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迷宮の新米守護者  作者: 板 竹輪
第1章 迷宮の新米守護者
13/45

第12話 迷宮生活1日目後編:天敵/猫と和解せよ

また、少しお話が長いです。

  1層階段部屋前――――――――ベアトリス視点


 階段部屋前通路に複数の爆発音が響く。

 通路には現在ベアトリス率いる獣人小隊と冒険者2名が戦闘中だ。


 戦闘の状況は獣人部隊が劣勢だ。

 理由は冒険者の放つ着弾すると爆発する矢のせいだ。

 洞窟外壁を傷つけれるほどの威力ではないが広範囲に火炎をばら撒いてくる。

 ベアトリスは生来、火への耐性を持った体なので、この程度の爆発は火の粉程度にしか感じない。

 だが、他の獣人達は違う。


 獣人は基本的に火に弱い。

 しかも、この1層の狭い通路は獣人達の回避力を活かせないのに加え、あの爆発のせいで着実にダメージを蓄積させた獣人達は息も絶え絶えになり、全員満身創痍だ。


「お前たち、何やっているにゃさっさとあたしが抑えているうちに逃げるにゃ!」


 後ろを向かず半人半馬の獣人に命令を下す。


「だめです。トマスが足をやられて……」

「んじゃ、全員で抱えてさっさと行くにゃ!」


 トマスというのはベアトリスの部隊の前衛担当の者で、半人半鰐のの戦士だ。

 小隊全員で抱えないと運べないほどの大柄な男なので、全員で抱えていくように命令した。


「でも、姐さんはどうするんですか?」

「お前たちに心配されるほど落ちぶれてないにゃ、こんにゃ奴等あたし一人十分だにゃ」


 部下に撤退命令をする間にもゴウッと燃え盛る音共に爆発する矢が飛んでくる。

 そして、ベアトリスは自分の愛用の鞭で叩き落す。

 矢が轟音を上げて弾けるがベアトリスにも鞭にもダメージはない。

 火鼠皮の鞭、ベアトリスの家に伝わっていた魔鞭だ。

 この鞭は決して燃えず、鞭自体も炎を帯びていて鞭で打ち付けた相手を延焼させる効果もある。

 現在、この鞭の性能のお陰で部下達の命の守りきれている。


 しかし、部下には嗚呼言ったが、正直いつまで持つか分らないというのが本音だ。

 飛んでくる爆発矢の火炎ダメージなら自分の体はほとんど火でダメージを受けないので問題ない。

 だが、爆風は別だ。もし、あれに直撃したら爆風で壁に叩きつけられ無事では済まないだろう。

 しかも、相手の狙いは正確だ。

 ここでベアトリスが下がり階段部屋の中に逃げ込もうとすれば、矢は部屋の入り口の狭い戸口に飛んできて回避できない爆風の直撃を食らう。


 だが、部下達は逃がす事くらいは出来る。

 逃げようとする部下達を狙う矢は最前線でベアトリスが叩き落として時間を稼げば良い。


「おら!ささっと行くにゃ!」

「分りました。俺たちが逃げたら直ぐに姐さんも逃げてください」

「無用な心配にゃ、さっさと行くにゃ!!後、逃げ切ったらオーカスのおっさんに、こいつ等の事を急いで伝えるにゃ」


 部下達はトマスを抱え階段の有る部屋へ入っていく。

 それを見て冒険者は矢を同時に3本放ってきた。


 再び鞭で迎撃する。

 だが部下を狙った2本まで巻き取れたがベアトリスを狙った、

 3本目は巻き取り損ねて弾く事しか出来なく、洞窟の床に着弾した。

 床に着弾すると同時にベアトリスの足元に石礫が刺さる。


「ぐあ、こんにゃもんでー!」


 牽制の為に皮ジャッケトの懐から投げナイフを出して射手に投げつける。

 だが、投げナイフは不自然に起動を変えて、もう一人の重鎧の男に吸われていく。

 そのまま鎧で覆われた手に弾かれて刃が砕かけ敢え無く破片が地面に落ちた。


「またそれかにゃ!どうなってるんにゃ」


 ベアトリス達とて、黙って攻撃を受けていた訳ではない。

 接敵した段階で遠距離武器で、先制攻撃を仕掛けたのだ。

 だが、全て重鎧の男に攻撃を引き寄せられて防がれてしまうのだ。

 遠距離攻撃が駄目ならと、近づこうとしたらあの爆発矢の嵐だ。

 相性がベアトリスの小隊と完全に悪かった。


「貧乏クシ引いたにゃ……」


 そもそも、ベアトリスの部隊は2層の遊撃専門だ。

 この階層には本来ならばグシオスの部隊の担当であった。

 まったくの管轄違いの場所で死に掛けている自分の運の悪さに嫌気が差してくる。


「メリーちゃんのお願いでも聞くんじゃなかったにゃこれは」


 そもそも、管轄違いのベアトリスの部隊が何故1層に迄来ているのかというと、友人のメリーに非常に億劫な頼み事をされたからだ。


 ***


 夕方の任務交代時間になり、ベアトリスの部隊が詰め所に戻った所、なにやら詰め所が騒がしかった。

 詰め所では、多くの魔族達が何やら真剣な表情で忙しそうに詰め所を駆けずり回っていた。その人数は普段の夕刻の交代時間の倍以上だった。

 恐らく此の遺跡の全戦力が集まっているのだろう。

 しかも、魔族達は巡回用の軽装ではなく、冒険者迎撃戦用の重装備に着替ている。

 そして、オーカスが何やら激を飛ばして隊の編成を行なっている。

 この様子はまるで昨日の冒険者達が襲撃してきた焼き直しの様だった。 


「おい!何事かにゃ?」


 この詰め所の慌しい様相で大よその予想できたが詳細を確認する為にベアトリスは近くにいた女性の親衛隊兵に声を掛ける。


「ベアトリス隊長殿、お疲れ様です。実は今――」


 彼女の話を聞くとベアトリスの予想通りの返答が帰って来た。


 どうやら、遺跡の外にある侵入者検知の魔道具に反応が有ったらしく、緊急の防衛体制の準備をしているらしい。

 冒険者の数は7名。

 しかも検知魔道具のマナ感知センサー反応にははあの雑魚鎧の反応は一人も無かったらしい。

 つまり、どれも強力な冒険者の可能性があるのだという。


 その話を聞いた、ベアトリスはオーカスに指示を仰ぎに向かった。

 オーカスの指示に従うのは癪だが、あのオークの防衛戦の指揮は卓越していると言って良い。

 事、防衛戦ならばオーカスの指揮に従っておいて間違いはないだろうと思った。 

 そう、思い詰め所の奥に居るオーカスの元に向かったが、オーカスは困り顔で誰かと必死に話していてる。

 話が終るまで待とうかと思ったが、常に部下に威厳ある態度で接するオーカスにしては珍しい表情だったので話し相手が、誰か気になりもっとオーカスに近づいた。


「――オーカス卿そこをなんとか!」

「しかしですな、今から――を回しても間に合わないと――」

「あの方は姫様と――達の――」

「それは、分っております。ですが――」


 周りの喧騒で会話の内容は良く聞き取れないが、会話の相手は分った。

 それは親衛隊を毛嫌いしているので、この詰め所には滅多に顔を見せないメリーだった。

 二人の様子を観察していると、滅多に他人に感情を表さないメリーが、必死に何か訴えている。


 メリーには悪いがそんな友人の滅多に無い様子が気になったので、もう少しだけ近づいて話を盗み聞く事にしたのだが……こんな選択をしてしまったのがベアトリスにとっては、運の尽きだった。


「出来れば私が行きたいくらいなんです!でもこの足では間に合わないので、お願いしているのではありませんか!」

「ですから我輩達も――」


 オーカスがメリーの言葉の勢いに圧されて誰かに助けを求めるように顔をこちらに向けた。


「ん?おぉ!良い所に適任の者がいました!」


 そして丁度良くオーカスはベアトリスを見つけてしまい。メリーに知らせたのだ。


「む適任?あぁトリス!丁度良い所に」


 こちらを見つめるメリーは怒りが混じった必死の形相を崩して安堵の表情を浮かべた。


「メリジューヌ殿、頼まれるならあちらに頼まれた方が成功率は高くなりますぞ!」

「そうですね。オーカス卿我侭を言って申し訳ありませんでした。ベアトリスに頼んでみます」

「それでは、我輩は兵の編成せねばなりませんので、これにて失礼を……」

「はい。ご迷惑をおかけしました」


 オーカスがメリーへ別れの挨拶をして、急ぎ足でベアトリスの横を通り抜けていた。

 そして、メリーが申し訳無さそうな表情でこちらに駆け寄ってくる。


「トリスお願いがあるの!」


 メリーが二人で居るときにしか使わない愛称で呼んでくる。

 この様に人の目がある時は、この友人は普段は自分のことを『ベアトリス』と呼ぶ(期限が悪い時や、ベアトリスが何かをやらかした時は『駄猫』と呼ぶが)

 何か、冷静ではいられない状況の様だ。


「メ、メリーちゃん、どうしたにゃ?」

「あのね――」 


 メリーの願いは最悪だった。


 どうやら、あの人間が1層を見に行ったまま戻っていないと言うのだ。

 ベアトリスはあんな人間どうでも良かったし、むしろ死んでくれた方が色々と都合がよかった。

 だが、メリーは今まで見たことが無い取り乱し様で、ベアトリスにあの人間を助けて欲しいと言うのだ。


 自分は足を怪我しているからあの人間を助けに行っても間に合わない。だから代わりに行ってくれと……

 あの姫様以外の事でメリーが誰かに頼み事をする事は滅多にない。異常事態といって良い状況だ。


 本来ならばこんな願い聞き入れるべきではないが……ベアトリスはメリーを友人だと思っている。

 城の撤退戦の時には命も助けられた。他にも多くの借りが有る。ならば、ベアトリスとしては非常に不本意だが、助けに行かない訳にいかなかったのである。


 まぁ、自分達の部隊はこの迷宮で最速だ。

 あの人間が運良く生きていれば捕まえて逃げてくる事も可能だろうと思っていた。


 だが、考えが甘かった。

 結果はたった2名の冒険者に足止めさせられ、しかも退路まで断たれ絶望的状況だ。


「他の獣人には逃げられましたか……まぁこのワーキャットの武器はレアの様なのでこれだけでも美味しいですね」

「はい、まぁ生きて此処を出れなかったら倒しても同じですけどねー」

「それについては、一つ気になっている事があります」

「気になる事ですか」

「えぇ、アイシルさん、このワーキャットを倒したら一度入り口に戻りましょう。やはり、先程の爆発音が気になります」

「確かに凄い音でしたね」

「ええ、もしかするとギルマス達があの壁の破壊ギミックを発見して、壁を破壊した音だったのかもしれません」

「なるほど。でも、あのギルマスと顔合わせるのは……もうちょっと嫌ですね……」

「彼の性格なら私達なんて放っておいて逃げてますよ」

「あー確かに言えてますね……」

「まぁ私も顔合わせたくないのでとりあえずはこんな奥まで来て時間潰してしまいましたがね」

「アハハ……では、まずこのワーキャットを倒してしまいしょう。予定通り矢をフリージングアローに変えますね」

「お願いします。守りは任せてください」


 冒険者達が何か和やかに会話をしている様だが、何を言っているのか当然分らない。

 自分をどうやって殺すかの算段でもしているのだろうか?


 会話は終ったのか、弓を持った獣人の冒険者が長弓に矢をつがえる。 

 だが、こちらの対処は今まで通りだ。

 叩き落せば良い、自分の逃走はもはや不可能だが、部下達が逃げる時間を稼げれば良い。

 かつて、城の撤退戦でベアトリスを守った者達がそうした様に今度は自分がその役目をするだけだと覚悟決めている


「フリージングアロー!」


 冒険者が弓を放つ。

 今回は単調に1発撃ってきただけだ。当たり前の様に叩き落す。

 だが、鞭に矢が接触した瞬間前回とは反応が違った。

 鞭がいきなり固まった。続いて手首まで急速な冷たさが走った。

 手首と一緒に鞭が凍り付いてしまった。


「まずいにゃっ」


 最悪の事態に思わず叫んだが、叫んだ所でもはやどうにもならない。 

 冒険者が第2射を放ってきた、今度は足元だ。

 矢自体は無理矢理避けたが、尻餅をついて体制を崩してしまった。

 続けて第3射がくる。

 横に転がって避けようとする。だが、体が動かない。足元が凍り付いて靴が地面に張り付いていた。

 ゆっくりと、矢が飛んでくるように様に見える。


「あぁ、こんな死に方かにゃ……」


 その後ベアトリスの視界は闇に包まれた…………突如地面から迫りだした何かに吹き飛ばされ、頭を打ったベアトリスは意識を失ったのだ。



 1層階段部屋前通路――――――――立花剣視点


「前方石壁緊急起動完了しました」 


 間に合った!流石に今のはギリギリだった。

 階段部屋への侵入防止用に仕掛けていた石壁が偶々良い位置にあってよかった。



「ホークさん!これは入り口に発生した壁と同じ物です!」

「む?確かに、だが先程までこんなもの出てくる気配はなかった。ということは……」


剣の罠(ソードトラップ)遠距離個体に2連起動します』

「ヘイトコントール!!」


 ホークがミッチーアナウンスと同時にスキル名らしきものを叫んだ。

 アイシルを狙った壁から飛び出した剣は、何故かアイシルを狙わずにホークに斬激を加えた。

 しかも、ホークに剣が当たった瞬間に砕けてしまった。


『ターゲット強制変更されました。剣の罠破損、機能停止しました』


 なんだ?何が起こった!?

 慌てるな、冷静に対処するんだ。


 僕は冷静にミッチーに命令を下す。


「ミッチー天上にとりあえず矢罠アロートラップ3基設置お願い」

「了解しました。矢罠設置します」



「アイシルさん、トゥルーアイをお願いします。どうやら何か他に居るようだ」

「了解ですホークさん。トゥルーアイ!」


 アイシルの目が白く輝く。


「設置完了しました対象設定をお願いします」

「対象は遠距離個体だ!」

「そこの鍾乳石の裏に何かとても危険な気配を発している何かが居ます!後、天上に何か仕掛けられましたので迎撃します」

「分りましたそこの裏ですね!オーラブレイド!」

「エクスプローションアロー!」

「了解しました。矢罠発射します」


 まず、最初に矢罠の矢が発射される音がした。

 その後にアイシルが天上に矢を放ち、ホークが剣から何かを飛ばしてきた。

 天上で激しい爆発音がした後に僕の隠れていた鍾乳石が粉砕される。


 『ターゲット強制変更されました』

 『矢罠破損機能停止しました』


 アイシルを狙ったはずの矢は全て粉々になってホークの足元に落ちていた。

 またか……やはり攻撃を吸い寄せているのか?あれは厄介だな。


 しかし、厄介なのはホークだけではない。

 アイシルはこちらが罠を発射する前に罠を感知していた。あれが道中の罠を破壊してきた正体だろう。


 なるほど、あの眼で罠の位置を確認して破壊してたわけか、しかも隠れている僕まで見つけてきた。

 あれは厄介だな……云わば僕の天敵のような眼だ。

 あちらのアイシルと呼ばれていた獣人女から倒したい。 

 だが、罠のターゲットを強制的に変えているらしいスキルのせいでアイシルへの攻撃が通らない。どうする?


 僕がこの二人の攻略方法を必死に考えていると、アイシルは僕の姿を見て困惑の声をあげた


「あれ?唯のゴブリン?もっと危ない気配だった気がしたんだけど……気のせい?」

「いえ、確かに見た目はゴブリンのようですが、あの手に持っている剣は、ギルマスが持っていた火炎宝剣(ファイヤーブランド)ですね……」

「なるほど。あの剣を脅威判定して私の眼が反応したのでしょうか?」

「それも有ると思いますが、あの剣を持っているという事は、ギルマスはあのゴブリンに倒された可能性があります」

「他の皆も居たはずなのに、ギルマスを倒した……そうなると、先程の爆発音はこのゴブリンの仕業かもしれませんね」

「えぇ、十分有り得る話ですね」


 ふむ、ゴブリン程度と侮ってくれた方が楽なんだけどな……入り口でほとんど自滅したらあいつらとは随分違いそうだ。


「まぁ、どちらにしても脅威なのは変わりません。一度攻撃してみますか?」

「そうですね。オーラはクールタイム中ですし、リベンジはチャージが足りません。アイシルさんお任せしていいですか?」

「はい任せてください」


 アイシルは矢をこちらに向けて放った。

 避けれない速度ではないが、ミッチーの自動防御(オートガード)に任せよう。

 石壁裏で少し作戦タイムだ。


『自動防御:石壁起動します』


 ミッチーアナウンスの直後『石壁』が競りあがり通路を完全に塞ぐ。

 そして、1射目の矢と爆発を完全に防いだ。


「これは!やはりあのゴブリンが、この壁の発生源の様ですね」

「続けて攻撃します!」


 その後も、立て続けに矢と爆発が壁に当たる音がしたが、『石壁』はビクともしない。

 やはり、入り口で上半身裸の冒険者(確か鴨葱だったか?)が言っていた様に物理火力でこの壁を破壊はそう易々と破壊は出来ないようだ。

 アクセルのロケットパンチとメリジューヌさんが異常なだけだったんだな……


 冒険者達は、攻撃しても無駄だと分ったのか今は矢が止まっている。

 さて、どうやって反撃する?あのホークに狙いを強制的に引っ張られるのは厄介だ。


「ミッチー、罠の狙いが重鎧の男に引っ張られた詳細はわかるか?」

「詳細は分りませんが、あの個体が叫んだ後に魔力の様な物が発せられターゲットが引き寄せられました」

「やはり、攻撃を引き寄せる能力か……」


 あの厄介な能力の対策を考える為にも、とりあえずもう少し攻撃をして色々試してみるか。


「ミッチーここから壁の向こう側に罠は置けるか?」

「不可能です。ご主人様の視界が通らない場所に設置はできません」

「ならとりあえず矢罠を天上に4基配置で、射撃方向は石壁の向こう側だ。2基は一名ずつ個別に狙いをつけてくれ」

「もう、2基はどうしますか?」

「狙いはつけなくて良い。ランダムに打ち続けてくれ」

「了解しました。矢罠設置開始します」

「設置が終ったら石壁を解除する。解除と同時に射撃を開始してくれ」

「矢罠設置完了しました。射撃命令了解です」

「OK、『解除』だ!」


 僕の解除命令に併せて、石壁が紫色の光を発して消え去る。


「む?壁が消えた!?」

「天上何かあります!」


 獣人女が弓を構えると同時に矢罠は射撃を開始した。

 狙いを付けた矢は全て、重鎧に吸われて鎧に当たって砕けた。

 そして、でたらめに放たれた矢はあらぬ方向に飛んでいった矢は直進し、壁や床に当たって地に落ちていく。

 しかしながら、重鎧や獣人女に向かっていった矢は前回の罠の様にターゲットを引き寄せられることなく真っ直ぐに軌道を変えずに飛んでいく。


「きゃあ!」


 矢の数発が獣人女に流れていき、矢が女の足に突き刺さる。


  「アイシルさん!?クッ!これはターゲットが!?」


 ホークは矢を引き付けるのを失敗したらしく、後ろを振り返りアイシルの被害を確認した後にアイシルを庇うように立ちはだかる。


「私が盾になります!天井の罠の破壊を!」

「はい!」


 アイシルがホークの影から弓を射撃し罠が全て爆発する矢で破壊される。

 そして爆風で通路に取り付けられていた松明も吹き飛び通路が暗闇に包まれえた。

 アイシルが今度は弓をこちらに向けて何かまた、スキル名らしきもの叫ぶ


「よくもやってくれたわね!スパークアロー!」

「チィッ!ミッチー敵後方に矢罠設置後ランダム射撃だ!」

「矢罠設置します」


 闇を切り裂いて広範囲に雷光を吹き散らす矢がこちらに飛んでくる。


 『自動防御『石壁』起動します』


 轟音を立てて高速で石壁が競りあがるが、矢より吹き出る雷光が、石壁が競りあがり切る前に僕に接触した。


「ぐあぁあ」


 全身に電気が走って痛みに近い痺れが全身を駈け抜けた。

 その直後、競りあがった石壁の向こうから冒険者達の叫びが聞こえた。


「えっ後ろ?しまったっ灯りが!!」

「アイシルさん私の後ろへ!それとすぐに灯りを付けて!」


 その数秒後、石壁の向こうで破裂音が聞こえて来てミッチーの矢罠破壊アナウンスが流れた。

 そして、石壁の向こうから冒険者達の声が聞こえる。


「クッ。あのゴブリン何かおかしい、まるでこちらの能力を試しているかの様なな攻撃だ」

「はい、それにまるでこちらの動きを予測している様な動きもしますね」

「アイシルさんとりあえずダメージ部位にポーションを使ってください」

「まだ、HPは7割もありますし、使うほどでは……」

「部位損傷状態で、あのゴブリン相手に戦うのはまずいです」

「確かにホークさんが仰るとおりですね。ポーション使います」

「矢の残数はどうですか?」

「まだまだ大丈夫です」


 とまぁ、僕の今の攻撃は回復されて尚且つ相手にはまだ余裕がある会話が聞こえる。

 おおよそ攻略方法は見えてきたけど……少し考えをまとめる必要は有るな。


「ご主人様!申し訳ありません。予想より敵の攻撃範囲が広く一部防ぎきれませんでした」

「軽く当たっただけだから、大丈夫だ」


 軽く感電しただけだが、手足がまだ痺れている。

 少し石壁を盾にして休憩を取ろう。


「ご主人様撤退を進言します。この敵はご主人様と相性が悪すぎます」

「まだ……やれる。それに少し考えを整理したい、少し時間をくれ」


 ターゲット引き寄せのからくりは見えてきた。

 あれは『狙い』付けると引き寄せるのだ。似た様な効果の能力をRPGで見たことがある。

 故に広範囲の全方位攻撃で攻撃すれば、曲がらないでアイシルを巻き込める。先程のように庇われると意味はないが……

 ホークは絶対にアイシルを庇おうとするだろうから、そこに付け込んで、ホークを打倒してしまった方が手早く済むかもしれない。


 次にあのアイシルの眼だ。

 弱点が分り始めた。

 アイシルが発した声から察するするに、最後の矢罠を検知出来ていなかった。

 恐らく、周囲が暗いとあの眼は機能しない。


 思えば、この通路に来る途中は罠を発見できたのに入り口の罠は発見できないのか気にはなっていた。

 あのスキルで発見しようとしても、できなかったのだ。

 明かりを付けると未確定の謎の攻撃に晒される。

 だがこの中央通路には途中から松明が壁に取り付けられていた。

 罠が発見されたのとされないのはその差では無いかと思う。

 それに加え、背後の鍾乳石の裏に隠れていた僕を発見していたのに、石壁解除前に設置した矢罠は石壁解除後にしか発見できなかったのも弱点の証明になる。

 恐らくあの眼は危険を察知する、全天全周囲レーダーみたいな物なのだろう。

 ただアイシルが居る空間から完全に光が通らない所は感知できないのだ。

 つまり、途中に完全な暗闇があるとあの目の検知効果は機能しない。

 恐らくアイシルの眼の弱点はこれで間違いは無い


 視界を完全に潰す方法は幾つか思いつく、これであの眼には対処できる。

 しかし、『ターゲット引き寄せ』と『危機察知の眼』の二つは対処法は思いついたが、一つだけまだ問題点がある。


 あの重鎧だ。

 攻撃をするたびに攻撃した物が破砕している。

 強度とかの問題ではない、着弾した矢は木製の部分まで粉々になっていた。

 何か特殊な効果があるのだ。

 あれをなんとかしなければ最終的な勝利はない。


 とりあえず、今分った事と問題点を整理してみたが、どうしたもんかなこれ。

 まぁ、まずは困った時のミッチー相談所だな。


「ミッチーあの鎧の効果は分るか」

「おおよそですが、分析は出来てきました。武器破壊(ウェポンブレイク)の呪いに類する物が鎧全体を覆っているのだとおもいます」

「武器破壊か……そうすると、武器で倒すのは難しいか?」

「はい。武器で攻撃する場合は呪いに抗する様な強度か加護が必要です。私は魔力攻撃か属性魔術攻撃での攻撃を推奨します」

「武器以外にも接触したら破壊されるか?」

「強い呪いは効果を限定される場合が多いので、殺傷兵器でなければ呪いは発動しない可能性が高いです」

「なるほど……」


 各種罠を頭の中で構想するが、どれも致命傷を与える前に破壊される可能性がある……唯一、一撃必殺になりそうな魔力地雷マナマインは崩落の危険性があるのでお蔵入りだ。

 それに属性系や魔力攻撃系の罠は魔力消費が多い、何度も破壊されたらこちらの魔力がもたない……あ、一個燃費がよさそうな物があるな!


「ミッチー良い事思いついたコレっていけるか?」


 僕は頭の中の想像をミッチーに再現可能か問いかけた。


「これならば、確かにあの鎧の固体を破壊できる確率が高いですが……これ、作らないと駄目ですか?」

「無理なら別の考えるけど?」

「いえ、作るだけで作ってみますか」

「流石はミッチー、所でこれ剣折れない?大丈夫?」

「絶対に折れないとは保障できませんが、その剣の加護は強力です。損傷はする確立は低いです」


 良かった。せっかく手に入れた魔法剣だ、仕方なく雑な使い方をするとはいえ折るのは惜しい。


「じゃあこれを発射するまでのプランはこんな感じで」


 僕は頭の中で罠のコンビネーション構想して伝える。


「分りました。可能です」

「では全作業工程を開始します」

「OKじゃあ始めるぞ」


 『ミスリル縛鎖(チェインバインド)3基設置します』


 ミスリルかぁ、やはりRPGぽい世界だよなこの世界。

 今回は通常仕様の鉄製の縛鎖ではなく、物理強度と属性及び魔力耐性に優れる金属をミッチーにお願いしたのだが、どうやらミッチーは『ミスリル』を選択したらしい。


 『続いて、目隠霧(ブラインドミスト)噴霧装置(スプレー)頭上に1基期設置します』


 これはアイシルの視界を覆う為に『創造』した新罠『目隠霧噴霧装置』まぁ、名前の通り目隠し用の黒い霧を発生させる。

 バリエーションで、徐々に相手を弱らせる毒やら酸性の霧もあるが、僕も効果範囲に巻き込まれるので多分使う事はないと思う。



「じゃあ、行くぞミッチー『解除』!」

 

 『石壁の解除を確認。罠作動準備に入り』


 壁が消えた瞬間見えたのは、こちらに弓を構えるアイシラと剣を振りかぶる体制で仁王立ちしているホークであった。


「先手必勝!」

「リベンジブレイド!」


 アイシラが雷光を帯びた矢を放ち、ホークが白光の衝撃波を放ってくる

 なるほど。石壁が解除をされる瞬間をずっと狙っていた訳か、だが!


 『遠距離攻撃を確認。縛鎖(チェインバインド)通路を対象に起動』


 僕の前方の通路ににまず1個目の銀色の縛鎖が張り巡らされる。

 そして、直進してきた矢の進路を塞ぎ、雷光と矢を絡めとり、鎖で完全に防いだ。

 ホークが放った衝撃並も鎖に接触して鎖を切り裂けず消え去る。


「鎖!?どれだけ攻撃バリエーションがあるんですか!」 

「落ち着いてアイシルさん!直ぐに第2射を!矢はエクスプローションに変更を!」


目隠霧(ブラインドミスト)噴霧装置(スプレー)通路前方に噴霧開始』


 ミッチーアナウンスが流れると同時に黒い霧が冒険者達の周囲にに広がる。


「なんですかこの黒いの!?まったく前が見えない!」


 アイシラが悲鳴のような声あげている。

 どうやら、目隠しとして十分に機能しているようだ。


 続いて追加の脳内アナウンスが流れる。


『噴霧装置起動確認。縛鎖起動します対象;近距離個体』


 黒い霧に覆われる寸前に縛鎖がホークに殺到し、そのままホークの両腕に絡みつき縛りあげた。



「鎖だと?クっ外れない!やはりあのゴブリンこちらの能力を学習して対応している!?」

「ホークさん、大丈夫ですか!?今助けます」

「駄目だ。このゴブリンは手に負えない、アイシルさん君だけでも逃げてくれ!」

「そんな事出来ません!」


 良し!ここまでは予定通り!

 でもなんか……僕今、凄い悪役ぽくないか?

 身動きを取れなくなった相手と、それを助けようとしている人を一緒に爆破させるって、相当アレだよね……


 でも、この冒険者たちを生きて帰す訳には行かないな。

 特に彼らのように、ラルフの噂話に釣られて来る連中には痛い目に会って貰わなければならない。

 此処に入ったら生きては出られないという印象を持ってもらい、此の遺跡の危険性を冒険者達に印象付ける為だ。

 ついでに、この遺跡は危ないという噂も流してくれれば万々歳だね。


 やってることは悪役ぽいけど、大儀は我にありだ。止めを刺そう。


「ミッチー予定通り火炎宝剣射出用の大型矢罠を作る!剣を任せた」

「はい、剣を床に置いてください」


 僕はミッチーの指示通り床に剣を置くと床に剣が飲み込まれていった。

 その後、床が一瞬紫の光を発した後に炎が噴出して巨大なボウガンのような物が作られた。

 矢が装填されるべき場所には火炎宝剣が装填されている。

 む?これ僕が思っていた物と全然違うぞ……


 矢罠は元々、壁や天井に設置される罠で、小さな穴から矢を射出する罠だ。

 でも、この床に鎮座している物は……まるで中世の戦争で使われていた、城砦等を守る機械弓(バリスタ)じゃないか?


「なぁミッチーこれって罠じゃなくて拠点防衛用の兵器だよな?」


 ピシっという音がして、機械弓全体に罅が入り隙間から炎が噴出す。

 それと、同時に批難の声をミッチーが上げる。


「ご主人様!余計な事を考えないでください!」

「え!?何が?」

「せっかく私がご主人様の剣を射出したいなんて無理な想像を実現出来る様に『創造』したのに、ご主人様が罠じゃないと認識したから、崩壊が始まったじゃありませんか!」

「え?あれそういう物なの?『創造』って」

「そうです!使用者の認識が大事なんです。早く射出してください。矢罠が崩壊してしまいます」

「OK、照準はあの鎖が伸びている先だ。燃えろ!火炎宝剣!」


 この剣を手に入れた時に、僕が剣に触って命じた時は僕の周囲に火球が出来た。

 だが、今は刀身の周囲を囲うように火球が作られ、刀身の周囲で停滞している。

 多分ミッチーが何か細工をしたのだろう。


「撃てミッチー!」

「了解しました。火炎宝剣矢罠起動します!」


 ミッチーの起動宣言と同時に轟音を立てて機械弓が砕けて爆発した。が、爆発音と共に火炎宝剣が射出される。

 まるでロケット花火のような音を立てて火炎宝剣はまっすぐに黒い霧を切り裂きながら縛鎖の伸びる先へ向かう。

 そして、激しい金属同士がぶつかる音がした後に爆発がおこる。


「何だ?うぉおぁあああっ――――」

「えっ?な――――」


 爆発は冒険者達の叫びと黒い霧を吹き飛ばしながら火炎を通路に広げる。

 こちらまで、熱と暴風が流れ込んで来る。


「防護用の石壁起動しま――」

「駄目だ。あいつらが消し飛んだのを確認してからだ!」


 飛んでくる火の粉で髪と服が焦げ、皮膚は熱風のせいでチリチリとした痛みを訴える。だが、今冒険者達から視線を外す訳にはいかない、もし、これでも生きていたら爆発で怯んでいる隙に完璧な止めを刺す。で、なければ勝利はない。


 爆発のせいで通路の黒い霧が霧散して、燃え盛る洞窟の通路が見えてきた。

 洞窟の通路は少し崩れているが、魔力地雷の時ほどの被害は無い。

 少々壁崩れて瓦礫の山が出来ているが、天上の方には傷は無い。

 崩落の危険性は無さそうだ。


 そして、燃え盛る火炎によって朱に染まる通路の向こう側に冒険者たちは生き残って……居た。 

 正確にはホークのみだが、煙と燃え盛る通路に酷いダメージを負った姿を確認できる。


 ホークは腰から下を失い、縛りつけられている縛鎖で胴体を宙に浮かせている。

 本来ホークの足が有る筈の位置にには先程射出した火炎宝剣が落ちている。折れて無ければ良いが……


 ホークの赤い重鎧は爆発の熱で更に赤くなり、持っていた剣は中ほどからポッキリ折れているが、何故か黒く染まっていた。

 そして、ホークの周囲から青い光が漏れ出している。恐らく崩壊してマナ結晶になる寸前なのだろう。

 アイシルの姿は見えない。消し飛んだか?


 アイシルの生死が気になるがまずは、ホークから破壊(ころ)してしまおう。

 ホークさえいなければ、アイシルが生きていても破壊するのは容易だ。

 その時、僕の姿を認識したのか、ホークがこちらに向かって黒く染まる折れた剣を振りかぶる。


「リベンジブレイド!」


 ホークが叫びと同時にこちらに剣を振ると黒く染まった刀身は元の鉄色に戻り、代わりに前回使用時は白かった筈の衝撃波を黒く染め上げ撃ち放った。


『遠距離攻撃を確認、通路を対象に縛鎖起動します』


 大丈夫。この攻撃は縛鎖で止められた、慌てる必要はない。

 縛鎖の展開が終ったら更なる攻撃を加えよう。


 鎖が通路覆う。そして鎖と黒い衝撃派が衝突し、衝撃波の直進は止ま――らなかった。

 鎖が引き裂かれそのまま直進をして僕に向かって迫る。


 なんだ!?何で引き裂かれた?一度は防げたんだぞ!?


 『緊急起動『石壁』自動防御行ないます』


 急速に競りあがった石壁と黒い衝撃波が激突するが、石壁はそのまま通路を覆い完全に衝撃波を止めた。


 危なかった。今のはなんだったんだ?リベンジブレイド……復讐?……まさかダメージを受けるほど火力が上がるのか?


『縛鎖起動システムに深刻なエラー発生。石壁にもエラー発生の可能性有り』


「ご主人様!これは腐食の呪いです!罠の起動システムにまで呪いが及んでいます!」


 アナウンスに続いてミッチーが叫ぶ。それと同時に今度は石壁が黒く腐食して泥のようになって崩れ去っていく。


「アイシルさん今です。後は任せました!」

「任せられました!」


 泥になった石壁の向こう側隙間から通路が見える。

 通路には青い砂になりながら叫ぶホークと、左半身に火傷を負ったアイシルが瓦礫の山の上に立ち、弓をこちらに構えている。


 チッ瓦礫に隠れていたか!先程のエラーアナウンスを信じるともう防御は期待できない。ならば……避けるしかない!

 そして、僕は矢を避ける為に斜め前に走りこむ。それと同時にアイシルハ無言で矢を放ってくる。


『自動防御:石壁起動します』

『石壁起動にエラー発生。自動防御停止します。現状機能では防御不可能。機能制限解除準備に入ります』 


 アナウンスと、共に後方で床に爆発矢が着弾しこちらに爆風を伸ばしてくるが、転がりながら避ける。

 クソ防御用の石壁はまだ良いが、縛鎖が使えなくなったのが痛い。予定が狂った。

 僕は立ち上がりながら命令を告げる。 


「ミッチー15秒後、剣の罠設置と起動だ」

「はい。剣の罠設置及び設置後に敵個体へ起動させます」

「剣の罠を設置したら、矢罠も前方通路中央に設置と起動だ」

「了解しました。剣の罠設置完了後設置及び起動します」 


 機能制限解除を待っていたら殺される。

 現状使える罠で処理しなければならない。

 アイシルが再度、弓を構えてこちらに狙いを定める。


「剣の罠設置完了しました続いて――」

「横!?」

「起動します」


 側面の異常に気づいた、アイシルは瓦礫の上から横に大きく飛び、そのまま剣が飛び出た壁に爆発矢を打ち込む。


「矢罠設置完了しました」


 通路中央に着地したアイシルがこちらに矢を向けようとして頭上の異変に気づき頭上に弓を向ける。

 だが、遅い!


「矢罠射撃開始します」


 アイシルに矢の雨が降り注ぐが、アイシルは足や手に矢を受けながら、爆発矢を天上に向けて放つ。

 そして、矢罠が破壊される。


 これも、駄目か……ならば!


 僕はそのまま、青い砂になって空気に溶けかけたホークの残骸迄走る。


 前方を見据える。

 アイシルは現在ベアトリスさんを守る為に作った石壁の前まで下がっている。

 片手に小瓶を持ち、矢罠の矢を受けた手首にピンク色の液体をかけている。恐らくポーションだろう。

 この状況でポーションを使うという事は、恐らくあのダメージでは弓を構えられないのだろう。


「いける!「ミッチー『クモの巣(スパイダーネット)』敵10秒後設置!範囲は石壁前域だ。設置後すぐ落下させろ!」

「了解しました」


 ミッチーに命令を下しながら、空気に溶けかけたホークの残骸の中から火炎宝剣を引きずり出す、良かった折れてはいない様だ。

 柄が熱せられて右手が火傷しそうだが、そんな事構っている暇は無い。


 そのまま走る勢いを殺さず、片手に剣を持ってアイシルに向かって駆け続ける。

 突っ込んでくるこちらを見てアイシルが治療を取りやめ、大きく震える手でこちらに弓を構えてきた。

 あの震える手を見る限りまともに照準を付けれるとは思えない、このまま直進する。


「『クモの巣』設置します」

「また上!?」

「設置完了落下させます」


 またしても、頭上の異変に気づいたアイシルは、石壁に邪魔されてもう下がれないので、右横に傷ついた足で無理矢理横に飛ぶ。

 そしてそのまま空中で体を捻り頭上に向けて矢を放ち、矢は落下してくるクモの巣に当たり爆発した。

 この罠も迎撃され一見前回の攻防と、同じ結果に終るかに見えたが……今回は旨く行った。


 痛めた足で無理矢理飛んだ為、着地に失敗したアイシルは床に転がり、仰向けになって自分の頭上の光景を見開いて驚愕した。


「何これ!火が振ってくる!?」


 火のついたクモの巣が落下してアイシルに降そそいできたのだ。


 苦肉の策だったが、アイシルがうまく引っかかってくれて良かった。

 彼女は剣の罠から矢罠の攻防全てで、こちらへの攻撃より回避を優先していた。

 それを逆手に取った罠に彼女は嵌ったのである。


「熱っ熱いって!なにこれまた新しい攻撃!?ゲームバランスどうなってんですか!」


 アイシルは全身を燃え上らせながら、悲鳴のような抗議の声を上げている。

 熱いか……痛みは感じないのに、熱さは感じるのか?流石は五感再現に力を入れているAO(アバターオンライン)と言った所か。


「もう、どうにもならないならせめて、ダメージチェックだけでも!」


 そう叫んで、でたらめに矢を放ってくるがあらぬ方向に飛んで爆発するのみだ。


「腕と足が駄目になっている?嘘!照準(レティクル)が合わない!?」


 僕は燃え上がるクモの巣が張り付いた床を一気に踏み越えて転がって逃げようとするアイシルに接近する。


 恐らく足が動かなくなったので転がって逃げているのだろうけど、あの状況を見るに完全に戦闘不能だな彼女は……早く終らせよう。

 更に距離を詰めるべく全力疾走をし、彼女の元へ到達した時にミッチーが声をかけてきた。


「ご主人様、機能制限解除準備が整いましたが如何されますか?」

「ん、要らない。なんか体に悪いんだろ?アレ。それにもうこれで終わりだ」


 ミッチーの今更な質問に答えて僕は、足元で転げ回っているアイシルの首に剣を振り下した。

 綺麗に首と胴を寸断されたアイシルは、最後は声を上げる事もなく青い粉になって崩れ去った。


 そこで、戦闘に夢中になりすぎて気づいていなかった事に気づいた。

 何故か、剣を持った手がブルブルと震えている。まるで手全体が痙攣している様だ。

 疲労のせいか?死への恐怖か?それとも――

 その時、まるで僕に思考をさせたくないようにミッチーが僕の思考遮って話し掛けてきた。


「ご主人様、次からはこのような無謀な戦いは、止めてください」

「そうだな、ちょっと今回はミッチーのスペックに頼りすぎたのと、危ない選択が多かった次から気をつけるよ」

「はい、そうしてください。特に敵個体に近づく等もっての他です」

「まぁ、確かに危険だったけど、他に選択肢が無かったんだよ」


 防御に使える罠は全部使い物にならなくなり、剣の罠も矢罠も致命傷与えられなかったのだ。

 そうなると、相手の動きを制限して反撃する前に致命傷を与えるしかなかったので仕方なく剣を回収してからの接近戦という選択肢になったのである。


「今回は、偶々遠距離型が相手でしたので事無き終えましたが、近接攻撃型は人間が近寄るのは危険すぎますので今後は控えてください」


 確かに、ミッチーの言う事はもっともかもしれない。

 オーカスさんの報告には亜人や獣人の様な人間より身体的に優れる種族たちが接近戦で冒険者達に敗れるという報告が在った筈だ。


「まぁ、確かにそうか……OK以後気をつけるよ」

「ご理解して頂けたなら結構です。では、ベアトリス様をお助けしましょう」

「ん、ベアトリスさん逃げないでまだ壁向こう側に居るの?」

「お助けする時に出現させた石壁に飛ばされて意識を失っている様です」


 あぁ、そういえば石壁を出現させる時、跳ね飛ばされているのは一瞬見えていた様な気がする。

 まずいな、またこれを理由に絡まれたらどうしよう?

 まぁ、助けるのに必死だったと言い訳すれば良いか……


「『解除」」


 石壁を解除して倒れて所々焦げっぽくなっているベアトリスさんに駆け寄り様子を見る。

 床一面が凍りついている所に横たわっていたせいか、顔面は蒼白であまり血の毛はしないが、息はしているようだ。

 爆発に何度か晒されたせいか、服が所々破けていて寒さで白くなった肌が露出している。

 ついつい、白い肌に目が吸い付けられるが、今はそんな事をしている場合じゃない!


「ミッチー、ベアトリスさんの状態ははどうだ?」

「冷気の魔力に長時間侵食されて体温が落ちているようです」

「む、どうすればいい?」

「ベアトリス様を暖めるのが一番かと」

「そうなると、防衛線か、3層の広間に運ぶのが一番か?」


 先程まで爆発やらなんやらで燃え盛っていた炎は消えている、クモの巣も燃え尽きている。

 そして、現在この周囲はこの凍った床の冷気と夜の夜気のせいか分らないが、急速に温度が下がり始めている。

 2層や3層の魔族達が多く居る場所なら暖房器具もあるだろう。


「……そうですね。そちらが一番効果的だと思います」

「分った。ベアトリスさんごめんなさい勝手に抱えて運ぶけど起きても怒らないでくださいね」

「ご主人様、ベアトリス様は現在意識を失っていますので声を掛けても無駄です」

「分っているよ!なんていうか、勝手に女の人の体に触るんだから一応謝っておきたくなるだろ!?後、実は起きてた時とかの言い訳のためにさぁ」

「ご主人様が何を言っているのか良く分りません。心拍数が上がっています。落ち着いてください。」


 まぁミッチーにこういう機微を求めても駄目か。

 心拍数云々は聞き流す、だって仕方ないだろ僕だって健全な男子だ!


 さて、抱えて歩いてる時突然起きて手に持ったままの鞭で首を締められたり、顔を引っ掛かれたりしなければ良いな!

 しかし、抱え上げようとしてそこで気づいてしまった。


 火炎宝剣を手に持っていて片手が塞がっていてベアトリスさんを抱えられない!

 だが、ベアトリスさんの命には代えられないよな……むー仕方ない。この剣はここに置いていくか……


「では、ベアトリス様を背負われれば良いのではないですか?」


 僕の思考を勝手に読んで破壊力が高い提案してくる


「いあ、それは接触面積的にまずいような……?」


 ベアトリスさんはメリジューヌさん程ではないが、健全な男子には破壊力が高すぎるものをお持ちだ。


「先程から仰っている意味がわかりません。後また心拍数が上がっています」

「いや、その心構えとか色々あるんだよ!」

「リリア様を運ばれた時はそのように迷われてはいなかったと思います」

「あの時は逃げるのに必死だったし、リリアはほら年下だしアレだしね?」

「良く分りませんが。背負う利点があるのでベアトリス様を背負ってください」

「利点?」

「ご主人様が、背負われれば体温でベアトリス様が暖められ冷気の魔力の侵食が抑えられます。つまり、ベアトリス様の為です」

「む、じゃあしょうがないか……」 


 うん、ベアトリスさんの為だと言われればやるしかないよね。

 背負う理由が出来てちょっと嬉しいとか思ってないからね!


 迷宮生活1日目夜――――――――2層防衛戦線に向かう道中 


 やばい、色々やばい

 まず片手でベアトリスさんのお尻を押さえている左手がそろそろ限界だ。感触は最高だけど!

 火炎宝剣を持っている右手も疲労で何かプルプルしてる。

 それに僕の体自体が戦闘の後の疲れでフラフラしている。背中の感触は最高だけど!!

 このままだと、ベアトリスさんを落としてしまう!


「ミッチー、少し休憩を取りたいんだけど、ベアトリスさんの容態的には大丈夫か?」

「容態ですか?問題ありませんよ?急ぎでもありませんので」

「そうかなら……って、急ぎじゃないの?冷気の魔力の侵食とかいってなかったか?」

「はい、侵食が進みベアトリス様の体温が落ちてましたね」

「それだけ?命に別状とかは?」

「ありませんよ?」

「あれ?じゃあ僕なんで急いでここまでベアトリスさんを運ばされたんだ」

「ご主人様がベアトリス様直接運びたかったのではないのですか?」

「いやいや、待って僕そんなこと思ってない」

「そうなのですか?一瞬ベアトリス様を見て、触れてみたいという感情が見えたのでそうなのかと推測してしまいました」


 あー。確かに一瞬焦げてはだけた服から覗く白い肌に目が行ったけど、そこまで飛躍して解釈しちゃうかミッチー。


「確かに一瞬目が離せなくなったけどそこまでは思ってない!」

「そうですか……人間の思考は中々複雑ですね。以後気をつけます」


 ミッチーが珍しく瞬として元気のない声で以後気をつける旨伝えてきた。

 しかし、これに関しては僕にも責任があるのかもしれないな。

 実際ベアトリスさんに目が引き付けられた事実があった訳だし……思春期の男子には回避不可能な事象だとおもうけどね!


「う、うん。ほら僕も男だから色々と女性を相手にすると複雑なんだ」

「なるほど、学習しておきます」

「後、急ぎではないなら2層か3層の暖房まで運ぶ必要もなかったんじゃないのか?ミッチー2層か3層に運ぶの同意したよね?」

「はい。本来なら、別の方法を提案するつもりでしたがご主人様が『一番」と、仰ったので現状で一番効果が出る方法を取られるのかと思い同意しました」


 なんか、ミッチーの回答にどんどん脱力して行く自分が居る。

 僕の問いかけかた方が悪かったのだろうけど、正確過ぎるのも考え物だな。

 でも、ミッチーは別の提案をするつもりだったみたいだしこれもまぁ僕が悪いのか。


「で、本来ならどんな方法を提案するつもりだったの?」

「本来ならば火炎宝剣を発動させて周囲を暖めるのを推奨する予定でした」

「その手が有ったか……」


 僕はあれだけ、この剣で燃やして爆破してたのに、 この剣を暖房に使う事などまったく思いつかなかった。

 この剣を武器としか認識していなかったので、そんな使い方思いつきもしなかったのである。


「気づかれていなかったのですか?」

「うん、全然」

「なるほど、戦闘であれだけの応用力発揮されているので、この程度気づいているのかと思っていました」

「アハハ……僕戦闘以外は応用効かないのかもしれないね……」


 もう、なんか完全に疲れ切ってしまった。

 とりあえずベアトリスさんを降ろして少し休もう。


「んっっ」


 その時背後で声がした!


「ん?何処にゃ?暖かい…………ぎにゃああああああああ」

「あ、大丈夫ですか?ベア――やめて暴れないで落としちゃう。ちょっと!ひっかかないで頭が禿げる!!」

「降ろすにゃ!離すにゃ!あたしをどうするつもりだったにゃ!」

「降ろすから暴れないでーーーー」


 なんとか、暴れるのをやめてもらいベアトリスさんを降ろした。

 どうやらベアトリスさんは疲労で立っていられないらしく、僕から少し離れた壁まで這って逃げて行った。

 そして、こちらに向き直り涙目の必死な形相で威嚇してきた。

 頑張って助けたのに泣きたいのはこっちである。


 壁を背にして、胸元を隠して「フーッ」と猫威嚇を続けているベアトリスさんに、僕は必死に現状の説明行なったのだが……最初は信じてくれなくて色々と酷いことを言われた。

 最終的にミッチーが色々解説してくれて、やっと納得してくれ貰えた。ミッチーの話に納得してくれた後に、ベアトリスさんは僕を助けにメリジューヌさんから頼まれ1層に援軍に来てくれたという事を聞いた。


「とりあえず、不本意だけど助けられた礼は言っておくにゃ。ありとうにゃ」


 と、まぁ非情に不満そうに礼を述べられた


「いえ、こちらこそ援軍に来て頂きありがとうございました」

「別にお前の為に行った訳じゃにゃい、メリーちゃんの為にゃ。お前に礼を言われる筋合いは無いにゃ」 

「それでも、助けに来てくれたのは純粋に嬉しいです」

「……人間、お前変な奴だにゃ、普通これだけ敵意向ければ少しは態度にでるもんにゃなのに……」


 ベアトリスさんが言ってるのは、僕がまったく彼女の態度に不満を持っていないからだろう。

 実際、援軍にきてくれたと言う事実は嬉しかった。

 それに彼女が僕に対する態度はこの前の軍議での事を思い起こせば当然であるし、僕自身、彼女に悪い事をしたという気持ちも有る。

 しかも僕は、女性に罵られるのは姉で慣れているからね!この程度で機嫌を損ねる僕じゃない。(先程のベアトリスさんの罵りには泣きそうになったけど……)


「まぁ、本当にベアトリスさんの援軍は有り難く思っているんで、それくらいじゃあなんとも思いませんよ」

「ふん……変わった奴だにゃあ。所で人間お前幾つにゃ?」


 なんか、突拍子も無い事を聞かれた。

 幾つ?年齢だろうか?


「年齢ですか?年齢なら15ですけど」

「チッ、なんだ童顔なのに年上かにゃ、じゃあ名前に『さん』はつけなくて良いにゃん」


 おや?舌打ちの意味は分らないけど、これは何か歩み寄れそうな気配


「ん?ベアトリスさんを、ベアトリスって呼んで良いってことですか?」


 ちょっとおっかなビックリ名前を呼んでみる


「んだにゃ、後敬語もやめるにゃ堅苦しいのは嫌いにゃ」

「了解。ベアトリスこれでいいかい?じゃあ僕からもお願いがあるんだけど」

「なんだにゃ?場合によっては引っかくにゃよ?」


 なんか歩み寄れた気はするけど、警戒はされている感じだな


「『人間』呼びは余り好きじゃない。僕も名前で呼んで欲しい」


 なんか、距離感あって嫌だったんだよね。『人間』呼び。


「なんだそんな事かにゃ、んじゃ改めてよろしくにゃツルギ」

「良かったちゃんと名前覚えてくれてたんだね。よろしくね。ベアトリス」

「おう、んじゃそろそろ移動するかにゃ?」

「そうだね。歩ける?」

「なんとかにゃ、部下の連中が心配している早く戻るにゃ」


 立ち上がったベアトリスがふらっと倒れかける。


「って、駄目じゃないか。また背負うかい?」


 そう伝えると、なんかすっごいジト目で見られた。


「嫌にゃ、それをするくらいなら肩を貸すにゃ」

「あいあい、んじゃ手貸して」

「ん」


 ベアトリスの腕を預かり首にかける


「良し、行くよベアトリス」

「おう、あたしの為にキリキリ歩けにゃ」


 通路歩きながら、親睦を深める為に雑談する


「ちなみに、ベアトリスは幾つなの?」

「14にゃん」


 おお、14?14でそんなご立派な感じに育ってるの!?

 思わずベアトリスの顔を見つめてしまう。

 本来見たい場所はちょっと今は直視しないほうが良い。


「顔を見つめて何にゃん?もしかして、あたしの顔老けて見えるにゃん?」

「あ、いや年の割には立派だなと……」

「そうにゃん?いっつも餓鬼扱いされてるそんな事言われるのは珍しいにゃん。でも、あたしなんかより――」


 その時だ。通路奥の方から遠い声が聞こえた。


「姐さーーーんご無事ですかーーーー!」

「姐さん?」

「あたしの事だにゃ、部下の連中と若い連中はそうやってあたしを呼ぶにゃん」

「へーなんか、格好良いね」

「ちなみにお前が年下にゃったらお前にも『姐さん』呼びさせる予定だったにゃん」


 それは、出来れば遠慮したいな。と、思いつつベアトリスの部下の皆さんの方を見ると、なにか、ベアトリスの部下さん達を追い抜いて高速で近づいてくる人がいる。

 あ、今床が砕けた。うん、見知った人だ


「ツルギ様ーーーー」

「ああ、メリジューヌさんご心配かけたようで申し訳ないです」

「いえいえ、本来なら私が駆けつけるべきだったのですが、少し走ったくらいでこの足ですから」


 メリジューヌさんの左足から血が滲んでいる。


「メリーちゃん無理しちゃ駄目にゃ!なんの為にあたしが1層に言ったか分らなくなるにゃん」

「そうね。トリスありがとうツルギ様を助けに行ってくれて、それにこんなに怪我をさせてしまってごめんなさい」

「気にすんにゃ、それにあたしはほとんど何もやってないにゃ、ツルギがほとんど片付けたにゃ」

「そうなのですか?流石はツルギ様です……が、あなたは私達と姫様の希望です。あまり無理をされないでください」

「あーはい。肝に銘じておきます。ミッチーにも無理のしすぎだと叱られたばかりです」

「まぁ、戦士ってのはそんなもんにゃ、傷の数だけ強くなっていくにゃ!」


 とまぁ、余計な事をベアトリスが言うとメリジューヌさんの目が冷たくなる


「黙りなさい駄猫、ツルギ様が納得しているのに口を挟むんじゃありません。ツルギ様その駄猫こちらにください。私が教育しながら運びます」

「いやいや、待ってくださいメリジューヌさん。ベアトリスは怪我人なので穏便に!」

「……ベアトリス?私は『さん』付けなのにその駄猫は呼び捨てなんですか?」


 あっれー?なんか家で良く見た笑顔をメリジューヌさんがしているぞ。

 体から変な汗が吹き出てるけど原因が分らないや。ハハハ……


「姐さーーん」

「おう、お前たち援軍ご苦労にゃ、でも全部もう終ったにゃ!」


 どうやら、ベアトリスの部下の皆さんが到着したらしい。

 それを見て、メリジューヌさんがあの笑顔のまま語りかけてくる。


「他の皆さんも来てしまいしたし、このお話はまた後でましょうね?ツルギ様」

「あ、はい」


 もうなんか、結局この笑顔がこの一日で一番怖かったなんて言えない。


 こうして、僕の迷宮生活1日目の主な出来事は終った。


次回からは細かい話になる予定です。

長文を読んでいただきありがとうございます。

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