイペロスがどの様な姿に映っているのかは知らないが、両腕を溶かされた後にマウントをとられて一方的に殴られりゃあ……痛みを感じなくても恐怖は感じるよな。


「くそ、鉄アレイの治療も終ってないってのに何やってんだ!ディスペル!」


 その助けを呼ぶ声を聞いた、クレスと呼ばれた治療師がアイペロスに何か呪文をかけた。


「あぁん?なんだこりゃあ?チッ解呪(ディスペル)か……そうかぁ」


 その結果、アイペロスの手足に灯った赤い光が消えてしまう、が……アイペロスはニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。


「――そうかそうかぁ!溶けて死にたいかぁ!地の毒よ!水の気と交わり、大地より苦悶の声をあげよ!全てを蝕む吐息で我が敵を蝕め、強酸の雲(アシッドクラウド)!アハハハハ!溶けて死ねーー!」


 呪文の詠唱完了と共にリンカの体から飛びのくアイペロス、そしてリンカの全身に黄色い靄が再度まとわり付く。


「嫌ああ体が溶けるぅ」

「一旦戻れリンカ……くそもう駄目か」

「アハハハハハハハ」


 リンカは一瞬でぐずぐずに溶けてしまい、液状の青い液体になってしまった。

 液体は空気に溶けていき僕の腕輪に吸われた。

 その時、僕の背後に居た獣人達が、「ヒィ」と悲鳴を上げたり、「やっぱり食うのか」とか呟いていて、ちょっと凹んだが、今は戦闘中なので気にしない事にする。

 


「兄貴ぃ見てくれました?あたしの勇姿アハハハハハハ!」


 アイペロスは真っ赤な眼を更に充血させて、最初に僕にお茶を勧めてくれた時のやさしい声で僕に微笑んでくる。

 ただ、あの時と違い狂ったような高笑いをあげているが……やだ、この娘超怖い。

 僕、姉ちゃんより怖い女性に出会ったのはこれが初めてかもしれない。


 そのアイペロスの姿を見て恐怖か脅威を感じたのか、冒険者達は早急に体制を立て直そうとしている。


「ディスペル!さっさと動けクルース」

「悪い悪い、見た事がない攻撃だったから対処できなかった」


 おや?呪文封印を解除されてしまったようだ。

 あの光の帯は魔力で作られているらしいから、それも可能なのか……なるほどまた一つ勉強になった。


「俺もあんなの初めてみたよ……ちょっとこれは俺達の手に余るな。リンカもやられたし、鉄アレイも全快迄回復させてる暇は無い。一度引くぞ」


 ふむ、引くのかならば詰めの一手に入るか。


「えーせめて一匹倒していかねぇか?こいつらが、本当に3倍経験値かどうか確かめてぇよ」

「クルースお前馬鹿か!?幾ら経験値が3倍でも1匹分の経験値じゃあデスペナルティ分の方が大きいだろうが良く考えろ!どうしても狩りを続けたければお前だけ一人でやってろ!クレス、プロテクションの残り時間は?」

「残り1分を切っている。鉄アレイ悪いが殿を頼む」

「おう、任せろその為のVIT(耐久)ガン振りだからな!」

「ちっ!しょうがねぇリンカのメインキャラの蘇生が終ってからまた来るか」


 中々興味深い事を去り際に語ってくれたな彼等は、では丁重にお帰り(死んで)いただこう。


「ヘイトコントロール!」


 再度タゲ寄せのスキルを使った鉄アレイを盾に、ジリジリとクルスとクルースが洞窟入り口から去ろうとしている。


「悪いね。君らには恨みは無いけどここで暮らす魔族達の為に生きて返す訳にいかないんだ。焼き尽くせ!火炎宝剣」


 僕の周りで増殖を続けていた火球十数個が、全て消えて鉄アレイの足元に燃え上がる魔法陣を作り上げる。


「ん?何だ?足元が光ってうおっ」


 そして、魔法陣から大きな火柱が上がり、僕の命令を伝える叫びと鉄アレイの悲鳴が上がる。


「ん?なんだ?うおおお熱っ熱っ」

「よし、全員撃ち方止めーーーーーーーベアトリスとグシオス部隊が来るから攻撃を止めろーーーーーーーー」

 

 僕の命令と同時に獣人達の弓と小型石爆弾で攻撃するのを止め全員鍾乳石の裏に隠れる。これで背後からコボルト達が突撃してきても同士討ちにはならない筈だ。

 さて後は、この狼煙代わりの火柱に気づいてグシオス隊とベアトリスはちゃんと、動いてくれるか次第だな。


「アレイー!その魔法陣から出ろ!それ、ファイヤーストームを一箇所に集約した奴だ。いくらお前でもそれは……」

「わりぃ、もう足が焦げてうごかねぇお前らだけでも逃げてくれ。此処で俺は攻撃を引き付けれるだけ引き付ける」

「すまん、鉄アレイ今度学校の帰りになんか奢る……行くぞクルース!」

「う、うん。ごめんアレイっうが!」

「クルース!?」


 クルースの背中には、洞窟の外から飛来した数本の矢が刺さっていた。

 あーこれはまた、なんか僕が悪役ぽい勝ち方になってしまうな……まぁ、仕方ないな。そういう戦い方を選んだのは僕だ。

 こういう事は今後幾らでもある、一々気にしていてはいけないな……


「う、後ろ?まさか包囲されてい――」


 振り向こうとしたクレスの胴体に皮紐のような物が巻きつき、その直後クレスの体を一気に燃え上がらせ、一瞬で消し炭にする。

 それを見た獣人達が一斉に声を上げる


「「「姐さん!!」」」

「おう、お前等戻ったにゃ!」


 洞窟の入り口にはベアトリスが立っていた。

 ベアトリスは胸をそらして『私、作戦通りにやって偉いにゃろ?」という感じで僕を見てくる。

 後で、褒めてあげよう。猫みたいに喉とか撫でたら喜ぶのかな?


「うああああああああ」


 クレスを焼き尽くしたベアトリスを見てクルースが叫び声をあげながら、全速力で逃げ出した。


「お前だけでも、逃てくれ!ク――」


 鉄アレイが僕の炎に焼かれて青い粉になる。さて後一手だ。


 逃げるクルースをベアトリスは追わない。追う必要が無いのだろう。

 洞窟の外を忌々しそうな眼で見ているだけだ。


「えっ黒狼!?なんでこんな所に!やめ――」


 洞窟を出た直後クルースの叫びが一瞬聞こえて、冒険者が青い粉になって砕ける音がした……どうやら、これで僕の初指揮官業務は終った様だ。

 5分程度の短い戦いだったが、怪我人無し、敵は全滅の良い結果になったな。


 「ご主人様、お疲れ様です。まさか本当に防御用の『創造』を使わず冒険者を打倒するとは思いませんでした」

 「勝算の高い戦いだってミッチーも認めてたじゃないか、それに今回は僕がというより周りの皆の奮戦有っての結果だよ」

 「それでも、ご主人様は無理なさいますから――あら?ご主人様あちらの方は?」

 「なるほど、クルースが死に際に言ってた黒狼はそういう事か……」

 

 洞窟の外から黒い服を着た、服と同じ色の毛皮の獣人……いや、コボルトが入ってくる。

 

「グシオス隊、命令通りに行動いたしました。指揮官殿、次の指示を」


 黒い狼の様な顔の大男は僕を見てそう言った。


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