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迷宮の新米守護者  作者: 板 竹輪
第1章 迷宮の新米守護者
12/45

第11話 迷宮生活1日目中編:昼食と罠と防衛戦

前のお話より、少し長いです。

 迷宮生活1日目正午――――――――防衛線詰め所



 バリケード前で暇死にしそうになっていた時メリジューヌさんが態々昼食を持って来てくれた。

 僕は近くに居たオークさんに昼食を食べる為、持ち場を離れる事を伝えてバリケード前を後にした(この時何故かオークさんに『凄いなお前』とか言われた)


 その後、僕達は詰め所まで戻り、入り口から一番近場の席に座った。

 メリジューヌさんは一緒の席に付くのは従者としては云々言っていたが、彼女は僕の従者ではないので気にする必要はないと説得し、現在に至る。


 何か、周りの魔族達から注目されているが、今朝のオーカスさんの挨拶のせいであろう。

 そんな視線を気にした風も無くメリジューヌさんはテーブルの上に食事とお茶の準備を始めた。


「現在、ここの食糧事情だとあまり良い物はご用意できませんでしたが、パンを焼いてまいりました。」


 テーブルの上に大き目の簡素な皿が2枚有り、クロワッサンのようなパンが2個と干し肉らしき物が入ったサラダがそれぞれの皿に盛られている。



「え?メリジューヌさんが、態々僕の為に作ってくれたんですか?」

「えぇ、ツルギ様のお口に合うか分りませんが、私の作った物がお嫌でなければお食べください」

「嫌なんてとんでもないです。喜んでいただきます」


 まずパンを食べてみた。

 素朴な美味しさで悪くない。

 続けてサラダも食べてみる。

 何か凄い香りが強い野菜だが……ウン!なんか独創的な味だ。


「どうですか?お口に合いますか?」


 そう言って、メリジューヌさんは不安そうな顔で、僕の顔を覗き込んでくる

 正直サラダは変わった感じだったが、ここは美味しいと言って多くべきだ。


「ええ、全部美味しいです。有難うございますメリジューヌさん」


 僕の言葉を聞いたメリジューヌさんは、安心したのか笑顔になった。


「良かった。普段自分の為か姫様以外に食事を作ることが有りませんので、少し心配でした」

「とても、美味しいですよ。メリジューヌさんはリリアには毎日ご飯を作ってあげてるんですか?」

「ええ、姫様は食事に無頓着な方で、あまりご自分から食事を取られ様としないのです。私が作りませんと丸一日何も食べられない事が多くて――」


 その後、リリアが何故かサラダを食べてくれないというグチを数分語られた。


 食事を食べ終えて一息付いているとメリジューヌさんはある提案をしてきた


「よろしければ、明日からお食事を私の方でご用意しましょうか?」

「良いんですか?むしろ、手間でなければこちらからお願いしたいくらいなんですが」

「はい。それでは姫様から命を受けていない日に限りますが、明日からこちらにお持ちしますね」

「では、お言葉に甘えさせてもらいます。あと、明日はメリジューヌさんも一緒に食べましょうよ」

「いえ、それは……そうですね。明日は一緒にいただきます」


 メリジューヌさんは少し悩んだようだが、一緒に食事を取るのを了解してくれた。

 実は一人で食べているのは心苦しかった。



 それにしてもよかった。実は食事の心配もしていたんだ。

 でも、これでなんとかなりそうだ。

 昼食の心配はこれで無くなった。

 夜はまぁ、なんとか考えよう……


 食後、食事に使っていた質素な皿と真逆の豪華なティーカップに、メリジューヌさんが独特な香りのするお茶を入れてくれた。


 どうやらこのティーカップはリリアが遺跡発掘時に持ち込んでた物らしく、リリアに許可を貰って借りてきた物らしい。

 そしてこのティーカップについて、装飾が豪華なので相当な値打ち物ではないか?という話をしていた時に突然メリジューヌさんが「あっ」という声を上げた


「すみません、ついつい楽しくてもう一つの用件を忘れていました」

「あぁもしかしてその皮袋ですか?」

「ええ、昨日の戦利品です。トドメは私が刺しましたが、ほとんどツルギ様が無力化していましたので、ツルギ様が戦利品を得られるのが妥当かと」

「昨日の戦利品って、一体なんですか?あいつらが何か落として言ったんですか?」


 あいつらとはもちろん、ラルフ、アレックス、アクセルの冒険者達の事である。


「はい。ボウガンが一つと、大斧が一つですね。こちらの袋に入っています」


 メリジューヌさんはそう言うと、皮袋からごそごそと大斧とボウガンを取り出した。

 両方とも見覚えが有った。

 ボウガンはラルフの物、大斧はアクセルがロケットパンチを撃つときに投げ捨てた物であった。


「これあいつらと一緒に崩れて消えていなかったのか……」

「はい、ボウガンの方は、射手を私が殺した時に落ちていました。大斧の方はツルギ様が作り出した石壁の瓦礫に埋もれていました」


 てっきり、あいつらと一緒に消えたと思っていたが……なるほど、これがAO(アバターオンライン)の装備ロストの正体という訳か。

 しかしアクセルが持っていたもう一振りの斧や、アレックス君がもっていた杖は彼らが死ぬ時に一緒に崩れていたと思う。

 その差はなんだろうか?


 僕はAOを1ヶ月で辞めてしまっているので、細かいゲームシステムの詳細を知っている訳ではないのだ。

 故に装備ロストの条件が分らない。


 そういえば、メリジューヌさんは前回の最終防衛線での戦闘で、多くの冒険者を倒していると聞いた。

 もしかすると何か知っているかもしれない。


「メリジューヌさんは奴等が崩れ去った後に、一部の装備が残る理由は知っていますか?」


 僕の問いかけに、メリジューヌさんはニコニコしてた顔を崩して忌々しげに返答をてくれた。


「いえ、分りません。ですが、これは私の勝手な推測ですが、もしかするとこの世界で得た武具を残すのかもしれません」

「この世界で得た武具?つまりこの武器二つは、この世界で作られた物なんですか?」

「そうです。ボウガンの出所は分りませんのでなんとも言えませんが、大斧はドワーフの名工の作品でした」

「そうなると、冒険者達と一緒に消える装備は彼らがこの世界に持ち込んだ物という訳ですか?」

「その可能性も有りますが、まだ事例が少ないので結論は出せない状況ですね」

「事例が少ないというのは冒険者達を倒せていないということですか?」

「はい理由は幾つかありますが、やはりそれが一番の原因ですね。鉄鎧や胴鎧の打倒は容易なのですが、やはり昨日の様な特殊装備を持つ者達は手強く、劣勢になると逃げ足も速いです」


 メリジューヌさんは鉄鎧や胴鎧は容易に倒せると言っているが、昨日のオーカスさんの報告だと兵士達とは互角と言っていた。

 彼ら初心者と兵士達が互角ならば、中級者以上だと思われるラルフ達は一般の兵では手に負えないだろう。


 ちなみに僕があの鎧の者達を初心者と判断している基準は、AOの物理攻撃職のレベル1~15の間に付けれる装備が胴鎧であり、ここまでが完全な初心者とされていた。

 そして16~29以降の準初心者が付けれるのが鉄鎧である。

 レベル30からは確か中級扱いになって、転職と装備の自由度が上がった筈だ。


「なるほど。そういう事でしたか。ちなみに今幾つか理由があると言ってましたけど他にも理由が有るんですか?」

「はい。城での戦闘で手強い冒険者の打倒をした事も有りますが、基本跡形も残らない火力で消し飛んだか、燃え尽きてしまったので……」


 え?跡形も残らない?燃え尽きた?

 何?メリジューヌさん、竜人なだけあって、もしかして火炎息(ファイアーブレス)とか吐けるんだろうか?

 この世界ではどうだか知らないけれどゲームだと、ドラゴンといえば特殊なブレス攻撃が有名だ。

 作品によっては鉄をも溶かす火炎の息を吐いたり、毒性の強い息を吐くドラゴンも居る。


 もしかするとメリジューヌさん、そんな特技まで持っているのか?怖……強過ぎだろメリジューヌさん。

 僕と戦った時に使われなくて良かったぁああ


「エート、流石めりじゅーぬサン凄イ火力ナンデスネ」


 メリジューヌさんが火炎の息を吐きながら冒険者の群れを消し飛ばす様を想像したら、ビビってまた片言になってしまった。

 しかし、僕のメリジューヌさんへの賛美の声を聞いた瞬間に、メリジューヌさんはむっとした表情をして、バンッとテーブルを叩いて講義の声をあげてきた。


「私ではありません!私はちょっと力が強くて石化の魔眼が使える普通の娘です!やったのはほとんど姫様です!」 


 冒険者の胸板を素手で貫くのはちょっととは言わない。

 後、普通の娘は石化の魔眼はもっていない。


 しかし、今メリジューヌさんは気になる事を言った。

 僕はそれについて問いかける。


「あれ?リリアは戦闘能力が皆無だって自分で言ってましたけど、違うんですか?」


 確か、リリアはそれが原因で魔神を呼ぼうとしたはずだ。


「ええ、確かに姫様自身には戦闘能力はありません。正確には、やったのは姫様が呼んだ召喚獣達と姫様のペットです」


 なるほど、リリアは召喚が得意だと言っていたな。

 ペットというのは良く分らないが、魔王の娘さんが飼っているくらいなんだ。

 きっと魔獣か何かだろう。


「僕をこの世界に呼んだみたいに、何かを召喚して戦わせた訳ですか?」

「ええ、城門の戦いで、フェニックスを10数匹同時に召喚されていたので城門前は鉄すら溶ける炎に包まれていました」


 フェニックス?あの不死身の火の鳥のフェニックスか?


「フェニックス?もしかして不死鳥のフェニックスですか?」

「はい、そうです。フェニックスは召喚された魔法陣が破壊されるか、召喚者の魔力が無くなるまで周囲を焼き尽くす不死の幻獣です。飛び回るだけで熱風を発生させ周囲の物を延焼させます。また高温の火の息を吐く事もできます」

「なるほどそれで装備の確認をする前に全部燃え尽きてしまったと……あっちなみにペットというのは?」

「パイロヒドラの幼生です。現在は重症を負って姫様の部屋で休眠状態になっています」


 メリジューヌさんの言葉で一瞬思考が停止する。

 ヒドラってあれか?神話とかRPGに出てくる再生力の高い多頭蛇のモンスターの……

 あんなもの飼えるのか?

 いや待て、むしろヒドラという名の別の魔獣かもしれない。

 気になるので少し詳しく聞いてみるか。


「ヒドラというと頭がいっぱい有る蛇のアレですか?」

「蛇よりはトカゲに近いですね。幼生なので、まだ首も3つですし大きさもサラマンダー程度です。まだまだ可愛いものですね」


 やっぱりあのヒドラなのか……?

 あと、大きさをサラマンダーに例えられても分らん。


「すいません、サラマンダーは火トカゲのサラマンダーですか?僕は名前を知っている程度で、大きさとかは分らないんですが……」

「ええ、火トカゲのサラマンダーです。サラマンダーの大きさはそうですね。体の太さは少し大きめの丸太くらいで、横幅は丁度これと同じくらいですね」


 メリジューヌさんは、アクセルの大斧を床に倒して指を差した。

 大斧の大きさは横になった時の僕の身長より若干小さいくらいだ。


「で、でかいですね。そんなの飼っていて大丈夫なんですか?」

「何処かの駄猫よりずっとお利口さんで良い子ですよ。あの子のケガが治ったらツルギ様も一緒に散歩に行きましょう」


 大きな動物は嫌いではないが、爬虫類はほんの少し苦手だ。あの眼が特に……別にメリジューヌさんの蛇眼になっている石化の魔眼で石になりかけたからじゃないぞ!元々苦手なんだ!

 そんな訳で出来れば遠慮したい。後、そんなトカゲの親分みたいのと比べられるベア――――駄猫さんが少し可哀想。

 まぁ、散歩の件は適当に誤魔化しておこう。


「ええ、忙しくなければ……」

「はい。楽しみです」


 と、また良い笑顔で返事をしてくれた。

 こんな笑顔でそのパイロヒドラ(幼生)を連れてきて「さぁ、ツルギ様散歩にいきましょう!」とか言われたら僕断れるかな……?


 しかし、装備ロストの条件を割り出すにはまだ少し情報が足りないな。

 もう少し、冒険者達を倒して事例を増やす必要が有る。

 質問はここまでにしよう。


「で、その戦利品なんですが、どうすれば良いですか?僕、斧とかボウガンは使った事はないんですが」

「ツルギ様は武器を普段はなにを使われているんですか?」


 現代日本人は普段武器なんか使いません!と言いたいが、僕は一つだけ馴染みの武器がある。


「剣ですね。家が剣道の道場をやっているので少しだけ僕も嗜んでいます」

「まぁ!お家が剣技を教えられてるんですか?」


 家が剣道の道場だと聞いた瞬間、メリジューヌさんの目付きが変わった。

 あ、これはいけない目付きだ。

 我が姉も外部の人間と試合をする時にこの様な目付きをする……つまり、獲物を見定める時の目だ。


「いやー!僕は全然そっちの筋は悪くてですね!いつも姉にボコボコにされているんですよ!」

「まぁ!ツルギ様より強いのですか?ツルギ様のお姉様は」


 僕の話を聞いた、メリジューヌさんは目を輝かせて姉に興味津々になったようで、僕をターゲットから外してくれた。

 メリジューヌさんには悪いが、異界に来てまで剣の稽古の相手はさせられたくないのが正直な気持ちだ。

 このまま姉プッシュしていこう。


「いや、本当に姉には適わなくてですね。一撃も当てられないでボコボコにされっぱなしですよ」

「それは……失礼ですがツルギさまのお姉様は本当に人間ですか?」

「に、人間です」


 メリジューヌさんの、僕の強さの基準が導きの腕輪装備済みになっているから人間か疑ってしまうのだろうけど、割と僕も姉の反射神経は人間を越えていると思っているので言い澱んでしまった。

 まぁ、でもこの腕輪を装備していれば流石に勝てると思うけどね!

 ………… 勝てるよね?ミッチー?

 残念ながらミッチーからは返答がない、沈黙している。


「異界の剣技とツルギ様のお姉さま、一度お手合わせをお願いしたいですね」

「まぁ、流石に逢える機会は無いと思いますけど、何かの拍子で姉がこの世界に送り込まれてきたら是非紹介しますよ。ハハハ……」


 姉がこの世界に来る事は、絶対無いしだろうし来て欲しくないが、今姉がここに加わったら心強い戦力になるだろうなぁーとは思ってしまう。


「ええ、是非お願いします」


 と、何か眼をキラキラさせている。

 まるで夢見る少女のようだ……もう少し、少女らしい事で目を輝かせて欲しいものである。


「で、僕は戦利品を使えてもボウガンくらいだと思うんですが、斧はメリジューヌさんが使います?」

「いえ、私はこの大剣がありますので遠慮しておきます」

「じゃあ、どうしよっかな」

「そうですね。私から案を出すならば、とりあえず保管しておいていずれ、配下が功績上げた時に褒章として与えるのは如何ですか?」

「褒章で武器ですか?」


 僕らの世界の軍隊だと勲章や金一封だと思ったが、こちらだと武器を与えるというのもあるのだろうか?


「はい、魔族では金銭と武器を与える事が多いですね。、金銭といえば売却するという手もありますが、此処の状況が落ち着かないうちには無理な話ですね……」

「売却か……」


 確かにそれも悪くないな、まぁ売るにしてもずっと先の話になりそうだ。

 とりあえずはこの大斧は保管はしておくか。


 そういえば僕の給料って魔神から魔力として支払われたけど、金銭は一切ないんだよな……この先、お金が必要になったらどうしようかな。

 リリアに言えば少しは支払ってくれるだろうか?

 しかし、基本僕が思い悩んでいる理由の9割はあの詐欺魔神のせいだな。

 早く連絡よこしやがれ文句をぶつけて、必要経費を請求してやる!


 僕が詐欺魔神の事を考えていると、メリジューヌさんが心配そうに僕の顔を除いてきた


「ツルギ様?もしや金銭でお困りですか?必要ならば、私が――」

「いや、いいです!いいです!ちょっと考え事をしていただけです」


 どうやら、僕が難しい顔をして考え事をしていたので、話の流れ的にお金に悩んでいると思われたらしい。

 飯を作ってもらってお金まで集ったらもう、完全にヒモだ。

 それえだけは、避けたい。人としても、男としても。

 それにそんなことをすれば、周囲の魔族の皆さんの視線が余計痛いくなる。


「とりあえず、その斧は保管しておいてボウガンは携帯しておくことにします」

「はい、分りました。斧は私が共同倉庫にツルギ様名義で入れておきましょう。ボウガンの矢は私が明日までに調達しておきますのでしばしお待ちください」

「すみません。何から何までお世話になって、いずれ何かでお礼をさせてもらいます」

「いえいえ、云わば勝者の特権なのですから気にしないでください」


 ああ、そうだ。聞かなければならない事が有る。


 僕はメリジューヌさんに小声で話しかけた。


「ああ、それ気になっていたんですけど、今朝オーカスさんが僕のことを紹介してくれたんです」

「おや?大雑把なオーカス卿にしては珍しいですね。オーカス卿はオーカス卿でツルギ様に期待しているのでしょうね」

「ええ、それは大変有り難かったんですがオーカスさん、メリジューヌさんが決闘で僕に負けたという感じで説明しちゃったんですよ」

「あぁ……なるほどそれでですか。まぁ間違っていませんし、私もそのように振舞ってますしね……」


 メリジューヌさんは、何か思い辺りがあるのか、少し困ったなという風に呟いてる。


「本題はここからなのですが、その話を聞いた後に女性魔族の方々からの視線がなんというか……痛いんです」

「なるほど。まぁ皆さんそう解釈しますよねぇ……でも、ツルギ様。ここでその視線についての理由は後日にさせて下さい」

「えーと、後日にしなければいけない理由は?」

「人目があるから恥ずかしいのです。察してください」

「あ、はい。分りました。ごめんなさいまた今度で」


 ここで、これ以上話を聞くのは何か危ない気がするので引き下がっておいた。

 聞きたがりの僕でも、流石に顔が真っ赤になり涙目になっているメリジューヌさんにはそれ以上は聞けなかった。


 お互いその後、気まずくなり沈黙の時間が続き、何か話さなければ行けないが何を話したら良いか分らないので、頭の中で必死に話題を探していた時に突然ゴーンッという音が室内に響いた。


「あ、お昼が終ったようですね」

「あぁこれはお昼の終わりの音ですか」

「はい、時間の基準になる時計がこの遺跡に一つしかないので、この様に各室内に音で知らせてくれる仕組みになっています」

「へー時計もちゃんとあるんですね」

「ええ、地下生活だと日の陰りで時刻も推測できませんし必需品です」

「なるほど、確かにこの遺跡にいると、朝晩の感覚がありませんよね」

「ええ、ですので此処で暮らすのは生活の管理がとても大変です」

「そうですね。生活の管理といえば、部屋に目覚まし時計は一つ欲しいな。ご存知の通り僕、朝が弱いんで……」


 この世界に目覚まし時計が有るのかは分らないが、とりあえずの話題としてそんな事を話してみた。


「あら?では、お寝坊してしまったら、また私が起こしに行かねばなりませんね」


 と、メリジューヌさんは、りリアと同じいたずらっこの笑みをしている。


「か、勘弁してください。あれは僕の人生で五本の指に入る衝撃的な目覚めでした」

「あら?そうですか?私は楽しかったですけど」


 うん、やはりメリジューヌさんは明るくしている時の方が良いな、何か安心できる。


「さて、そろそろ午後の任務に行かないと、メリジューヌさんありがとうございました」

「はい。喜んでいただけようでなによりです」

「じゃあ、負担ではなかったらまた明日もよろしくお願いします」


 メリジューヌさんに別れを告げ、哨戒任務という名の1層探険に出ようとした時だった。


「ツルギ様お待ちください。任務に行かれる前に一つお願いがあるのですが」

「む?なんですか?」

「昨日のトラバサミの撤去をお願いできますか?無いとは思いますが姫様が引っ掛かったら大変です」

「あ、そういえば忘れてました。そうですね午後から1層に行くと戻りは夜近くになってしまう可能性があるので、今行きましょうか?」

「はい。お願いします」

「分りました。では、早速行ってきます」


 今度こそ、メリジューヌさんに別れを告げ、1層探険は跡に回し3層のリリアの部屋前へと向かった。


 迷宮生活1日目午後――――――――3層リリア自室前通路


「『解除』」


 リリアの部屋前のトラバサミを解除する。

 腕輪を通して、体に大量の熱のような物が流れ込んで来る。


「回収完了っと、次は床だな。ミッチー今話せるか?」

「可能です」

「マナ結晶の分析は終ったのか?」

「いえ、おおよそ8割ほど終えていますが一部解析不能の部分に手間取っています。報告できるようになるまではまだ時間が掛かりそうです」

「OKでも、今回は別の用件だ。この材質を変えた床の解除を行ないたい。材質置き換えで元の床がなくなっているから、解除が終ったら床を元の材質で作り直してくれ」

「不可能です。『解除』は可能ですが、床は作れません。現在ご主人様の『創造』で造れる物は罠カテゴリーに属する物のみです」

「えっ?昨日は出来たじゃないか」

「それはご主人様に命の危機が迫っていた為、機能制限を解除していたから出来ただけです」

「ふむ、そういえばそんな脳内アナウンスが流れていたな」

「はい。機能制限解除は出来るだけ行なわないようにお願いします。体のみではなく魂に負担が掛かります」

「ああ、昨日言っていた魂云々はそれか、しかし壁は作れて床が作れない理由は何だ?」

「壁は、罠カテゴリーの動く壁(リビングウォール)の応用使用です」

「動く壁?そんなのDGダンジョンガーディアンにあったか?」

「いえ、この遺跡に以前仕掛けられていた形跡がありましたので分析して、データ参照しました」

「ふむ、ミッチーはそんな事も出来るのか」

「はい。その機能を応用して現在マナ結晶を解析中です」

「了解。とりあえずこの床は直せる方法が分るまで放置だ」


 とりあえず、此処で現在出来る事はもう無い。1層に移動しよう。



 迷宮生活1日目午後――――――――1層階段の部屋


 この遺跡広すぎだろ……3層からこの1層の階段に移動するのにかなりの時間を要したぞ。

 1時間は越えていたと思う。

 罠を配置するにしても移動に掛かる正確な時間を知りたい。やはり、時計が欲しくなるな。


 しかし、無い物強請りしていてもしょうがない。

 見張りタイムに熟読した1層の地図を再確認しよう。


 1層は2層の最北端の階段より上がった場所だ。ちなみに、2層の最南端が3層へ降りる階段が有る。

 1層の作りは最北端にこの遺跡の入り口が有り外に繋がっている。

 最南端には2層へ下りる階段が存在する部屋が有る。この2層へ降りる為の部屋が今僕が居る部屋だ。


 北側に入り口があり、南に次階へ降りる部屋が有る作りはどうやら遺跡全体で共通のようだが、1層の作りは2層に比べると、とてもシンプルだ。

 2層は入り組んだ複数の通路と大小様々な小部屋があるが、1層は入り口から長い通路が3本伸びていて、うち左右に伸びる通路は直ぐに行き止まりになる。

 中央の通路のみ真っ直ぐ伸びており、この階段の有る部屋に伸びている。

 もうなんというか、地図を見るだけで防衛に適してないのが丸分りの作りだ。


 地図の確認が終ったので実際に1層を歩いてみる事にした僕は3層2層との違いに驚かされた。

 1層は完璧に天然の洞窟だった。

 3層は黒い石壁と同材質の床、2層はレンガのような灰色の建材と同材質の石畳だった。

 だが、この1層は岩の外壁とむき出しの岩と地面で構成されている。所々に鍾乳石らしき物迄ある。

 つまり天然の洞窟だ。


 また、階層の構造事態も2層や3層と違い入り口から階段まで近い。

 恐らく、入り口から5~10分程度で階段の部屋へ到達できてしまう。

 これはこの階層の防衛を放棄するか、この洞窟を思いっきり改装してしまうか迷うな。


「私は改装お勧めします」


 また、突然ミッチーが話し掛けてきた。

 流石に慣れてきてはいるが、僕一人しか居ないときに突然声を掛けられると心臓に悪い。


「なんでだ?」

「ここは吸魔石の影響が少ないので、大気中のマナが豊富です」

「好き放題罠を置けるって訳か」


 僕は数百の罠を入り口に置き、冒険者を爆砕する光景を思い浮かべて、ニヤリとした笑いが自然と出て来た


「流石に置ける限度があります。ご主人様の妄想(ソレ)は無理があります。ですが三層よりは自由に戦える筈です」

「なるほど、でも防衛には不向きだろ此処」

「ご主人様、既に答えを見つけてるいる質問はお止めください」


 むぅ、流石に頭の中で考えている事は丸分りか……僕が今考えていたのはこの階層をモグル族達に協力してもらい大改造する事だ。

 恐らく、魔神はこの構想を実現させる為にこの地に僕を呼んだ。


「試すような事してすまん。ミッチーが何処まで僕の思考を読んで回答するか聞いてみたかった」

「いえ、構いません。まだ詳細な私の取り扱いについての説明を出来ていないのが悪いので、ご主人様は気になさらずに」


 なんか、僕の居た世界の最新AIより優秀だよねミッチー。

 これならば、戦闘以外の事でも相談出来るな。


「じゃあ、ミッチー僕が今思い描いている。1層大改造計画はどう思う?」

「良いと思います。元々その構想に行き着く経験をお持ち故に、ご主人様は私の創造主にこの地に遣わされたのです」

「まぁ、やはり実地でやった事がないから不安になんだ」

「その為に私がご主人様に取り付けられているのです。なんでも、相談してください」

「有難うミッチー。実はこのまま1層メインで手を加えて良いものかどうか正直迷っている」


 皆の命がかかっている、気軽には決められない。


「そうですね。此処だけに集中せず2層も強化するべきです」

「うん。それは分っているけど、1層の大改装するのと2層の構造を利用して防備強化その、どちらに比重を置くかで迷っているんだ」

「1層の改装に比重を置くべきかと」

「なんでだ?」

「ご主人様の強化に繋がりつつ、防備を固められるからです」

「ん?強化ってどういうことだ?」

「この1層の地層には大量のマナ結晶が生成されています。1層の迷宮化を進めると同時にマナ結晶を採掘していただければ、私が吸収しますので更なる罠の増産が可能です」

「ここにそんな大量の結晶が埋まっているのか?」

「はい。この1層の洞窟の入り口は、グレイブ山脈という山脈の端にある山の麓にありますが、この山脈自体がマナの生成濃度が非常に高いのです」

「つまり、山の中を拡張工事すればするほどマナ結晶を採掘できる訳か」

「はい、そうなります」


 ミッチーの説明を聞く限り1層の大改装は有りだ。

 20人程度の冒険者が来た程度で2層の防衛線はガタガタだ。

 僕がいくら頑張っても2層だけの防衛では限界がいずれ来る可能性がある。

 つまり、防衛体制の抜本的な改装の必要性が有る。


 ただ、これは僕だけじゃどうにもできない。

 理由は1層全体の迷宮化を図るん為に土木や防衛部隊の協力が必要になるからだ。

 土木担当のコッセルさんと、長期に人手を借りる為、リリアに許可を取る必要があるな。


「とりあえず1層強化メインのプランで行こう。後はリリア達に許可取っ手からの話になる。」

「分りました。許可を頂けた場合を想定して作業スケジュール等を幾つか用意しておきます」

「ミッチーはなんでも出来るな……優秀な秘書を手に入れた気分だ。僕には勿体無い気がするよ」

「お褒めいただき有難う御座います。それで、ご主人様この後はどうされますか?」

「一応1層を隅々まで歩きながら罠を仕掛けていく。念のため聞くけど僕が設置した罠は魔族には当たらないんだよな?」

「はい。安全装置(セーフティー)は既に戻してあります。問題ありません」

「んじゃ、仕掛けていくか」

「はい。ご主人様その前に一つお伺いしたいことが」

「なんだ?」

「殺傷設定はどうされますか?」

「ん…………付けて良い」


 ミッチーに返答した瞬間動悸が激しくなった。

 心臓の鼓動がおかしくなる。


 大丈夫だ。あいつらは、生きた人間じゃない。

 人形だ。痛みも感じない人の意思を乗り移させているだけの人形だ。

 リリア達を守ると決めたんだ。彼女達を害する者達を機能停止させるくらいで取り乱すな!


「大丈夫ですか?ご主人様」

「ああ、問題ない作業に入るぞ」

「はい」


 こうして、僕等は1層を隅々まで歩き回った。



 迷宮生活1日目午後:夕刻――――――――1層右側通路



「まぁこんなもんだな、次は2層の入り口付近に設置していこう」

「ご主人様、もう18時半です。そろそろ戻られては如何でしょうか?」

「ん?もうそんな時間か?じゃあ――――ん?今なんて言った?」

「そろそろ戻られては如何でしょうか、と言いました」

「その前に、なんか時刻らしきものを僕に伝えなかったか?」

「はい、今は18時32分です」

「え、ミッチー時計機能あるの!?」

「当たり前です。ご主人様の戦闘スタイルには正確な時間把握が必要なのは分り切っている事ではありませんか」

「あーそうなの、その事を僕はもう少し早く知りたかった」


 事前に知っていれば、2層からこちらに向かう正確な時間を計ることも出来たし、メリジューヌさんに変にからかわれる事もなかったのである


「聞かれませんでしたのでお答えできませんでした」


 まぁ、そう言うと思った。

 しかし、時計といえば必須のあの機能はあるんだろうか?


「ミッチー目覚まし機能はあるのかい?」

「ありませんが、代替案を用意できます」

「お、良いね。それ頼むよ」

「わかりましたそれでは、起床時間をメリジューヌ様にお伝えして毎朝お越しに来ていただきます」

「ごめんやっぱ良い……」

「何故でしょうか?一番効果的な目覚ましだと思うの――」


 その時、僕の腕輪が熱を帯びる。

 続いて、ミッチーアナウンスが流れる。


『センサーに敵対個体感知』

『ターゲット確認。オートモードでトラップ起動します』

針罠(ニードルトラップ)起動しました』


 僕が入り口に仕掛けた自動迎撃型のトラップが起動したようだ。

 今自動起動した針罠(ニードルトラップ)という罠は、敵が設置された床の上に立つと、巨大な複数の針が床から飛び出し出て足元から串刺しにする罠だ。

 どうやら、入り口に一つセンサー代わりに仕掛けておいたのが起動したようだ。


「雑談は後だなミッチー」

「はい。敵対個体7体、1層入り口に進入しました。内1体は今の針罠で破壊しました」


 残り6名か昨日より苦戦するかもな……でも今回は事前の準備が出来ている。

 勝機はある!


「敵の動きは分るか?」

「針罠を破壊して、現在6体が待機中です」

「壊されたか……まぁ元々1回見られたらばれる罠だし壊されるのは予定のうちだ」

「あと30秒追加進入が無ければ、プラン通りにオートモードを継続しますがよろしいですか?」

「OKだ。僕もこちらから撃って出る」

「オートモード継続了解しました。」


 こうして、僕の初防衛戦が始まった。



 名無しの遺跡入り口付近――――――――


 僕は冒険者達に見つからないように現在鍾乳石の影に隠れ冒険者達の様子を観察中だ。

 現在冒険者達は僕が設定した罠のオートモードに旨く嵌ってくれた様で困惑しているようだ。

 冒険者の数は残り6名、鉄鎧や道鎧は居ない全員中級者以上の様だ。


 バケツみたいな兜を被った青い鎧の男と手に手甲を付けた細身の上半身裸の男が叫んでいる。


「どうなってる!暗くて訳がわかんねぇぞ。その壁は割れないのか!」

「だめだ。この入り口を塞いだ壁、硬くて割れねぇよ!物理火力じゃどうにもならねぇ、ラッドの奴がさっき死んだから魔法火力も居ねぇしどうすんだよ!あんた何とかしろよ!」

「俺に言うな!さっきの針でラッドが死んだせいだ。俺の責任じゃねぇ!お前らで何とかしろ!」


 彼らが叫んでいるのは僕が設定した罠のオートモードのせいだ。

 僕が設定したオートモードは侵入者が入った後に針罠を起動させ、追加で他の侵入者が無ければ針罠起動から1分後、石壁で入り口を覆うというのがまず一つ目の設定だった。

 そして、バケツ兜が暗くて訳が分らないと叫んでいる理由は、この洞窟の入り口付近は外から灯りを取り入れれる事もあり、照明がまったくないからである。


「皆ゲームなんだから楽しもうよー。感じ悪いなぁもう、とりあえず灯り付けるね」


 他の冒険者から少し離れた所に居た白いフード付きロ-ブを着た小人の女が、何か呟いて頭上に丸い光源を出現させた。

 恐らく、魔術で灯りを作り出したのだろう。


『石壁起動後の光源を確認。矢罠(アロートラップ)10基起動します』


 ミッチーアナウンスに続くように直後ヒュンッと風切り音が鳴った。

 更にその音に続くようヒュンヒュンヒュンッと雨音のように風切り音が洞窟内に響く。


「え?ちょっと何!?」


 白フードが驚愕の声をあげる。

 直後白フードは矢の雨に貫かれハリネミズのような状態になった。


 今、大量の矢を白フードに降らせたのは僕が設置しておいた矢罠(アロートラップ)が発動したのだ。

 矢罠はシンプルな罠で発射条件を指定し、条件が満たされた場合矢を発射するものだ。


 僕はこの矢罠を石壁発動後に光源を感知した場合のみに起動する様に設定し、光源が消えるまで自動発射し続ける様に設定にした。

 その結果は見ての通り、白フードは全身に矢の雨を受けて、その後に声も上げる事も出来ずに崩れ去った。


 初めて、僕の手で冒険者を破壊した(殺した)いつもの激しい動悸はない。

 少し、心拍数が上がっている気はするが大丈夫だ。僕はやれる!

 残り5人だ頑張ろう。


 そして、洞窟はまた暗闇と冒険者達の叫びで包まれる。


「なんだ!何があった!いきなり、リビが死んだぞ」

「天上からリビを狙って何かが大量に飛んできたのは見えましたが、その直後にリビが死んようですね」

「何かって何だよ!」

「先程の床から出た針のように、灯りに反応したかもしくは、ヒーラ狙いの罠のようなものが有ったのかもしれませんね」


 バケツ頭は状況が把握できていないようだ。

 もう一人の赤い重鎧の奴は結構的確な状況分析をしている。


「ちょっと冷静に考察してないでさ!ギルドチャットで何が有ったかリビに聞きなさいよ!」

「使えないんです!此処、なんでか分らないけどギルドチャット使用不可エリアになってます。まったくリビちゃんから反応が無いんです!」

「どうなってんのよ。ちょっとギルマスあんたがこのダンジョンの話持ってきたんでしょ」


 今度は黒い服を来た赤髪の女が叫んで、弓を持った獣人風の女がギルドチャットが使えないと嘆いている

 そうか、彼ら同じギルドなのか。

 ギルドはゲーム内のプレイヤー同士で作るチームみたいなものだ。

 確か、文字入力式の専用チャットが各ギルドで使えたはずだ。

 恐らく、彼等は白フードの娘に今何が有って死んだか確認をしたかったのだろう。

 しかしどうやら、この1層では使えないらしい。

 良い事を聞いた。


「知らねぇよ!ラルフの奴一言も入り口に罠が仕掛けてあるなんて、言ってなかったぞ!俺のせいじゃない!」


 どうやら、さっきから責任転嫁ばかりしているバケツ頭がギルドマスターらしい。

 よく、こんな奴が仕切るギルドに入ろうと思ったな。

 しかも何か聞き覚えの有る名前を叫んでいる。 


「だから言ったんだよ!他所のギルドの奴の話なんて信用するなって!」

「モンスターが弱い割りに経験値が美味しいって聞いたから、来たのに入り口からこんな難易度なんて聞いてないわよ!」

「それだって、ラルフが町の噴水前でオープンで話してたのを聞いただけろう!それを信じてついてきたお前らのせいだろ!」


 彼らのおおよその事情は掴めて来た。

 ラルフは此処の遺跡の難易度が低いと吹聴してこの遺跡に冒険者が来るように仕向ているようだ。

 目的はなんだろうな?復讐か?いや、違うな。

 冒険者(AOプレイヤー)達はこの遺跡に居る魔族達を唯のゲーム内のモンスターだと思っているはずだ。そんな存在に復讐という事は思わない筈だ。


 ならば、この遺跡の構造調査と戦力調査か?

 冒険者達に美味しい噂を流し大量にこの遺跡に送り込ませて、最終的に情報が出揃った所で美味しい所を掻っ攫う。そんな所だろうか?

 あの冒険者達の慌て振りを見るにデスペナルティは案外大きいのかもしれない、何度も危ない橋は渡りたくは無いのだろう。


 何にしてもう少し、様子を見て情報収集をしても良いかもしれない。

 そう判断した時に、ミッチーが小声で冒険者達に気づかれないように話しかけきた。


「どうしますか?ご主人様、敵が動く気配がありません。石壁の裏に設置した『魔力地雷(マナマイン)』を起動しますか?」


 僕もミッチーと同じく小声で言葉を返す。


「いや、壁が壊れてからでないと威力が落ちる。起動は待て」


 今ミッチーが僕に起動するか聞いてきた魔力地雷(マナマイン)というのは吸着型の設置地雷で、何かが接触するか、起動条件を指定する事により広範囲を魔力で吹き飛ばす事ができる罠だ。

 冒険者達が石壁を破壊する可能性を考慮して、もし石壁が破壊されたら脱出する時に入り口に固まった冒険者達をまとめて吹き飛ばす為に、石壁起動後にオートで設置されるように設定していたものだ。


「はい。了解しました。では次のプランを選定してください」

「通路をまとまって動くようなら僕が背後から仕掛ける。複数チームでバラバラに動くようならこちら側に来たチームから処理する」

「動かなかった場合はどうしますか?」

「追加の罠を設置後に奴等の頭上の矢罠を、設定を変えてオートモードで連射させて無理矢理動かせる」

「そのプランの意図が見えません。矢罠と魔力地雷起動からの一斉殲滅では駄目なのですか?」

「通路の罠の効果の具合も見たい。彼らには悪いが実験台になってもらう」

「了解しました。それでは動きがあるまで待機しています」



 数分後――――――――



 ミッチーに指示を出した後、しばらく冒険者達の様子を見続けている。

 言い争いばかりして動こうとしない。

 これ以上冒険者達の話を盗み聞きしても意味の有る話は聞けなさそうだ。

 そう判断してミッチーに攻撃命令を出そうとした時だ。


 重鎧の男がバケツ頭に進言した。


「進むしかありませんね。出口があるかもしれません。ギルマスそれでいいですよね?」

「あぁ、仕方ないな。とりあえず周りの調査からだ。パーティーを3つに分けて、各通路を見てこい」

「パーティーを分けるんですか?この状況だとまとまって動いた方が良いのでは?」

「広範囲の罠が仕掛けられている可能性もあるからだ!口答えすんな!」


 確かにまだ魔力地雷は幾つか設置しているけど、この状況だと分散する方が悪手だと僕は思うけどね。

 重鎧の男も同じ事を思ったのかムッとした後もう付き合いれないという感じでこう宣言した。


「分りましたでは、私はアイシルさんと中央の通路に行かせてもらいます。後はそちらのご随意に」


 そう言って獣人の女をつれて、さっさと重鎧の男は進んでいった


「おい待て勝手に動くんじゃねぇよ」


 重鎧は無視して進み続ける。


「待てっておい。俺が悪かった一回もどって来い。話し合おう」


 結局重鎧は、バケツ兜の声を完全に無視して見えなくなってしまった。

 このままだと2層に行かれてしまう可能性もあるが、道中そこそこ罠も設置してあるし2層にはあの防衛線もある。

 二人くらいなら逃がしても大丈夫だろう。

 その後、無視されたのが頭に来たのか、バケツ兜はき捨てるように残りの人員に声を掛け始めた。


「どいつも好き勝手やってやりやがって!仕方ない、鴨葱は右の通路な、スカレは左だ」


 どうやら、上半身半裸の男が鴨葱で、赤い髪の女がスカレというらしい。

 しかし、自分のキャラに鴨葱ってどういう意味でつけたんだろうか?気になる……


「えー、ギルマスあんたはどうすんだよ!」


 鴨葱が非難の声上げる


「俺は此処で連絡待ちだ。行き違いになったらまずいだろ?」

「じゃあ、あんたが偵察行きなさいよ。私がここに残るから」

「なんだ?文句あるのか?文句が有るんなら力で従わせてやろうか?」


 そういって、バケツ兜が鞘から剣を引き抜く


「ちょっと、良い装備もってるからって威張るんじゃないわよ。鴨あんたもなんか言え!」

「んーそうだな。ギルマスあんた、少し良い装備持っていてレベルが高いからって横暴すぎだな」

「面白いじゃあ、俺の火炎宝剣(ファイヤーブランド)と戦ってるみか?」


 仲間割れ始めちゃったよ……どうすっかな。

 黙って見てても良いけどさっさと始末して、中央の通路に行った二人の背後を狙った方が良いかもしれない。


「鴨、もういいよ。こんな奴置いていこう。ホークと合流しよっ?付き合いきれない」

「だな、じゃあなギルマス。アンタとはこれっきりだ」

「おい、待て!待て言ってんだろ!動くな!」


 バケツ兜はスカレと呼ばれた女の喉下に剣を突きつけた。


 その時だ、ドクンッと動機が激しくなった。

 なんだ?血も見ていないのにこんな事始めてだ。

 胸が苦しい。

 頭がある感情で埋め尽くされる。

 体の震えが止まらない。


 それに、バケツ兜が持つ剣から目が離せない……剣は長剣で、柄に美しい装飾が施されている。

 刀身は赤く、刃に文字のような物がビッシリと掘られていて僅かに火を噴出している。


 あっこれは――――


 それを見た、鴨葱はバケツ頭を止めに入る。

 彼は気づいているようだ。


「おいまてやめろ!分ってんのか?あんた!」

「ああん?PK(プレイヤーキル)くらい慣れてんだよこっちは、PKが怖いならおとなしく言う事を聞け!」

「ちげぇよ。ああ、もうこれだから脳みそ筋肉野郎は!リビがどうやって死――」


 そこにスカレが叫ぶように声上げて鴨葱の声をかき消す


「あんた、PKなんかやってたの?信じられない!こんなギルド入るんじゃなかった!」

「そうだよ。PKがどういうことか思い知らせてやろうか?燃えろ!火炎宝剣(ファイヤーブランド)!!」


 剣に激しい炎が灯りバケツ兜の周囲に火球が複数浮かびあがる。

 周囲が一気に明るくなった。


「ばっやめっ――」


 鴨葱が静止したが遅かった。


『複数光源を確認。矢罠(アロートラップ)10基起動します』

『複数対象同時一斉射撃開始』


 ミッチーの冷たいアナウンスが流れる。

 ああ……こんなつまらない結果になるなんて……ボクは満足できない……


「どうだ、凄いだろ?詠唱無しでこれだけのファイヤーボール出せるんだぜ?力の差が分ったら――」


 そして、バケツ頭の声は矢の雨の雨音で聞こえなくなった。



 矢が降り注いだ後はあっけなかった。

 矢に気づいたバケツ頭は次々と火球を作り出し、矢を迎撃する。

 そして、火球の量に応じて矢は増えていき、爆風と矢の雨に巻き込まれた鴨葱とスカレは絶叫しながら崩れ去った。

 バケツ頭も体に大量の矢を受けて燃えている剣を取り落した。

 手から剣が離れると剣の炎は消えて、それと同時に矢罠は矢の雨を降らせるのを停止した。

 バケツ頭はまだ、動けるようだが呆然と立ち尽くしている。


「つまらなさすぎだろ……」


 苛立ちの余り言葉が出た。

 どうやら今の声でバケツ頭は僕に気づいたらしく、周囲を見回しながら取り落とした剣を拾っている。


「ミッチー縛鎖(チェインバインド)を石壁に設置だ」

「了解しました。。縛鎖(チェインバインド)設置します」


 石壁が一瞬紫色の光を発する。

 その光に気づいたのかバケツ兜は後ろを振り向いて挙動不審になっている。

 アレには悪いが、ボクの鬱憤晴らしになってもらおう。


「ボクが起動命令を出したら、石壁にアレを縛り付けろ。その後に石壁の裏の魔力地雷起動だ」

「よろしいのですか?あの個体は虫の息です。オーバーキルだと思うのですが?」

「構わないやれ。起動タイミングは縛り付けてから10秒後だ」

「了解しました」


 さて、どうせボクの声はキーキーとゴブリンの声にしか聞こえないだろうが、一言いってやらないと気がすまない。


「おい、あんた随分つまらない物を見せてくれたな」


 バケツ兜はボクの声を聞いて、ビクッと体を震わせた。

 その後、ボクの姿を確認して安堵したような声を上げたのである。

 自分の破壊()が訪れるとも知らずに……


「なんだ、ゴブリンかよ。今俺に反抗した奴等をPKし損ねて気分が悪いんだ。お前みたいな雑魚相手にする気分じゃない消えろ!」

「そうは行かない。ボクはお前のように他者を力で押し付けるヤツが大嫌いなんだ。お前は一度同じように力で押し潰されろ」


 ボクがそう告げると、何故か頭の中に姉の顔が思い浮かんだ。

 その後に激しい憎悪が沸き立つ、そして怒りの余りに自然と体が震えてくる。


「キーキーうるせぇなぁ、さっさとどっか行けよ。こっちは休まないとHPもギリギリなんだ」

「ミッチー、縛鎖起動だ。コレの口を黙らせる」

「…………はい。縛鎖起動します」

 石壁から黒い鎖が大量に伸びて、バケツ兜の全身を雁字搦めにして石壁に縫い付ける。


「なんだこれは!ゴブリンお前がやっているのか!?さてはあの頭上からの攻撃もお前の仕業だな」

「続いて、魔力地雷起爆します。起爆カウントダウン開始10.9.…… 」


 カウントダウンが始まったので近場の鍾乳洞の裏に隠れる。

 正直初起動なのでどれほどの威力が出るのか分らない。


「クソッ!仕方ねぇ!燃え――」


 バケツ頭がこちらに剣を向けて火炎宝剣を起動をしようとしたが、間に合わなかった。

 ビシっという音共に石壁に罅が入り、青い光が一瞬漏れた後、更なる破砕音とを白光がバケツ兜の背後から溢れ出した。



「――――――――っ!――――!」


 何か最後に叫んでたようだが、轟音でかき消され聞き取れなかった。

 まぁ、どうせ大好きな責任転嫁か罵倒だろう。

 そういえばあのバケツ兜の名前最後迄分らなかったなどうでも良いけど……


 破砕が終った後、カランっと音がした。

 僕は破壊力の確認の為に鍾乳石の影から出て、唖然とした。

 やりすぎた……これはリリアに怒られるな……

 洞窟の入り口は3倍くらいの広さに広がっていた。

 床も大きく抉れ大穴が開いている。


 駄目だこれーーーー!

 入り口で使ったからまだ良かったけど、1層の奥や、2層3層で使った場合確実に崩落する。


「ミッチーまずい!これまずい!やりすぎだ!直ぐに1層の魔力地雷の撤去をしなきゃ」

「はい。では念の為遠隔で起動停止命令を出しておきます。所でご主人様、気分は落ち着かれましたか?」

「ん?気分?何が?」

「随分ご気分が優れないようでしたので、一応お伺いしました」


 ふむそういえば、途中姉の事を思い浮かべて異常に憎く感じたな、僕は確かに姉は苦手だが、あんな感覚普段持った事ないぞ?

 思い通り動かない冒険者たちに確かに苛立ってはいたが、そんな事で、『姉が憎い!』なんてならないはずだ。

 なんだったんだあれ?


「良く分らないけど、なんか妙に暴力的な気分にはなってたけど、今は大丈夫だ」

「はい。それについては、私が少々思い当たる節がありますので、後ほど説明させていただきます」

「OK、とりあえず中央に抜けた二人を後ろから襲撃といきますかって、あれあの剣……」


 僕が残りの冒険者二人を追う為に中央の通路を見据えると通路にバケツ兜が使っていた火炎宝剣(ファイヤーブランド)が転がっていった。


「おお、これ落としていったのか、僕でも使えるかな?」

「ご主人様は魔力をお持ちなので使えると思います」

「じゃあ回収していくか、残りの二人の冒険者と戦うのに使えるかもしれない」


 僕はウキウキした気分で急いで剣に駆け寄り剣を拾った。

 何故ウキウキしていたかというと、魔法剣かっこいいじゃない?

 男の子のロマンだよ。


 拾い上げた火炎宝剣はそこそこの重さだが片手で扱えそうだ。

 それに何故か手にシックリと馴染む、まるで長年使った家にある竹刀のようだ。


「燃えろ、火炎宝剣ファイヤーブランド


 周囲に10個ほどの、小さな火球が出来上がる。

 おお!すげぇ!

 でも、どうやって発射するんだろう?


「ご主人様!緊急事態です」


 僕が火炎宝剣の性能調査を行なおうとしていた所、ミッチーが珍しく慌てた声を上げた。


「ん?何事だ?」

「1層中央通路に仕掛けた罠が次々に起動前に破壊されています」

「マジで?一個も起動してないの?」

「はい。想定外の事態です」

「破壊のされ方は?」

「物理攻撃によるピンポイント攻撃です」

「起動前って事は基本的に、普通の岩壁や洞窟床だって視認されているはずだよな?」

「はい。何か、隠蔽状態の罠を確認する方法を、あの中央通路に向かった2体が持っている可能性があります」

「そうか……とりあえず、敵を追撃する」

「分りました。では、破壊されている現在位置から敵2体の位置を割り出します。しばしお待ちください」

「OK、もしかすると本命はあっちだったかもな」


 自然と、ニヤリと笑いが出る。

 正直、さっきのは不完全燃焼だった。

 もしかすると、彼等は結構手強いかもしれない……少しワクワクする。


 魔族達の命が掛かっているのに不謹慎だと思うが、そう感じてしまうのはしょうがない。

 僕はここ2日で随分好戦的な性格になってしまったようだ。


「ミッチー行くぞ。連中の背後から強襲する」


 僕はそう告げて通路の奥に向かった。


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