第12.5話 迷宮生活1日目と2日目の間:部屋とワイシャツと僕
今回は12話と13話の間の話になるので短いです。
次回からは通常の長さに戻ります。
迷宮生活1日目:夜中――――――――自室
「んっ―――しまった寝てたか!?」
「おはようございます。ご主人様」
「あぁ、おはようミッチー。今何時だ?」
「現在、23時50分です」
「やばっ!リリアとの約束をすっぽかした」
ベアトリスを詰め所に送り届けた後に、全身の疲労が限界に達していたので僕は一度自室に戻り休憩をしていた。
どうやら、休憩だけのつもりが眠ってしまっていたらしい。
一度休憩してからリリアに報告に行く旨をメリジューヌさんに伝えて自室に戻ったのだが……思いっきり約束をすっぽかしてしまった。
「メリジューヌ様は20時過ぎに心配してこちらに来られましたが、ご主人様の状況を確認して帰られました」
「そうか、明日謝らないとな……」
「後、お食事と替えの衣服を置いて行ってくれました」
実は僕はここに召喚されてから一度も着替えていなかった。
理由はまぁ、当たり前だが突然召喚されたので替えの衣服が手持ちに無い。
そして、此処の資源状況を見るに「毎日衣服を変えたいから服を何着かよこせ!」とは言い難かったのだ。
しかも、先程の戦闘で今まで着ていた服は黒焦げになってしまったので、服をどうにか調達しなければいけないと思っていた所だった。
「後でメリジューヌさんにお礼言わなきゃ。で、服は何処にあるのミッチー?」
「そちらのテーブルに置いてあります」
「へ?テーブル?」
「はい、そちらもメリジューヌ様が持ってきてくださいました」
僕が部屋を見回すと、部屋の端に小さな四角い木製のテーブルと椅子が2脚置かれていた。
「おぉ!メリジューヌさんに頭が上がらないなもう……」
なんか、もうメリジューヌさん完璧にお母さんポジションだよね。僕の第3の母と言っても良い。(ちなみに第2は姉が自称していた)
「早速着替えるか……って、この服……ワイシャツとジーンズ?」
メリジューヌさんが持ってきてくれた衣服は、ワイシャツとジーンズ。
それと、灰色の布で作れた薄手の下着上下と、同じく布で作られた薄手の衣服上下だった。
しかし薄手の下着と衣服の上下はまだ分る。だが、ワイシャツとジーンズは何故こんな異世界に在るんだ?
もしかすると、この世界の服装は僕の居た世界とそう変わらないのか?
いや、広間に居た人たちはファンタジーRPGの村人みたいな格好をしていた。
ジーンズのような物を穿いている人は見なかっと思う。
うーん、まぁ自分で回答が見つからない時はいつものミッチー相談所だな。
「なぁ、ミッチーこの服ってもしかして僕の世界の物じゃないのか?」
「いえ、こちらの世界で作られた物です。僅かですが、マナの反応があります」
「でもこの作りや生地って僕の世界に在った物と、ほとんど変わらないぞ?」
「それでしたら、ご主人様の世界から来た方が作られたのではないですか?」
「僕以外にもこの世界に来ている人間が居るのか?」
「はい。ご主人様がこちらに来た方法とは異なりますが、ご主人様の世界より弾き出された者達がこの世界に流される事はあります」
あっ!そういえばリリアと初めて会った時に同じような事をリリアが言っていたな。
確か、『偶に異界から人間が流れて来る』だったか?
なるほどなぁ。もし、そういう人が作る技術を持っていれば、この衣服のな謎が解けたと言って良いだろう。
だけど、弾き出されたって何だ?
「ミッチー今、弾き出されるって言ったけど、どういう意味だ?」
「言葉通りの意味です。ご主人様の世界には大きく世界に定められた法則を外れた者が、世界から自動的に排出される仕組みがあるのです」
「何だそれ?聞いた事もないぞ」
「ご主人様に分りやすく例えると、神隠しに遇います」
原因不明の失踪者は毎年結構な人数が確認されているというけど、その中にこの世界に流れてきている人が居るって事か。
「神隠しか……どうしてそんな目にあうんだ?」
「基本的には、世界の常識の範疇を越えてしまった者に適用されます。主に力が強くなりすぎた異能者が弾かれて来るようです」
「異能者?」
「ご主人様に分りやすく例えるならば能力が規定以上に達した、超能力者、魔術師、後は突然変異で普通の生き物から生まれた魔獣等ですね」
ふむ、魔術師や魔獣なんてのは幻想の者だと思っていたが僕の世界にも居るのか。
超能力者はまぁスプーン曲げとか透視を出来る人がテレビに出てたのを見たことが有るから居るのかもしれないが……でも、このミッチーの発言が真実ならば、一つの謎が解けたかもしれない。
魔術のような異能が僕の世界にも有るという事は、それを利用して何かを起こそうとする者達も居るはずだ。
「もしかして、AOの冒険者達もこの異能とやらの技術で作られているのか?」
リリアは冒険者達が、この世界の技術以外で作られた人形だと、推測していた。
だが、僕の世界に人形なんて者は無い。少なくても一般的には知られていない。
人形の性質に良く似たロボットなら在るが、あんな壊れ方をするロボットなんて聞いた事もない。
だが、僕の世界に魔術があるなら話は変わるだろう。
僕の世界の科学力と魔術が合わされば僕では想定できない様な事も実現出来るのかもしれない。
「ご推察の通りです。残骸から吸収したマナ結晶に、ご主人さまの世界の魔術体系の痕跡が見受けられました」
「やはりそうか。少しだけ敵の正体が見えてきたな。他、分析で分った事はあるか?」
「マナ結晶分析の結果、単体組織が作り上げれる物ではないということも分りました」
「どういうことだ?」
「使用されている術式の幅が広すぎます。カバラ、ゴエティア、神道、密教、原始シャーマニズ他多数の宗派や魔術組織の技術が発見されました」
ふむ、となると……
「AO自体複数企業が合資会社を作って運営していたからな。もしかするとそういう組織が混ざっているのかもな」
「なるほど。AOというゲームは複数組織が合同で作った物なのですね。でしたら、複数の異なる魔術体系を利用しているのも納得できますね」
おや?今のミッチーの発言には違和感があるな……敵はAOプレイヤーなのだから、僕が知っているAO知識についてはミッチーも知っていると思っていたが、違うのか?
「ん?ミッチーその言い方だと、AOについての僕の記憶は参照していないのか?」
「はい。参照したくても出来ませんでした」
「ん?参照出来ない?」
「はい。その記憶は厳重な情報保護がされていたので、私では参照できません」
「は?情報保護?誰がそんな物かけたんだ?」
「ご主人様の記憶なのですから、ご主人様が掛けた物です」
「いやいや、僕は頭の中にそんな物かけられる特技はないぞ」
「記憶の情報保護は誰でも作れるものです。無意識に思い出さないようにされていたり、誰にも知られたくないという気持ちが強固な情報保護となります」
「あぁ…………そういう事か……」
僕は必要がない限り、極力AOの事は思い出さないようにしている。
AOでの出来事を思い出してしまうからだ。
あの出来事思い出すと気分がおかしくなる。
「その感情です。それが情報保護です」
「なるほどね。確かに最近だとコレが一番嫌な記憶だからね」
「そうなのですね。ですがご主人様、大変申し上げにくいのですがAOについて詳しくお伺いして良いですか?」
「理由は?」
「マナ結晶分析と今後の戦況分析や、ご主人様をお助けするのに正確な情報は必要ですのでお願いします」
「む、結構正当な理由だな……」
興味本位で聞かれたならば断るつもりだったが、これでは断り難い。
それにAOの事を思い出すのは嫌だが、一度吐き出して楽になってみるのも良いかもしれない……
「分ったじゃあ話すよ。その代わり魔族の皆に他言無用だ」
「はい。お約束します」
丁度日が回った頃、僕はミッチーに全てを語り始めた




