第13話:AOの記憶
今回のお話は、以前1話に記載されていたAOの設定と、剣のAOでの経験の加筆修正版の話になります。
AOとは1年前に正式稼動した戦闘メインのVRMMORPGだ。
ストーリはプレイヤーが化身と呼ばれる仮初の肉体を使い、中世欧州がモデルの世界に化身送り出して、その地を侵略する魔族やモンスター達から、冒険者となって世界を守るという物だったと思う。
AOは西欧の複数企業と日本の複数企業が合同出資会社を作り開発と運営を行っているゲームだ。
世界に展開する事を予定して作られたゲームで、大量の資金と技術者を集めて最高のMMORPGを作ろうとした末に出来上がったゲームらしい。
合資会社を作る時に、複数の企業が技術提供をした結果、従来のVRMMORPGとは一線を画するシステムが三つ作られ、それを扱う為に必要な専用HMDも開発された。
その開発されたシステムを売りにAOは一番人気のVRMMORPGとなったのである。
AOが爆発的人気となった理由の、一線を画するシステムとは、まず1つ目が現実の感触を完全に近い状態VR内で再現する『完全五感再現システム』である。
元々従来のVRシステムでは、どんな物を触っても現実感の無い感触であり、食べ物を食べても味のしない土を食べているような食感しかなく、匂いなども感じられなかった。
視覚情報も作り物の域を抜け出せない物であり、粗悪な物だと3D酔いを起こす事も有る。
しかし、この『完全五感再現システム』を搭載したAOは木を触れば木の感触を、食べ物を食べればその味を再現しほぼ現実に近いものを再現していた。(流石に五感から生じる痛覚はオミットされていたが)
『五感再現システム』の開発自体は出資した日本の複数企業の中にVR医療器具開発企業も入っており、その企業が技術提供したという話である。
何故かゲームでのみこのシステムが導入されており医療器具等には導入されておらず、一部ではプレイヤーで人体実験しているのではないか?という噂まで有った……
二つ目のシステムは『改良型スキル発動システム』だ。
従来のVRMMORPGでは音声認識でスキルが発動し決められたモーションで体が勝手に動くような物か、スキルを使う為には決められたポーズを取らなければ使用出来ない様な物であった。
しかし、この『改良型スキル発動システム』音声で発動するのに加え、そのスキルを頭の中で使いたいと思えば(こちらは任意で発動させるには練習や特定の条件が必要らしいが)どんな体制からでもスキルを発動させることが出来る。
それに加えスキルの効果の範囲内であれば自分でモーションをアレンジしたり、発動場所をアレンジ出来る。
このアレンジというのは例えば RPGでお馴染みの火球の魔法を使うとする。
火球は相手に向かって直進し相手に着弾後爆発する魔法なのだが、プレイヤーがアレンジを掛ける事で着弾前に相手の目の前で爆発させたりする事もできるらしい。
そして、3つ目のシステム『仮想世界統括AI:デミウルゴス』
このAIがAOを人気VRMMORPGに押し上げた真の立役者と言って良いだろう。
『仮想世界統括AI:デミウルゴス』はアバターオンライン内の全ての事象を管理するAIだ
統括AIといば今時のVRMMORPG標準搭載されているものであるが、このAIは他のAIとはレベルが違う。
AIの自己判断で随時追加ゲームの内容にアップデートしていくのだ。
天候を現実の世界の様に再現し、気象の変化を24時間364日休み無く再現し続け、四季や、季節風、梅雨等も作り出す。
それに加えモンスターもこのAI管理下に有り、1匹1匹個性を設定されており、同種のモンスターであっても装備や体格やスキルなども個体毎に設定しているらしい。
モンスターの戦闘AIも固体毎に違うらしく、人のような行動まで起こすモンスターも居る。
しかしながら、この統括AIがプレイヤー達に評価されている真の理由は別にある。
それは、全てのプレイヤーの戦闘データをモニタリングしており、プレイヤーが上位職に転職した時に収集したデータを参考に、そのプレイヤーの戦闘スタイルにあったオリジナル装備や固有スキルを造り出し提供までしてくれるらしい。
三つの特徴的なシステムと合同出資会社の豊富な資金力を使った大規模広告の力で、AOはリリースされた当初から大人気のVRMMORPGとなった。
そしてこの大規模な広告の効果も有って、AO人気は爆発的に日本に広がったのだが、これが後の僕のトラウマに繋がるのである……つまり、VRゲーム全般を好む僕の姉がAOを見逃す筈も無く、僕にまでAOをやるように勧誘してきたのだ。
VRゲーム好きの姉は随分AOが気に入ったらしく、僕にも毎日ようにAOをやるように勧めて来た。
姉が僕と一緒にゲームをやりたがるのはいつもの事なのだが、今回は少し事情が違う。
僕のVR嫌いを良く知っている姉は、絶対にVR系ゲームだけは僕を誘う事は無かったのである。
だが、AOだけは随分しつこく誘って来る。こんな事は今まで無かった事だ。
何度断っても誘ってくる姉にイラついた僕は、姉に勧誘の理由を問いかけた。
その時のやりとりはこうだった。
「何故VRゲームを今更誘う?僕のVR嫌いは姉ちゃんも良く知っているだろ?」
「他のVRと違って、凄いの!もうなんかねとにかく凄いの!」
「いや、凄いだけじゃ分らないって。しかもVR系のゲームを僕がやると、どうなるか知ってるだろ?」
「うん。それは分ってるよ。でもね。なんかね全体的に現実そのままって感じで凄いの?」
「現実そのまま?それだけじゃ分んないよ。具体的に説明してよ」
「んー。じゃあこれを見なさい!」
と言ってAOの特集が組まれているゲーム雑誌を投げてよこしたのだ。
恐らくシステムなんかの詳しい説明をするのが面道だったのだろう。
その時は姉には後で読んでおくと伝え一度、部屋からご退出願った。
そして、暫くの間は雑誌を放置していたのだが日々姉は僕をAOに誘ってくる。
最終的に姉のしつこさよりも姉が何故このゲームをこんなに誘うのか気になってしまった僕は、雑誌を読んでしまったのだ。
そして、AOが搭載する3つのシステムの事を知った。僕がシステム面にだけ詳しいのはそのせいだ。
書いている3つのシステムはとても興味深いものだった。
特に『完全五感再現システム』これには非常に興味が湧いた。
僕がVRを苦手としている理由はあの粗悪な作り物感が苦手で、酷い3D酔いしてしまうからなのだが、このゲームはそれがまったくないという謳い文句だ。
雑誌に掲載されている映像も確かに従来のVRとはまったく違うもので、ゲーム内の建物や木が本物のような質感を持っているのが映像からでも見て取れた。
僕はゲーム雑誌の特集記事を見てAOに興味が湧いたが、結局その時はAOを始める事は無かった。
始めなかった理由は僕の経済的事情という非常に簡単な事だった。
これもゲーム雑誌に乗っていた事なのだが、AOにはお値段2万円ほどのゲームパッケージに同梱の専用HMDを必要とするらしく。
普通の高校生が、お試しで始めれる金額の物ではなかったのである。
結局これが理由でAOを始めれない旨を伝えると姉は僕へのAO勧誘のを止めた。
この時AO自体は興味には持っただけにやれないのは惜しくはあったが、それより姉のしつこい勧誘が無くなったのが嬉しかったと記憶している。
それから1月ほどして僕の誕生日が訪れると、姉が僕への誕生日プレゼントを部屋に持ってきた。
それは、なんとAOのゲームパッケージソフトだったのである。
嬉しくはあったが、何故こんなに姉は姉が僕にAOプッシュしてくるのか、もうサッパリであった。
ちなみに、その事を疑問に思って姉に質問してみたのだが、「あんたの為になると思って買ってあげた」「ゲームも面白いけどあの世界は見ておくべきだ」「お姉ちゃんが、短期のアルバイトまでして買ってあげたんだから疑問なんて持つな!」「良いからやりなさい!」とまぁ、僕にゲームやれという一方的に通告するありがたい返答を貰った。
だが、この誕生日プレゼントは素直に嬉しかった。
こんな高い物を、姉がアルバイトして迄、僕に誕生日プレゼントとして送ってくれたという事実も嬉しかったが、別の理由の嬉しさも有ったのだ。
そもそも、僕はAO自体にも興味が有ったがはどうしてもやりたいという程では無かった。だが、例の『完全五感再現システム』という物を一度体験してみたかったのだ。
同年代の友人は皆で同じタイトルのゲームで遊び、交流をゲーム内で深めるているが、僕は例の酷い3D酔いのせいでVRMMOは遊べなかった。
そうなると、まぁ話についていけない僕は友人の輪から外れてしまっている事が多かったのである。
これでもしかすると、普通に友人達と遊ぶ事も可能かもしれないと思った故の嬉しさだった。
僕は『完全五感再現システム』を試すべくその日の晩、嬉々としてAOに初ログインした……
AOログイン一日目――――――――チュートリアル
装着したHMDに電源を入れ、僕は軽い催眠状態のようになり一度目の前が真っ暗になった。
その数秒後、僕は何も無い白い空間に立っていた。
どうやらうまくVR空間にダイブできたようだ。
そして、網膜にはシステムウィンドウが表示され、白い文字で『ようこそ、アバターオンラインへ、これよりチュートリアルを始めますがよろしいですか?』と表示されていた。
今の所3D酔いもないし体の不調もないので、僕はチュートリアルを進めた。
チュートリアルは他のPCMMORPGと同じようにゲームの説明とキャラ設定を行なうもので、早くAOを始めたかった僕は急ぎでキャラ名を決めて無難な近接物力職業を選び、新しき世界へ入る準備行なった
AOログイン一日目――――――――始まりの町
チュートリアルを終えて最初の町に降り立った時に見えた物は従来のVRとはまったく違った物だった。
始まりの町はまるで中世のヨーロッパを思い起こさせるような町並みは、まるで本当にそこに存在する様に僕の目に映し出された。
試しに近くの木造家屋の壁に触れてみたが、本物の木と寸分違わぬ感触だった。
空を見上げれば太陽があり、日の光の温かみと風の流れも感じる事が出来る。
此処には僕が苦手としていたVRの偽者臭さはまったく無かった。
僕はこの景色をもっと見たくなり町の中を歩いてみる事にした。
MMORPGなのだからさっさとモンスターを狩りに行くなり、初心者クエストを進めればよかったのだが、どうも僕はこの本物と変わらない景色に心を奪われてしまったらしく、この町を見る事を優先してしまった。
始まりの町を隅々まで見た結果4つの区画に分かれている事が分った。
まず冒険の出発地点である女神の神殿が町の中央に有り、神殿を囲むように露店エリア、商店エリア、冒険者居住区が配置されている。
女神の神殿はこのゲームの根幹的なシステムを担っている所でプレイヤーのレベルアップや転職を行なっており、死んだ場合もここに転送されるらしい。
PTらしき人たちがなにやら反省会のような事をやっていたのが印象的だったが、他に面白い物も無かったので直ぐに別の区画へ向かった。
女神の神殿を出た僕は神殿の前の通りから見て、一番賑やかな様子のエリアに向かった。
そこは露店エリアと呼ばれている場所で、プレイヤー達が冒険で得た戦利品を売るべく露店を出しているエリアで、様々なプレイヤーが犇めき合っていて主に消耗品や雑貨を売っているようだった。
客を呼び込むためか動物の着ぐるみを着たプレイヤーや、際どい衣装の女性キャラが多くて少し目のやり場に困った。
露店エリアから更に道なりに進むと、商店エリアに到着した。
商店エリアはNPCが、またしても露店街のプレイヤー達と同じような消耗品を売っている。が、こちらの商品はプレイヤー露店よりはお値段が、割高のようだった。
普通のRPGのように装備品等はまったく売っていないのだが、僕はチュートリアルで受けた説明でその理由を知っていた。
どうもこのゲームの装備品はレベルアップ時に女神の神殿でレベルに合った物が支給されるらしく、販売はしていないらしい。
他にあまり類を見ない変わった仕様だが、この様な特色がAO人気の理由なのかもしれない。
最後は冒険者居住区、ここはプレイヤーが土地を買って家やギルド本部を建てられるらしい。が、空き地が多く閑散としている場所が多かった。
このエリア歩いている時に知らないエルフっぽい男性に声を掛けられた。
そしてそのエルフの様な男性はギルドへの勧誘の為にどうやら手当たり次第に初心者に声を掛けているらしく、初心者達指南ギルドが有るから入らないか?と勧誘されたのだが、僕はいつまでこのゲームを続けるかも分らないので丁重にお断りしておいた。
ちなみに彼が何故僕を初心者と判断したかは、恐らくこの全身胴装備のせいだと推測される。
この装備はレベル15くらい迄これしか付けられないらしく、一発で初心者だと分ってしまうので少しこの辺りはAO運営は少し考えた方が良いとおもう。
何故そう思うかは簡単な理由だ。
MMORPGは初心者に詐欺を働く輩が多く居るのだ。
恐らく、先程のエルフさんが言っていた初心者指南ギルドというのはそういう輩の存在から守る為のギルドなのだろう。もしくは、そのギルド自体が初心者を騙す為のギルドの可能性も有るが……
結局始まりの町を全部を見て廻るのに3時間ほどの時間を要した。
その後、町を見るだけ見て就寝時間が近づいた事に気づきその日はログアウトした。
ログアウトして、現実に戻ると姉がこちらを見て睨んでいた……どうやら、一緒に遊びたかったらしい。
AOログイン二日目――――――――
翌日学校から家に帰ると姉が待ち構えており、一緒にログインさせられた。
姉とは女神の神殿を出て直ぐの建物の所で待ち合わせをしていたのだが中々来ない。
10分ほど待って、もう一人で帰ろうかと思っていた所、突然白い着物の女性に声を掛けられた。
「間違っていたらならごめんなさい。剣よね?」
「あ、はい。って姉ちゃん?」
「ログイン前にキャラ名くらい教えないさいよ。」
「あぁ、ごめん。そういえばそうだった。ゴメンゴメン」
「そうよ。まったく人の話聞かないで、直ぐログインしちゃうんだから。そんなにお姉ちゃんとAOやるの楽しみだったの?」
「ハイ、ソウデスネ」
そんな訳はない、姉の話が昨日の僕が一人でログインした恨み言にシフトしそうだったので、逃げるようにHMDを付けただけだ。
姉のAOで使用しているキャラは、長い銀髪を腰まで伸ばしており陶磁器のような白い肌の上に、白地に血のような色の花弁の桜が描かれた着物を着ていて腰には刀を収めた鞘を差している。
顔は何か黙っていれば儚げな美人という顔で、この辺りは現実の姉と通じるものが有るが……服装や、その容姿と相まって美人の幽霊か鬼の様だとは口が裂けても言えない。
「あんた、ソードって名前、安直過ぎない?よくそんな名前取れたわね」
AOでは既に他の人に名前を使われている場合は、同じ名前を使用できないとチュートリアルの説明に有った。
恐らく、姉はその事を言っているのだ。
「姉ちゃんに言われたくないよ。それ学校のあだ名の捩りだろ?」
「む……良く分ったわね。でもあんたよりはセンス有るわよ。私のキャラ名」
「どうだか、どうせキャラ名を決めるとき名前が決まらなくて、でも早く遊びたい!ってなったから適当に付けただけだろ?それ」
「そ、そんなこと無いわよ……」
どうやら、図星のようだ。
僕も同じだったのだから、この辺りは血の繋がりを感じてしまう。
「で、どうすんの?僕まだ狩りに行った事なんてないけど、初心者用の狩場でも連れて行ってくれるの?」
「そうね。まだLv1だし、弱めのゴブリンでも狩りに行く?最初から強いのが良いならオークも有りだけど」
「んーゴブリンでいいや、最初から死にたくない」
「はいはい。じゃあ、そこの神殿から転送するわよ」
「転送?この町の周辺じゃ駄目なの?始まりの町なんだから、この周りの敵って弱いんじゃないの?」
「この辺のモンスターなんて私が始めた時にはもう絶滅してたわよ。偶にゴーストとか、はぐれゴーレムは湧くみたいだけどね」
「え?絶滅?このゲームってモンスター再POPしないの?」
普通のMMORPGはモンスターが自然にフィールドに一定間隔置いて湧くか、決められた数を下回ると自然に湧くものなんだがこのゲームは違うのだろうか?
「統括AIがね。リアリティ持たせる為にそういうのはしないんだって。だからこの周辺にはもうモンスター居ないらしいのよ」
「うへ、徹底しているなそりゃあ……だから転送って訳か」
「うん。そういう事ね。モンスターを狩り尽くすと、デミがどんどんフィールド作って行くって運営が説明してたわね」
「なるほどね。でも、そこまでリアリティ追求するのはどうなんだろうね」
「まぁ、それは皆言っているわね。でも、他の部分が面白いから、あたしはそんな事どうでも良いけどね」
我が姉は細かい事と、面倒な事を考えるのが大嫌いな人である。
そういう細かい仕様の文句や不便さよりも、楽しく戦えるかどうかでしか判断しない人なのだ。
そしてそれは現実にも及び、僕は剣道の稽古に無理矢理付き合わされる事が多い。
「姉ちゃんは戦えればそれで良いタイプだもんな」
現実でも、ゲームでも軽く戦闘狂が入っている姉に僕は嫌味たっぷりにそう言ったのだが……
「さっすが我が弟、お姉ちゃんの事良く分ってるわね。ほら、ささっとゴブリン狩り行くわよー」
と、何故か上機嫌に鼻歌交じりに僕を女神の神殿まで手を引いていくのだった。
AOログイン二日目――――――――ゴブリン集落近郊の森
「キーッ!」
鉄の軽鎧を付けたゴブリンが長剣で僕に襲い掛かってくる。
現在僕は目的地の狩場『ゴブリンの集落』の近郊の森で一人でゴブリンと戦っている。
ゴブリンは僕と同じような背丈で、茶色い肌に皺だらけの皮膚を持ったモンスターだ。
「とっ危なっ!おらぁ!」
ゴブリンの斜め上からの斬激を無理矢理避けてゴブリンの懐に転がるように入り込む。
そしてそのまま僕はゴブリンの鎧に覆われていない足を狙って左手に持った銅の剣で切り裂く。
ザクッっと剣が肉を切り裂く感触が手に伝わってくる。
しかしながら、ゴブリンの骨に邪魔され今の一撃で足を切断するには程遠かったようだ。
「ギイィィィ……」
僕に足を切られたゴブリンはまるで本当に痛みを感じてるかの様な声を上げた。
ゴブリンは負傷した足を引かせながら再度足元に居る僕に剣を振り下ろしてくる。
しかし、ゴブリンの速やかな反撃を予想していた僕は、右手に取り付けられた胴の丸盾でゴブリンの剣を押し出すように弾きかえした。
そして、そのまま剣を弾かれ怯んだゴブリンをそのまま盾で殴って足を払って組み伏し、勢いに任せて剣を地に伏したゴブリンに突き刺す。
「くっそ、抵抗すんなこのまま死ね。動くなこの!」
このゲームやはり少しリアルに設定しすぎだ。
暴れ回るゴブリンの必死の抵抗は、まるで本当に死を恐れる生物のようだ。
「何やってるの早く心臓を潰すか、首を落としちゃいなさい。それで終るから」
姉が、僕の戦いぶりを見てつまらなさそうに口を出してきた。
僕の戦い方が下手過ぎて口を出さずにはいられなかったのだろう。
そんなつまらないなら、手伝ってくれても良いと思う。
姉はこの戦闘を僕の後ろで腕を組んでこちらを見ながら適当なアドバイスをこちらに投げてくるが、まったく手伝おうとしないのである。
その姿は道場の子供達に剣道を教える時のポーズにそっくりだ。
もっとも道場の子供達を姉が指導する時はとても険しい眼で子供達を見ており、戦い方を教える師匠モードという感じなのだが……今は、なんというか野球観戦で贔屓のチームが負けている時のような面白く無さそうな顔をしている。
手伝いをしてくれないのは姉なりの理由が有るらしく僕が戦闘に入る前に僕にその理由を述べたのだが、姉曰く「このゲームはレベルだけ上がってもしょうがない」「実際に戦ってキャラを動かすのに慣れてこそ強くなれる」「強くなるまでソロがオススメ。それが一番早く戦闘に慣れる」とありがたい?初心者への助言を頂いた。
しかし、このゲームの戦闘は一人でやるには結構しんどい。
1回1回の戦闘が濃密でまるで本当の殺し合いをしている様だ。
確かにソロに慣れれば相当強くなれる気はするが……正直スパルタが過ぎると思う。
「剣ーお姉ちゃん飽きてきたー。だから『お姉ちゃん助けてー』って言ったら手伝ってあげるよー」
とまぁ、今度はのほほんとした声で必死の僕を煽ってくる。
「いらないよ。僕だってやれる」
どうやら、姉は僕の戦いを見ているのが本格的に飽きてきた様だ。
姉に手伝ってもらっても良いのだが、あんな煽りかたをされてしまったら維持でもこのゴブリンを一人で倒さなくてはいけない。
ギーギー喚いて必死の抵抗をするゴブリンには悪いが早く終らせよう。
銅の剣を力づくで組み伏したゴブリンの首に押し当てて一気に体重をかける。
その結果、ゴリっという音がしてゴブリンの骨が砕ける音がした後にブツッっとした首を切断した感触が手に伝わる。
そして、ゴブリンは「キーッ」と一鳴きして全身から青い光を発して小石くらいの青い石になった。
これがこのゲームの通貨の元であり、経験値の元である魔石だ。
これを女神神殿にもって行き、神殿の受付NPCに納品する事で通貨と経験値を貰えるらしい。
「剣おつかれー。でも、今度はもうちょっとスマートにやりなさいね。集落のゴブリンほとんど逃げちゃったじゃない」
「僕らを見てあんなに一気に逃げるとは思わなかったんだよ」
僕と姉は神殿から狩場の野営地に転送された後、野営地近隣の森を1時間ほど歩いてゴブリンの集落を発見した。
集落を発見する迄1時間姉と歩き通しで色々な意味で鬱憤が溜まっていた僕は嬉しさの余り、見つけたゴブリン集落に確認もせず突っ込んでしまったのである。
よくよく考えれば普通のMMOでLv1の僕がそんな事をすればゴブリンの集団にボッコボコされて死ぬだけなのだが、この時は初心者らしく何も考えず突っ込んでしまった。
結果僕はゴブリン達に集団ボッコにされ……なかった。
ゴブリン達は僕を見て武装したゴブリン以外は皆逃げてしまったのだ。
その武装したゴブリンも3体居たのだが、1匹を僕が倒し、もう1匹を姉が刀で鎧ごと両断すると、残りの一匹は形成不利とみて、一目散に逃げてしまったのだ。
結局僕達は逃げたゴブリン追って、こんな集落の外れの森の中迄追いかけてしまったのである。
「まぁ、普通のMMOだったら全部のモンスターと戦闘になるけど、このゲーム武装していない人型モンスターは結構逃げるから覚えておくと良いわよ」
「面倒な仕様多すぎだよ。このゲーム」
「まぁ、統括AIが人間の並みに知能が有る生物がどういう行動をするか想定した結果そうなってるらしいから仕方ないわね」
「ぶっちゃけなんで、こんなゲームが人気あるのか僕は良く分らないよ」
「皆、なんだかんだ言って作り物臭いVRに飽きてたって事じゃない?」
「んー世界が綺麗なのは認めるけどね。ここまで来るとちょっと怖いな」
「もしかして、面白くない?もう止めたいとか思ってる?」
姉が凄く悲しそうな声を出して僕を見てくる。
これはいつも元気で高圧的な姉には珍しい事だ。だが、理由はなんとなく分る。
思えば、姉は昔から僕と遊ぶのが好きな人だったが、ここ最近は僕がDGに嵌っていた事も有ってあまり一緒に遊ぶ事は少なかった。
むしろ、僕がDGを始めてから何かと小さな小言や諍いが増えた気がする。
そこに僕がAOを遊べるという事実が発覚して姉は嬉しかったのだろう。
ついでに、仲直りへの期待みたいな物も有ったのかもしれない。
の事を踏まえれば、まぁ止めたいとは言えない。
高いゲームパッケージも買ってくれたし……
「いや、まだ続けるよ?姉ちゃんが僕のために折角買ってくれたのに止める訳ないじゃないか」
「そう?なら良かった。じゃあ、次はコボルトいってみよー!」
とまぁ、こんな感じで上機嫌に姉なった姉に夜中までAOに付き合わされた。
AOログイン二十日目――――――――始まりの町近郊の森
この二十日間で僕のキャラクターも大分育ち、初心者の証である銅装備も間もなく卒業だ。
普通のプレイヤーは銅装備卒業まで1月以上かかるそうだから、まあ順調な方だろう。
そして、今日も僕は初心者を脱するべくAOにログインしているが、いつもとは少し状況が違う。
姉が居ないのだ。
ログインする時迄は一緒であったのだが、姉に急用が入り僕一人で行動する事になったのだ。
なんでも大規模レイドがあるからそれの打ち合わせで仮入部中のギルドの集会に行ってくると言っていた。
ちなみに、僕もギルドに入らないかと、姉の友人に誘われたが丁重にお断りしておいた。
何故か僕を誘う姉の友人の背後から姉が僕を睨んできたので、断らない訳にはいかなかった。
まぁ元々、以前誘われた初心者支援ギルドを断ったとのと同じ理由で断るつもりであったのだが……
姉が居ないなら居ないで、別に一人で狩りに行けば良いのだが、姉が居ないのならば普段はやらない事をしようと思いついたので少し思案した後、僕は一つの事を思いついた。
始まりの町の近くに町から徒歩で30分ほど歩いた所に森が有ると聞いていたのでそちらに向かう事にしたのだ。
姉と一緒に遊ぶと、どうして戦闘一辺倒になってしまうので始まりの町から僕は歩いて出た事がなかった。
この機会に近隣観光をして見ようと思った結果の行動であった。
森に入って直ぐ、僕は他のAOの森とは何か違う違和感のような物を感じて周囲を見回してみたが特に変わった物はなかった。
あえて、違いを上げるならば森の新緑の香りがいつもより強く感じた。
そしてその森の状況に僕は更に気分を良くして歩む速度を上げた。
僕が現実で住んでいる地域は結構な都市部で、この様に森の空気や香り楽しめる所は無い。
なので、存分に森林浴を楽しむ機会がなかった僕は気分を高揚させて森の自然と空気を楽しむべく歩みを強めたのである。
そのまま気分良く森を進んで10分程経った頃、一瞬視界にノイズが走りエラー音らしき物が耳に流れた。
この現象は以前姉が話していた、統括AIの随時アップデートの影響で、視界にノイズが走る不具合発生するという物かもしれない。
だが、不具合から来るメンテナンス等でログアウトの必要があれば、システムウィンドウにログアウトを促すメッセージが表示されるとも姉は言っていた。
もし何か有ればこのログアウトを促すメッセージが出るはずなので僕は更に森へそのまま突き進んだ。
しかしノイズの後、僕は有る事に気づいた森の新緑の気配が一層に強くなった気がする。
森の緑が濃い、生命の気配を感じる、そんな言葉に現し難い変化が森に起こっっていた。
もしかすると、この変化こそが随時アップデートで実装された物なのかも知れないと思いつつ森を進むと森が開け場所に出た。
そこで僕は思っても見なかった物を発見した。
ゴブリンだ。
この森のモンスターは狩りつくされていた筈なのにまだ生き残りが居たのだ。
しかも都合良く3体も居る、僕はこのゴブリン達を見て歓喜せずにはいられなかった。
なぜならば、ゴブリン3体分の魔石を得られれば丁度レベルアップでこの情けない胴装備を卒業出来るのだ。
この都合の良いゴブリン達との遭遇に何か運命的なものさえ感じた僕は嬉々としてゴブリンに突撃した。
ゴブリンは1匹が短剣らしき物を持っているが、残りの2匹は特に武器らしきものは持っていなかった。
その内一匹は僕の背丈の半分くらいの子供のゴブリンの様だ。
どうやら、ゴブリン側も僕に気づいたらしく短剣を持ったコブリンがキーキー叫んでいるが、非武装のゴブリン達は今の所逃げ出す気配は無い。
逃げられる前に全てゴブリンを仕留めてしまいたいので、まず僕は短剣を持ったゴブリンに咆哮をあげながら高速で突撃した。
対する短剣を持ったゴブリンは、武装していないゴブリン2匹の前に立ちはだかる様にしてこちらに短剣を向けている。
ゴブリンは僕がもう最近は聞きなれてしまった、耳障りなキーキーとした声で何か叫びながら短剣を振り回しているが、この二十日間の姉のスパルタ狩りで得た身のこなしで僕は何のことも無く短剣を避け、そのまま小鬼の胴を剣で突き刺した。
肉を貫く感触が手に伝わる……この感触は未だに慣れないが、この自然と咆哮が出るような戦闘のの高揚感こそがAOの醍醐味だとこの二十日間で気づかされた。
どうやら、僕の銅の剣での攻撃はゴブリンにとっては致命傷だったらしく、ゴブリンは絶叫しながら倒れてジタバタしている。
このゴブリンはもう助からない、このまま魔石に成るのみだと二十日間で得た経験則で予測し、このゴブリンの止めを刺さず、逃走される前に非武装のゴブリンを急いで殺す事にした。
これも、姉の教えの「非武装人型モンスターは逃走される前に最速で殺しなさい」という教えあっての行動だ。
幸い残りのゴブリン2匹は動こうとはしない。
ステータス以上の『恐怖』か『自失』になって行動不能になったのだろう。
非武装タイプが逃げない場合はこうなる場合が良くある。
僕は手に残った剣で肉を貫いた嫌な感触を、気にしつつ残り2匹を倒そうと更に突撃する。
しかし、その時先ほどの比ではないノイズが僕の視界を覆った! 目の前が灰色の砂嵐に一気に包まれたのだ。
だが、そのノイズは直ぐに消えて、視界が10秒程砂嵐で覆われた後にまた森の広間に視界が戻ったのだが、また微妙な変化を感じた、
僕の仮想の眼に映し出されるAOの世界が更に鮮やかな気がするのだ。
しかも、先程前聞こえなかった虫のさざめきの様なものまで聞こえてくる。
僕は折角のレベルアップの機会を逃すのではないかとやきもきしながら正常に戻った世界を見回す。
良かった。まだゴブリン達は存在していた。これでクライアントエラーでサーバーから切断されていたら目も当てられない事態だった。
だが……生き残りのゴブリン達は震えていた……片方は震えて涙を流しながら後ろの小さなゴブリンを守ろうと僕の前に立ちはだかる、
そしてもう一方の小さなゴブリンは泣き叫びながら自らを守ろうとするゴブリンの後ろに隠れブルブルと震えていた。
なんだこれは――――こんな光景AOに在る筈がない。それがその子供を守ろうとしたゴブリンを見た時の率直な僕の感想だった。
いつものAOならばこのような状況の場合、モンスターのステータスが『恐怖』か『自失』になり、棒立ちになるか座り込んでまったく動かなくなる筈なのだ……が、このゴブリン達はまるで人間のような反応をしている。
なんなんだこれは!これではまるで、僕が通り魔のようにゴブリン達を襲ったようではないか……いや、これは間違いなく彼らにとっては通り魔のような所業なのだろう……この光景を見れば誰が見てもそう答える筈だ。
その行いの意味に気づいた瞬間、動機が激しくなり、感じた事が無いような強い感情が僕を支配する。
僕はその強烈な感情に抗おうと体がブルブルと震え、激しい嘔吐感に苛まれ、膝から崩れ落ちてしまった。
そしてそれと同時に首に強い衝撃と今まで感じた事の無い様な違和感を感じた。
衝撃と違和感に驚いた僕が首を見てみると、首の丁度中間に白銀に輝く尖った物が生えていた。
そう、あのゴブリンが持っていた短剣が僕の首を背後から貫通して首の正面から飛び出ていたのである。
AOは五感再現を謳っているが、流石に痛みは感じないように設定しているらしいのだが、首を生きたまま貫かれるというのは非常に気持ち悪いものだった。
その生まれて始めて知った違和感に対しての怒りなのかは分らないが、首の違和感の正体を理解した瞬間、僕は今まで感じた事も無い様な怒りが沸きあがった。
そして脳内に『早く殺さねばならない』という意思みたいなものが自然と芽生え、急ぎ後ろ振り向き背後の死に体だったはずのゴブリンを見た。
そして、怒りに燃える僕の眼に映ったのは、少し後方で先程のゴブリンが周囲に血を撒き散らして、地面を血の海に変えながら体を魔石に変ずる所だった。
状況から察するに僕が死に体になったと判断して捨て置いたゴブリンは、どうやらまだ動けたらしく最後の力で僕にナイフを投げてつけて絶命した様だった……が、そんな事はどうでも良い。
問題はゴブリンから出ている『血』だ。
今まで切り裂こうが首を跳ようが、モンスターが血を流す事はなかった。
この様な凄惨な殺人現場の様な事になる事はなかったのである。
しかも、その『血』を見た瞬間動悸が更に激しくなった
更に強くなった動悸と吐き気で、立って入られなくなり地に体を横たえてしまった時に突然僕の仮想の瞳が光を失った。
そして、真っ暗な視界の中にシステムウィンドウが表示されたのである。
そのウィンドウには血のように真っ赤な字で『致命的部位欠損の為HP0なりました 死亡確定の為女神の神殿へ転送します』という、僕がAOで始めて見る僕への死亡通告が記載されていた。
それから、間を置かず僕は女神の神殿に転送された。
首の違和感はあの時感じた異常な怒りと共に消えていたいたが、激しい動機と吐き気は消えていなかった。
この体調ではゲーム所では無いと判断した僕は、直ぐにログアウトし、現実に戻ったのだが、動悸と吐き気が一層強くなってしまい。 起きていられる隊長では無かったのでそのまま眠りに付いた。
冬休み初日――――――――
僕はあの日以降AOにログインしていない。
理由はあの日、見た光景のせいだ。
あの光景を思い出すと吐き気こそ出なくなったものの、激しい動悸に襲われると共に、体に震えが来るのは顕在で、AOの事を思い出すだけでこの様な症状が出てきてしまって、とてもAOをヤル気がしなかったのである。
こんな情けない症状が出た原因は良く分らないが、戦場に出た兵士が退役して平和な時を過ごしていても時おり、戦場の光景をフラッシュバックしてこの様な状態になるとネットに記載されていたので、僕も同じ精神的な疾患なのかもしれない。
こんな状況だ。姉にも暫くAOは休むと伝えた。
完全に止めたと姉に言わないのは、一応高価なプレゼントを無駄にしてしまった姉への申し訳無さから止めるとは伝え難かった。
しかし完全に止めると言い切れなかったのが災いして、その日以来定期的に姉にAOで遊ぶ事を誘われて、例の光景をフラッシュバックしてしまい逆効果になってしまった。
その後も姉からの僕のAO復帰要求は続き、耐え切れなくなった僕は仕方なくAOをやらない理由を姉に述べた所、姉からこの前僕が見た光景がAO内で頻発しているという事を教えてくれた。
どうやら統括AIの随時自動アップデートの影響でその様な行動をするモンスターが増えて運営にクレームが殺到していらしい。
僕のAOでの話を聞いた姉はそのアップデート内容は近日中に削除されるという旨を僕に伝えて、消えたら一緒にログインしようと言って一時的に復帰要求を止めてくれた。 だが、姉には悪いが僕はもう、AOへログインする気はしない。
思い出すだけであの様な症状が出てしまうのも理由の一つだが、また何かの拍子であの様な光景を次見てしまったら僕は自分を維持出来ないかもしれない。
それに前から僕が続けていたゲームの世界ランキング戦が始まった。
僕の本命のゲームは元々こちらだ。姉には悪いが今更、AOなんてやっている暇は無い。
「さて、目指すはDG世界ランク1位。僕ならやれるさ」
こうして、真実を知るまで僕はAOの事を深く考えるのはやめた。




